アバカム便利よな~。
では、本編。
◇
……城の地下へと足を踏み入れると、頑丈な鉄格子の扉の奥に宝箱が三つ安置された宝物庫があった。
「開かない、か……」
扉にはカギが掛かっており、念のため【カギの技法】で開かないかアベルは試してみたが、何の変化もなく開かない。
宝物庫の宝箱は諦めるしかなさそうだ。
「ねえ、アベル」
「ん?」
「トビラが開いたら宝物って貰って行っていいのかな?」
――この扉が開けば、中の宝は手に入るけど……。
アベルの隣でアリアも鉄格子を掴み、宝物庫の様子を窺う。
当然だがアリアも扉を開けることはできなかった。
「……うーん、多分いいと思う」
「それはどうして?」
「……どうしてって……、こんな頑丈な扉を開けられるのなら、旅の熟練者でしょ? ……持って行っても多分誰も怒らないはずだよ。だってそういうものでしょ?」
アリアの質問にアベルは不思議そうに首を傾げた。
「へぇ……。じゃあ早い者勝ちってこと?(そういうものって……)」
――なんだか曖昧さを感じるけど、そういう世界だから……オッケーってことかな?
深く考えるだけ無駄な気がして来ちゃった……。
ツボやタルは壊しても勝手に元に戻り、よその家のタンスの中身を貰っても怒られない。
これまでも似たようなことは何度もあった。
……この世界はそんな世界である。
「そういうことになるかなぁ……。こういうのって多分勇者とかが開けたりするんだろうね」
「なるほど~! そうかもね~」
宝物庫破りをしても問題なしと平然と言ってのけるアベルに、前世の記憶があるアリアには泥棒のようで未だ違和感が拭えないままだ。
だが、この世界の主人公であるアベルが手に入れる分には、まあいいかと無理やり納得することにした。
……アリアは思う。
いつかアベルが【さいごのかぎ】でも手に入れて再びここへやって来るはずだと……。
けれど――。
「……開かないみたいだし、行こっか」
「ね、アベル。あの宝箱の中身、欲しい?」
開かない扉にアベルは宝箱を諦め、幻の名産品探しに戻ろうと扉から離れるが、アリアはその場に留まり呼び止めていた。
「え……、そりゃ欲しいけど、でも扉にはカギが掛かってて……」
「アバカム!」
……【アバカム】――この世界には存在しない開錠呪文である。
アリアが扉に向けて開錠呪文を放つと、開かなかった扉のカギがカチャリと静かに音を立てた。
「あっ……! その呪文……!」
――懐かしいな!
昔も聞いたアリアの扉を開く呪文に、アベルの瞳は明るくなる。
「おぉ~! ホントに開いた!? 私すごくない?」
「うんっ、すごいすごい!」
半信半疑だったのだろう、アリアは両手を合わせて信じられないものでも見たかのように目を丸くした。
アベルはそんな彼女の頭を撫でて目を細める。
「うふふっ、開いちゃったね。……中へどうぞ?」
「……はぁ~……僕の奥さんはやっぱりすごいなぁ」
キィィ……と音を立てながら開いた扉の先、宝物庫へ入り、さっそく宝箱を開いていく。
三つの宝箱の内、二つの宝箱には【小さなメダル】がそれぞれ入っており、残りの一つには――金色に輝く【おうごんのティアラ】が入っていた。
「黄金のティアラ……。メダル王さまの城っぽいアイテムだね」
アベルの手の上で輝く【おうごんのティアラ】を覗き見たアリアは、メダル王は【金】が好きと決定付け、「キレイな細工だね」と感心する。
美しい細工を施された【おうごんのティアラ】には大きな青い宝石が煌めいていた。
以前アベルに貰った【ぎんのかみかざり】も中々の細工だったが、こちら【おうごんのティアラ】は曲線加工が多く、一目見ただけでその辺で手に入る代物ではないとわかるほどに美しい。
「これ……状態異常が効きにくくなる防具みたいだ」
アベルは【
「アリア、装備したらどうかな?」
「え? あ、私に?」
「もちろん。これが似合うのはアリアしかいないよ、ほら」
アベルはアリアの返事を待たず、彼女の頭に【おうごんのティアラ】をのせる。
「……あ、意外と軽い……。ティアラなんて着けるの初めて……」
アリアが目線を頭上に動かし、のせられた【おうごんのティアラ】を見ようとするが、よく見えなかった。
「綺麗だよ」
「っ……、も、もぉっ……すぐそういうこと言うんだから……」
「フフフ、照れてるアリア可愛い♡」
ド直球なアベルの褒め言葉にアリアの頬が真っ赤に染まる。
アベルは恥ずかしがる妻の様子を優し気な眼差しで見つめた。
……さて、無事宝箱も手に入れたことだし、幻の名産品探しに戻ろうではないか。
「おかみさんからいただいたアレなら、頑丈なのでとりあえず盾に加工してみたんですが……。いやはや、重くて装備できるようなシロモノではないですな。置いておいてもジャマになるので、外に捨てちゃいました。あはは……」
城の一階へと戻って来たアベルはゴールド銀行の受付男性に幻の名産品かもしれない
男性の話では、なんと。
「えぇ……? 捨てたんですか?」
「たぶんまだ外に転がってると思いますよ」
受付男性の話を受けて、回り道が多いのは常だ、アベルは今度こそと城の外へ向かった。
◇
……先ほど城の周りを一周したが、特に変わったものは見当たらなかった。物陰など細かくは見ていなかったため、二周目は注意しながら見て行くことにする。
「ね、アベル。ゴールド銀行の人が言ってたことだけど……、頑丈で盾に加工したけど、重くて装備できなかったってことはさ……」
「大きいものなんだろうね」
「だよね。さっきそんな大きなものなんてあったっけ……?」
「うーん……、さっきは探しているものが
「それもそっか」
一周目と違い、二周目は西周りで調べることにし、アベルたちは島に生えた【ヤシの木】の後ろや、空になった宝箱の底、城の陰辺りを注意深く見ながら進む。
城の奥にあった荷置き場の中なんかも調べていくが、それらしきものはない。
「ないなぁ……」
アベルが荷置き場で一つ一つ荷を確認している……と。
「ね、アベル。あれ……」
「ん……? あ。あったね」
アリアにマントを引っ張られ、アベルは彼女の指差す方向へと目を転じた。
……そこには巨大な【金】のメダルが落ちている。
「……あはっ♡ な~んだ、一連の会話はフラグだったんだねっ」
「フラグとは……?」
笑顔で話すアリアにアベルもとりあえず笑顔で返す。
……妻の話は難しい。
だがアベルは落ちている巨大なメダルが、城の人たちが言っていた
アリアに11年前の記憶はないが、アバカムは憶えております。
久しぶりに使ったね。
この地下の扉、本来ならさいごのカギを手に入れた後にしか開けられないんだけど。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!