前回のプチあらすじ>オコーゼに舌打ちされたアベル。
アベルがいれば一安心。
では、本編どぞー。
オコーゼに一瞬舌打ちされた気がしたアベルは首を傾げ、歩板が下ろされるのを待つ。
「アリアは着いてるかな?」
下ろされた歩板を上り乗船すると、アベルは早速アリアについて訊ねた。
「あ、ああ。さっき行商人たちと……」
「行商人……? あ、クリエちゃんたちのことかな」
「……クリエ……、確かそんな名だったような……。行商人なら動力室にいるぞ。食堂の下の階だ」
アベルたちが乗船し終え、オコーゼは下ろした歩板を仕舞いながら質問に答えていく。
「そっか。じゃあ僕も行ってみるよ。ピエールたちは待機ね」
――アリアもそこにいるよね。
クリエたちは船内にいる。そう聞いたアベルは当然アリアも一緒だと思っており、合流しようとピエールたちに待機を命じ甲板を歩きだした。
……早くアリアの顔が見たい。
シドーもクリエも付いているのだ、無事だということはアベルもわかっているが直接見て無事を確認したい。
妻に会いたい一心で足が自然と急いた。
「……ああ、動力室に行くといい」
――アリアは今そこにいないが、な。
動力室に向かうアベルの背を、歩板を仕舞う作業を終えたオコーゼが見送りくすりと笑う。
先ほど自らと二人で会うためにアリアはクリエたちから離れ、特別室に一人で入って行った。
歩板を仕舞いながら横目に確認したから間違いない。アイコンタクトもしていってくれたのだ。
(今アリアは特別室で一人、俺を待っている……。)
船は当分の間動かないだろう。
メンテナンス担当のウッツボがそう言っていたのだから間違いない。
少しでも自らと秘密の逢瀬を楽しみたいアリアの想いに応え、特別室に行かなくては――。
……オコーゼの見解は間違いだらけだ。
実のところアリアはオコーゼから逃げただけで、アイコンタクトも様子を窺い確認しただけである。
勘違いも甚だしいオコーゼは上機嫌でアベルに背を向け歩きだす。
「――……あ、そうだ。オコーゼさん、悪いんだけど見回りついでにこれを特別室に持っていってもらってもいいかな?」
「っ! 特別室……? 入っていいのか?」
不意にアベルが振り返りオコーゼを呼び止めた。
“どきり”、オコーゼの鼓動が強く波打ち息を呑む。
特別室に行くつもりではいたが、あの部屋には雑用係のイカスキー以外、基本的にアベルたちのみしか入室を許されていない。
あそこはアベルたちがいる限り、見回りをする必要がない安全地帯――。
つまり用心棒のオコーゼには用のない場所である。
入室許可をアベルから貰えるのなら願ったり叶ったりだ。
……そんなことを考えるオコーゼに、アベルが【ふくろ】から見たことの無い
【すごろくかざり】……というものらしい。
オコーゼはカジノ船にあった【すごろく場】を小さくしたようなものだなと理解する。
「ん? 構わないよ。一階のテーブルに置いておいてもらえればいいから」
「……わかった」
アベルは【すごろくかざり】を手渡すと再びオコーゼに背を向け立ち去った。
……アベルを見送りオコーゼも移動を開始する。
「……お嬢……いや、俺のアリア。今行くからな……!」
アベルが向かうは動力室、オコーゼが目指すは特別室。
アリアのいる現在地は特別室二階――。
……オコーゼは久しぶりに感じるスリルに心を躍らせ特別室に向かった。
◇
オコーゼと別れ、アベルは一人動力室に向かっていたのだが、食堂階に下りたところでクリエが下の階から上がって来る。
「あ、アベルお兄さんやっと来た~! 遅かったねー」
「クリエちゃん。あれ……アリアは? 一緒だったんじゃ……」
階段を上がって来たのはクリエ、シドー、ウッツボの三人だけ。
そこにアリアの姿はなかった。
「アリアお姉さんなら食堂か甲板にいるんじゃない? あ、そうそう。船が動くようになったよー」
「えっ!? 本当かい!? クリエちゃん、君ってすごいなぁ!」
クリエがアリアの居場所に検討を付け、いつもの明るい調子で船が直ったと告げてくる。
この少女はなんでもできてしまうのだな……なんて、アベルはアリアの居場所が気になりつつもまずはクリエを褒めた。
「えっへっへ☆ なんかボクが探してたカケラが動力部に挟まってて魔力の流れを妨げてたみたいなんだ。取り除いたら動くようになったよ」
「そうだったのか……、カケラが……。よかったね。じゃあ僕はアリアに会って来る。それから出発しようか」
朗らかな笑みを浮かべ「みっつめー☆」と指を三本立てるクリエにアベルも目を細める。
……彼女らの探す“カケラ”が見つかってよかった。
アベル自身もそうなのだが、世界中を渡り歩かなければ見つからないものを探す旅は中々に過酷だ。
目的は互いに違うとはいえ、クリエたちの望む“カケラ”が早く揃うといいなと願わずにいられない。
それはそうとアリアに会わなければ。
船が動くようになったと早く知らせてやりたい。
ちらっと食堂の奥にも目を向けたが、アリアの姿はやはりない。
甲板にいるのか、部屋に戻ったのか……。
船で迷子になっていたとしても、歩板は仕舞ってある。
アリアとはすぐに会えるだろう。
「おっけ~☆」
クリエの返事を聞いてアベルは踵を返し階段を上がった。
◇
「はぁっ、はぁっ、あっ、アベルっ……!」
アベルがクリエたちと共に甲板を歩いていると、アリアが切羽詰まった様子で走ってくる。
……なんだかただならない様相だ。
「あっ、アリアっ♡ よかった……!」
アリアを見つけたアベルの表情が一気に明るさを帯び破顔。
アベルはアリアを受け止めるべく両手を広げた。
皆の前じゃ嫌がるかなと思ったものの、アリアがスピードを落とすことはなく――。
“ドンッ!!!!”。
アベルの腕の中へと体当たり、そのままの勢いで抱きついてきた。
「っ……ぅぅ……」
「っ? どうしたの……? もしかして泣いてる……?」
――アリア……震えてない……?
鼻を
……アリアの身体が震えている気がする。
「泣いてないよ……!? ちょっとホラーな出来事に遭っただけだから大丈夫」
アリアはぎゅぅっとアベルを一度強く抱きしめた後、ようやく顔を上げた。
その表情は笑顔だが目の端に涙が僅かに光っている。
暗くてわかり辛いが顔色も悪いような……。
「え……? いったい何があったんだい……? 怪我したりなんかは……」
どう見てもなにかあったよね――なんて、アリアの変化を目敏くキャッチしたアベルは、走って来たせいか彼女の少し汗ばんだ額に掛かる視界を遮る前髪を除けてやった。
……はっきりと顔を視認する、やはり僅かだが涙が滲んでいた。
だが。
アリアはともかく、クリエの探しているカケラが見つかってよかったよかった。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!