前回のプチあらすじ>ストレンジャー号から連絡が来て、アベルは話を聞きに行くことに……。
いつの間に……なんですかね……。
では、本編どぞどぞ。
◇
「……えーっと……つまり――?」
「はい……船が動かないってことッスね」
アベルがストレンジャー号にやって来ると、歩み板の前でアジスキーとオコーゼが待っており、船が動かないことを伝えてくる。
……船が動かない――。
アジスキーが
要約すると何らかの原因で、船の動力である魔力が発動しないために航行ができない――とのこと。
「現在ウッツボが引き続き調査中ッス。そんなわけでしばらく船は使えないと思って下さい」
「そうですか……、困ったな……」
アジスキーの話に、新しい大陸に行ってみるのもありだと思っていたアベルはそれが早々に絶たれ腕組みをする。
……次の手を――と思い立った矢先にこれだ。何だか誰かにこちらの行動を先読みされているようで気味が悪い。
「……お嬢は?」
不意にオコーゼがアリアについて訊いてくる。
「え?」
「あ、いや……あんたらはいつも一緒にいるから当然一緒かと……」
「アリアなら疲れて馬車で寝てますけど……」
アリアのことを訊ねてくるとは思わなかったアベルは背後にある馬車をちらりと見やってから答えたが、オコーゼの反応がなんだかおかしい。
「そうか……」
……オコーゼ、彼は一言だけ漏らして馬車を切なそうに見上げ黙り込んだのだ。
「えぇ……?(何その反応……??)」
――あなたアリアのこと敵視してましたよね……!?
オコーゼの態度の急変にアベルは困惑し、眉を寄せる。
この数日の間に彼の中で心境の変化でもあったのだろうか……。
切なそうなその瞳――。
アベルはオコーゼ以外の他の誰かでも、同じ表情を見たことが何度かある気がした。
「じゃあアベルさん、しばらく不便かと思いますが、船が直り次第また連絡するッス!」
「あ、はい、わかりました。よろしくお願いします」
アジスキーが伝えることは伝えたから船に戻る、と、歩み板を上り始めてもオコーゼは動かず馬車を見つめていた。
「ん……? オコーゼ! ほら船に戻るッスよ!」
「あ、ああ……」
アベルが見送る中、アジスキーとオコーゼは二人で何やら話し込みながら歩み板を上って行く。
何を喋っていたのかははっきりしないが、微かに「諦めた方がいいッス」とアジスキーの声が聞き取れた。
……船に背を向け、アベルは名産博物館に戻ることにし歩き始める。
「……オコーゼさん。要警戒……、かな?」
――あの眼ぇ! アリアに恋してるんじゃ!?
アベルはオコーゼの馬車を見る瞳に、かつてアリアに懸想した男共が重なり口をへの字にする。
いつの間にアリアと仲良くなったというのか――。
オコーゼとアリアが仲良く話をしている姿をアベルが見たことはまだない。
とはいえ、アリアの傍にアベルが常にいるわけではないから見ていない時に仲良くなった可能性は大いにある。
「……にしてもいつの間に……?(アリアが浮気するはずないし……)」
「アベル」
歩きながら腕組みして首を捻るアベルに、馬車からアリアが顔を覗かせた。
「ん……? あ、アリアもう起きたのかい?」
「ん、だんなさまが起きてるのに一人で寝てるわけには……」
アベルは足を止め、アリアの様子を窺いに行く。
彼女は着替えを済ませ、髪を二つに分けて結んでいた。今日は耳の下辺りで結んだツインテールスタイルだ。
「寝てていいのに。身体辛いでしょ?」
――二つに結んだ髪型も可愛いな……♡
アリアの頬に手を伸ばし、アベルがそっと触れると彼女は猫のように頬を摺り寄せてくる。
白く滑らかな柔らかい頬は温かく、アベルはその感触に目を細めた。
「ん~、少しね。でもさっきまで眠ってたからちょっと回復したよ」
「そっか、よかった。これから名産博物館に戻って今後の方針を話し合いたいんだけど出られそうかな?」
「うん!(私、ちょっと体力付いたみたいなんだよね~♪)」
「よし、じゃあ戻ろう!」
アリアは少し気怠さが残っているようだが、声に張りもあるし顔色も悪くなさそうだ。
少し慣れてきてくれたのだろうか――。
アベルが馬車を引いている間、キャビンでアリアがせっせと筋トレをしていることは馬車
◇
「……というわけで、博物館に戻って来たんですが……」
「そうか……、何も手掛かりは掴めなかったと……」
「ええ……」
名産博物館に戻ったアベルはゆうじいにこれまで集めた情報を報告していた。
と言っても、大した情報はない。
殆どの人々が“明けない夜”について気付いている様子がなかったのだから。
「で、家具職人はどうなったんじゃ?」
ゆうじいの質問にアベルの目蓋がぱちくり。
「あ、それもまだ……。家具職人を紹介してもらおうと、以前お世話になった大工も訪ねたんですけど扉を開けてくれなくて」
そういえば――。
オラクルベリーを訪れた際、世界が闇に覆われた事実に気を取られてすっかり忘れていたが、アベルは家具職人のことを思い出し、町外れに住む大工を一応訪ねてはみたものの、家の扉はカギが閉まっていて開かなかった。
今、最優先は朝を迎えること――、ゆうじいには悪いが【展示台】の修理は後回しにさせて欲しい。
「うーむ……。夜じゃと皆寝ておるのかもしれんしなぁ」
「夜といってもみんな何日も経ってることに気が付いていないんですよ? さすがに寝過ぎなのでは?」
ゆうじいがふさふさの髭をもてあそびながら告げると、アベルは人々の時間感覚がおかしいと言及する。
アベル自身も時間感覚が多少狂っている自覚があるので、今日が【やみのランプ】が壊れてから何日目なのかははっきりしない。
だが博物館を出てから七回は眠っているため、七日以上経っていることはわかっている。
しかも、【やみのランプ】が壊れた現場はここ、名産博物館だ。
――ゆうじいもわからないわけはさすがにないよね……?
そう思いアベルがゆうじいの様子を見ていると――。
「ほう? わしも同じじゃけど?」
「え?」
「わしゃ、死んでから時が止まったようなもんじゃ。毎日朝が来て夜が来ての繰り返しなだけじゃ。今が今日か昨日か、夜が訪れてから何日経っているのかなんて気にしたことないわい。なにせ自分の名前すら忘れるくらい長い年月ここにおるからな。そんなことは館長が見つかった今、どうでも良いんじゃよ。ざっくりざっくり。それより早く展示台の修理をせんとじゃな……」
……なんとゆうじいはそもそも時間の感覚など無かった。
「アハハ……」
「笑ってる場合じゃないぞい。わしはいいが、お前さんが歳を取ってしまうと困る。せっかく見つけた館長じゃからな。お前さんが若い内に修理して欲しいもんじゃ。オープンもせずに死なれたら、二代目館長を待たなければならなくなるからの。待つのも骨が折れるんじゃよ……わし、死んで骨も肉体もないけど……」
苦笑いするアベルにゆうじいは眉を顰める。
自分はすでに死んでるから歳を取らないが、アベルが老いて死んでしまってはまた途方もない時間、新たな館長を待つしかないのは遠慮したいらしい。
「あ、それはもちろんなんですけど、世界が闇に覆われたままなのでそちらを優先したいなと……」
「何を悠長なことを言っておる。そんなものは同時進行すればええ」
最優先は朝を迎え――と思うアベルの腕をゆうじいはぽんと叩き、にこりと微笑む。
希望に満ちた瞳で見上げられたアベルは事が事だけに息を呑んだ。
「っ……そんなこと言われても……。手掛かりが何もないんですよ?」
単純に魔物を倒せば終わる――というのならすぐにでも倒しに行くが、今回は違う。
【やみのランプ】を直し、空を正常に戻さねばならない。
だがアベルに【やみのランプ】を元に戻す力はない――。
できることと言えば修理できる家具職人を探すくらいで、過度な期待をされても困る。
アリアが励ましてくれたから鬱々とした気持ちからは立ち直ったが、問題が解決するまではどうしても不安は付きまとう。
……アベルの表情は硬く、瞳は惑うように揺れた。
「数々の名産品を手に入れてきたお前さんなら、どうにかできるじゃろ?」
「えぇ……? 僕にそんな根拠のない期待を寄せられても……」
「なあに、そう構えずともええ! お前さんがどうにかできなくても、数年後には朝が来るじゃろうて! ふぁっふぁっふぁっ!」
アベルの気持ちを知ってか知らずか、ゆうじいが明るい笑顔で笑い飛ばす。
自らの志を受け継ぐ男が現れたからか、ゆうじいには何の憂いもないらしい。
ただただ、名産博物館のオープンを心待ちにするのみである。
ゆうじいはウッキウキ。
オコーゼのエピソードはその内~。
活動報告に書いたのでここでは簡単にご挨拶ってことで、あけおめ、ことよろです!
今年も完結に向けてがんばりまーす。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!