前回のプチあらすじ>アリアの励ましにアベルは……。
さて、会議ですよ。
では、本編どぞ。
「私はさ、ほら、悪いことしたなって思うけど、アベルみたいに責任感は強くないからね」
アリアはニヤリ。いたずらっ子のように白い歯を見せる。
「うそだぁ。アリアは一見適当に見えるけど、くそ真面目のくせに……」
「……まあ、義理は果たすよ? だけど、突然降って湧いたものまで責任持てと言われても困っちゃうじゃない?」
「っ……それは、そうだけど……」
アリアが自分よりも義理堅く、生真面目な人間だということをアベルは知っている。
洗礼こそ受けられなかった彼女だが、修道院でも皆に可愛がられていた。
自分の欲求に忠実で快楽主義的なところはあれど、筋は通し、受けた恩は必ず返す人である。
修道院の屋根の補修を手伝ったのは面倒を看てもらった恩を返すためだったはず。
仲魔たちの面倒見も良いし、愛情深く、責任感も強い。常にポジティブで物事を真っ直ぐに捉えつつも、より良い捉え方をする目を持っている。
彼女がただの快楽主義者だったなら、見た目が好みだからとアベルはここまでアリアを好きになってはいなかっただろう。
「アベルが心苦しいのは見たくないの。私のせいにしちゃいなよ。私なら平気だからさ、ね♡」
“心が苦しいのなら私のせいにしていいよ。”
アベルの気持ちを軽くしたいというアリアの想いが軽い口調ながらも伝わってくる。
何でもないことのように軽く聞こえるが、すべてを背負うつもりなのだろうか――。
……そんなこと、アリアを愛するアベルができるはずもない。
「アリア……、僕は自分の妻に責任を押し付けるような夫になりたくない。これは僕の落ち度であって、アリアのせいでは決してないよ」
「アベル……」
「けど……、半分背負ってくれるって言ってもらえて、少し心が軽くなった気がするよ。……ありがとう」
――アリア、君はいつも僕の心を軽くしてくれるんだね……。
さっきまで責任で押し潰されそうになっていたというのに、アリアとの会話で、ずいぶん気持ちが楽になった気がする。
気が付けば自然と笑えている自分に気が付いたアベルはアリアの頭を撫でていた。
「うん……アベル、少し元気になったみたいでよかった」
……アリアはアベルを見上げてほっとしたように微笑む。
「……ぇっと……僕が元気になる方法は他にもあるけど?」
「ん?」
「……へへへっ♡」
アベルは手を放してハグを求めるよう腕を広げ、アリアに抱きついた。
彼女の胸に抱かれるように顔を埋めて、柔らかい感触と甘い香りに包まれる。
耳を澄ませばアリアの規則的な心臓の音が心地いい……。
問題は多いが、癒しはいつでも傍にあるということに改めて気付かされる。
世界が闇に染まり未来が絶望的な状況にあっても、アベルの幸福は常に傍にあるのだ。
……幸せとは気付きなのかもしれない。
アリアと一緒にいれば、それだけで幸せだと思えるから。
アリアがいるならきっと、なんだって乗り越えて行ける。
アベルはアリアの柔らかい餅に包まれた顔をぐりぐりと左右に摺り寄せてみせた。
「っ……もぉ~甘えん坊さんなんだから……、それは後でね♡」
アリアはアベルの両頬に手を添え顔を上げさせると、ちゅっと、額に軽く口付けして宥める。
「うん……。じゃあ、これからのことだけど……――」
……アベルは少々残念だったが今後の方針を話し合うことにした。
◇
アベルとアリアは馬車から降りて再びバルコニーへと向かい、【おやぶんゴースト】にも意見を訊きつつ、対策を話し合う。
……話し合っていく内に、細かく掘り下げる必要のある要点が三つに絞られた。
アベルたちはその三つについてさらに話を詰めていく。
一つ、朝が来るためにはどうすればいいのか。
一つ、破壊された【展示台】をどうするか。
そして最後の一つ――これは【おやぶんゴースト】の願いでここに入れるべきことでは無いのだが、ラインハット領の自宅までなるはやで送って欲しい……とのこと。
「最後の一つはルーラを使えばすぐなんとかなるからいいとして……前の二つよね」
バルコニーのテーブルに置いた【ランタン】の灯りの側には、アリアがメモを取り、話し合った内容が書かれている。
……アリアは羽ペンをくるっと回そうとしてインクを飛ばした。
「わっ、アリアなにやって……!?」
飛んできたインクをアベルが瞬時にサッと避ける。
「あっ、ごめん。ついボールペンの要領で回そうとしちゃった」
「ぼうるペン……??」
アベルの身のこなしは早く、汚れずに済んだが【おやぶんゴースト】には見事に掛かってしまった。
しかも顔に……。
「ごめんなさい……あの、これ使って? はい、鏡もどうぞ」
「……ああ、オレの顔が……いい男が台無しじゃないか……」
顔を黒いインクで汚された【おやぶんゴースト】は、アリアにハンカチと手鏡を手渡され、拭う。
……汚れは伸びて見事に広がった。
「……汚れが広がっちまった。顔を洗って来る」
「はーい、ごめんなさーい!」
【おやぶんゴースト】は中座し、アリアは苦笑いで見送る。
「悪いことしちゃったなぁ……」
「アリア、ぼうるペンてなに?」
「ん? あ、前世で使ってた筆記具だよ。これくらいの細い筒にインクが詰まってて、羽ペンみたいにインクに浸さなくても使えて便利なんだ。ペン先に小さなボールが入ってるんだって。だからボールペンていうらしいよ。手に馴染むからつい、指先でくるくる回しちゃってたんだけど、羽ペンでもごくたま~にやっちゃって汚しちゃうんだよね」
アベルがボールペンについて訊ねると、アリアは説明しながらノートに絵を描いて教えてくれた。
描かれたペンの形にアベルは見覚えがある気がする。
「……それって……」
――アリアの昔の鞄に入ってたあの不思議なペン……?
インクに浸さず使えるペンとはなんと便利なものだろうか。
そんな便利な物なら、最近よく書き物をしているアリアに返してあげた方がいいかもしれない。
だが、ボールペンを返してどこで見つけたとツッコまれたらどう答えればいいのか……。
「ん……?」
「あ、いや、なんでもない……」
アベルは結局ボールペンを渡すことはできずに笑顔で誤魔化した。
……少し経ち、【おやぶんゴースト】が戻ってくると話を再開する。
「では改めまして、さっき話し合った残りの二つについてね」
「ああ」
「メモに書き出したのは……」
アリアは再びインクにペン先を浸し、これまでに書いたメモをアベルたちに見せた。
“一つ、朝が来るためには……?”
まずは現状把握を行う(他地域に行って様子を見て来ること!)。
【やみのランプ】の修復をしてみる→修復の出来る職人を探す。
【やみのランプ】が直ったとして、空の闇を吸ってくれる???
吸ってくれた場合→解決!
吸ってくれなかった場合→???(考える)
“一つ、破壊された【展示台】をどうする?”
【展示台】の修理が必要→直せる人または新たに【展示台】を購入する(ただし資金はない)。
ゆうじいさんによると【展示台】は腕の良い職人が作ったもので、できれば修理して使いたいとのこと。
費用の捻出はどうする?→【おやぶんゴースト】が一部負担してくれるらしい(安くすめば解決かな?)
……ここまで書かれて、アリアは続きを記入する。
“とにかく職人が必要!”
職人が必要なんです。
※水、木はお休みします。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!