前回のプチあらすじ>ブラウニーの犠牲に感謝し、さて次は。
クッキーってなにさ。
では、本編どぞ。
「おいクリエ、19枚で良かったのか? 30枚くらいあれば今後何かと便利じゃ……」
「いや~、こないだ乱獲しちゃったじゃん? おおきづちめっちゃ減っててびっくりしてさ……」
シドーが武器を背に背負いながら訊ねるとクリエが微苦笑して妙なことを言いだす。
“乱獲……?”と、アベルとアリアは互いに顔を見合わせ首を傾げた。
「あー……しろじいを思い出して腹いせに滅多切りしたんだっけか……ついでに毛皮ゲットって?」
「なっ、そ、そんな幼稚なことボクがするとでも!?」
「ハハハッ! ここへ来た理由の半分はしろじいのせいだもんな。まあ気持ちはわからんでもない」
「いや、だからそんな八つ当たりなんてしてないって……!」
やだなぁ~、とクリエがぷくっと頬を膨らましシドーの腕を叩いている。
叩かれたシドーの口角は上がり目は弧を描き優し気だ。
……会話の意味はよくわからないがこの二人はいつも仲が良さそうである。
「……ね、アベル。今乱獲って言ってたよね……、メッタ切りって……?」
「……うーん……魔物ならその内増えるだろうし、気にしないことにしようか。深堀りしない方がいいと思う」
「……うん。気にしない方が良さそうだね」
……乱獲と滅多切り。
中々に物騒な単語である。
その単語を出しじゃれ合うクリエとシドー……。
アベルとアリアは【おおきづち】の数が減った理由を察し、クリエとシドーにあまり深入りしてはいけないと感じた。
「あと足りないものは木材だっけ。オルソーさんに……」
さて、【毛皮】が揃ったのであればもう洞窟にいる必要はない。
お次はどうするか……。アベルは【木材】の入手ならオルソーが役立つだろうと提案しようとした。
ところが――。
「そっちは名産博物館の近くで調達できるから問題ないよ。オルソーさんも必要なし!」
「そうかい? 彼ならすぐに融通してくれそうだけど……」
クリエがはっきりとオルソーは不要と言い捨てる。
その表情がどうにも嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。アベルはなぜそんな顔をするのか首を傾げた。
「オルソーさん、ボクと会うとすぐ料理対決しようとするから困るんだよ……すっごいギラギラした眼で訴えてくるから断りづらいし」
「そうだったんだ?」
「うん……審査員が泡噴いて倒れちゃうからね~……」
「あぁ……そういえば大工さんがオルソーさんの作った菓子を食べて倒れたことがあったね……」
……どうやらオルソーはクリエと会う度料理を競いたがるらしい。
修道院にいた頃、アベルは一度オルソーの家にクリエと大工を連れて行ったことがある。
オルソーはアベルたちに出会う以前にポートセルミでクリエと出会っており、二人はすでに顔見知りだった。
顔見知りなら話も早いかと思い、互いの紹介もそこそこに必要な資材を確認しようとしたが、料理に目覚めていたオルソーはまずはクリエと料理対決をしてからだと言い出し、急遽料理対決を始めてしまう。
『よし、嬢ちゃん! 今回はクッキー対決だ、いざ勝負……! 話はその後な!!』
オルソーが熊の如く腕を振り上げ、襲い掛かりそうな勢いでクリエに爛々とした瞳と白い歯を見せつけると、クリエはため息を吐きながら「はいはい」。眉間に皺を寄せ自らの【ふくろ】から【クッキー】に必要な材料と、【やくそう】と【どくけし草】、見慣れない【まんげつ丸】という黒い丸薬を取り出し、大きなテーブルで調理を開始した。
オルソーもテーブルを挟んだクリエの向かい側に位置を取り【クッキー】作りを始める。
『料理対決が終われば聞いてくれるはずだ。待つか……』
少々憂鬱そうな顔をしたシドーが「また始まった」とオルソーの家のベッドに横になるので、アベルと大工も仕方なく見守ることにした。
しばらく待ってそれぞれに焼き上がった【クッキー】をアベルと大工とシドー、そしてオルソーの四人で食べる。
まずはクリエの作った緑の【クッキー】から食べたが、安定の美味さ。
……修道院で作業があるため今回同行できなかったアリアに土産として持って帰りたいくらいだ。
アベルもシドーも大工もにっこり。
対戦相手のオルソーも「うめえうめえ」と夢中で貪っていた。
クリエがお茶まで淹れてくれて大満足――さあじゃあ本題に入ろう……! オルソーを除く誰もがそう思ったが、オルソーがニコニコと上機嫌に自ら作った【クッキー?】を差し出してくるので食べてやるしかない。
……お次はオルソー作の【クッキー?】の番だ。
なんだか黒っぽいような緑っぽいような、カビが生えているような……臭い自体は香料を入れているからか、少し焦げた臭いが混ざっていたがそこまで悪くなかった。
問題は味――。
アベルはオルソーのメシマズを知っている。
そしてアベルの隣で手にした【クッキー?】を睨み付けるシドーも恐らくわかっている様子……。
アベルとシドーが警戒しながらクマの形の【クッキー?】の端っこを少しばかり齧る。クリエは食べなかった。
同時、なにも知らない大工は「薬草入りのクッキーかな? 身体に良さそうだ」なんて言って、こともあろうに一個まるまる口に放り込んだ。
……結果はオルソーを除く三人が【どく】と【麻痺】におかされ、大工に至っては泡を吹いて倒れ意識を失うほど――身体に良さそうなんてとんでもない話である。
クリエがあらかじめ用意しておいた【やくそう】と【どくけし草】、【まんげつ丸】でもって即時回復させてくれたために事なきを得た。
オルソーは涼しい顔で「また負けかー。今回は上手くいったと思ったんだがなぁ?」などと、大量に残った【クッキー?】を自ら
『嬢ちゃん、また勝負しような! で、材木の種類を確認したいんだっけか?』
一勝負終えたオルソーはぐったりした様子のアベルたちをよそに、独り元気にさっさと本題に入った。
……そのことを思い出したアベルはいまさらながらにアリアを連れて行かなくてよかったと安堵した。
「それって、ひょっとしてアベルが夜に熱を出した日のことかな?」
「うん。毒と麻痺はすぐ抜けたんだけどね、夕方から急に熱が出て腹痛と下痢が夜中から翌朝まで続いて辛かったよ。まあ、あの日は久しぶりにアリアとずっと一緒にいられたから、僕にとってはいい思い出なんだけどね」
「うわぁ……そうだったの……それはおつかれさまでした……」
「ははは。アリアが食べなくてよかったよ」
その日はアベルがぐったりした様子で修道院に戻って来ており、夕方から高熱に苛まれ、アリアはアベルの熱が下がるまで付きっきりで看病している。
熱でうなされるアベルに代わってクリエたちに事情を聞いたが、症状は消えているとのことで、時間差で現れた高熱と腹痛、下痢は疲れのせいでオルソーのせいだとは思っていなかった。
真夜中、アリアがアベルの隣のベッドで仮眠を取っている間にアベルはトイレに駆け込み、
“ぅぅ、神さま……、ぅぅぅ……。”
……何度も祈りを奉げて腹痛と戦ったのだ。
夜明けぎりぎりまでトイレで過ごし、どうにか腹痛に打ち勝っている。
大工も隣のトイレで唸り声を上げていたが、シドーは胃腸が丈夫なのか来なかった。
『オレの居た世界にルルってヤツがいてな……、慣れてんだ』
トイレを出たところでシドーと出会い訊ねたらそう言われたが、その【ルル】という人もオルソー並みの料理ベタということなのだろうか……。
……オルソーの作ったものは恐ろしい。
見た目だけはマシだったり臭いだけはマシだったりするが、味だけはなかなかどうして美味くはならない。
唯一【ホットケーキ】だけは食べられるのだから、それを極めれば良いというのに、他に手を出すからいけない。
「……ふふふっ。オルソーさんの作ったものは武器になりそうだね」
「えぇっ?」
くすくすと笑いだすアリアにアベルは怪訝に眉を寄せる。
「上手く調整すればいいものが作れそう。魔物と戦うのに使えそうじゃない? 魔物が好みそうな匂いを付けて食べさせれば、毒と麻痺と高熱と下痢でしょ? 状態異常のフルコースよね!」
「状態異常のフルコースって……」
「食べさせればこっちのもの。魔物は戦えなくなるだろうから、その間にサクッと倒しちゃうか逃げちゃうか。これもう、アイテム化してもいいと思う。すごい才能だと思うの! “闇のクッキー”って名前なんてどうかな? “人間は食べてはいけません”と書いて旅人に売れば儲かるんじゃない?」
「ぁ……アリアって……」
――ポジティブ過ぎない……!?
アリアの発言にアベルは苦笑いを浮かべる。
魔物にあの刺すような腹の痛みを味わわせ、その間に倒す……なかなかに鬼畜な所業かもしれない。
確かに使えそうだが見た目だけ良い、もしくは匂いだけ良いものを【ふくろ】に入れれば、間違えてうっかり食べてしまうことだってあるわけで。
……全滅のリスクが伴うからそれは遠慮したいものである。
「そんなわけだからアベルお兄さん、オルソーさんのところになんて行ったら丸一日無駄になっちゃうよ。急いでるんでしょ? さっさと博物館に戻ろ。戻って次は木材を手に入れて炎の戦士をさがしに行かなきゃ。やることはいっぱいあるんだからね!」
「そうだね、そうしようか」
クリエが次の目的地は名産博物館だと行く先を決定する。
アベルは今回も行く先はクリエが決めてしまうのだなと思いつつも、アリアも「はーい!」と元気に返事をしていたので快諾した。
オルソー作“クッキー?”は敵一体に状態異常を付与する(しかも一度治しても時間差で腹を下すという呪い付き)という魔のアイテムということで。
ちなみにクリエちゃんが作ったのは混乱予防の【理性のクッキー】で予め予防しております。
次回は名産博物館へ戻りまーす。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!