前回のプチあらすじ>アベルたちは対策会議を開き、すべきことを書き出したメモには“とにかく職人が必要!”とのこと。
ピーンとね!
では、本編どぞ。
「……すべきことは書き出せていると思うんだけど、アベルどうかな?」
「うん、いいと思う。けど職人か……」
職人が必要……の一文の周りにはその文字を囲む様に円が描かれ、アベルは腕組みをして考え込んだ。
「なんの職人だ? 割れたランプをくっつけるくらいなら武器職人でもできそうだが?」
アベルの向かいの席に座った【おやぶんゴースト】が口を挟む。
テーブルの上においた割れた【やみのランプ】は見た感じ金属製である。
鍛冶場の窯さえあればくっつけるだけなら可能だろう。
「そうだな……割れた部分をくっつけるくらいはできると思う。ただ、側だけ修復しただけで、闇のランプのチカラが元に戻るかはわからない」
「そうなんだよね……、綺麗にくっつけられるかもわからないし、特別な職人さんじゃなきゃダメなのかも……。展示台は木で出来てたから、こっちは木工職人さんをさがさないと……」
アベルの意見にアリアは同意し、尚且つ【展示台】の話題も持ち出した。
「特別な職人と、木工職人か……武器職人と大工なら町に行けばどうにかなるけど僕たちの資金もそうないしな……」
「……うぅむ、すまんな。やっぱり3000ゴールドじゃ無理か?」
【おやぶんゴースト】の出せる資金は3000ゴールド。日々節約し、貯めた金額らしい。
慎ましい生活を送っているようで、ほぼ自給自足のため、金を必要としておらずあまり貯め込んでいないようだ。
……【おやぶんゴースト】は「じゃあ、この首飾りを売って……」なんて首飾りを外そうとしたが、アリアが止めていた。
「3000ゴールドで闇のランプをくっつけるくらいならなんとかなるかもしれないけど、展示台までは無理だろうな」
「うぉぉ……。オレが身体を乗っ取られさえしなければ……! やっぱり首飾りを……」
「いや、要らないってば!」
アベルに指摘され、【おやぶんゴースト】が頭を抱えるとアリアは首を横に振り振り。
そもそも【おやぶんゴースト】も被害者だというのに、3000ゴールドすら出す必要は無いのだ。
……だが、修復には金が要る。
「僕たちも出してもいいんだけど、たぶん全財産出しても足りないと思う。あの展示台、シンプルに見えてかなり凝った作りだったから……っ……」
世界も救いたし、名産博物館のオープンも協力してやりたい。
今持っている金を全て出したとして、足りればいいが恐らく足りない。
しかも、自分たちの金を出してしまえばアリアに苦労させてしまう。
宝飾品は受け付けてくれないが、菓子は喜んで食べてくれる妻に、毎日のおやつを食べさせてやれなくなると、愛想をつかされてしまうかもしれない。
……アベルは頭を抱えた。
「……うーん……」
……アリアもすでに頭を抱えていた。
三者三様で頭を抱えるが、アベルとアリアの頭の抱え方がそっくりで――
「グルルル……(クックックッ。主とアリア、動きがそっくりでおもしろいぞ!)」
……様子を見ていたプックルが笑っている。
その近くでピエールは居眠り中だ。
なにせ暗闇の中である――安全を確保された場所では気が抜けるらしい。
「……こうしてても時間は無駄に過ぎてくだけだ。とりあえずできることから始めよう。まずは現状把握だっけ……。少し時間を置けば何かいい案が浮かぶかもしれない」
「……うーん……(光の玉があればなんとかなったかもしれないけど、この世界にはないはずだし……)」
アベルは顔を上げたが、アリアはまだ頭を抱え考え中である。
アベルの話を聞いているはずだが、反応がなかった。
「……アリア? 一先ず町の様子を見に行ってみないかい?」
「うーん……、あ! そうだね」
アベルがもう一度声を掛けると、彼女はハッと顔を上げる。
ずいぶん考え込んでいたようだが、何か気になったことでもあったのだろうか……。
ともかく、先ずは現状の把握が最優先だ。
アベルは【おやぶんゴースト】を彼の家へ送りつつ、これまで行った町を訪れることにし、移動を開始した。
◇
……ゆうじいに話し合いで決まったことを告げた後、アベルは一度船へ戻り、船長たちにこれから【ルーラ】でこれまで訪れた町に行くと宣言。
アイウエオこと、船員たちは少々引き攣った顔をしていたが「その内慣れるから大丈夫」との頼もしい声――。
アベルは早速アリアの手を取り【ルーラ】で一路ラインハットへと飛んだ。
「へっへっへっ、送ってくれてありがとよ。本当は茶でも出してやりたいところだが、仲間が留守にしてるみたいだ。勝手に家に入れると怒るんでな。今度近くに寄ることがあったら狭いとこで悪いが泊めてやるよ」
【おやぶんゴースト】が喋りながら手に持っていた3000ゴールドが入った袋を手渡してくる。
……ラインハットから東へ向かい、昔アベルが歩いた立て看板のある毒沼を北へ。古代の遺跡を東に眺めつつ、さらに北上し深い森へと至るが、森の中をそのまま北上、西に向かい北の海に面した辺鄙な場所――。
そこには小さな集落があり、数軒の家があったがその殆どが朽ちていた。
魔物による被害なのか、昨今の災害によるものなのか……住んでいた人々は集落を捨てて出て行ったらしい。
人の気配がしない。
その内一軒だけがボロボロではあるが形を保っており、家屋の前には小さな畑がある。
ずっと留守にしていたから枯れていてもおかしくないはずなのだが、誰かが手入れをしているようだ。
そういえば仲間がいると言っていたなとアベルが考えていると、【おやぶんゴースト】が一度家に入り、持ってきた金を手渡してきたというわけだった。
「うん、寄ることがあればお願いしようかな。あ、お仲間にもよろしく。人に迷惑を掛けずに生活しているみたいでほっとしたよ。ね、アベル?」
「ああそうだね」
「ん? どういうことだ?」
アリアとアベルの会話に【おやぶんゴースト】は首を傾げる。
「ふふふ。レヌール城にはもう行ってないんだよね?」
「え、レヌール城って……、なんで姉ちゃんそのことを知ってるんだ?」
昔オレがレヌール城で悪さを働いていたことを、なぜこの姉ちゃんが知っているのだろう……と、【おやぶんゴースト】は十年前の出来事を思い返す。
あの時は大人だというのに無様にも小さな少年少女にボコボコにやられて恐怖を感じ、恥ずかしながらも命乞いをした。
……子どもは加減を知らないから恐ろしいのだ、あのままこっそり逃げていれば追い打ちを掛けられ命を落としていたに違いない。
だからこそ許しを請うたわけだが、一見愛らしい少年の中身は鬼で、ちっとも許してくれず、何度も頼み込んだ。
だが、少年はなかなか首を縦には下ろしてくれなかった。
もう駄目かと思われたその時、傍にいた天使の女の子が少年を諫めてくれて命拾いをしたのだ。
……生きてさえいればなんでもできる。
とりあえず生き延びることが先決で、レヌール城からは手を引いた。命からがらラインハット領へと流れ着き、様々な出会いがあり【おやぶんゴースト】はまっとうに生きることになったのだ。
「僕が許してあげたから今があるんだよ? その命、大事にするように」
【おやぶんゴースト】が昔を思い返している間に、アベルが彼をジッと見下ろす。
その目が鋭く、少々恐ろしさを感じた。
「も~アベルってば、親分ゴーストさんには厳しいんだからっ!」
……アリアが困ったような顔で笑っている……。
そんなアベルとアリアの姿が昔出会った少年と天使の女の子に重なる。
もう一人の金髪美少女の姿はないが、似ているではないか――。
「あ、あんたらはまさか……!?」
気付いた【おやぶんゴースト】の身体はぶるぶると震え出し、声まで震えた。
昔、死を予感したあの瞬間に戻って来たように【おやぶんゴースト】の目には涙が――顔からは血の気が引いていた。
「よし、アリアそろそろ行こう。一度ラインハットに行ってヘンリーに話を訊いてみようよ」
「うん、そうだね」
【おやぶんゴースト】が怯えている間に、アベルはアリアの手を取りさっさと【ルーラ】を唱えて飛んで行く。
「……ご、ご立派になられたようで…………、はぁ……真面目に生きてて良かった……」
アベルが博物館でなぜしつこく疑いの目を向けて来たのか……。
それをようやく理解し、【おやぶんゴースト】はアベルたちを見送って腰が抜けたようにその場にペタリと膝をつく。
戦わずともわかる、アベルの強者のオーラ。
一睨みされただけで身体が勝手に反応し、固まってしまった。
……昔よりも強くなっているはず――。
対して自分は改心したが鍛えてもおらず貧弱な身体のまま……、戦うつもりはないし、できれば二度と関わりたくないものである。
「そういや、あの姉ちゃん……翼はどうしたんだろう……。まあ……もういいか……」
……彼女には関わらない方がいいだろう。
魔族の天敵、天空人に助けられた身としては少々気になったが、悪いことをしていないとはいえ、アベルとは関わりたくない。
【おやぶんゴースト】は静かに立ち上がり終の棲家へ戻って行った。
おやぶんゴーストから見たアベルは鬼らしいですw
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!