メダル交換は慎重に。
では本編どぞ。
“なんと、巨大なメダルが落ちている!”
「キュ~~~~~~っ。だ……だ……だれか……助けて……!」
“下の方からなにやら声が聞こえる。助けてあげますか?”
巨大なメダルに触れようとしたアベルの頭に、突として“天の声”が響く。
「…………、はい」
あぁ、やっぱり経験したことがあるのか……なんて、アベルは既知感に襲われ頭に響く声に返事をした。
「アベル? なにが“はい”なの?」
「……アハハ……、助けてあげないとね」
“天の声”はアリアには聞こえない。
……アベルは大きなメダルを除けてやった。
大きなメダルの下で一周目で出会ったピンク色の【スライム】が潰れていたが、メダルを横に除けてやると徐々に元の姿に戻っていく。
「あ~苦しかった。助けてくれてありがとう! ボク、アレでからだを鍛えようとしたんだけど、うっかり下敷きになっちゃって」
ピンク色の【スライム】が大きなメダルを横目でちらり。
どう鍛えようとしたのかは知らないが、【スライム】の身体には下敷きになっていたせいで、大きなメダルの模様が一部刻まれていた。
「ここにおいておくと危ないから持っていってよ! さあ、ほらほら!」
ピンク色の【スライム】は、器用にアベルの方へと大きなメダルを引いて押し付ける。
“スライムは大きなメダルを強引にアベルに押し付けた!”
“アベルは大きなメダルを手に入れた!”
「……えぇー……ま、まあいいか……、って重っ!」
“天の声”のアナウンスにより、アベルの手元に【大きなメダル】がやってきた。
ずっしりと重いそれは【小さなメダル】とデザインが似ている。
「よかった! これで心おきなくからだを鍛えられるよ!」
アベルが【大きなメダル】を【ふくろ】にしまうと、ピンク色の【スライム】は ほっとしたような顔を見せ、軽やかに飛び跳ねながら去って行った。
「……あのスライム、メダルの痕がついてたけど……戻るよね……?」
「たぶん……。さて、と……じゃあ、大きなメダルをもらってっていいかメダル王に聞きに行こう」
「うん」
……【大きなメダル】を手にしたアベルたちはメダル王にもう一度会いに行くことにした。
◇
「メダル王、これ……(重……)」
メダル王の元へ再びやってくると、アベルは一度【ふくろ】に仕舞った【大きなメダル】を持ち上げながら、メダル王に話し掛ける。
【大きなメダル】を持ち上げるアベルの腕には筋が張っているのが見えた。その腕が気持ち震えているような……。
「重そう……」などとアリアが隣で心配そうに見ていた。
「おお、大きなメダルを持ってきたか……。はるか昔、手に入れたものじゃが、この小さなメダルの美しさに比べたら……。それはそなたたちにあげよう。どこへなりと持ってゆくがよい」
「っっ……ありがとうございます! あっ」
「わっ! アベル危ないっ!」
メダル王が無駄にゆっくり語るものだから、アベルの腕は限界を迎え、【大きなメダル】を一瞬落としそうになってしまう。
慌てたアリアはそれを支えた。
「っ、セーフ……ありがとうアリア」
「落とさなくて良かった……金の絨毯を傷付けるところだったよ……。私たちじゃ弁償できないから気を付けて」
「そ、そうだね……」
――もう仕舞っていいよね……!
なんて重さだ……! アベルはさっさと【ふくろ】に【大きなメダル】を仕舞う。
そんなアベルの様子を見ていたメダル王の顔は晴れ晴れとしていた。
「あ~すっきりしたわい!」
「すっきり?」
「いやいや……。ほほう、メダルを持ってきたな。よし! わしが預かろう! アベルからは現在21枚のメダルを預かっておるが、望みの褒美はあるかね?
どれが欲しいのじゃ?」
アベルが首を傾げれば、メダル王がすぐさま愛想笑いを浮かべて、通常業務へと話題を変える。
メダル王はアベルにアイテムの交換枚数が書かれたリストを差し出した。
そのリストにはアイテムの性能(攻撃力、並びに誰が装備できるか等々)やイラストも描かれている。
……メダル王の言葉を聞いた途端、アベルの持つ【小さなメダル】が不思議なことに、【ふくろ】から勝手に外へと出て行き、王の手元へと飛んでいった。
どこの誰がどれくらいの枚数を持って来たのか……彼は把握をしているらしい。
アリアは飛んでいくメダルたちをぼぅっと見送った。
「あ……じゃあ……このふしぎ――」
交換品リストを見下ろしたアベルは、現在の枚数で交換できる、たまに敵から受けた呪文の魔力を吸収する効果のある【ふしぎなボレロ】を見つけ、ちらと、アリアに目配せをして【ふしぎなボレロ】を……と言おうとしたが――。
「待ってアベル!」
「むぐ!?(アリア!?)」
アリアの手がアベルの口を塞ぎ、言葉を遮った。
「……今はまだいいです。また貯まったら交換に来ます……!」
「ほう、そうか。うむうむ、それも良いじゃろう。またいつでも来るがよい!」
「ありがとうございましたっ!」
アベルの代わりにアリアは断りを入れる。彼女はメダル王に頭を下げてからアベルの手を引き、さっさとその場を後にした。
……玉座の間から出るとアベルは立ち止まり、アリアに声を掛ける。
「ア、アリア? 不思議なボレロは君が装備できるものなのに、よかったのかい?」
「アベル」
「ん?」
「私、当分馬車なんだよね?」
「え? あ、うん……その方が安全だからね……」
――アリアの体力がもう少し付けば、たまには一緒に歩いてもらってもいいけど……。
アリアはなぜ今、そんなことを訊くのだろう。
彼女の質問にアベルは不満なんだろうなとは思いつつも、方針は曲げられないのでそのまま伝えた。
アベルの返答にアリアが気を悪くしてまた悲しそうにするかと思いきや、そうではないらしい。
「……あの。私、馬車にいるなら防具は不要だと思うの。23枚で交換できる奇跡の剣を狙った方がいいと思うよ……? あと2枚だし」
アリアの話はアベルの予想とは違い、“自分の防具は要らない”というものだった。
「え、だって、僕はなんでも君を最優先にしたいと思ってるんだけど?」
――君の喜ぶ顔が見たいのに……!
【きせきのつるぎ】は相手に与えたダメージの一部が自分の
正直なところ惹かれないわけではないが、アベルは何よりも妻が最優先だ。
妻が装備できる【ふしぎなボレロ】があるならそれでいいではないか……、なんて結論付けたものの、その妻であるアリアは不要とバッサリ。
「いや、あの……私を優先してくれるのはうれしいよ? でも、戦闘に出ない私に高価な防具は要らないと思わない? それよりも武器の性能が上がった方が旅が楽になると思うの。だから今は貯めておこうよ」
「アリア……、なんで君はいつも……」
アリアの話にアベルは受け取り拒否と捉えて、眉を寄せる。
――なぜ彼女はいつも素直に受け取ってくれないのだろう。
――素直に喜んでくれればそれでいいのに。
気付けばアベルの唇はへの字口で剥れていた。
「あっ、えっと、アベルに文句を付けたいわけじゃないの。でも、たまにしか魔力を吸収してくれない服でしょ? しかも、私もたまにしか戦闘に出ないのよね? 私は魔力自体多いし、そう枯渇することもないじゃない?」
「そうだけど僕は君に……!」
――なんで喜んでくれないんだよぉ……!
ただ彼女の喜んだ笑顔を見たかっただけだというのに、アリアは必要ないと一蹴する。
すべては愛する妻のために――。良かれと思って交換しようとしただけだというのに、何が気に入らないのかわからないアベルの胸はずきずきと痛んだ。
優しい旦那さまは愛妻に貢いでしまいがち。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!