未来なんて本来わからないものなんですけども。
では、本編どぞー。
……イカスキーに案内された特別室は広く、一階と二階に分れていた。
一階の部屋には高級な赤絨毯が敷き詰められており、中央にはテーブルクロスが掛けられ、動かないように設置された大きなテーブル。その上には高級フルーツが置かれている。
そして椅子もまた動かないように設置されたものが四脚――、固定されていれば揺れても安全だ。
部屋の壁際には酒の瓶類、高級なものなのだろうか……と、暖炉や本棚が配置されていた。
どれも手入れが行き届いており、ぱっと見ほこりなどは見受けられない。
「今、エソスキーに言ってお茶をお持ちします」
「あっ、いえ。いいですよ。すぐ着くんですよね?」
「はいっ!」
「じゃあ私、ここでアベルと待ちます」
“くだもの食べていいですか?”
アリアは椅子に腰掛けテーブル上の高級フルーツの中からブドウを手に取った。
イカスキーは首を激しく上下に動かしどうぞどうぞと頷く。
「あ、僕はすぐ甲板に戻るよ」
「え?」
「魔物が出たら戦わないとね。アリアはゆっくりしてて。到着したら呼びに来る」
「ぁ……そっかぁ、うん……、わかった……」
アベルの言葉にアリアはがくりと項垂れ了承する。
淋しいのだろうか……。
彼女の眉がハの字を描いているではないか。
そしてアベルのマントをちょこんと抓んでいる。
「ぅ……島に着いたら一緒に行くんだし、そんな淋しそうな顔しないでよ……」
――ああ~……! なにその態度!? 僕に行って欲しくないって?
控え目に言ってめちゃくちゃ可愛いぃ……!!
……一目見てわかるほど落ち込む姿のアリアにアベルは萌えた。
マントを一瞬強く引かれたが、すぐにアリアの手は離れる。
「うん……、……えへへ、ごめんね。ここで大人しくしてるね。アベル怪我しないでね」
「アリア……」
「ふふっ、このブドウ美味しい♪ あっ、本でも読んでようかな?」
アリアは淋し気にブドウを口にしながら、本棚に目を移した。
すると頬をほんのり赤くしたイカスキーが挙手し、話し相手に名乗り出る。
「じ、自分が話し相手になりましょうか!?」
お近づきになれたなら……と、イカスキーはアリアを熱い眼差しで見つめた。
アリアに一目惚れでもしたのだろう。最近は魔物相手ばかりだったから、こういう反応をする男は久しぶりだ。
「えっと、イカスキーさんだっけっ!?」
アベルは慌ててイカスキーの肩に手を置く。
「はい!」
「アリアの相手は僕の仲魔に任せて君も出ようか……!」
元気よく返事するイカスキーの腕を強引に掴み、アベルは「スラりんたちにここに来るよう言っておくよ。じゃ、後でね!」と彼を引き連れ部屋から出て行った。
アベルに連れられたイカスキーが「えっ? えっ? 自分はアリアお嬢さまの話し相手に……」なんて言っていたが、話し途中で強制退場である。
「あ、うん。わかったぁ……気を付けて……」
――アベルたちが怪我をしませんように……!
独り特別室に残されたアリアは、ぽつん。祈ることしかできないのがもどかしいが、アベルの命令には従わねば。
……身体に気怠さが残っているため、無理に戦うとまでは言えなかった。
彼女はスラりんたちがやって来るまで手を組み祈りを捧げていた――。
◇
特別室を出たアベルとイカスキーは船の甲板、中央付近まで歩く。
中央にはピエールとプックル、メッキ―がそれぞれ別の方向に目を凝らし、警戒をしていた。
ストレンジャー号は魔力を動力としており、安全に船旅ができるよう、魔物除けの呪文が掛かっている。
船体も魔物の攻撃で簡単に沈んだりしない頑丈な造り……なのだが、連絡船が出せていなかったということは、昨今魔物が強くなってしまったために、その魔物除けの呪文が機能していないということ――。
つまり、航行中に襲われることがあるわけだ。
サラボナで借りた小さな船と同じで、図々しく甲板に上がりこんで来る魔物もいるはず。
船長がお茶でも――なんて言ってくれていたから、恐らく船員たちもある程度の戦闘能力を持ち合わせており、カジノ船の小島までならどうにかなると思っているに違いない。
だが、魔物との戦いならアベルたちが対応した方がきっと早いし、安心である。
これから大海を行く長い旅路になる。
皆で協力して安全な船旅を進めるためにも、自分たちが船を守らなければ。
……アベルはピエールたちと合流した。
「……じゃ、若だんな。自分は持ち場に戻ります」
「うん、そうして」
――まったく、人妻に気安く声を掛けるんじゃないよ……!
イカスキーが、何か言いたげな顔をアベルに見せてから元いた持ち場に戻ると、アベルは馬車に乗っているスラりんたちをアリアの元へ送った。
そうして何度か海の魔物との戦いを終えて、アベルとピエールは風に吹かれながら大海原を眺める。
「……海は広いね……」
「そうですね。この海の向こうに主殿の求める勇者の足跡が……」
丁度視線の先に僅かだが、カジノ船が停泊するであろう島が見え始めていた。
「なあ、ピエール」
「はい?」
「君、この先でなにが起きるか思い出せてたりする?」
「え?」
突然の質問にピエールはアベルを見上げる。
「あ、いや、いまさら君の記憶に頼ろうってわけじゃないんだけどさ……。その……先のことが全然降りて来なくてさ。ほら僕さ、結婚のことはかなり前に思い出せていただろう?」
「あ……サラボナに初めて着いた時には思い出されていたんでしたっけ……」
広い海の中、いつ何時魔物が現れるか――魔物はこちらの都合などお構いなしだ。
アベルとピエールは話しながらも武器は手放さないようきちんと握り、警戒態勢は解かないでおく。
「うん、そうなんだよ。一晩中瞑想して思い出したんだ」
「なるほど、瞑想ですか……」
「今も一晩中ではないけど、たまに瞑想してるんだ。けど、記憶はさっぱりでさ。君はどれくらいまで思い出せているのかなって」
「……あ。いえ、まったく……」
――毎晩、アリア嬢と過ごされてから瞑想ですか……あなたの体力には感服致しますよアベル殿……。
アベルの話にアリアが毎朝瀕死になっているのが可哀想だなと思いつつ、ピエールは返事をした。
「え」
「その……アベル殿がアリア嬢とご結婚されてから、先の記憶がまったく降りて来ておりません」
「君も!?」
アベルは驚きに目を見開く。
ピエールのことだから、この先何が起こるか把握していると思ったのに記憶が降りて来ていないとは――、といった顔である。
「……やはりアリア嬢とのご結婚で未来が変化したということなのでしょうか……」
「……それならそれでいいんだけど、どうもそうでもないみたいなんだよね」
「それはどういう……」
ピエールが首を傾げたその時――。
「がうがうっ!!(主! ピエール! 後ろから新手が来たぞ……!)」
プックルの鳴き声が二人の背後から聞こえた。
「ピエール魔物だ! また今度話そう!」
「はいっ!!」
……未来の話は一時中断。アベルとピエールは現れた魔物の群れとの戦いに身を投じていった。
未来は変化する?
別世界とはいえ、未来を知っていることがアドバンテージだったというのに、アベルもピエールも先のことがわからなくなってしまいましたとさ。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!