前回のプチあらすじ>寝て起きても夜のままという異常事態にも関わらず、アベルは余裕の様子で……。
昼にしたいなら唱えればいいのよ。
では、本編どぞ。
なぜアベルはこんなに落ち着いているのだろう……。
夜に眠って起きても夜だというのに、アベルに慌てている様子は無い。
アリアはアベルの態度に“さすが私のだんなさま、いつでも冷静で素敵ね……”などとちょっと上目遣いで見惚れつつ、訊ねた。
「……アリアはあの幽霊が身体から抜け出る前に言っていたことを憶えているかい?」
「身体から抜け出る前……? あ、魔王に快適な世界をとか……言ってたような……」
アリアの長い髪を一房手にして、アベルは優しい瞳で問い掛ける。
白金のシルクのような妻の髪は夜間照明の中でも光り輝き美しい。
……いつでもこうして触れられるというのは夫の特権だなとつくづく思う。
「そう、それっ! さっすがアリア! よく憶えていたね。偉い偉い♡ 君はすごいなぁ……♡」
アベルの目は細くなり、アリアの頭を優しく撫でた。
一日一度は必ず妻を褒めること……、夫であるアベルは日課にしようと思っている。
毎日褒めて彼女をいい気分にさせ、いつも笑顔で過ごしてもらいたい。
そして、その笑顔に自分も癒されたい。
物質的な貢物だけに留まらず、口先だけでできることならいくらでもすると決めている。
もちろん、無理やりではない。
素直にそう思っているからこそできることだ。
……それを少しオーバーにしているだけである。
「ん? そ、そうかな……(アベルって褒め上手よね……)」
アベルのオーバーリアクションにアリアは照れて頬を染めた。
……効果は抜群だ。
「……僕はその言葉が気になっていてね。考えてみたんだ。昨日の夜は考えがまとまらなかったんだけど、今朝――、あー……夜だけど、起きて改めて思い返したらこのことを言っていたんじゃないかって」
「このこと……?」
「ああ。闇のランプを壊して、中の煙をすべて空に還してしまっただろう? 物理的にだけど、闇のランプで世界は闇に染まってしまったんだよ」
「ぁっ……」
そういうこと……? と、アベルの説明にアリアはハッとする。
つまり、夜眠って起きても夜のままということは、【やみのランプ】のせいで、朝が訪れていない状態らしいのだ。
「闇のランプについてゆうじいさんに訊いたら、名産品ではないけど珍しい品物で、夜の闇を凝縮したものが燃料として入っているらしい。その製法は謎だけど、ランプに入った燃料が燃えることなく外に漏れたりすると、数年は夜のままだとかいう逸話があるみたいだよ」
アベルはゆうじいから先ほど聞いた話をアリアに話した。
「数年は夜のままって……」
「燃料の効果が切れるまではってことなんだと思う」
「そんな……じゃあ、朝が来ないの……?」
そんな逸話聞いたことないんだけど……と、アリアはアベルの話に眉を寄せる。
朝が来ない……。
別のタイトルでも出てきた【やみのランプ】がそれほど強力なアイテムだと思ったことはなかった。
だが、【やみのランプ】を使用すると、強制的に夜へと変えてしまうことはアリアも知っている。
ゲームプレイ中に便利だからと何度か使ったことだってある。
最近ではアベルが早く休みたくて使っていたっけ……と、アリアは思い出す。
『アリア、今日はここまでにしてそろそろ寝よう。明日、早くから移動すれば目的地に昼間辿り着けるよ』
『……(え? まだお昼過ぎだよ? こんな明るいのに眠れるわけ……)』
【さえずりのみつ】を探し、森の中で地図を見ていたアベルが今日はここまでと足を止め、キャビンのアリアを見上げていた。
もう少し進んだ後でキャンプをすればいいんじゃ……?
アリアは身振り手振りで伝えつつ、まだ明るい空を指差したが、アベルはにこにこと手を伸ばし、彼女を馬車から降ろしてしまう。
『大丈夫! 夜にするからぐっすり眠れるよ!』
『……!?(ええっ!?)』
アリアを地面に下したアベルは【やみのランプ】を取り出し、火を点ける。
ランプの灯はたちまち暗闇を呼び、昼の陽気を侵食して青い空を夜の闇へと変えた。
その後すぐに夫婦の時間になってしまったわけで……。
“こんな使い方、おかしくない……?”
アリアは【やみのランプ】に関して疑問を持っていた。
……よくよく考えると突然夜にされたら、一般の人々に迷惑なんじゃなかろうか……。
皆、アベルのせいだとは思っていないから指摘を受けることは無いが、アベルの気分次第で強制的に夜にされたと知ったら怒るだろう。
各々予定もあっただろうに……。
アベルが【やみのランプ】を使う度、申し訳ない気持ちになってしまうが、主人公さまには逆らえないのがバグキャラの辛いところである。
一応、やんわりと使う時はなるべく夕方にしてね……なんて伝えたら、アベルは了承して、真昼間に使うことを止めてくれたのが幸いだ。
……その【やみのランプ】が壊れ、中身が溢れ出てしまって朝が来ない……。
こんなことが起こるなんて誰が想像しただろう。アリアは憂慮に瞳を揺らし、アベルを見上げた。
「大丈夫だよ!」
……アリアの意に反して、アベルの顔は明るい。
「え?」
「朝はアリアが呼んでくれる」
アベルはアリアの頬に両手を添え額を合わせると、顔を覗き込み微笑む。
「わ、私が? なんで?(アベル顔が近いよ……!?)」
「アリア、もしかして昼夜逆転呪文を使えたりしない?」
不意に間近で見つめられたアリアの頬は赤く染まり、上目遣いで見返されアベルの頬もぽっと色付いた。
――遠目で見ても、間近で見ても可愛いとか……、ああ食べてしまいたい……ちゅーくらいしてもいいよね……。
昨晩は自重したからか、少々スキンシップが足りないアベルは少しでも妻に触れていたい。
この場にいるのは仲魔たちと、ゆうじいのみ。
ゆうじいは幽霊だから人にあらず……、アリアは人前では恥ずかしがるが、人前でなければ問題ないはず――と、アベルはそのまま唇を近付けていく。
ところがアベルの唇が触れるか触れないかの一瞬、アリアの手がサッと現れそれを阻んでいた。
「ブッ!?(痛っ!)」
べちんっ! という肌を打ち付ける音が弾けたと思うと、アベルは頬を擦る。
瞬間、目がチカチカした。
「ごめっ! あっ……そういうこと!? うん、たぶん使えると思う!(みんなの前でなんてさせないよっ……!?)」
アリアの顔が耳まで真っ赤だが、本題を忘れず彼女は続ける。
二人きりの時ならいくらでも構わないが、仲魔たちの前でもそれなりに恥ずかしいのに、人前でいちゃいちゃなど恥ずかし過ぎて無理無理無理のカタツムリ。
さっさと本題に入って問題解決を図らなければ。
……アリアの認識的に、ゆうじいは人間のままのようだ。
「ぐっ……、みんなの前だとホント君って恥ずかしがりなんだから……、ちょっとくらいいいじゃないか……」
「っ、昼夜逆転呪文ならまかせて!」
「…………そっか、よかった! じゃあ早速唱えてもらってもいいかい?」
――ちゅーは後にするか……。
……頬が少々じんじんするが、仕方ない。
無理やり人前でキスを迫られ嫌だったのだろう。
こういうこともたまにはあるさ――と、アベルは残念な気持ちながらも、一生懸命問題に取り組もうとするアリアに笑顔で応える。
「ん、わかった。やってみるね。そっかぁ、それでアベル余裕そうな顔してたのね。さすがはアベルね!」
「ハハッ。まあね」
「じゃあ……」
“【ラナルータ】!!”
アリアは両手を合わせ、魔力を集中させると【
……のだったが……。
“しかし 不思議な力によって かき消された!”
……アベルの脳内に突然、天の声が響いた。
ロビーから見える窓の外は暗いままで、変化は見られない。
失敗したのだろうか……。
「……え、うそ?」
アベルからぽろっと小さな声が零れ落ちる。
「……あれ……? なんにも起きてないね……、ひょっとして掻き消されちゃった……?」
間違いなく【
“【ラナルータ】!!”
“しかし 不思議な力によって かき消された!”
「うわぁ……」
頭の中で響く天の声に、アベルの顔が次第に青褪めていく……。
その後、アリアがもう一度試してみたが、結果は変わらなかった。
アベルの余裕はただの願望でした、とさ。
やみのランプの逸話は当方の捏造でございますよ。
だったらいいな~☆ おもしろいな~☆の精神です。
ドラクエはアイテムも愛おしい。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!