前回のプチあらすじ>酒場では泥酔した客が多くて……。
酒場の後は噴水広場に移動しましょう。
では、本編どぞ。
「……アベル」
「うん……、彼女、違和感は感じてるみたいだったけど……はっきり気付いてはいないみたいだ。けど、なんとなく気付く人がいるってことは、やっぱりはっきり気付いている人もいるのかもしれないね」
「……みんな鈍感過ぎるでしょ……。まあ、私たちには好都合だけどさ」
やっと明けない夜に違和感を持つ人を見つけたものの、進展と呼べるほどのものではない。
……バニーガールの話では酒場にいる客は飲み過ぎているらしい。
だからだろうか、皆ぐでんぐでんに酔っているように見えたのは――。
「ハハハ……ゲームの中だしね……」
――こういう使い方で合ってるかな……?
昔からたまに感じることがある妙な感覚。
明らかにおかしいと思われる現象が起きていても動じない人々がいる。
【世界の理】に縛り付けられている人たち――。
それはこの世界がゲームの中だから……というのはアリアのいつもの主張だ。
アベルは言葉の使い方が合っているかはわからないが、不可解な出来事が起きた時の逃げ口上として使うに相応しい気がして口にしていた。
「へ? あっ、アベルがそれ言っちゃうんだ……? うふふっ♡」
「ハハ……、だいたいの話は聞けたし、そろそろ出ようか」
「そうだね」
……アベルの使い方は合っていたらしい。
アリアが愛らしく微笑むのでアベルも目元を緩める。
そしてアベルとアリアは酒場を出ることにした。
◇
夜の町はどこもそうだが、人気が少ない。
サラボナも例に漏れず同じで混乱した様子もなく、空には細い月と星――。
アベルたちは月の観測をしているわけではないが、月の満ち欠けはあるようだ。
……時の流れが止まっているわけではないらしい。
一見穏やかな夜に見えると言うのに、夜が明けることがない闇の中――。
「アベル、今日は星がキレイだねっ」
「……そうだね」
教会前の噴水広場に差し掛かり、アリアは暗闇の空を指差す。
明けない夜だというのに、アリアが笑うからアベルも釣られて微笑んだ。
「おお! キミたちはこの間結婚した旅の夫婦じゃなかったかな?」
「え? あ、こんばんは」
不意に噴水広場で散歩をしていた戦士の男に声を掛けられ、アベルとアリアは会釈する。
「しばらく見なかったが、帰って来たのか?」
「ええ、ちょっと立ち寄ったんです」
「旅は一人より二人、二人より三人が楽しいに決っている。人生もまたしかりだな」
「そうですね……、一人より二人が……」
戦士の男がアベルとアリアの手元を見下ろし、新婚夫婦の仲が良くなによりだと目を細める。
……アベルもアリアに穏やかな視線を向けていた。
別世界では孤独なことが多かったアベルだが、この世界では離れ離れの十年間以外、アリアがいつも傍にいてくれた。
別世界では独りで乗り越えなければならなかった数々の出来事を彼女と乗り越え、自らが孤独だったことは一度もない。
今、世界が闇に閉ざされた状態にあるにもかかわらず、アベルはアリアがいれば怖くないし、こんな状況だというのに幸せなのだ。
戦士の男が言うように、愛する者と一緒ならばどんな状況にあっても楽しいと感じることができる。
「……ふふふっ、本当にね。アベルと一緒にいられて毎日楽しいし、私しあわせだよ♡」
「アリア……♡ 僕もだよ……♡♡」
新婚夫婦の二人は互いに見つめ合い、二人の世界で手を取り合った。
そんな二人が戦士の男の目からどう映るかと思えば――。
「おっと! お二人さんごちそうさま。俺はまだ独り身なんだ。お邪魔虫は今退散するから勘弁してくれ、じゃ!」
「「あ」」
……戦士の男は気まずそうに去って行ってしまう。
彼が明けない夜について気付いている様子はなかったため、まあいいかとアベルはそのままアリアと町の散策を続けた。
噴水広場からほど近い教会のエアル神父を訪ねたが、彼もまた他の人々と同じように特別何かに気が付いている様子は無く、他愛のない話をして教会を後にする。
“なんの情報もないね”なんて話しながら再び歩いていると、気付けばルドマンの屋敷前にやって来ていた。
「ん~、お父さまはともかく、フローラさんには話を訊いてみたいけど……無理そうね」
「だね……」
二人してルドマンの屋敷、二階を見上げるが灯りがすでに落ちている。
皆眠っているのだろうか……。
中の様子が気になったアベルはルドマンの屋敷の扉に手を掛けたが、扉は内側から閉まっており開かなかった。
アリアが【
防具屋も道具屋も夜のため灯りが落ちており、就寝中であれば迷惑だろうと訪ねるのは止めておき、そうして町を一周する形でアベルたちは噴水広場に戻って来た。
「酒場のお姉さんだけが違和感を持ってたみたいだったけど……」
噴水の囲いに腰掛け、アベルは水筒の口を開けてアリアに差し出す。
「あ、ありがと。……そうだね、特に変わった情報もなさそうだし……そろそろ次の町に行く?」
アリアは水筒を受け取るとコクコク――二口ほど水を飲んでアベルに返した。
「ああ、そうしようか」
――へへ……、間接キス……♡
アリアから水筒を返されたアベルは自分も……と、水を口に含んで水筒を片付ける。
そういえば、ここ数日は世界の危機に気を取られ、アリアとキスをしていない。
身体を休める時もこの状況ではさすがにそういう気分にはなれず、ただ一緒に横になっているだけである。
不安がないわけではないが、アリアのお陰でずいぶんと心が軽くなった気がする。
この状況にも少し慣れてきた……、そろそろ――。
「ア、アベル……?」
「アリア……」
……気付けばアベルはアリアの頬に触れて顔を近付けていた。
彼女の大きな紫水晶の真ん中にはアベルの顔、端には溢れる噴水が映り込んでいる。
ザァザァと止めどない水飛沫が僅かにアベルとアリアに掛かり冷たいが、気にすることなく二人は見つめ合ってしまった。
このまま口付けをと思ったらアリアが目を閉じる。
アベルはそのままアリアに近付いていった……――のだが。
「あのっ……! すみませんっ!!」
「「ん……?」」
突然聞いたことのある声が前方から聞こえ、アベルとアリアは近付くその声の主を見上げた。
「あなたは……!」
「アンディさん!? わぁあああっ!!」
アベルが思わぬ人物……アンディの登場に驚き、目を丸くしたと同時アリアは声を上げアベルの胸を強く押す。
「え、アリッ……ちょっ!? あっ……!!」
「あっ! アベルさん!」
あまりに突然のことで、アベルの身体はバランスを崩し背中から噴水へ――ドボン。
“バッシャーーンッ!!”
……水飛沫が辺りに飛び散り、アベルは見事に噴水にダイブしてしまった。
「ああっ、しまった……! アベルっ!!」
「っ、手伝いますっ!」
アリアが慌てて噴水に落ちたアベルを引き上げようとするが、アベルは重くアリア独りでは無理だ。近くで休憩中のピエールが駆け付けようとしたが、その前にアンディが手伝ってくれた。
ドボンしちゃいました。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!