ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

食堂ではおいしい食事が待っています。

では、本編。



第六百八十話 食堂にて

 

 

 

 

 

 食堂に続く階段を下りると船員たちも集まっており、すでに食事が始まっていた。

 テーブルは六人掛け――。

 修道院と同じく、全員一度には座れないため順に食べるスタイルだ。

 

 

「アベル、ここ座って!」

 

「うん」

 

 

 空いている席は一つ。

 アリアは立ったままで、アベルを席に座らせた。

 

 

「アリアは座らないのかい?」

 

「私はあとでいいよ。アベルお腹空いたでしょ? 今スープを持ってくるね」

 

 

 アベルの問い掛けにアリアはキッチンへと向かい、大きな鍋から【ブイヤベース】を皿に装う。

 

 食堂に下りてきた時から気付いていたが、食欲をそそる魚介の良い香りが部屋を満たしていた。

 

 

「はいどうぞ。おかわりもあるからね」

 

「ありがとう……、って、あれ? アリアが作ったの?」

 

 

 テーブルに【ブイヤベース】の入った皿をのせられると、アベルはアリアを見上げた。

 

 

「ううん、私はちょっとお手伝いしただけ。エソスキーさんのブイヤベース、とってもおいしいんだから。あ、でもパンは私が作ったよ! いっぱい食べてね!」

 

「そっか……♡ いただきます!!」

 

 

 テーブルの中央には焼き立ての【パン】が入ったカゴがあり、アベルは早速【パン】に手を伸ばす。

 アリアの【パン】は焼き立ては外はカリッと、中は柔らかくふわふわなのである。

 

 

「……おいしい♡ アリアありがとう!!」

 

「うふふ、どういたしまして! お口に合ったみたいでうれしい!」

 

 

 アベルが【パン】を一口齧ってお礼を告げると、アリアは嬉しそうにはにかんだ。

 

 

「……カワイイ……♡」

 

「アリアお嬢さま可愛い、尊い……」

 

 

 アリアの笑顔を目にした同じテーブルを囲む船員たちが、食べ途中の手を止め惚けたように彼女を見ており、スプーンから掬ったス―プが皿に零れ落ちていく。

 船員たちは慌てて掬い直し、食事を続けた。

 

 ……船員たちの皿の【ブイヤベース】は既に三杯目である。

 

 男所帯の船上で、とびきり美人である彼女――エプロン姿のアリアを、男たちはまだしばらく眺めていたいのだ。

 

 船員たちが食堂に下りてきた時、アリアはお嬢さまだというのに、自ら進んで食事の準備を手伝っていた。

 

 舵取りのアジスキーを除く、船長を始め船員たちの顔はデレデレだ。

 既婚者であるウッツボでさえ、アリアを穏やかな瞳で見つめている。

 

 どうやらアリアは船員たちにもう気に入られたらしい。

 

 

 ……ただし、独りを除いてだが。

 

 

「……ハッ、旦那にだけは愛想がいい」

 

「……ぇと……?」

 

 

 オコーゼだけはアリアをじろりと一瞥、スープを飲み干し立ち上がった。

 

 

「……今日のパンはあんたが作ったらしいな」

 

「あ、はい。お口に合いませんでしたか……?」

 

 

 オコーゼが床に置いた槍を背に担ぎ訊ねるも、アリアの返事に彼は黙り込んで独り食堂から出て行った。

 

 

「……私……、知らない間にオコーゼさんになにかしたのかな……?」

 

 

 ――旦那にだけ愛想がいいって、当たり前だと思うんだけど……。

 

 

 階段を上がっていくオコーゼの背に、アリアはなぜ自分は嫌われているのだろうと首を捻る。

 オコーゼとは昨日が初対面で、話をしたのも昨日の下船時のみ――。

 

 なにか粗相をしたというほど、会話もしていない。

 だのにあの態度……まったくの謎である。

 

 この世界に来てから今まで、誰かにあんな態度を取られた記憶のないアリアは、どうしていいかわからず眉を下げた。

 

 

「……アリア、このパンすごくおいしいよ! アリアのパンは最高だ!」

 

 

 アリアの心情を知ってか知らずか、アベルは【パン】にがっつき、笑ってみせる。

 

 

「そうですよ、柔らかくて口当たりが良いですよ!」

 

「ええ、その通り!」

 

 

 イカスキーとエソスキーがにこにこと同じ顔で【パン】を頬張ってみせる。

 他の船員も「なんだあの態度は……」や「すみませんね」とオコーゼの代わりに謝ってくれた。

 

 

「アベル……、みなさん……ありがとう……♡」

 

 

 別に落ち込んだわけではなかったが、皆の気遣いが嬉しい。

 アリアは笑顔で返した。

 

 アリアの笑顔を見た船員たちはぽっと頬を赤らめる。

 それを見たアベルはムスッと頬を膨らませたが、特に何も言わずに食事を続けた。

 

 

「……(まったく、人の奥さんを見てぼーっとしてるんじゃないよ!)」

 

 

 ――アリアもアリアだ、誰にでも愛想を振り撒くから男が勘違いする。

 

 

 愛想がいいというのも困りものだなと、アベルは以降の食事の味を感じない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごちそうさま。僕もそろそろ上に戻るよ」

 

 

 船員たちは一足先に持ち場へ戻っており、残ったエソスキーとアリアが片付けをしていると、アベルも食事を終え立ち上がった。

 

 

「うん。あ、アベル。上に戻ったらピエール君たちを呼んでくれる? みんなもお腹空いてると思うの」

 

 

 アリアがテーブルを拭きながら告げると、アベルはアリアの傍へと寄って行く。

 

 ……エソスキーはキッチンで作業をしており、アベルたちには背を向けていた。

 

 

「わかった。アリア、お昼ご飯おいしかったよ。ありがとう」

 

 

 アリアの腰に手を添え寄り添うアベルが、耳元でこそこそ囁く。

 耳にかかる吐息にくすぐったさを感じたアリアの頬は、瞬時に紅潮し肩を竦めた。

 

 

「ンッ……それはエソスキーさんに言って」

 

 

 彼女は照れているのか、お礼ならコックの彼へとエソスキーに目配せをする。

 

 

「アリアのパンがおいしくて、ブイヤベースの味を憶えていないんだ」

 

「そんなわけないでしょっっ! ただのパンだよ!?」

 

「フフフ。アリアのパンは特別だからね~♡」

 

「もぉっ! アベルってば褒めすぎっ。って、どこ触って……!」

 

 

 ……新婚ならではなのだろう。

 エソスキーが同じ空間にいるというのに、二人はイチャイチャと――。

 

 

「……(新婚さんはいいなぁ……)」

 

 

 背を向けたまま作業していたエソスキーは、背後から漏れ聞こえる二人の会話に耳を赤くし、振り返ることができないままに作業を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……全員が昼食を終え、航行を再開。

 船は東の岩山脈の峰々を沿うように南下を続ける。

 

 やがて日は落ち、闇の時間へ――。

 

 

「アジスキーさん、今日はこの辺で休みましょう」

 

 

 幾度とない海の魔物との戦いを終え、辺りも暗くなってきたことだし……と、アベルは船を止めた。

 

 

「そうッスね。夜は危険ッスからね! 良い判断ッス」

 

 

 連絡船のルートしか知らないアジスキーには緊張の連続だったらしい。彼がほっとしたような顔で額の汗を拭う。

 

 明かりのない暗い海域で、【ふしぎなちず】はあれども無理に進めば危険度は上がる。

 無理に進む必要はないため、今夜はこの地点で夜を明かすことにした。

 

 昼に気付いたことだが、海域にもよるのかもしれないが、船を停泊させた状態だと魔物がやって来ることはなく、やはり船に掛かっている保護呪文は効くらしい。

 【せいすい】を使わなくて済むというのはありがたい。

 

 ……これなら宿屋と同じように休めそうだ。

 

 

「アベルさん、いかりを下ろしてくるッス! アベルさんはお先に食堂へどうぞ!」

 

「じゃ遠慮なく!」

 

 

 アジスキーがいかりを下ろしに行くと、アベルは食堂へ走る。

 今夜はアリアがしたいと言っていた釣りをしてから一緒に寝る予定だ。

 

 

 ――早くアリアに会いたい……!

 

 

 アベルの足取りは軽く、食堂に一番乗りで着いた……のだったが。

 

 

「アリアさん、これ味見してみてください」

 

「……わぁ、揚げたておいしい! エソスキーさん神! 味付け神すぎ!」

 

「いえ、そんな……♡ アリアさんの作ったさつま揚げも中々……」

 

「いや、私、形作っただけですよ?」

 

 

 食堂ではエソスキーとアリアが楽しそうに会話し、さつま揚げを揚げていた。

 キャッキャウフフと、二人は楽しそうだ……。

 

 ……当然アベルの眉間に皺が寄せられる。

 

 

「……アリア、どういうこと?(浮気!?)」

 

「……へ? あ! アベルおつかれさま! 一番乗りだね♡ ごはんできてるよ~」

 

 

 アベルがムスッと頬を膨らませたが、アリアはアベルに気付いた途端、嬉しそうに駆け寄って来た。

 

 

「……はぁ~。ずっと食堂にいるなとは思ってたけど、なにしてたの?」

 

 

 ――ったく、可愛い顔で誤魔化してぇ……。

 

 

 満面の笑みを見せるアリアに、アベルは深いため息を吐いて唇を尖らせる。

 

 

「へ? なにって、夕飯の準備だけど?(はぁ……ってなんでため息?)」

 

 

 昼間から食堂でアリアはいったい何をしていたのか……。

 

 大きなため息を吐いたアベルの質問に、アリアの首は傾き不思議顔――。

 “人数が多いから準備も大変よね”とエソスキーの手伝いをしていたという。

 

 

 ……テーブルには様々な料理が並べられていた。

 




戦闘に出させてもらえない暇なアリアはエソスキーのお手伝いです。

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