アリアが語ります。
これまでのお話ということで、振り返りです。
閑話なので、読まなくてもオケ。
最後ちょいえち注意。
では、閑話どぞ~。
どこから書けばいいのかな……?
いや、でも誰に読ませるわけでもないし、手記なんか書いたことないから、書き方なんてわかんないや。
……まあいいか、このままいこう。
うん、書き方なんて自由でいいよね。
細かいことを気にするのは私らしくないからね……!
私、忘れっぽいみたいだから、記憶の整理として書き記しておこうかなと思って。
旅先で時間が取れた時には続けていきたいな。
……そうして私は羽根ペンの先をインクに浸して、ノートに綴り始める。
◇
私は現在、ドラクエⅤの主人公である青年アベルの妻として生活している転生者です(たぶん)。
今日は私とアベルの思い出をちょっとばかし振り返りたいと思います。
私ことアリアは、この世界に来るまでは現代社会で慎ましく暮らしていた、元二十八歳社畜OLで、なんでこの世界に来ることになったのかというと……。
二十八歳の誕生日――。その日は風邪をひいて有休を取っていたんだけど、病院帰りに何者かに呼び出された高層マンションの屋上から突き落とされ、命を落とした模様。
……誰が私を呼び出して、突き落としたのか……この辺りは正直、よく憶えていない。
まあ、死んじゃったわけです。
意識が遠のいて目が覚めたら冷たいレンガ造りの地下室――。
お尻に敷かれた毛布はなぜか身体をすり抜けてるし(意味わかんない)、一瞬自分が幽霊にでもなった気分だった。
そして、目覚めた私の目の前には可愛いらしい男の子が私を見ていて。
私が声を掛けたらその子、頬を真っ赤に染めたの。
少年の名前は【アベル】。
あれ? 私のだんなさまと同じ名前だって思うでしょ!?
ふふふ♡
そうなの、この少年が未来の私のだんなさまになる人だったの。
いや~びっくりよね。
まあ、結婚した今でもたまに夢なんじゃないかと思うこともあるんだけど。
少年の頃のアベルはそれはもう可愛くって、強くって、でも時々大人びてて不思議な子だった。
私の中身が元二十八歳ってこともあって、母のような気分で接してたなぁ。
お母さんがいないっていうから、私がお母さん代わりなんておこがましいけど、優しくしてあげたくて堪らなかった(私の身体も小さかったから、お姉さんの方が近かったかもしれないけど)。
守りたいこの笑顔……みたいにアベルの笑顔はとっても可愛いの。
母性本能めちゃくちゃくすぐってくるのよね、彼。
いつかアベルと私の間に子どもができたら、甘やかしてしまいそうでちょっと怖いわ。
優しい虐待にならないように気を付けないとね。
……あ、そうそう。
私、当時肉体年齢は七歳だったんだけど、人間や一部の魔物には姿が見えなかったんだ。
後に妖精の村の村長である【ポワン】さまに聞いた話では、私の翼に保護魔法が掛かっていて、身を守るために見えなくなっていたらしい(身体を透明にする呪文【レムオル】の亜種みたいなのかしらね)。
アベルが私に“天使”とか言うからなんのことかと思ったら、背中に翼が生えてたっていうね……。
元人間だけに翼が付いているという違和感は……んー、特に感じなかったな。
始めは飛べなかったけど、飛べるようになったしね。
ドラクエⅤの世界に来たというのも最初は気付かなかったのよね……。
今流行りの異世界転生をした――、というところまではすぐにわかったんだけど、サンタローズの洞窟で【スライム】を見た時初めて察したな。
あ、察し……、とはまさにあの瞬間を言うんだわ。
……私は元々ドラクエ好きで、Ⅰ~Ⅲはプレイ済み。
Ⅲなんか周回プレイヤーなんだから。
マニアってほどマニアではないけれど、呪文もダンジョン地図も宝箱に何が入っているかもわかるし、行く先々で何をするかもわかる程度にはプレイしてる。
何度やっても面白いからⅢばっかりやっちゃって、他タイトルが進まないのは愛かもしれないな。
そんなわけで、Ⅳもプレイしてたんだけど、クリアせずに私自身が死んじゃったから、Ⅳの続きのⅤは未プレイなんだよね。
もし転生先が選べたなら、Ⅲ世界が良かったな~……なんて言うのはいまさらね。
……アベルがⅤの主人公だって気が付いたのも遅かった。
いや、だってね。
主人公といきなり遭遇するなんて思わないじゃん?
元カレがⅤをプレイしてて、辛うじてサンタローズの名前を憶えていたから気が付けただけ。
あ、元カレが気になるかな?
えっと、愚痴になっちゃうからあんまり書きたくないんだけど、少しだけ書いておこうと思う。
半年しか付き合ってないけど、なんていうか……いわゆるオレ様な人だったな。
あの頃の私は自分に自信がなくて、元カレに言われるままに付き合ってたから段々苦しくなって来ちゃって、途中で目が覚めたんだよね……。
尽くし過ぎてたのかもしれないなぁ。
徐々にわがままになってきて、お金を要求されるようになったし、浮気までされて……、なのに意地張って別れない選択をしたのが地獄の始まりだった。
自分の都合の良い時だけやって来て、優しい言葉をかけてお金をせびってくる狡い人。三か月で耐えられなくなって私は黙って引っ越しちゃった。
まあ、好きは好きだったんだけど……いくら好きな相手でもあまりに好き勝手され続けて、蔑ろにされれば冷めるというか……。
私を大事にしてくれない人を、私が大事にするのは違うと思ったんだよね。
それでも私に色々な気付きを与えてくれた人だから感謝はしてる。
元の世界で幸せにやってくれてたらいいかな。
……と、元カレのことはどうでもいいんだ。
話題はアベルのこと。
私が来た世界がドラクエⅤの世界ってことは割とすぐにわかったけど、彼が主人公だと気付いたのはヒロインの【ビアンカ】ちゃんのおかげだったんだ。
だって主人公のアベルよりも、ビアンカちゃんの方が有名なのよ?
ビアンカちゃんと【フローラ】さんていう花嫁候補はネットで見たから知ってた。
なんか二人の間で嫁がどうのこうのと論争があって……。
プレイ前にネタバレは嫌だからあまり詳しくは見なかったけど。
ビアンカちゃんの登場で、アベルが主人公だって気付いたんだよね……。
いやぁ、これまたびっくりしたよ。
そして、アベルと出会う前のアリアとしての記憶のない私は、なんの因果かアベルと旅をすることになったのよね。
ドラクエⅤリアル体験……! ……なーんて始めは楽しかったんだけど、リアル体験は半端ないね。
リアルな魔物たちは可愛い顔して容赦がないんだから。
私、始めは姿が見えなくて、アベル以外の人や物に触れられないし、何にもできないお荷物だったもの。
なぜか一部の魔物には姿が見えるらしくて襲って来るし、アベルにはいっぱい迷惑掛けちゃったな。
一生懸命私を守ってくれたアベルには感謝してもしきれない。
あんなに小さな少年に守ってもらうのは気が引けたけど、アベルはさすがね。主人公だからか強かったわ……。
ポワンさまに魔力の道(?)っていうのを開けてもらって(開けたのはアベルだけど)私もやっと呪文が使えるようになって、少しだけアベルの役に立てるようになったかなって思ってたら記憶がブッツリ――。
……気が付いたら八年後の修道院で、しかも、アベルと過ごした記憶まで失ってるなんて……。
修道院ではマザーに良くしてもらったな。起きたばかりの頃は身体を動かすのが大変だったから一年目はリハビリに精を出したよ。
修道院で出逢ったフローラさんとも二週間だけだったけど、寝食を共にして一緒にオラクルベリーにも一度だけ行ったっけ。
……帰ったらマザーにすんごく怒られたけど……(黙って行ったのは反省してます)。
フローラさんはとっても優しくて可愛くて、私女だけど「ああ、こんな女性が私の奥さんだったら」って思っちゃった。
一緒にいると、不思議と安心できる人。
なんだか懐かしいような……?
フローラさんも「私のお姉さまになってください」なんて言って慕ってくれたのよね。
ふふっ、フローラさんの方がしっかりしてるからどっちがお姉さんなのって感じだけど。
あ、この頃はアベルのこと憶えてないんだ。
自分が転生者だってことも忘れてた。
憶えてたらフローラさんがアベルの奥さんだったらいいのにって思ったかもね。
フローラさんやシスターたちに言葉遣いや所作の指導を受けて、すっごく窮屈な思いをしたけど、生きるためになんとか覚えて似非淑女として見た目だけは振る舞えるようになったなぁ。
この頃の私は前世はもちろん、自分が何者かわからないし(それは今もだけどw)、お世話になってるからみんなに迷惑を掛けたくないしで、とにかく生きることに必死だったんだ。
だけど、いつか出て行こうとは思ってた。
違和感……ていうのかな。
修道院に居てはいけない気がして。
先立つものがないとどうにもならないから、とにかく仕事しなきゃと思ってオラクルベリーに行ったら、カジノでバニーの仕事があるっていうじゃない?
バニーの衣装はちょっと恥ずかしかったけど、お給金に惹かれたんだよね。
週一で通ってた。
バニーの制服は三回目くらいから慣れたよ。
この頃はゴールド銀行の残高が増えていくのを見るのが楽しかったな~。
オラクルベリーの町で何かと絡まれることが多かったから、なるべく町の中は歩かないようにしてたけど、ピエール君が追い払ってくれたから助かっちゃった。
あ、もうこの時にはピエール君とは出会ってて。
いつもピエール君が付き添ってくれてたんだ。以前も今も、彼には感謝してる。
そんな生活を続けていたある日、いつの頃からだったかラインハットの使者と名乗る人たちが仕事中の私を訪ねて来るようになったんだよね……。
私に求婚とか……いや、あれはでも、若い女の子なら誰にでも声を掛けてた気がする。
王さまだし、側室がいてもおかしくはないと思うんだけど、私はそういうの嫌いだから……というか、そもそも結婚とか全然考えてなかったもの。
……私、カジノでは黒髪のウィッグを付けて変装してたんだけど、どこで私のことを知ったのか、修道院にまで手紙を送って来るから参っちゃった。
貯金の目標額まであと少しってところだったから、丁度いいといえば丁度良かったのかも……。
修道院を去る日が近いなって思ってた。
そんな時、アベルが修道院に流れ着いたんだよね……。
彼、大きなタルの中にヘンリー君とマリアさんと三人で入ってた。
アベルは大きな身体を窮屈そうに曲げて眠っていて、マリアさんはぐったりした様子で気絶してるみたいだった。
ヘンリー君なんかマリアさんを守るようにして腕を突っ張ったまま眉間に皺を寄せて気絶してるんだもの。
三人とも意識がなくって、あれたぶん吐いた後だと思う、マリアさんの口からは酸っぱい臭いがしてた。
というか……タルの中はそれはもう、すごい臭いだった……。
ツンと鼻につく腐敗臭のようなすえた臭いと、何日もお風呂に入っていないんだろう得も言われぬ臭い……。
最初は死んで腐っているのかと思ったくらい。
けど、アベルたちは生きていた。
息をしているのがわかって、私はよかったと思って泣いちゃった。
あんなタルに入っていたんだもの、きっとどこからか逃げて来たんだと思ったよ。
これまで苦しかったかもしれないけど、生きてさえいれば、これから起こるいいことに出会えるもんね。
泣きながらシスターたちと一緒にアベルたちを修道院まで運んだっけ……。
アベルたちはすごく汚れていて、私はシスターと共に彼等の身体を清めたわ。
マリアさんは目覚めるのが早かったから殆ど自分でしてたけど、ヘンリー君とアベルは私たちでするしかなかったからね。
まずはシスターたちがヘンリー君の身体を拭いたんだけど、私はお手伝いで彼の服を洗ったんだ。
なんかボロボロの服だったから綺麗に落ちたかよくわかんなかったけど、臭いは落ちたから多分大丈夫……と思いたい。
私が念入りに洗濯したせいで、生地が弱ってたら申し訳ないな……。
ヘンリー君の身体が綺麗になった後、今度はアベルの番。
今回も私はお手伝いで、服を洗濯するものだと思ってアベルの身体を支えるに留めて待ってたんだ。
けど、ヘンリー君の清拭でシスターの一人が疲れちゃって、アベルは着替えを持ってたから着ていた服はゆっくり洗えばいいってことで、私と交代したの。
男の人って身体が大きいよね。
ヘンリー君よりも大きいアベルを拭くのは大変だった。
彼、意識がないから、すごく重くて勢い余ってアベルの顔が私の胸に飛び込んできたときはびっくりしたな。
それからなんとかアベルも綺麗にしたけど、彼は中々起きなかったっけ……。
寝言で私の名前を呼んだときはすっごく驚いた。
だって、私のことを知ってる人が突然修道院に流れ着くなんて思わないじゃない?
アベルより早く目覚めたヘンリー君から聞いた話じゃ、私は彼等の友達だったって。
記憶喪失のせいか、まーったく思い出せなかったんだけどね。
……それから色々あって、アベルとまた旅をすることになって……アベルは私の十年前の記憶を取り戻してくれた。
相変わらず幼いアベルと出会う前の記憶は思い出せなかったけど。
今思い出せるのは、黒髪の優しそうな瞳の中年女性がいたということと、肩車をしてくれた男がいるということ。
それに背の高い銀髪、青い瞳の男。
三人の人物が
転生した可能性が高い。
だから記憶を取り戻したいのだけど、きっかけがあれば思い出せるはずが、これがなかなか見つからないんだなっ。
記憶は思い出せないままだけど、特殊能力なら戻って来てるみたい。
旅先で出会った実体を持たないモシャス使い(勝手にそう思ってる)が言うには私には特別な力があるんだって。
いやぁ、びっくりだよね……!
モブ……否、バグキャラにチート与えてどうすんのってね。
その能力なんだけど、たぶん魔物たちの言葉が解るってことなんだと思う。
始めは動物たちの言葉がわかるくらいだったんだけど、今じゃ魔物たちの言っていることまで理解できちゃうから戦闘中とかたまに辛いんだ。
断末魔がね……。
恨み言言って消えてく子もちらほらいたりする……。
とはいえ、プックルみたいに意識して対話を拒否する魔物もいるから、すべての魔物の言葉がわかるわけじゃないんだけど。
あ、今はプックルの言葉、全部わかってるよ。
プックルって自分のこと“我”とか言っちゃうんだ。すっごい上から物言う割に、背中に乗せてくれたり、魔物の攻撃から守ってくれたりと、なにかと親切にしてくれるからおもしろいの。
あれ、ツンデレなんだと思う。
プックルに寄り掛かって眠ると温かくて好き。
もふもふしてるのも最高。たまの水浴びと、こまめなブラッシングが生きてると思う!
話が脱線しちゃった。
私の特殊能力だったよね。
あ、あと私、一度に二つの呪文を唱えることができるの。
便利だよね~。
けど、結婚してからアベル、私が外を歩くのを嫌がってて一緒に戦えてないの。
私、【ステータスウィンドウ】を見ると未だに最大HPが100ないんだ。
アベルは既に200を超えてるっていうのにね。
そのせいかアベルは元々心配性だけど、最近じゃ過保護レベルになってる気がする。
死んだって教会で生き返る世界だっていうのに、心配し過ぎだよね~!
まぁ、毎回死なれちゃ経済的にも良くないか……。
私のために大金を使わせるわけにいかないから我慢してる。
あ、そうそう、怪しいモシャス使いから助けて欲しいとかよくわかんないお願いを受けてたんだけど、きっちり断ったからもう今後は関わることないと思う。
ちょっと惜しい気もしたけど、毎回上から目線で感じが悪くて、オレ様な感じがもう、嫌で嫌で……(プックルを見習って欲しい)。
アベルも知らない人物みたいだったし、どう考えても怪しいものね。
直感で関わらない方がいいって思ったんだ。
きっと面倒臭いことになるだろうから。
それに、断って良かったって今は思ってる。
アベルの旅の邪魔になるのは嫌だもの。
私の記憶は旅をしてる間に思い出せるんじゃないかな。
モシャス使いがそんなことを言ってた。
思い出せなかったら出せなかったで、もう今はそれでもいい気がしてる。
私はひとりぼっちだったから自分のことを知って、自分に家族がいるのか知りたかったけど、アベルが家族になってくれたからそれでいいや。
……と、ずいぶん長く語っちゃった。
実はここまでが前置き。
今回は修道院でアベルと一緒に生活してた頃のことを振り返ろうと思ったの。
修道院の屋根が吹き飛んでしまって、屋根の修繕のために彼……アベルは修道院で屋根が直るまで旅をお休みすることにしたんだけど、始めは釘を打つ手とかぎこちなくて怪我もしたりして心配してたんだ。
でも、日を追うごとにアベルってば、上達していくのよね。
なんていうか、あの人、努力家なんだな~って尊敬しちゃった。
しかも、なんか楽しそうなの!
アベルが楽しいと私も嬉しくて、毎日の食事作りとか張り切ったりすると褒めてくれて。お礼もいつも言ってくれる。
いっつも素直に気持ちをぶつけてくれるし、休憩時間にはお花を摘んで持って来てくれたり、荷物を運ぶのを手伝ってくれたり、休日にはデートに誘ってくれたり。
優しくてマメで……そりゃ、もう。私だって大好きになっちゃうよね。
……そんな男の人、今まで出会ったことなかったもの。
私は元々自分から気持ちを伝えるタイプではなかったんだけど、アベルを見てたら伝えるって大事だなって思えて、伝えるようになったと思う。
なにせ一度死んでる身だから、いつ何が起こるかわからない世界に後悔は残したくないもんね。
その一瞬一瞬を大事に過ごさないと。
人って、つい過去を悔んだり、未来に不安を抱いたりしがちだけど、イマココの精神は大事よね!
不安は不安を生むだけだもの。
だから私は、その時感じた感情を、良い感情でも悪い感情でも、ありのままに受け止めて大事にして生きるようにしてる。
生きていなければ感じることができなかった大切な感情だから。
アベルは何度も人生を繰り返してるからか、実年齢よりもすごく大人なんだよね。苦労してる人ってそう見えるのかも。
私も中身はアラサーだから一応大人なんだけど、アベルには敵わないなって思った。
あの人はいつも最善の道を選んで歩んでる。
咄嗟に判断しなきゃいけない時でも、仲間を守るため、よりリスクの少ない道を選ぶ人。
いつも私を安心させてくれる。
けど、それは期間限定だというのは、この頃は覚悟してたんだ。
アベルの花嫁は決まってたからね。
……結果的に花嫁は私になっちゃったけど。
修道院にいる間は何も考えずに、ただただ楽しい毎日を送ってたよ。
毎日がすごく充実して楽しかった。
アベルのスキンシップが徐々に激しくなっていくのにはちょっと困ったけども。
……ある時、作業がお休みの日に、古代の遺跡に釣りをしに行ったんだ。
「アリアそれは……?」
「あ、お花。あそこ……パパスさんの……でしょ?」
「あ、うん……、ありがとう」
私はパパスさんが無残に殺されたという場所に花束を手向けていたの。
そこは床が黒く焦げていてね……。
アベルは辛そうな顔をしてたけど、最後には笑ってくれた。
けど――。
「……この先にいい場所があるんだ。アリアもきっと気に入ると思うよ!」
彼はすぐに私の手を取って、足早に釣り場へと連れて行こうとした。
私は置かれた花束に振り返って目礼をしたけれど、アベルはまだ直視したくなかったんだと思う。
……未来を変えることができなかった自分を責めているように思えた。
まだもう少し、時間が必要なんだと思う。
釣りスポットがあるからと言って連れて来てくれたけど、アベルの辛そうな顔を見なきゃいけないなら、来るべき場所じゃないなと思った。
私の記憶が戻れば、その時のことを思い出すはず。
きっと、辛いんだろうな……。
でも、そうしたらきっとアベルの気持ちに共感できる。
一緒に悲しんで慰めてあげたい。
今の私にはまだ、アベルの気持ちの全部は推し量れていないと思うから。
けど気になるの、あの場所――。
パパスさんが炎で焼かれたというあの場所……なんで焼き鳥の匂いがするの……?
私の鼻がおかしいのかな?
でも、プックルもあの場所を横切る一瞬、ヨダレを垂らしてすぐに
ピエール君はわからないみたい。
たぶん、アベルも気付いていない。
……私が記憶を取り戻すまではアベルには言えない。
他にも修道院生活中は色々あったけど、ひとまず今日はここまで――。
◇
「……と、結構長くなっちゃったな……(なんか上手く書けたような、書けていないような……?)」
「アーリア♡」
「わっ!? な、なに……?」
手記を書いていた私をアベルが背後から抱きしめて来る。
ここはポートセルミの宿屋の一室。
……明日から船旅が始まる。
アベルとさっき命を懸けた一騎打ちを終えて、無事生還した私は誰が読むとも知れない体験記を綴っていた。
文章が無茶苦茶だから、旅が終わったらゆっくり推敲して本にまとめてもいいかもしれない。
アベルは明日の準備で忘れ物があると言って、買い物に出ていたはずなのだけど、帰って来たらしい(夜はお店も開いてないはずなのに、なにを買いに行ったんだろう?)。
彼の大きな腕に包まれると安心できて、好き――。
……私はアベルの匂いに包まれ、書き途中のノートを閉じた。
「準備も終わったし、僕はそろそろ寝ようかと思うんだけど……」
「あ、うん、お疲れさま、おやすみなさい」
私もそろそろ休まなきゃね……と、【文房具】を片付け始める。
アベルもあちこち歩き回って疲れているだろうからゆっくり休んで欲しい。
「おやすみなさいって……、このまま眠るつもり?」
……アベルが私の首元に顔を埋めてくる。
ちゅっ、と肌を吸われて私の眉が強張った。
「ン……、あ、だって、さっき一回したでしょ? 一回って約束だったよね……?」
「……一回……か、ははっ……そうだよね、アリアは一回で十分なんだよね……」
……ここ、アベルの困ったところ。
彼、絶倫なのだ。
いや本当、どうなってるの。
一日一回って約束なのに、一度も守られてないんですけど。
私の体力が少ないってこと、知ってるはずなのに私のだんなさまは私を瀕死にするのに躊躇がない。
……鬼か。
初夜に限って言えば五回目以降、何回致したか憶えていないくらいだ。
愛されてるのはわかるし、私も営みは嫌いではないから断るに断れない。
「うん……」
「……僕は足りない。もう一回だけ付き合ってくれる……? その分子どもができる確率も上がると思うよ!」
嬉々としてアベルは私の下腹部を優しく撫でる。
アベルの手は温かくて、お腹に当てられるとじんわりと温まった。
「赤ちゃん……」
血のつながった家族ができるのはうれしい。
そんなに何回もする必要は無いというのは解っていても、アベルがその機会を与えてくれるなら、私は受けて立つしかない。
たぶんアベルは一年我慢させたことで、おかしくなってしまっているんだと思う。
肉体が若いだけに我慢できないんだろう。
恐るべし、若者の性欲。
私だって必死に我慢してたんですけどね。
……アベルには言わないけど。
性欲が男にしかないって?
そんなのは幻想だわ。
私なんて、アベルの素肌を前にしただけで、身体が熱くなっちゃうんだから。
好きな男になら何度だって抱かれたい――けど、体力がもたないから困ってる。
……一か月もすれば落ち着く……よね?
もし落ち着かなくても、回数を重ねている内に、私の身体が鍛えられていくから耐えられるようになると思う――というのはポジティブ過ぎるかな?
でも早くもっと体力を付けて、また一緒に歩きたいというのが今の私の目標。
今夜はアベルに負けないんだから。
……だけど、まだ一度も勝ったことないんだよね……。
アベルってすっごいタフ。
「アリア♡ 愛してるよ♡」
ああ、アベルが嬉しそうに微笑んで私に触れてくる。
それだけで、私の身体はすぐに反応しちゃう。
アベルってついこの間まで未経験だったはずなのに、おかしいの。
初夜の一回目こそ恐る恐るだったのに、その後はもう、なに?
……動きがなんていうか、こなれてる気がする。
初めてだって言ってたから初めてだと思うし、誰に教わったのとか聞いたことはないけど、思うにたぶん――
「あっ、あっ……! ゃっ、そこイヤっ! あンっ、ンンッ♡♡」
「ホント? アリアここ好きでしょ? ほらもう……」
「イヤぁっ……♡」
アベルの先制攻撃に私の身体はわなないて、私は彼にしがみ付いて止めてと懇願するけど、アベルのターンは始まったばかりでしばらく終わりそうにない。
私を攻撃する時のアベルはめちゃくちゃ笑顔で、すごくしつこいし、いじわるだ。
二戦目もきっとドロドロに溶かされ泣かされる。
あのー……的確に私の弱いところ、狙って突くの止めてもらえませんか。
ていうか、どこで覚えたのそのテクニックゥ~……!
ちょっと問い詰めてみたいけど、聞きたくないから訊かないよっ!
……私は今夜もアベルに惨敗するのだった。
ちょっとこれまでの話を振り返ってみました。
あ~ら~す~じ~です。
アリア視点は初めてだったかな。
たまにこういうのも書いておくとお話の整理ができてよきよき。
オマケでちょっとえち入り。
早く赤ちゃんできるといいね……ということで、アベル夫妻は子作りに積極的です。
さて、本日より連載再開いたします。
どうぞ、またしばらくよろしくお願いいたします。
まだまだ先は長いのでちょこちょこお休みしつつ、最後まで走り抜きます。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!