前回のプチあらすじ>余計なことは言わないで黙っていようというアリアにアベルは首を左右に振って……。
情報収集といえば、酒場です。
では、本編どぞ。
……世界を闇に閉ざしてしまったのは
解決する方法は今のところまだ見つかっていない。
わかっているのは【やみのランプ】の効果が切れるまでは恐らく夜のままだということ。
効果が切れれば朝は来るが、それが年単位である可能性があること。
このまま夜明けが来ないと作物は育たず世界は寒冷化し、魔物たちが増え、人間が減ってゆく。
【やみのランプ】の効果が切れる頃に、人間はどれだけ生き残っているのだろうか……。
その頃には魔王が魔界からやって来るかもしれない。
飢餓に見舞われ、疲弊した人間たちに魔王と戦う余力などあるはずもない。
これまでは目の前に現れた魔物を倒せば解決できたことばかりだったが、今回は違う。
……単純に魔物を倒せば夜が終わるという話ではないのだ。
「アベル……、でも……うん、やっぱりお父さまには会わない方がいいと思うな」
どんな叱責を受けても、恨まれても受け入れるしかない。
隣にアリアがいてくれるなら、耐えられる――アベルはそう覚悟していたが、アリアも首を横に振り振り。
「え?」
「……もしお父さまが異変に気付いていたら、危ないから家に居なさいって言うと思うんだよね……。アベルひとりで解決してきなさいとか言い出しそうで……」
「……あ。うん! そうだね、ルドマンさんに会うのは止めておこう! 旅に出てから一月で戻って来たら変に思われるしね!」
「ふふふっ、ねっ♡」
……ルドマンはアベル同様、心配性である。
事情を話せばアリアを屋敷に閉じ込めようとするに違いない。
それではアベルのモチベーションが下がるし、パフォーマンスも落ちる。
アリアも泣いて淋しがることだろう。
互いに離れ離れで暮らし、解決方法を見つけられなかったとしたら、最悪そのまま死……――なんてのはごめんである。
どっちに転んでもアベルはアリアと一緒にいたい。
“すこやかなる時も病める時も、その身を共に――”
結婚式で誓った言葉だ。
夫婦は離れてはいけない。
……アベルとアリアはサラボナに向かうことにした。
◇
「くそー! オレも嫁さんが欲しいぜっ!」
サラボナに到着したアベルたちは情報といえば酒場……、ということで早速酒場に立ち寄り、すでに出来上がっている赤い顔をした客に話し掛けていた。
客の男がアベルの隣にいるアリアを見た途端、眉を顰めたと思ったら号泣し始める。
……アベルとアリアが手を繋いでいることに気付いたらしい。
「なんで見せつけるんだよ、独り身にはつれぇよ! 向こうへ行ってくれぇぇっ!! うぇぇえええん!!」
悔し涙なのだろう、男はおいおいと泣き始めてしまった。
「いや、これはちがっ……」
「アリア、ダメだよ」
客の男がカウンターテーブルに伏せるとアリアが手を離そうとするが、アベルは放さない。
……サラボナに到着した途端、アリアが二手に分かれて情報収集しようなどと言い出したため、彼女の手を取り酒場に連れて来たわけだが、酒場でも時間短縮のために二手に分かれて……とも言い出し、最近落ち着いて来たと思っていた、すぐどこかに行く癖が出始めたと感じたアベルが留め置いたというわけだ。
無駄に行動力のある妻は、独りで行動したら迷子になる可能性がある。
問題解決にやる気を出してくれるのはありがたいこととはいえ、迷子を捜す身にもなって欲しい。
いい大人に対して言うことではないから口には出さないが、アベルはアリアが心配で仕方ないのだ。
しかしそれを差し置いても……。
――手を繋ぐのっていいな……!
絡んだ細い指から伝わる体温が心地いい。
アリアと手を繋いでいると心が安らぐから不思議だ。
……アベルはアリアを見下ろしはにかんでみせた。
「……結婚したいなら婚活でもすればいいのに……」
「してるよぉっ!! うわぁああああんん!!」
アリアにぼそっと呟かれ、伏せった男が大声を上げる。
泣き上戸なのだろうか……。
「……アリア、あっちの人にも訊いてみようか」
「あ、うん」
花嫁募集中の男からこれ以上なにか情報は得られそうにない。
……アベルは別の席に着く青年に声を掛けることにした。
「こんばんは、あの――」
「おおっと! あんたいい女連れてるなあ! え? あんたの奥さん? くは……! たまんねえなあ!」
「いや、アベルまだ こんばんは としか言ってないけど……」
アベルは挨拶しただけなのだが、青年がアリアを見るなり目の色を変え、顔や身体……特に胸と太ももを凝視してくる。
アリアの左手薬指には【水のリング】が収まっており、アベルの左手にも【炎のリング】が嵌っているから、二人が夫婦だということはすぐに気付いたようだ。
彼は結婚披露宴に来ていなかったのだろうか……。
サラボナの人々は誰が誰と結婚したかなど興味がなくても、タダ酒や料理に惹かれて宴会に参加していた人はいたから、アベルたちを知らなくても無理はない。
だからといって そのイヤらしい視線はいかがなものか――青年の口は開きだらしなくよだれが垂れている。
アリアは不快で青年の目から視線を逸らした。
「ひょ~、いいね! その嫌そうな横顔もたまんねえ!」
声を掛けたのはアベルだというのに、青年は舌なめずりしながらアリアしか見ていない。
その視線はアリアを舐め回すようで、不愉快極まりない。
これまでアリアに見惚れる男は何人もいたが、酒が回っているせいもあるのか、ここまであからさまなのは初めてである。
アリアも気持ち悪いのだろう、身体をアベルの方へと向けて嫌そうだ。
「……アリアこっち」
「えっ、ア、アベル……!? 話聞かなくていいの……?」
「いいよ。僕のアリアをあんな目で見るヤツが いい情報を持っているとは思えない。ごめんねアリア、不快だったよね」
「アベル……」
アリアの様子に気付いたアベルはさっさと青年から離れ、別の客の元へ向かうことにした。
酒場の客はあともう一人――。
……実はさっきから酒場内では最後の一人の笑い声が響いている。
商人の恰好をした男が酒を飲み飲み、管を巻くようにくどくど愚痴っていたかと思えば急に陽気に笑いだし、またくどくど管を巻く。
そして大音量で派手に笑う。
顔を真っ赤にして、笑い上戸らしいが、時々何度も顔を青褪めるのが印象的だ。
「すみません、ちょっとお話訊いてもいいですか?」
……アベルは商人に話し掛けた。
「ウヒャヒャヒャ。お酒を飲んでればイヤな事も忘れられますよ」
商人の手には酒の入った大きなジョッキが握られており、傍らには空のジョッキが五つほど重ねて置かれている。
かなりの量を飲んでいるようだが、手が僅かに震えているのにも関わらず彼はジョッキを手放そうとはしない。
ジョッキからは手の震えから伝わる振動で、なみなみと注がれた酒がカウンターテーブルに零れていた。
……いったい何がそんなに酒を進ませているというのか――明らかに飲み過ぎである。
「イヤな事って……?」
「え? イヤな事? やがて世界を闇が覆うってイヤなウワサですよ。しまった! 思いだしちゃった! もっと飲まなきゃ……。グビグビ」
アベルが訊ねると、商人は笑顔で教えてくれるもハッと一瞬我に返り、急に顔を青褪め慌てて酒を煽った。
「世界が闇に覆われたらいったいどぉすれぇ……れれれ……? ウヒャヒャヒャ!! のまらきゃ……、もーぱい、おかーり~……!」
空のジョッキを掲げて、商人はおかわりを要求する。
……商人の呂律が回っていない。
いくら飲んでも思い出すのだろう、さっきから同じことを繰り返していた。
「……もう覆われちゃってたりして~? ……ングッ!」
「アリア……! アハハハ……」
アリアがぼそっと悪戯な笑みを浮かべるので、アベルは彼女の口を手で塞いだ。
「はぁー……お客さん飲み過ぎよ。そんなに飲んだら身体に毒だわ。もぅ……今夜のお客さんたちはみんなずっと飲んでておかしいわね……」
給仕のバニーガールが商人の男の席にやって来ると、彼女は首を傾げながら空のジョッキを片づけていく。
「……ずっと飲んでて……? っ、あのっ!」
バニーガールの呟きを聞いていたアベルは、彼女の言葉に引っ掛かり声を掛けた。
「ん……?」
「ここにいるお客はずっと飲んでるんですか?」
「? ええ、そうだけど? みんな、なんだかいつもより飲む量が多い気がするんだけど……、気のせいかもしれないわね」
「……そうですか」
――気のせいかもしれないとはなんだ……?
アベルの質問にバニーガールは答えてくれたが、違和感程度しか感じていない様子――。
……彼女は朝が来ていないことに気付いているわけではなさそうだ。
「あ~……早く退勤して休みたいわ。何だか拘束時間が長い気がするのよねぇ……あ、マスター、おかわりお願いしまーす!」
「あいよ~」
「じゃ、お兄さんも奥さんもゆっくりして行ってね」
バニーガールは自らの肩を片方ずつ揉んでから、まとめたジョッキを手に去って行った。
ルドマン「なにぃ!? 私に会いたくないだと……!? 私は二人が心配で夜も八時間しか眠れないと言うのに……!」
フローラ「お父さま、アベルさんもアリアお姉さまもお父さまに心配をお掛けしたくないのですわ(しっかり睡眠をとってらっしゃるようで安心しましたわ♪)」
ルドマンは嫌われてるわけでもないのに避けられてるという……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!