ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回のプチあらすじ>アリアの唱えた【ラナルータ】は効果を得られませんでした。

ずっと暗いと困るのよ。

では、本編どぞ。



第七百五話 暗闇の恐怖

 

 ……そんな折、ゆうじいがやって来て口を開く。

 

 

「……ラナルータは効かんのかも知れんなぁ……」

 

「え?」

 

「闇のランプのチカラの方が強いんじゃろ……。たぶん効果が切れるまでは夜のままじゃわい」

 

「そんな……」

 

 

 白い髭を掻き掻き見解を述べるゆうじいに、アベルは衝撃を受けたように目を丸くした。

 

 

「どうしよう……」

 

 

 ……アリアもどうしていいのかわからない様子で不安そうにしている。

 

 

「……たぶんなんですよね?」

 

 

 ――たぶんなら、まだどうにかなるかもしれない。

 

 

 アベルは【やみのランプ】について、自分よりも詳しく知っているゆうじいに確認を取る。

 確定ではないなら、どうにかできる可能性だってあるではないか……。

 

 

「たぶん……じゃな。闇のランプを破壊した者など見たことないからのう」

 

 

 ……ゆうじいに確認を取ったものの、はっきりしない。

 

 そもそも【やみのランプ】自体が珍しいアイテム。

 一生に一度、お目に掛れればラッキーともいえる代物だ。

 

 伝説のアイテム……と言っても過言ではないだろう。

 それを破壊するだなんて、とんでもないことである。

 

 前代未聞ゆえに、もし壊れたらどうなるかなんて誰にもわからない……というのがゆうじいの答えだ。

 

 

「そりゃそうか……」

 

「アベル……」

 

「……っ、しばらく様子を見ましょう。それから対策を考えてみます」

 

 

 アベルがアリアに目配せすると、彼女は不安そうな顔をしている。

 思ったよりも深刻な問題だと認識を改め、アベルは笑えない状況だったが、アリアに僅かにはにかんでからゆうじいに告げた。

 

 

「そうじゃな、朝が来んと博物館をオープンしてもお客が来れんじゃろうて」

 

「そうですね……」

 

 

 ゆうじいとしても【展示台】が直ったところで、朝が来ないと名産博物館をオープンできない。

 オープンしたとしても暗闇の中では魔物が多く、海を渡り、森の中にある博物館に来るのは命懸けである。

 命を懸けてまで名産品を見にわざわざやって来る客はいないだろう。

 

 

 ――【おやぶんゴースト】が何か知っていないかな……、聞きに行ってみるか……。

 

 

 アベルはもしかしたら【おやぶんゴースト】が何か知っているかもしれないと、彼に話を訊きに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……【おやぶんゴースト】は二階のバルコニーにいると言っていたため、アベルは仲間たちとともに彼を訪ねた。

 

 

「なに? 昼夜逆転呪文を唱えたけど効かなかったって?」

 

「ああ……、呪文よりも闇のランプのチカラの方が強いらしい。もしかしたら明日か明後日には効果が薄れているかもしれないし、しばらく様子を見ることにした」

 

 

 アベルの希望的観測でしかがないが、【やみのランプ】の効果は二、三日で切れるかもしれない。

 そう伝えたのだが、【おやぶんゴースト】は深刻な顔で腕組みを始めた。

 

 

「そうか……しかし困ったな……」

 

「困る……?」

 

「……あんたの言う通り、二、三日後に夜が明けりゃいいが、このまま朝が訪れないとなると畑が……」

 

「畑?」

 

 

 ――そういえば、畑を耕しているとか言っていたっけ……。

 

 

 アベルは【おやぶんゴースト】の細腕を眺める。アリアと修道院の畑でした野菜の収穫が楽しかったことを思い出した。

 

 それにしても困る……とはどういうことなのだろうか。

 

 

 ……その答えはすぐに判明する。

 

 

「おう、日光がなきゃ作物は育たないんだぜ? 夜のまま闇の中でずっと過ごすってことは、食べるものがその内なくなるってことだ。食べるものがなくなれば、魔物も人間も飢えるだろ? 飢えた魔物は人間を襲うぞ。町にも玉砕覚悟でやって来る。町を守る人間も自然と減っていくだろうし、そうすれば魔物の好む世界の出来上がりってこった。いずれ魔界からやってくる魔王さまもさぞお喜びになることだろうな」

 

「っ……! そういうことか……!」

 

 

 【おやぶんゴースト】の話に悪霊の言っていた言葉のすべてをようやく理解し、アベルは眉を顰めた。

 

 

 ――ずっと引っ掛かってたんだ……!

 

 

 “これで魔王さまに快適な世界をご案内できる”……あの悪霊が吐き、アベルが理解できずに後回しにした言葉――。

 あの悪霊は【やみのランプ】を破壊するだけで、物理的に闇の世界を作り出してしまったのだ。

 

 魔王のため世界を闇に染めるのに、なにも大きなことを成し遂げる必要はない。

 ただ、夜を続ければいい……、と。

 

 悪霊は消されてしまったが、闇は残ってしまった。

 倒すべき敵はもういない。

 

 たとえ魔界にいるであろう魔王を倒しても、夜が明けなければ、気温は下がり続け、人間も魔物もただ静かに死を待つだけである。

 

 

「アベル……」

 

「僕が油断さえしなければ……」

 

 

 絶望的な未来を想像し、アベルは唇を噛む。

 自らの一瞬の油断によって袋を裂かれ、【やみのランプ】を盗まれるという初めての経験が、まさかの世界を脅威に陥れる行為になるとは……。

 

 事態は思っていたよりもずっと深刻だった。

 しかも、すでに起こってしまった事後である。

 

 別世界の前例が無いこの事象――どう対処すればいいのだろう。

 自ら解決することなど可能なのだろうか。

 

 

 ……アベルの握った拳が小刻みに震えた。

 

 

「アベルのせいじゃないよ、あの悪霊のせいじゃない!」

 

「アリア……けど、世界が闇に呑まれたんだよ……? 本当に呑まれてしまっているんだよ……?」

 

 

 アリアが服を引っ張り慰めてくれるが、アベルは眉を顰める。

 ……初めての事態に頭がくらくらして、声が震えた。

 

 

「大丈夫だよ、きっとなんとかなるよ」

 

「なんとかって……こんなこと初めてなんだから対処法なんて僕にはわからないよ……!」

 

 

 アリアの声は優しく、アベルの頬に白い手が伸びる。

 つい怒鳴ってしまったアベルは、頬に伸びたアリアの手を握りしめた。

 

 ……彼女の指先が冷えて冷たい。

 

 

「アベル……。アベルのせいじゃないんだから、そんなに気負わないで……?」

 

「……アリアはなんでそんな平気でいられるんだ? 僕は、僕のせいで世界を闇に変えてしまったことがこんなに心苦しいのに……」

 

 

 優しい笑みで告げるアリアにアベルは苛立ち、握った手に力を込める。

 アリアの顔が刹那痛みに引き攣ったが、彼女はにこにこと優しく微笑んでいた。

 

 ……だが、少し不安そうな顔をしているような気がする。

 

 

「アベル……、大丈夫だよ……?」

 

「なにが大丈夫? なんでそんなことが言えるんだ? 僕が主人公だからって? 君っていっつも楽観的だよね!? こっちは真剣に考えているのに、いつもヘラヘラ笑ってさっ!」

 

 

 アベルは焦燥感に駆られ、気付けばいつもなら言わない余計な言葉を、アリアを責めるように語気を強めて並び立てていた。

 

 

 ――こんな事態は想定していない。

 

 

 別世界で経験していないことに出会うのは楽しいものに限る。

 こんな簡単に……、気が付いたら世界が闇に染まっていたなんて。

 

 しかも、自分の不注意で……。

 

 責任を取ろうにも、どう取ったらいいのかもわからない事態――、いったいどう受け止めればいいというのか。

 アリアはただ、自分を励ましてくれているだけで、恐らく本心から微笑んでいるんじゃない。見上げてくる瞳が揺れているから、不安がないわけではないのだろう。

 

 ……夫である自分のできることは、妻の不安を取り除くこと。

 

 

(これは僕が解決しなきゃいけない問題なんだ……。)

 

 

 こんな時、父が生きていたら、きっと力になってくれただろうに。

 けど、父には頼れない。

 

 ……自分で考え、自ら解決しなければならないのだ。

 

 もし、自分がアリアを選んでしまったせいでこんな事態になっているとしたら――、彼女がそのことに気付いてしまったら?

 ……アリアは自分自身を責めるんじゃないだろうか。

 

 気付かれたくない。

 気付いたら責任感の強い彼女のことだ、自分の元から去ってしまうかもしれない。

 独りで解決しようとするに違いない。

 

 まだ自分のせいである内に、アベルはどうにか事態を収拾したかった。

 ……そうは思うが、これは初めての経験だ。

 

 

 アベルが戸惑うのも無理はない……。

 

 

「ヘラヘラって……、っ」

 

 

 アベルの言葉にアリアの表情が陰る。

 彼女はふっと視線を落とし、アベルの手から逃れ俯いてしまった。

 

 

「あっ……アリアっ!」

 

 

 世界が闇に包まれたという事実に追い詰められてしまっていたのかも……、いや、そうではない――。

 自分で自分を追い込み彼女に当たってしまったことに気付き、アベルは慌ててアリアの手首を取る。

 

 

 ……だが彼女は拒むようにアベルの手を振り払っていた……。

 




アレフガルドの人々が逞し過ぎると改めて思いました。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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