前回のプチあらすじ>事の重大さに沈むアベルをアリアは励まして……。
近況報告大事よね。
では、本編どぞー。
「え?(バカ?)」
「正直なのはあなたのいいところで素敵だけど、なんでも正直に言えばいいっていうもんじゃないわ」
「え……」
アリアは褒めてくれているのだろうか、それとも……?
……アベルは呆気に取られる。
「今は現状把握だけでしょ? 町の様子を見に行くだけで会わなければいいんだよ。言いたくないことは言わなくていいの」
「あ、だけど……――」
――黙っててもいいのかな……。
皆、訳も分からず急に闇に閉ざされた世界で不安にならないのだろうか。
理由が解れば恨まれるかもしれないが、もし元に戻せなかった場合、早めに告げた方が朝が来ない世界でも生きていく方法を模索できると思うのだが……。
世界中が知らない事実を知っているアベルは秘密を抱えているようで少々心苦しい。
真実を言えば楽になるも人々に恨まれる――が、未来への対応策が早く取れる。
真実を言わねば秘密を抱え心苦しいが、人々に恨まれることは無い。
なれど未来への対応策は後手に回る――が、早めに朝を呼ぶことができれば何もなかったことになる。
世界の人々に恐怖を与えずに済む。
とはいえ、これは時間の問題だ。
どちらを選んでも同じのような気がする。
ここは妻の言うように黙っておいてもいいのかも……。
……アベルはあれもこれもと思考して俯いてしまう。
そんなアベルにアリアがぷくっと頬を膨らませた。
「もぅ! アベルったら、自分で自分を追い込み過ぎだよ。自分いじめはダメだよ? 自分が苦しくなるようなこと背負いこまなくていいんだよ。もっと気楽にいかない?」
「……そ、そうかな……?」
もっと気楽に……とはとても思えそうにないが、アリアが励ましてくれているのは解った。
アベルはまた重く考え過ぎていたことに気付き微苦笑してみせる。
「だって、“世界が闇に覆われました、それは僕のせいです!”……なーんてわざわざ恨まれるようなこと言って恨まれるなんてバカみたいじゃない」
「バカって……、ぅ……」
――アリア……僕はバカになるところだったみたいだ……。
アリアは自分を励ましてくれていたはずでは……。
アリアの追い打ちにアベルは凹んでしまう。
「アベルは朝を迎えにいくんでしょ?」
「そうだけど……」
「シレっと元に戻しておけばいいの。アベルならきっと元に戻せるからナイショにしとこ?」
「アリア……、けど僕が悪いのは事実なんだよ?」
朝を迎えに行く――、アベルは当然そうしたい。
だが、朝を迎えるにはどうすればいいのかさっぱりだ。
……矢継ぎ早に問われ、アベルはそれでも事実は変わらないことを告げて再び俯く。
自分は世界を闇に陥れてしまうという大罪を犯した罪人。
その事実を告白したいが、恨まれるのが怖い。
恨まれて回り回ってアリアと別れることになったら嫌だ。
別れないとしても、アリアとやっと一緒になれたのに彼女まで恨まれることになったら辛い。
アリアにはいつも笑顔で暮らして欲しい、幸せでいてもらいたい。
後ろ暗いことなんてあって欲しくない。
――なんであの時油断した?
――なんであの時すぐに剣を抜かなかった?
初めてのことだというのはわかっていたんだから、油断してはいけなかった。
ぐるぐると負の感情ばかりが浮かび、アベルは頭が痛くなってくる。
……そんな時、アベルの頭上にアリアの声が降ってきた。
「許すよ」
「え、ゆ、許す……?」
「アベルのすることはぜーんぶ、私が許す。だから黙ってておっけー!」
思わぬ一言にアベルは顔を上げる。
……アリアは満面の笑みとともに親指と人差し指で円を形作っていた。
「なっ……なにそれ……っ、アリア適当過ぎる……!」
――なんでアリアはこんなにポジティブでいられるんだ……!?
アリアの底抜けの明るさに虚を突かれたアベルの声は上擦る。
アベルから呆れたように指摘されても、アリアは笑顔のままだ。
「ふふっ♡ 適当ってちょうどいいってことでしょ? 適当でいいじゃない」
「っ……はぁ、もう……君には敵わないな……。ハハ……」
――アリア、君って不思議だね、君がそうやって笑って許してくれるというのなら、もうそれでいい気がして来るんだからさ。
さっきまでアベルを苛んでいた頭痛がいつの間にか消えている。
アリアが隣にいてくれれば、未知のことでもどうにかなる……、多少の不安は残ったままだが、アベルの強張っていた表情はすでに綻んでいた。
「ふふふ~♡ アベルの笑顔ってステキ~。憂いのあなたもステキだけど、やっぱり笑顔が一番ね♡ じゃあ、次の町へ行きましょう!」
「……フフッ♡ ……ああ!」
アベルの顔色が良くなったことがわかったアリアはアベルを褒めちぎる。
ちょっと照れ臭そうに頬を赤らめつつ、アベルはアリアの手を取った。
“【ルーラ】!!”
移動呪文を唱え、次の村……サンタローズへ――。
◇
……さて、アベルたちは【ルーラ】でサンタローズにやって来た。
サンタローズでも特に混乱した様子はなく、夜だからか人気もなく、物寂しさが際立っていたが皆特に変わりない様子で、村を見て回ってからアベルたちは教会を訪ねる。
「まあ! 伝説の勇者さまをさがしだすですって!? 本気なの?」
アベルから伝説の勇者さがしをしているという話を聞いて、シスターリリィが目を丸くして驚いた。
……なぜこんな話をしているのかといえば、“明けない夜”についてシスターリリィがまだ何も気が付いていないようだったからである。
アリアに「まだ黙ってていいからね」と釘を刺され、アベルは結婚の報告も兼ねてまずは今後の旅について話をしていた。
「はい、そのつもりです」
「そうなの……。そういえば昔アルカパの町で勇者さまの話を聞いたことがあるわ。アルカパといえばアベルの幼なじみのビアンカさんもいたわね。元気かしら」
……シスターリリィはビアンカが気になるようだ。
だが、ちらちらと時々視線がアベルの背後に彷徨っているのが少し気になる。
いったいどこを見ているのだろうか……。
「あ、ビアンカは……――」
……アベルはビアンカの様子をシスターリリィに説明した。
「え? 宿屋を売って山奥の村に? まあ……ビアンカさんも大変だったのね」
「はい……けど、今新たにリゾート温泉施設を作るんだって張り切っていましたよ。半年後にオープンするらしいです」
「まあ! すごいわね! オープンしたら行ってみたいわ……って、ねえ、アベル、後ろの彼女は~?」
……アベルがシスターリリィと話す間、アリアはピエールとプックルとともに教会の長椅子に腰掛け休憩中である。
旧知の仲であるシスターと積もる話もあるだろうと思い、ゆっくり話をして欲しいとのアリアの計らいだが、彼女の手には【クッキー】……、一噛みして幸せそうな顔をしていた。
「あ……、フフ。またお菓子食べてる(リスみたいで可愛いんだよね……)」
少し大きめの手作り【クッキー】を両手で持ち、もくもくと食べるアリアの姿はさながらリスのようで、アベルの瞳はつい細くなってしまう。
ところでその【クッキー】、ピエールとプックルにも与えているようだ。
後で「またお菓子食べてる」なんて指摘してからかってやろうとアベルは思うが、アリアは小腹が空くとこうして共犯者を仕立て、自分だけではないと誤魔化すことがある。
……別にアベルは怒らないというのに。
たまに子どもみたいなアリアがアベルには堪らなく可愛く、また、愛おしい。
「……確か彼女……アリアさん……よね?」
「はい。僕の妻のアリアです」
シスターリリィが長椅子に腰掛けるアリアに視線を移し、以前サンタローズに寄った際に呪われていた女性じゃないかと訊ねる。
……アベルはアリアを穏やかな瞳で見つめながら答えた。
「アベルの奥さん!? ……まあ! アベルったらいつの間に結婚したの!?」
「あ、えっと実はまだ結婚して一月も経ってないんです」
アベルの結婚報告にシスターリリィは驚き、興奮気味で手を強く握ってくる。
――シスターリリィ……握力が強いです……。
不意に握られた手が少々痛い。
日中男性と並んでサンタローズの復旧作業をしているためだろう。
……シスターリリィは中々の力の持ち主のようである。
「まあっまあっ! 新婚さんなのね! おめでとうっ! そうだったの……。それならパパスさんがいなくてももう淋しくないわねアベル。あとはお母さまが早く見つかるといいわね。私もお祈りしているわ」
「ありがとうございます、シスターリリィ……」
シスターリリィは握ったアベルの手をぽんぽんと優しく叩いてから放した。
「それにしても水くさいわ。アベル、何か月か前にサンタローズに来てなかったかしら? いえ、その前にも何度か見かけた気がするのだけど?」
「え……あ、釣りに何度か寄らせてもらってました……。アリアに村で釣れる魚を食べさせてあげたくて」
……訊かれてアベルはその時のことを思い出す。
屋根の修復作業の合間、アリアと休みが重ならない日も、重なった日も、アベルはサンタローズにこっそりやって来て釣りを楽しんだことがある。
……村を流れる川は魚がよく釣れるのだ。
――そういえば、アリアはサンタローズには一度も来てくれなかったっけ……。
シスターリリィは……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!