ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回のプチあらすじ>アベルはアリアから手を振り払われてしまい……。

夫婦喧嘩……?

では、本編どぞー。



第七百六話 謝罪

 

「っ……アベル、今あなた冷静じゃないみたい。いつものあなたらしくない。少し頭冷やそう? クールダウンして、一緒に解決方法を探そうよ。アベルならきっと見つけられると思うの。でも今は私の声が届かないみたい、だから……っ」

 

 

 それだけ言って、アリアは階段に向かい走り出した。

 

 

「あっ、アリア……!? どこへ……!?」

 

「……私、馬車にいるね。今あなたといるのちょっとイヤ」

 

 

 怒らせてしまったのだろうか。

 アベルがアリアの背に問い掛けると彼女は立ち止まり、馬車にいると言い残してゆっくりと階段を上って行く。

 

 ……プックルが後ろについて行った。

 

 三階フロアの扉を開ける音は静かで、彼女が怒っているのかどうかまではわからない。

 ただ階段を上がる際、アリアは目を擦っていたようだ。目を擦った手の甲が月明かりに光った気がする。

 

 

 アベルは彼女を見送っていたが、それに気付かなかった。

 

 

「イヤって……っ」

 

 

 アリアに拒絶されたアベルは目を閉じ、眉を複雑に顰める。

 

 

 ……アリアとアベルは殆ど喧嘩をしない。

 

 アベル自身、何度も人生を繰り返しており、精神的に成熟しているというのもあるが、アリアが言い争いを察知し事前に上手く収めてしまうからだろう。

 たとえ喧嘩になったとしても、上手くアベルを宥めて言い争いを回避しようとする彼女は平和主義者なのだ。

 

 だが、追い詰められるとアリアは逃げる。

 ……一度逃げてクールダウンし、感情にリセットをかけて話し合いに持っていく。

 

 その時間はアベルにも非常に有効であった。

 一時的な感情の爆発に惑わされ、不安をぶつけるだけでは解決策は見つからない。

 

 アベルは常に冷静を心掛けているが、それはアリアもなのである。

 

 今はアリアに当たっている時ではない。

 今は、解決策を探す時ではないか。

 

 

 ……アベルが凹んで彼女に当たっている間も世界は闇に覆われたまま、静かに滅びに向かっているのだから――。

 

 

「っ……!」

 

 

 “パンッ!!”

 

 

 アベルは両頬を叩き、気合を入れる。

 二人の様子を見守っていた【おやぶんゴースト】とバルコニーに残ったピエールがビクッと肩を震わせた。

 

 

 ――アリアごめん、僕は初めての経験に後ろ向きな考えばかりしていたみたいだ……。

 

 

 普段から戦いは欠かさず、こまめに身体を鍛えレベルアップをしているが、まだそんなに強いと呼べるほど強くなった実感が、アベルにはまだない。

 これまでの経験にはない、自らのせいで世界が闇に染まったというあまりにも重い事態は、生を繰り返しているとはいえ、まだ十八の青年には荷が重過ぎる。

 

 だからこそアベルは狼狽え、戸惑い、アリアに当たってしまった。

 

 ……ここに来るまでに、アリアと一緒に数々の難関を突破してきたというのにおかしな話だ。

 アリアはアベルを信じ、いつも優しい笑顔で励ましてくれたというのに。

 彼女の笑顔が本心からの笑顔だなんて、アベルには判断がつかないというのに。

 

 本当は彼女も不安だったのだとしたら、責めるようなことを言ってしまってどれだけ傷ついただろうか。

 

 

「あ、アベル殿……?」

 

「……アリアに謝ってくる」

 

「……はい。それがよろしいでしょう」

 

 

 フフフとピエールから笑みが零れ、アベルは駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……馬車に戻ったアベルは、キャビンの床に正座をする。

 

 

「ごめんなさい……、僕が悪かった……デス」

 

「……頭冷えた……?」

 

 

 向かい合うように正座するアリアはすっかりいつも通りの柔和な顔で、アベルに優しい眼差しを向けていた。

 

 ……怒ってはいないらしい。

 

 

「うん……反省した……。君に八つ当たりして……その……ごめん」

 

 

 アベルは緊張しつつ、素直に頭を垂れる。

 自分に落ち度がある時はさっさと謝るに限る。時間が経てば経つほど謝りにくくなるものだ。

 

 

「……アベルは責任感が強いから、事態を重く受け止めているのはわかってるよ」

 

「ぁ……うん。さっきの僕はちょっと冷静さを欠いていたみたいだ」

 

 

 膝に置いたアベルの片手を取り、アリアは手を繋ぐ。

 

 

 彼女の瞳は優しく、慈愛に満ちていて――こんな時、不思議と母性を感じてしまうアベルはアリアに母親を見ている気がして気恥ずかしさを覚えた。

 繋がれた手から伝わる滑らかな肌の感触に、アベルは面目ないとばかりに頭の後ろをぽりぽりと掻く。

 

 

 ……アリアが冷静な人で良かった。

 

 プツンと切れてしまうと突飛な行動を取る彼女だが、よっぽど追い詰められない限りはこうして話し合ってくれる。

 自らの至らなさに気付かされて恥ずかしくもあるが、傷付けあわずとも相手がただ受け止めてくれるだけで、こんなに素直になれるとは……。

 

 話し合いができるというのは夫婦間だけじゃなく、人間同士においても大事なことだとアベルは思う。

 話の通じない相手とはともに歩むことは難しいだろう。

 

 ましてアリアはアベルが人生を繰り返していることを知っている唯一の女性。

 彼女を逃せば自らの真の理解者はいなくなってしまう。

 

 ピエールも自らと同じ生を繰り返している存在だが、彼は男で魔物である。

 理解者……というよりは同類に近い。

 

 それに彼はアリアのように柔らかくないし、抱き心地もたいして良くはない。

 ……男同士だけではどうにも埋まらないものがあるのだ。

 

 アリアならばそれを埋めてくれる。

 アリアに包まれるとアベルはこの上なく安心できて幸福感で満たされるから、今もし彼女に冷たくされたとしても、追い縋ってしまいそうで怖い。

 

 

 ……アベルは繋がれた手を指を絡めて繋ぎ直した。

 

 

「なにかが起こった時は、俯瞰して見るくらいが丁度いいのよ」

 

「……俯瞰して見る……」

 

 

 アリアが穏やかな顔で言ってのける。

 

 俯瞰して見るというのは……、全体を見通すということなのだろう。

 なるほど確かに。

 

 普段心掛けていることで、いつもなら出来ていることだ。

 ……なぜ忘れていたのだろうか。

 

 あまりにも唐突で、あまりにも一瞬で世界が闇に覆われ、事態の深刻さに気付くのすらも遅れ、まるで突然切り立った崖の上に連れて行かれて逃げ道がない状態に追い込まれた感覚――。

 崖の下は針の山で落ちれば死があるのみ。

 

 ……助かる方法は今のところなにもない。

 切羽詰まるというのはこのことをいうのだろう。

 

 

 ――僕が重く受け止め過ぎている……?

 

 

 視野を狭く、目の前だけを見ていては良い解決方法は浮かばない。

 アリアの言う通り俯瞰して上から全体を見通せば、絶望的な切り立った崖から脱出する糸口を見つけられるかもしれない。

 

 

 崖に梯子は掛けられないだろうか……?

 

 

 ……アベルは一度視点を変えてみようと試みることにした。

 

 

「もう起きてしまったことなんだから、たとえ当事者であっても、一時的な感情に呑まれて冷静さを忘れちゃダメ。解決方法は絶対にあるんだから」

 

「解決方法……あるの?」

 

「……きっとあるよ。アベルが諦めない限り、見つかるよ」

 

 

 アリアはアベルを真っ直ぐに見据えて目を細める。

 

 

「…………アリア、それ保証できる?」

 

 

 ――君は不思議な人だね……、絶望的だっていうのにさ……。

 

 

 きっとアリアは何か策を思いついたのだろう。

 

 自分を信じて疑わないという彼女の瞳に、アベルはおずおずと訊ねた。

 だが、アリアの答えはアベルの想像を超えてくる。

 

 

「ん? 保証はできないけど?」

 

「え゛」

 

 

 なんと! アリアは無策らしい。

 とんだ肩透かしを食らい、アベルの緊張し強張っていた肩から力が抜けた。

 

 

「ふふふっ♡ でも、アベルならきっと大丈夫! 私も一緒に探すからさっ♡ 落ち込まないで?」

 

「っ……む、無責任だなぁ……、けど……はは……ハハハッ……!」

 

 

 アリアの弾けるような笑みにアベルは釣られ苦笑いするも、何だか本当に可笑しくなってくるから不思議だ。

 

 

 ――君がそう言うなら大丈夫だって思えて来るよ……。

 

 

 アベルの目には涙が薄っすら滲んでいた。

 

 

「もし闇の世界のままになってしまったとしても、アベルのせいだなんて思わないから安心してね」

 

 

 ぎゅっぎゅっと、アリアが手を強く握ってくる。

 

 

「安心できないよ……、僕のせいなのに……」

 

「そっかぁ……、じゃあその時は私も半分背負ってあげる」

 

「え……?」

 

「闇の世界の半分は私がもらい受けるわ! そう、ドラクエⅠの勇者のようにね……! 誰かがアベルが悪いって言ったら、半分は私が悪いってことにしよ? あ、それか全部私のせいでもいいよ? 元はといえば私があのオバケを追いつめちゃったせいだし、アベルが自分を責めることはないと思うんだ」

 

「アリア……、そんなわけにいかないよ」

 

 

 アリアが片手拳を握りしめ力説するが、ドラクエⅠの下りはよくわからないのでその辺はスルーして、アベルは頭を振るった。

 




アリアはアベルに優しいのです。
夫婦は話し合わないとね。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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