前回のプチあらすじ>アリアにフローラを見てうっとりするアンディの前には仁王立ちするアベルがいて……。
弾けろっ!
では、本編どぞ。
「ん? アベル、こっちの部屋寒くない? 向こうにいてよかったのに」
アベルの気配を感じたアリアは首だけ後ろに向ける。
「平気だよ♡ 座って待ってよっか」
「あ、うん」
……テーブルに備え付けられた椅子は一脚だ。
寝室に置かれた椅子を持って来て二人はアンディの用意してくれたお茶を飲むことにした。
「……主殿、その恰好は……」
「がうがう(似合ってないな!)」
「うん……アリアがね……」
「うふふふ♡」
ピエールとプックルにジロジロ見られたアベルは少々恥ずかしいが、アリアが楽しそうなのでそのまま腰掛ける。
なぜ着れもしないし、着たいとも思ったことがない【おどりこの服】を無理やり着せられているのだろうか……、アベルの胸もアベルのアベルも窮屈極まりない。
座ると余計にパンツが詰まる感じがして力を入れると破れそうなのだが――。
「アリア……、僕にこんなの着せてどうするつもりなのさ」
「どうもしないけど?」
テーブルを挟んで互いに向かい合わせで座りアベルが問うと、アリアは頬杖を突いてにこにこと微笑んだ。
「どうもしないって……、こんな女装みたいなことさせておいて……」
……アベルがムッと頬を膨らませる。
アリアの頼みを断れないアベルは、【おどりこの服】など着たくはなかったが大人しく着てやったのだ。
何か意図があるのかと思っていたが違ったのだろうか……。
「アベルに女装は無理かなぁ……、顔は可愛いからいけるかなって思ったんだけどな~」
アリアがカップを傾けながらアベルをじっと見つめる。
「……どういうこと?」
「旅先で私と一緒に踊りで稼ぐの! 白と黒、美女二人のペアで踊ればそこそこ稼げるんじゃないかなって思ったんだけどー……」
……白はアリアの肌の色、黒――は日に焼けたアベル。彼女は路銀稼ぎでもしようとしてたらしい。
アベルに【おどりこの服】を着せて女と言い張るつもりだったようだ。
とはいえ、それには無理がある。
「えー……無理だよ。僕が踊れるのはワルツぐらいで、アリアみたいに色々踊れないよ? それに僕の今の姿を見てよ。完全に男なんだけど? 格好悪いじゃないか」
アベルは両腕を開き、手の平を天井に向けてムチっとした身体をアリアに見せつける。
筋骨隆々の逞しく雄々しいアベルの肉体は、一目で男と判別できる立派なもの。
ご丁寧に頭には【ぎんのかみかざり】まで付けているが、完全に女装をした男にしか見えない……。
ここに化粧までしようものならただの笑い者ではないか。
「あはははっ! 別に女装でもそれはそれでいいんだけどね! そっかぁ~、じゃあ仕方ない。私が頑張るしかないね」
アリアは腹を抱えて笑い、目蓋を擦りながら「ごめんね」とアベルに謝罪した。
女装ダンサーも全然アリなんだけどな~……と、アリアが考えていたなどアベルが知る由もない。
……要は楽しければ良いのだ。
もしも朝を無事迎えることができなかった場合、何年も夜が明けなかったら、世界に明るい話題を届けられるのは世界中を旅する自分たちくらいのもの――。
日は昇らずとも明るさは忘れないでいたい。
これから世界がどうなっていくのかはわからないが、自分ができる範囲で誰かを明るくできたらいいなとアリアは思っていた。
……路銀稼ぎは二の次である。
「アリアが頑張るって……踊り子の服を着て踊るのかい?」
「そうだね、必要なら」
あれほど着たがらなかった【おどりこの服】を着るのかと訊ねられ、アリアが首を縦に下ろすとアベルは口を引き結ぶ。
「踊らせないよ?」
「えぇ? どうして?」
「路銀稼ぎなら魔物を倒せばいい。アリアが踊る必要なんてない」
――着たくないって言ってたよね……!?
【おどりこの服】は露出度が高い。
アリアに着てもらいたいのは山々だが、彼女を衆人環視の中に置きたくはない。
自分の妻が大勢の男に厭らしい目で見られるのは遠慮したいものだ。
【おどりこの服】を着るなら二人きりの時に限る――。
……アベルはきっぱりと告げた。
「そう……?」
「うん……、アリアは踊りたいかもしれないけどさ。アリアの肌を僕以外に見せるのはちょっと嫌……いや違うな、絶対イヤなんだっ……!!」
アリアの胸は隠しようがないからともかく、普段服の下で見えない素肌の滑らかで細い腰の括れと愛らしいヘソ……それに、撫で回したくなるおいしそうな形の良い尻と太ももを見世物になどしたくない。
……気付けばアベルはアリアの服の下に隠れる肢体を透視しながら熱弁していた。
「ほぇぇ……」
「なにその反応……」
アリアから間の抜けた声が聞こえ、アベルの瞳は半眼――ジト目で彼女を見やる。
「いやぁ……アベルって、独占欲強いな~って思って」
「……ごめんね、独占欲強くて。放してあげられないんだ。アリアを見ていいのは僕だけなんだよ。アリアも僕だけを見てくれるとうれしい」
「アベル……」
頬をぽりぽり掻きつつアリアが苦笑いを浮かべると、アベルは薄っすらと笑みを浮かべて静かに返した。
真っ直ぐに見つめられたアリアは息を呑む。
――参ったな……、アベルこれだいぶ私に執着してない……?
強い執着は視野を狭くし、相手を縛り付け、支配することがあるからあまりして欲しくない。
なにかあった時の判断が冷静にできず、いい結果を生まないこともある。
アリアはアベルのことを愛しているが、執着はあまりしていなかった。
……アベルには自由でいて欲しいし、自分も自由でいたい。
前世で元カレに執着し、執着され振り回された経験のあるアリアは、もう男に振り回されたくないのだ。
互いが同じ方向を向いて、縛ったり縛られたりすることなく、同じ道を歩いて行くのが一番である。
「っ、あっ! けど、どうしてもって言うなら踊ってくれていいからね! 踊り子の服を着られるのはめちゃくちゃ嫌だけど……」
「そんなに嫌なんだ…………うん、わかった。アベルが嫌なら普通の服で踊るね。あ、でもそれだとお客さん来ないか……踊るのはやめとくよ」
アリアの息を呑んだ姿に、引かれていることがわかったアベルはハッとして言い直す。
だがアリアはアベルの気持ちを察して諦めたように微笑んでいた。
「アリア……」
――ごめんね、君のやりたいことやらせてあげられなくて……。
悲しそうな妻の笑顔に罪悪感は募るが、これもアリアのため。
とはいえ、アベルの眉尻は申し訳なさに下がってしまう。
「だって私たちは夫婦で、夫婦ならパートナーが嫌がることしちゃダメだもんね?」
……アベルの不安が解消されれば、強い執着も薄れるはず。
ここはアベルに従ってあげよう……と、アリアはアベルの執着がなにかしらの不安によるものだと思い、まずは安心させてあげたかった。
「アリアありがとう……わかってくれて」
「ふふふ♡ どういたしまして」
アベルがほっとしたような顔で優しい笑顔を見せる。
……アリアは応じるように笑顔を返した。
◇
しばらくしてアンディが乾いた服を手に二階へと戻って来る。
アベルとアリアに乾いた服を手渡すと二人に寝室で着替えるようにと促した。
「わぁ~、もう乾いたのね! アンディさんありがとう! アベル、向こう行こ行こ」
アベルはアリアとともに寝室へ向かおうと、椅子から立ち上がる。
と、不意に――。
“ブッチンッ!!”
なにかが弾けた音がした。
……アベルの着ている【おどりこの服】、胸元中央の留め具がはじけ飛んだかと思ったら次には【ぎんのかみかざり】がゴトリ、テーブルに落ちる。
「「あっ!」」
アベルとアリアは同時に声を発する。
アベルの厚い胸板が露わとなってしまい、その場にいた全員がアベルの開けた胸に注目した。
「……あえてツッコミはしませんでしたが、やはり無理だったようですね」
「……着たくて着たわけじゃない」
アンディにツッコミを入れられ、アベルは胸元を何となく手ブラで隠し頬を赤らめる。
「あははは……」
……アリアは苦笑いを浮かべた。
「……だから“E”のマークが斜めだったのか……!」
アベルは【ステータスウィンドウ】の表記に違和感を覚えたことを思い出す。
装備中のマークが斜め表記になっているからどこかおかしいと思ったのだ。
無理やり身に付けたところで装備……というわけではないことがわかってよかった。
……やはり【おどりこの服】と【ぎんのかみかざり】はアリアが身に付ける方がいいだろう。
「なるほど~、そういうことかぁ~!」
アリアもアベルと同じく【ステータスウィンドウ】を思い出したのだろう、明るい笑顔で頷いていた。
「アリアぁ?」
「アハハ……じゃあ、着替えよっか♡」
アベルが頬を膨らませるとアリアはそそくさと隣の寝室へ――。
寝室へ着くと、二人は乾いた服に着替えてアンディたちの待つ部屋に戻った。
アベルの乳バンドが弾ける様をイラストにしたかった……。
いつか描きたいなぁ。
※お久しぶりの投稿です。
体調は良くなってきましたが、最近お話が思うように捗っていないため暫くゆっくり投稿していきます。
宜しければ引き続きお付き合い頂けると嬉しいです。
またストックが増えたら頻回投稿しますね。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!