フゥフゥ。
では、本編どぞ。
「夕飯の準備って……、アリアがする仕事じゃないよね?」
アベルは不機嫌そうだ。
「どうして? 働かざる者食うべからずって言うでしょ? お部屋で一人だけのんびりしているのは性に合わないもの。アベルだって船を守ってるじゃない? できることはしなきゃって思って」
「そうだけどっ!」
アリアがテーブルに纏め置かれたカトラリーを、各席へと並べながら答えていくが、アベルは彼女の手首を咄嗟に掴んでしまった。
「アベルどうしたの……? あっ! そうだ、エソスキーさんがおいしいさつま揚げを作ってくれたの! 味見してみる? ちょっと待っててね……!」
持って来るね、とアリアはアベルの手を放させて、エソスキーの元へ行く。楽し気な様子でエソスキーにこそこそ耳打ちしてから、揚げたての“さつま揚げ”をアベルに持ってきた。
「アリア……なんかエソスキーさんと距離近くない……?」
「ん? はいアベル、一つだけトクベツ♡ みんなにはナイショだよ?」
アベルの小さなぼやきは届かず、アリアはフォークに刺した“さつま揚げ”を差し出す。
“さつま揚げ”からは揚げたての良い香りがし、湯気が立ち昇っていた。
「え?」
「ねえ、あーんして♡」
「あ、あーん?」
アリアに言われるまま、アベルは口を開ける。
開いた口に揚げたての“さつま揚げ”がイン。当然だが、揚げたてのそれはまだ熱々で――。
「
「あっ、ごめんっ、アベル口開けてっ!」
いったい何をしようというのか、アリアが口を開けろとアベルのマントの襟を掴み引き寄せる。
何をされるのかはわからなかったものの、アベルはアリアの指示であれば断らない。言われるままに従った。
すると、“ふぅふぅ”。
アリアはアベルの口腔内へと息を吹き込んだのである。
「……っ」
――ふぅふぅって……なに、可愛いことしてくれてんの……!
口の中に触れるアリアの吐息が甘く感じる。
アベルは舌を火傷したが、“さつま揚げ”の温度など既に忘れ、口を開けたまましばし惚けた。
「フゥフゥ……、大丈夫? やけどしなかった?」
「っ……う、うん。大丈夫……」
舌先が僅かに痺れている気もするが、大したことではない。
心配そうに見上げる彼女の顔がいじらしく見えて、アベルは気付けば素直に頷いていた。
「ごめんね、熱かったね」
「……っ、平気」
……もぐもぐ。
アベルはアリアのお陰で丁度良い温度になった“さつま揚げ”を咀嚼する。
エソスキーが言っていた通りかなり美味だ。
“さつま揚げ”とは、どこから名前を取ったのかは知らないが、魚のすり身を揚げたものかな……なんて何となく感じた。
「そう? あ、お水持って来るね」
「うん……」
アリアは水を取りにキッチンへ行き、すぐに水の入ったコップを持って来る。アベルに渡し、飲む様子を心配そうに見ていた。
――アリア、僕を子ども扱いしてる……?
けど、うれしいと思うのはなぜだ……!
口の中に“ふぅふぅ”なんてしてもらったのはいつ振りだろう。
あれは幼い頃……三つか四つの頃、サンチョにしてもらって以来ではなかろうか。
サンチョとアリアは違う。
サンチョの吐息はニンニク臭かったが、アリアの吐息はなぜか甘い。
今度から熱いものを食べた時にはふぅふぅしてもらおう――、アベルは水を飲み飲みアリアの唇をチラ見した。
彼女の唇は油ものを食べたからか、テカテカと艶を放っている。
あの唇が開く度愛らしいさえずりと、色濃いピンクの舌が見え隠れし、アベルの脳裏には昨夜の妻の姿が浮かんだ。
『アベルの……、今夜もすごぉ……い……♡』
『あぁ、アリア。そんなことしちゃダメ……』
“チュッ”
カジノ船、特別室のベッドで、
少々酒を嗜んだせいか、昨夜はアリアもノリノリ。
……酒を飲むと酔って眠くなるアリアが起きている時間は短い。
だが、アベルは短時間の内に妖艶なお姉さんに変化したアリアに翻弄され、最終的な軍配はアベルに上がったが、夢の様な夜を過ごしたのである。
受け身なアリアも好いが、攻めの彼女も堪らなく好い。
(昨夜もよかった……。アリアすき……♡)
日を追うごとに、もっともっとと欲張りになってしまう自分を抑えるのが辛いところ――。
……エソスキーとの浮気疑惑など有耶無耶に終わった。
「もうすぐみなさんも下りて来るとおも…………っっ!?」
アリアが笑顔で告げるも、アベルの背後を見ると話し途中で固まる。
「アリア?」
「ぁ……っ、私お手伝いして来るね! アベルは座っててね!」
なぜか彼女は踵を返し、キッチンへ逃げるように行ってしまった。
「……なんだ……?」
――僕の後ろを見て……?
アベルが背後に目を向けると、そこには照れくさそうな船員たちの姿が――。
「……い、いやぁ……新婚さんて熱いッスね……」
「ははは、若いっていいですなあ!」
手で顔を扇ぐアジスキーとにこやかな船長が、料理が並べられたテーブルにやって来て席に着く。
「フゥフゥとか自分も新婚の頃、嫁にやってもらったっけなぁ~。懐かしいな」
「羨ましい……」
自らの妻を思い出し目を細めるウッツボと、アベルに羨望の眼差しを向けるイカスキーもテーブルへ。それぞれ席に着いた。
……やって来た船員は以上の四名で、オコーゼが見当たらない。
「なあオコーゼ。お前も早く結婚してフゥフゥしてもらえばいいんだよ。……って、あれ? オコーゼの奴どこ行った? さっきまで一緒だったのに」
「あー、定員オーバーだから遠慮したんスかね? 席が空いたら来るんじゃないスか?」
「それもそうだな」
ふとウッツボが階段へと視線を移すと、オコーゼの姿が見当たらず、彼の代わりにアジスキーが答える。
人数が多いため、昼と同じく食事は入れ替え制だ。オコーゼは人数を数えて遠慮したのだろう。
……アベルは空席に腰掛けた。
「さあ、アリアお嬢さまも座ってください。食事にしましょう」
「っ……、はぃ……」
――ふぅふぅとか、人前でやっちゃダメなやつでしょ……!
船長に声を掛けられ、赤い頬のアリアが俯きながらもアベルの隣が空いているので大人しく座る。
先ほどの“ふぅふぅ”をしっかり見られていたらしい。
……船員たちの目が生温かい。
「……はは、見られてたみたいだね」
「っ……ぅん……」
アベルとアリアは互いに頬を染め、船員たちに冷やかされながら食事を終えたのだった。
新婚時代は蜜月ですもの。ちょっと周りが見えなくなってフゥフゥもするわよw
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