前回のプチあらすじ>木材を集めていたクリエとシドーが戻って来て……。
少年シドー……その正体とは。
「おかえり~! もう木材を手に入れてきたの?」
「うん、バッチリ~♪ 見る?」
「早ーい! すごーい!」
アベルに代わってアリアが木材について訊ねると、クリエは自分の【ふくろ】を掴んで白い歯を見せた。
【ふくろ】を開けて中を見せびらかせばアリアの目が見開かれ、感心した様子で小さく拍手する。
“整理整頓ができてるー……!”
ぼそっと零すアリアの呟きが聞こえたアベルは“僕もそろそろ整理しようと思ってたところだし……”と、唇を尖らせた。
「フフッ! ボク仕事が早いんだよ。さあ、ちゃっちゃと展示台を作っちゃうね。それが終わったら船に行こうか」
「おお! 早速作ってくれるか!」
「うん、半日も掛からないと思うよ。展示室で作業させてもらうね。アベルお兄さんとアリアお姉さんは作業が終わるまでゆっくりしててねー」
アリアに確認してもらった【ふくろ】を仕舞い、クリエは早々に一階の展示室へと歩いていく。
ようやく【展示台】が直ると喜びに震えたゆうじいが、期待に満ちた瞳で展示室に向かうクリエを見送った。
「あっ、クリエちゃん!」
――話は聞かせてもらったって言ってたけど言及なし……!?
アベルが名前を呼んだがクリエは既に一階の展示室に入ってしまい、ここ、ロビーにはいない。
いったいさっきの一言はなんだったのだろう……。
「……船が動かないんだってな」
……クリエが消えた展示室の扉を見つめるアベルに、後ろからシドーの声が掛かる。
「……あ、ああ……。けど何日か経ってるし、もう不具合が解消されてるかもしれないけどね」
そういえばシドーはクリエと一緒に展示室に入って行かなかった。
常にいつも一緒というわけではないというのか――。
初めて出会った時もそうだったっけとアベルは思い出していた。
「ふーん。クリエの作業に時間が掛かるし、船に行ってみるか?」
「え? 君が?」
「なんだよ、おかしいか?」
「あ、いやそうじゃないけど、君も修理ができたりするのかい?」
「いや? オレはほぼ破壊専門だな。けど、クリエの作業中はオレもヒマだし、アベルたちに付き合ってやろうかなって」
……クリエの作業中、シドーは暇を持て余しているらしい。
いつもなら素材集めなんかで時間を潰すのだが、先ほど木材も調達してしまったため、今は特にこれといって必要なものはないのだそうだ。
修道院の修繕中も資材運搬が終わればクリエの傍をウロウロし、クリエに「シドー君、助けが必要な時は呼ぶから向こうに行っててね~」とやんわり注意を受けている。
だがやはり何度もウロウロするので、見かねたアリアが「おいで」と彼を食堂に連れて行き、菓子を食べさせたりパン生地を捏ねさせたりした。
焼き上がったパンにシドーはそれはもう嬉しそうに破顔し、皆に配って回り自慢していたのがつい昨日のことのように思い出される。
「うん、行こっか! 私、シドー君に訊きたいことがあるんだよね」
「え?(ちょ、なにアリア、シドーの手をなんで握るんだ!?)」
アリアがにっこりと口角を上げシドーの手を握ると、アベルの目が見開かれた。
「へえ? アリアはなにが訊きたいんだ」
「えっとね、シドー君て破壊し――」
“シドー君は破壊神シドーと関係がありますか――?”
アリアがそう訊ねようとしたその時。
シドーは素早く繋がれたアリアの手を引っ張り、バランスを崩させる。
前のめりになった彼女の腰を掴むと今度は軽々持ち上げ肩に担いだ。
「――ぃぃんんぇえぇぇええええっっ!?(ちょ、なになになにっっ!?!?)」
「アベル! クリエに船に行って来るって伝えてくれ! 先に行ってるな!」
アリアを肩に担いだままシドーはアベルに伝言を頼み走り出す。
アベルが返事をする間もなく外扉が開き、突然肩に担がれ困惑するアリアとシドーの二人は闇夜に消えた。
……あまりに一瞬の出来事でアベルは動けず、シドーを止めることができなかった。
「……えっ、ちょっとぉっ!? シドー!」
――アリアが拐われた……!?(何回目だ!?)
なぜ自分の妻はよく拐われるのだろう……、アベルは引き留め掛けた手を下ろす。
……完全に出遅れてしまった。
ピエールとプックルも出遅れ、どうしたものかとアベルの指示を待つようにその場に留まる。
船に行くと言っていたのだから、直ぐ近くだ、シドーがいればアリアが怪我をすることはないだろう。
サンタローズの洞窟でのシドーの戦いっぷりは見事なものだった。ピエールとプックルもそれを知っているからすぐに追いかけなかったのだ。
……少々不服ながらもアベルはシドーに頼まれた伝言をクリエに伝えるべく展示室に向かった。
◇
アベルがクリエに伝言を伝えに行っている間、シドーはアリアを抱え夜の森をすたこら歩いて行く。
ザッザッザッと地面の砂が撒き上がる中、シドーは名産博物館をちらと振り返りまた黙々と歩き出した。
「――ドーくん……ねえシドーくーん! 下ろして~!」
「……ここまで来ればいいか……」
「なに? どういうこと? わっ!?」
先ほどからアリアが何度も下ろすように訴えていたが、シドーはしばらく森の中を歩き、名産博物館からかなり遠ざかるとようやく肩から彼女を下ろしてやる。
急に地面に下ろされたアリアは大木の根に尻餅をついた。
「アリア、オマエ何者なんだ? なんでオレが破壊神だってことを知っている!?」
「いたたた……え? あ、私も異世界から来てるから~って、シドー君はやっぱりあの破壊神シドーなのっ!?」
アリアを挟むように、眉間に皺を寄せたシドーの腕が大木に突き付けられる。
尻を打ち付け擦っていたアリアはシドーの言葉に大きな声をあげた。
「ん? あ、しまった」
「ん?」
「……半信半疑だったのか?」
「うん、破壊神シドーの関係者かなー……くらい? 語るに落ちるだねえ」
シドーが口元を覆って眉根を寄せるとアリアはにっこりと微笑む。
「っ、くそっ! オレとしたことが……!」
「あはは、大丈夫だよ。破壊神シドーのことは私しか知らないから」
忌々しそうに大木に突いた手を離すシドーは ばつが悪そうに頭を掻く。
その後で気まずそうに頬を膨らましアリアを見つめた。
ドラクエⅡに出てきた【破壊神シドー】が、まさか目の前のカッコカワイイ少年だとは思ってもみなかったアリアの瞳には、顔を顰めるシドーが映っている。
――この子があの破壊神シドー……の化身……的な感じなのかな……?
アリアにはどういう理由で破壊神シドーが少年の姿をしているのかはわからないが、目の前の少年から邪気は感じられない。
少年シドーとは修道院でもそれなりに交流し、気心が知れた仲である。
ゲームで見た破壊神シドーの巨体なら恐ろしいが、今の姿では恐怖を特に感じることはなかった。
語るに落ち、居心地が悪そうに頬を膨らます様が可愛く思えてしまう。
「……アベルには話していないのか?」
「ん? うん。アベルにはまだ話してないよ」
「そうか。ならいい」
「ん? どうして? アベルも私が異世界から来たって知ってるから、話しても大丈……」
はて、なぜ今アベルの話が出るのだろう……。
アリアには理解ができないもののシドーは腕を組み、独り納得したように深く頷いてから口を開く。
「……アベル……アイツ、前となんか違うと思わないか?」
「え、そうかな……? 前って……修道院にいた時とってこと?」
「ああ、なーんか妙なもんに取り憑かれてるような……」
「ええっ? 気のせいじゃない? アベルいっつも優しいし、えっちだし、なにも変わりないけど……――っ」
神妙な顔でシドーが云わんとすることの意味が、やっぱりアリアには理解できない。
修道院にいた頃と今……、考えてみたがアベルに変わった様子は特にない。
性格は優しいままだし、行動も言動も一貫しているように思えるのだが――。
――ていうか、取り憑かれてるとかやめて~~!!
アベルが幽霊にでも取り憑かれていると思うとぞっとする。
アリアはぶるぶると身震いをした。
「ん? “えっち”ってなんだ? クリエもたまにそれ言うんだが、オレには教えてくれないんだ。なあ、えっちってなんなんだ?」
「っ、なんでもないよ!? っていうかシドー君、あなたとクリエちゃんはアレフガルドから来たの? いや、でも破壊神シドーはハーゴンに呼び出されたから……ロンダルキアの先の――」
――わおっ! 薄々感じてたけど、シドー君はまだそっちには目覚めていないのね……!
アリアの身震いに気付かないシドーは“えっち”の単語に興味津々の様子で食いついてくる。
キラキラした瞳で答えを待つ姿に、アリアは慌てて話題を変えることにした。
シドーくんの正体って何気にビルダーズ2のネタバレですね……スミマセン。
いや、いまさらなんだけども。
※クリエはDQB2をクリア済みという設定です。
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!