前回のプチあらすじ>占いババから芳しい加齢臭がして……。
内なる闇。
では、本編どぞ~。
「そうですか……。では、お身体に気を付けて……ありがとうございました!」
――ああ、一刻も早くアリアの匂いを嗅ぎたい……!!
アベルの鼻腔が占いババ臭で満たされ、何となく居心地が悪い。
“必要な情報は手に入れた、一刻も早くここを立ち去らなければ……!”アベルは立ち去ろうと不自然にならないよう僅かに微笑み紳士に振る舞う。
アベルの後ろではアリアも頭を下げていた。
「おぬし……やはりイケメンだの。わしもあと150年ほど若ければ……」
「いや、遡り過ギィー!」
アベルの爽やかな笑顔に占いババの瞳がキラキラと輝いている。
暗い夜だというのに目が輝くとは……、しかも150年ほど若ければという言葉――占いババはいったい何者なのだろうか。
占いババが人間かどうか疑わしいが、とりあえずアリアはツッコんでおいた。
……するとアベルがくるりと振り返り、アリアの手を握る。
「占いババが若返っても、僕は浮気しないから大丈夫だよ、アリア♡」
――あぁ……、やっぱりこの匂いが大好きだ……♡♡
アベルはアリアを見下ろし、そっと彼女の頭に顔を近付ける。
頭頂に軽く口付け、彼女の髪の匂いを嗅いですぐに離れた。
「いや、そんなこと全然気にしてないよ!?(今頭にちゅーした……!?)」
浮気――そんなことより、150年前って凄くないですかね?? アリアは疑問に思うのだが、アベルが特に気にしている様子はない。
頭にキスを落とされ恥ずかしくなった彼女はサッとアベルから距離を取った。
「えー、気にしてよー」
「も~、ほら、アベルもう行こうよ(人前でちゅーなんて恥ずかしいよ……!)」
アリアは恥ずかしかったのだろう、占いババに会釈し早々に立ち去ってしまう。
「ちょ、待ってよアリア!」
「おぬし、ちょいとお待ち」
「え?」
アベルもすぐに後を追おうとしたが、呼び止められて足を止めた。
幸いここは町中だし、ピエールがアリアに付いて行ってくれたため問題はない。
アベルは占いババに振り返り、首を傾げる。
「結局あの娘と結婚したんだね。わしはやめておけと言ったはずじゃぞ?」
「……僕には彼女しかいないんです」
いったいなんの話かと思えば――。
そういえば以前ヘンリーと共に訪れた時にもそんなことを言われたっけ……。
占いババの言葉にアベルは穏やかに微笑んでみせた。
「ふぁっふぁっふぁっ、そうかえ? それじゃあしょうがないのう。一言だけまた忠告しておこうかね」
「え?」
アベルの答えに占いババが不快感を示すかと思われたが、彼女は愉快そうに笑っている。
“それじゃあしょうがないのう”の一言には未来が見える占いババならではの想いが込められていた。
……占いは所詮占い――。
未来を選択するのは占われた本人たちである。
どんな占いも、すべてがその通りになるわけではない。
占った瞬間、選ぶ道を変える者もいれば、その通り歩む者もいる。
占った通り歩んだとしても違う結果が出る場合だってある。
当たる当たると言われる占いババだが、当たらない方が良いと思う時も往々にしてあるのだ。
忠告はしたが、アベルの選択が間違っているとは思えない。
どんな占いも、皆その先は幸福に繋がっていて欲しい――、占いババが占いを続ける理由はそこで……彼女はアベルに続けた。
「あの娘……記憶は一部戻ったようじゃが、そのせいで内なる闇が以前より濃くなった。内なる闇は今後も濃くなっていくじゃろう。闇を払う術はないが、あの娘が自身でどうにかするしかない。おぬしの愛がいざという時あの娘のチカラとなれるよう……大事にしておやり」
――あの娘の未来は真っ黒でさっぱり見えなんだ……。
詳しく占ったわけではないが、以前見た時は過去と近々の未来が見えたのに、今夜一見したアリアの未来は得体の知れない闇に包まれ、占いババは見ることが出来なかった。
それでも目の前のアリアは笑顔だったし、アベルも笑顔――。
二人が笑顔ならば何も言うことはない――いや、何も言えることがないから仕方ない。
ありのままに伝えておくしかないだろう。
(そういえば昔にもそんな男がいたっけな……、あれはなかなかいい男じゃった――。)
……占いババは昔占ったある男を思い出しつつ、一応見えたアリアの過去と、闇のことだけは伝えておいた。
「……はいっ!」
アベルはわかってるのかわかっていないのか……、ともかく明るい声で返事をする。
「ああそれと、おぬしも闇を抱えたようじゃな?」
「え……な、なんのことで……?」
ふと鋭い目がアベルを射抜き、アベルの肩がビクリと揺れた。
「……腕に刻まれた印は根を張りおぬしの身体に侵食しておる。時々痛むじゃろうが……、都度回復させることはできる。ただ、印自体はどうすることもできん。すべてはおぬしの心掛け次第でどうとでもなる、最善を尽くせ」
占いババはアベルの反応に気付いているようだが、特に何も突っ込んでくることはなく、淡々と話してはアベルに厳しい目を向けている。
「っ……」
……アベルは左腕を掴みながら息を呑んだ。
その目は宙を彷徨い、占いババと視線が絡むことがない。
掴んだ腕がなんとなく痛む気がする……。
「……いやはや一言のつもりが二言になってしもうたな。今夜は喋り過ぎたようじゃ、わしは疲れた……またな」
「あ、はい……また……」
言い終えた占いババは鋭い視線を止めにして、アベルにニヤリと笑い掛ける。
……そうして腰をトントンと叩きながら占いババが見送る中、アベルはアリアを追った。
闇とは何なんでしょうね~。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!