ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

ラインハットの国境の河、デカイですよね。
船通れるもんね。

では、本編どうぞっ。



第六十七話 肩車

 

「わぁ……すっごい大きな河だね」

 

 

 見晴台にやって来て、アベルは雄大な河の流れに目を丸くする。

 

 すると、

 

 

「どれ。よいしょ……と」

 

「あっ、わぁっ!!? 父さんっ!?」

 

 

 パパスはアベルを肩車したのだった。

 

 

「どうだ? よく見えるか?」

 

「っ、ぅ、うんっ! すっごく大きな河だね。水がキラキラしててキレイだよ! あっ、今魚が跳ねたよ! あそこ!」

 

「はっはっは。どこだ? アベルは目がいいんだな~」

 

 

 パパスはアベルの喜ぶ顔を見上げ、胸を温める。

 

 

 マーサに似た優しく大きなその瞳に、綺麗なものをたくさん映してやりたいものだな……。

 

 

 アベルが見る世界が優しく温かいものでありますようにと願わずにいられないパパスであった。

 

 アベルはアベルで、“肩車してもらうの、もう叶っちゃったなぁ”と満足そうだ。

 

 

『ふふっ、アベル嬉しそう……』

 

 

 アリアはパパスとアベルを微笑ましく見上げていたのだ、が。

 

 

『……ん……? 何……?』

 

 

 ピキッと、急にこめかみに痛みが走る。

 

 

『っ、痛っ……』

 

 

 

 

 

 

 “アリアどうだ、いい眺めだろう? あの星がお前の……”

 

 

 

 

 

 

 アリアの脳裏に、見知らぬ男性の姿が過る。

 辺りが暗くよく見えないのは陽が落ちた後なのか、男は暗い空を見上げ、明るく輝く一点を指差し告げていた。

 

 

 

 

 ……こんな男は知らない。

 

 

 

 

 私の父は、私が物心ついた時には四十肩で肩車なんて出来なかったんだから。

 

 

 だとすると、これはアリア(・・・)の記憶なのだ。

 

 以前見た優し気な女性ではなく、今度は男性。

 自分の姿も今より少し小さく感じる。

 肩車をしているからか後頭部が見えるだけで、顔は見えない。服装も暗くてよくわからない。

 だが、幼い少女を肩車し、親し気に語るその口調に何となく思う。

 

 

 アリア(・・・)の父親……?

 

 

 アリアはアベル達をぼーっと見上げ、固まっていた。

 

 

「……リア、アリア?」

 

『はっ! あ……私……』

 

「何かあった?」

 

『え、あ……、えっと……』

 

 

 いつの間にかアベルがパパスの肩から降りて、アリアの前で手を振っていた。

 アリアはもう少し思い出したかったが遮られてしまい、どう説明するか悩む。

 

 そうしている内に、パパスが傍に佇む老人に話し掛けていた。

 

 

「もし、どうかされたかご老人?」

 

「ほっといて下され。わしは川の流れを見ながらこの国の行く末を案じているだけじゃて……」

 

 

 パパスの声掛けに老人は一瞥するも、すぐに憂う顔で大河を眺める。

 川風は強く、温かくなって来たとはいえ身体を冷やす。早く家に帰って温まってはどうか。

 そう思いパパスは声を掛けたのだが、老人には通じなかったようだ。

 アリアも『風邪引いちゃいますよ、おじいさん』と注意するが当然聞こえない。

 

 

「ふむ……。あまり風に当たると身体に毒ですぞ。では、ごめん!」

 

 

 聞く耳持たずな老人の様子に、パパスは早々に諦め、アベルに行こうと告げて見晴台を下りて行った。

 

 そして、パパスはそのまま見晴台を下り、更に下の階段を下りて行く。

 

 そちらは……、

 

 

「あっ、と、父さん……?(そっちは……)」

 

「おっといかん! ラインハットに行くんだったな……」

 

 

 階段を下り切るとパパスは“はっ”として慌てて階段を上って地上に戻る。

 

 階段を下りた先はサンタローズへの地下道で、先程来た道だ。

 考え事でもしていたのだろうか、お茶目な一面を見せたパパスだった。

 

 

『ふふふっ、パパスさんて、お茶目~』

 

 

 アリアがくすくすと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 地下道を後にし、アベル達はラインハット城へと向かう。

 ところが少し歩いた所で……、

 

 

 ぐ~、きゅるるる。

 

 

 アベルの腹の虫が鳴ったのだった。

 

 

「父さん、僕お腹空いた」

 

「何? あともう少し我慢できないか?」

 

「お腹空いた」

 

「……仕方ないな……。少し休憩するか。あの樹の陰なら魔物にも見つからないだろう」

 

 

 我慢できないアベルはお腹を擦り、パパスを見上げる。

 パパスはじぃっと自分を見上げてくる愛くるしい瞳に逆らえる筈もなく、辺りを見回した。

 そして、少し離れた森の入口に魔物に見つからなそうな場所を見つける。

 

 パパスは我儘を言う息子に甘い。

 森の樹の陰へとアベルを連れ、座るように促した。

 

 

「こうなるかもしれないと、念のためにサンチョに持たされたのが役に立ちそうだ。ほら」

 

 

 アベルが樹の根に腰掛けると、パパスが袋から具を挟んだパンを取り出しアベルに差し出す。

 

 

「え……? あ、サンチョのパン! 中身入り!」

 

 

 アベルはパンを受け取ると早速「いただきまーす!」と元気に告げて齧り付いた。

 

 

「お前にもやろう」

 

 

 パパスはプックルの前にも同じパンを置く。

 

 

「……グルルルル……」

 

 

 プックルはじっとパンを見下ろした。

 

 

 サンチョのパン……だと?

 

 ……何だ? 野菜が入っているではないか!

 こんなものを我に食えというのか……!?

 

 

 プックルは目前に置かれた食べ物を上から窺うように用心深く見つめたのだった。

 

 

『サンドイッチ……。美味しそう……』

 

 

 アリアはじゅるりとヨダレを垂らす。

 

 

「もぐ、んぐ……。あ、父さん、もう一個ある?」

 

「ん? おお、あるぞ。あと三つはあるな。おかわりしていいぞ」

 

 

 アベルが一つ食べ終え訊ねると、パパスもこれから食べようと口を開けていたのだが止めて、袋からパンを出そうとする。

 

 

「僕、二つ欲しい! あっちで食べて来てもいい?」

 

「あっちって……あまり遠くに行くのは感心しないぞ? 魔物が出たらどうする……」

 

 

 アベルが森の奥を指差すので、パパスは注意した。

 

 

 ここで食べればいいじゃないか……。

 

 最近アベルと食事していなかったから、父さん、一緒に食べたかったのに……。

 

 

 と、ちょっぴり悲しいパパスだった。

 

 

「大丈夫、すぐそこだから。さっきリスを見た気がしたんだ。もうちょっと見てみたいから向こうに行くね。魔物が出たら父さんを呼ぶよ」

 

「……わかった。父さんもいつでも動けるようにしておこう」

 

 

 アベルの言い分にパパスは仕方なくパンを二つ渡した。

 

 

「ありがとっ!」

 

 

 アベルが弾けるような笑顔をパパスに向ける。

 アリアにおいでと手招きし、彼女を引き連れ奥へと消えた。

 

 

「…………いいんだ、いいんだよ」

 

 

 パパスは顔を綻ばせ、アベルが去って行く様子を手を振って見送った。

 

 

 私の息子はなんて可愛いのだ。

 天使、天使なのか……!!?

 

 マーサ!

 

 私達の息子は今日も可愛いぞ!!

 

 

 パパスはサンチョのサンドイッチを頬張り、涙する。

 

 

「……がう……?」

 

 

 そんなパパスの様子を見ていたプックルが首を傾げた。

 

 

 泣くほど旨いのか、コレ……。

 

 

 と、何を勘違いしたのか、プックルはサンチョのサンドイッチを食べ始めたのだった。

 

 

「……っ!? !!!! ガウガウガウッ!!!!」

 

 

 一口味わい、プックルはサンドイッチにがっつく。

 

 

 実際食べてみたら美味いなんてものじゃなかった。

 野菜が多めの肉少な目、むしろ野菜だけでも美味いんじゃないかと思う程のこの美味さよ!

 

 肉は少々濃いめの味付けだが、野菜は野菜本来の甘味にジューシーさが際立つ。

 ほのかに甘い外カリ中フワのパンは今朝焼いたのだろう、パサつきは皆無。

 口に広がる至福の時。

 

 

 何だ、コレ。

 

 こんな美味い物を人間は食べていたのか!?

 サンチョとかいう奴に言われた時素直に食べていれば……。

 

 

 プックルは少々後悔しながら全て平らげ、パパスが食べている様子をヨダレを垂らしながら見ていた。

 




以上、野菜の美味さに目覚めたプックルの巻きでした。
サンチョの作るご飯は美味いぞ、ってことで。

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読んでいただきありがとうございましたっ!

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