あのツボの中には……。
では、本編どぞ~。
「き、奇跡の剣って格好良いよね~♡」
……アリアは突然優しくはにかみ、【きせきのつるぎ】を推す。
「なに……? 奇跡の剣が欲しいってこと?」
――アリア装備できないよね……?
アベルは訝し気に彼女に訊ねる。
察しの悪いアベルでもアリアのことなら多少はわかる。急に笑顔を見せるなんて、まるで自分の気持ちを察して取り繕っているようではないか。
「うんっ! あと2枚で交換できるならそれがいいなぁ♡ 奇跡の剣を装備してる格好良いアベルが見たーい♡」
アリアはアベルの腕に抱きつき、おねだりでもするかのように上目遣いで見上げた。
「え? 奇跡の剣を装備した僕を見たいの……?」
――アリア、これ僕に気を遣ってるよね……?
アリアが自分の腕に抱きつきおねだりする辺り、どうにも怪しい。
……アベルは無表情で彼女を見下ろした。
だがアリアは諦めず、今度は満面の笑みをお見舞いしてくる。
「うんっ! だめ?」
「……だ、ダメじゃないけど……。そっか、アリアは自分が装備するものより、僕が装備した姿を見たいんだね?」
――くっ、アリアの笑顔が眩しい……。
このままでは、彼女の思い通りになってしまうではないか。
アベルはほぼほぼアリアの希望する方向へと靡いていたが、念のために確認を取った。
「そうなのっ!」
「……わかった。アリアに贈れないのはちょっと残念だけど、君が喜んでくれるならそうする……」
――ああ……僕はアリアに逆らえない……!
アベルの確認はあっさり肯定され、アリアが喜ぶのならば断る理由が無い。少々不服ながらもアベルは彼女の言う通りにすることにした。
「ウフフ♡ アベルありがとっ!」
……アリアは弾けるような笑みでアベルを見上げている。
妻に貢ぎたいアベルの想いは昇華されなかったが、すべては彼女の笑顔に帰結する。
アリアのこの笑顔をずっと守れまように――。
アベルは、自分の思った通りには行かないが、いつも幸福感で満たしてくれる彼女に釣られて微笑んだ。
◇
……さて、メダル王の城から出て、名産博物館に戻ろうではないか。
「ここにはタルもツボも、タンスもなかったなぁ」
城の扉を出て、アベルは辺りを見回す。
メダル王の城のある浮き島には、アベルがつい投げたくなるツボもタルも見当たらない。
城内も同じく、タンスや本棚すらもなかった。
城と言えばツボもタルもあってしかるべきなのにも関わらず、ここ、メダル王の城には存在していない……と、アベルはそろそろツボやタルを投げたい。
「そういえばそうだね」
「……やっぱり、あのほこらのツボを割るべきだったかな……、禁断症状が……こうなったらあのヤシの実を落して……はぁ」
――そうだよ、せっかくあんな珍しいツボがあったんだ、中身も気になるしぶん投げてみてもよかったよね……。
アリアが笑顔で同意する中、アベルはルドマンに頼まれ訪れたほこらにあったネコ型の大きなツボを思い出し、【ヤシの木】に生る実を見上げため息を吐いた。
……ヤシの実は高くて取れそうにない。
「あのほこらって……ネコ型の大きなツボのこと……?」
「ああ、怪しいツボだったよね? 壊したら何が入っていたかわかったのにさ」
「ちょっ……ナニソレ、ツボ割りたい症候群!?」
「アハハ……、やっぱツボを見たら割りたくなるっていうか……」
アリアがツッコむとアベルは頭の後ろを掻き掻き、照れ笑いを浮かべる。
「うふふっ。もぉ、アベルってば重症ね。けど、あのツボ頑丈そうだったから割れなかったと思うよ?」
「確かに……重そうだったもんな……」
――そうなんだよね……、僕独りで転がせるような大きさじゃなかったし……。
ほこらのツボを思い出し告げるアリアに、あのほこらの記憶がまったく降りて来ないアベルはネコ型のツボが気にはなったが、アリアの声を一刻も早く取り戻したいがため深く詮索しなかった。
それに、あのツボは普通のツボとは形が違う。壊した場合に再生されないかもしれないという懸念と、所有者のはっきりしたツボ――義父ルドマンのものだったから悪いかと思い、アベルは遠慮したのだ。
……ツボを思い出したアベルの顔は残念そうだ……。
「フフッ! そんなに残念だったの?」
「……うん……、いつかまた行く機会があったら中を覗いてみたいもんだよ」
――そういや、蓋が付いていたっけ……、なにが入ってたんだ……?
アベルはいつか機会があれば中身を見たいと思う。
……折に触れてお願いすれば、ルドマンならばきっと見せてくれるはずだ。
魔法陣で守られた地下空間に安置された怪しげなツボは、青く光って綺麗だった。ツボに伸ばした手をアリアに止められ、アベルはツボに触れることはしていない。
代々ルドマン家に伝わる大事なツボなのだろう。
……巨大ゆえに窃盗を免れた古代の宝なのでは――?
青く光るツボに近付いた時、なんとなくツボからひんやりとした感覚を覚えた気がするが、盗賊たちも重くて持ち運ぶことができなかった代物と仮定すれば納得がいく。
光るツボの用途はわからないが、中にはひょっとすると珍しいアイテムが入っており、光の色が変わると蓋が開く仕組みになっていて、ルドマンはそれを心待ちにしている……のかもしれない。
「中を覗く……? ね、アベル」
「ん……?」
「あのツボの中には誰かが封印されてるみたいだよ?」
「え、誰かって……アリアわかるのかい!?」
アリアの話にアベルは目を丸くする。
そういえばアリアは他者の魔力なんかを感知できるんだっけ……と、アベルは彼女に詳細を訊ねた。
だが――
「んー……、はっきりと誰なのかはわからないけど、ツボから大きな魔力を感じたよ。起こして欲しかったみたいだけど、起きる気配はなかったなぁ……当分の間起きないと思う」
アリア曰く、ツボの中にいるのが誰とまではわからないらしい。
……ただツボの中で誰かが眠っているというのは間違いなさそうだ。
「そっか……大きな魔力ってことは……古代の魔法使いとか……? あ、ルドマンさんのご先祖とか……?」
「うーん……わかんないけど、古代人だったらびっくりだよね! 今度サラボナに行ったらお父さまに聞いてみるね」
「うん。目覚めたら仲間になってくれると頼もしいね」
――古代人が、ツボに……? そんな記憶はないんだけど……。
でも――。
ツボの中にいるのが誰か……の記憶など、今のアベルにはない。
けれど、アリアの言うことは全肯定してしまうアベルは“なるほど!”と彼女の話をそのまま素直に受け入れることにした。
……さあ、そろそろ【ルーラ】で名産博物館に戻ろう。
アベルが目を閉じ、名産博物館のイメージを膨らませる。
そうしていると、アベルの腕にアリアの手が触れた。
【ルーラ】は一時中断だ。
「……ね、アベル」
「うん?」
「……またいつかあのほこらに行くことがあったら、憶えていたらでいいんだけど、ツボに伝えて欲しいことがあるの」
「え? ツボに?」
――ツボに伝える……? なにを……?
なんのことだろうか。
アリアは真剣な顔でアベルを見上げている。
いつも一緒なのだから、ツボの中の存在がわかるアリアが伝えればいいような気がするが、そうではないらしい。
「ほら、私が妊娠したら一緒に行けない時期もあるでしょ? そのときのために……」
アリアの言い分は、自分が妊娠し、身動きが取れない時期にほこらに行くことになったらという仮定の話のようだ。
「妊娠……あ、うん♡ なんて伝えればいい?」
――妊娠って……僕たちの赤ちゃんがお腹にってことだよね……! なるほど、もうすぐかもしれないもんね……!
そう、アベルは早くアリアに家族を作ってやりたくて日々、営みに励んでいる。
いつできても彼女が安全に過ごせるよう、最大限の注意を払っているのだ。
妊娠した女性に旅をさせるのは危険だ。
もしその時、ルドマンにほこらの様子を見て来るよう頼まれたら、身重のアリアは留守番した方がいいだろう。
……アベルは“さすがアリア、ちゃんと先を見越してる!”と感心した。
アベルがアリアの言葉を憶えているかどうかで未来が変わる……かも?
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!