前回のプチあらすじ>アベルの懐に飛び込んだアリアは……。
アリアって相変わらず災難続きだよね。
では、本編どぞ。
「あっ、なんにもないよ。ふふっ♡ アベルに会えてうれしいだけだよ♡」
「っ……そんな可愛いこと言って誤魔化しちゃってさー……、言いたくないならいいけど。あ、そうだアリア」
「ん?」
「船が動くようになったよ」
アベルの眉が下がり、アリアが察したのか嬉しそうに微笑み再び抱きついてくる。
……そんなことをされてはアベルは追及などできない。
必要なら相談してくれるだろう、ここは妻を信用して――と、航海ができるようになったことを報告した。
「本当!? やったね! ぁっ……」
アリアがいつも通りの明るい笑顔を見せ、皆の前だったといまさら気付いた様子でアベルから離れる。
……頬が赤い。
「早速テルパドールに向かおうと思うんだけど、準備はいいかな?」
――もう大丈夫みたいだな……僕と一緒じゃなくて淋しかっただけか……?
アベルは「アリアは淋しがり屋なんだなぁ」……などといじらしい妻の姿につい口がにやけてしまいそうになりながらもなんとか耐え、次の目的地を告げた。
「うん、私ならいつでも……って、私はお部屋にいればいいのかな?」
「ああ、のんびりしてて。退屈だと思うから一階のテーブルにクリエちゃんに作ってもらった玩具を置いておいたんだ。スラりんたちと遊ぶといいよ」
……海の魔物は自分に任せておけばいい。
アリアの上目遣いにアベルは目を細める。
テルパドールの大陸に着いたらまた馬車移動だ。船上は馬車に比べたら広いし、アリアには快適に自由に過ごしてもらいたかった。
「ありがとう、アベル♡ 無理しないでね」
「……ああ、大丈夫だよ」
――こちらこそ僕の言うことを聞いてくれてありがとう……。
アベルの気持ちを理解しているのだろう。はにかむアリアにアベルの胸は痛む。
少し残念そうな表情は隠しきれていなかったが、それでもアリアがアベルの手を握ってくる。
指を絡めしっかりと繋いでいる……。
僅かの間離れていたことがそんなにも淋しかったのだろうか。
離れようとしないところが可愛くて堪らない。
……けれど、いつもと様子が違う。
いつもならアリアは恥ずかしがって、皆の前で手を繋いだりはしないはずなのだが――。
まるで誰かに見せつけるように、アリアは今度はアベルの腕を空いてる側の手でしっかりと抱きしめ寄り添っている。
彼女の柔らかく豊満な肉が腕を包み込む。
やっぱり少し様子が変だなと思いながらも、アベルからすれば妻のスキンシップは大歓迎。
これでもかと皆に見せつけながら船長室に向かうことにした。
「……。アリア、船長に出発するって言いに行こう」
急にアリアの柔肉を押し付けられ、アベルのアベルは多少の反応を見せつつ、アリアを伴い船長室へ。
「……うん!」
アリアはいつの間にかやって来たオコーゼを打見し顔を背け、その場を後にする。
……オコーゼはそれを不機嫌そうに唇を噛みしめ見送った。
(……よかった。クリエちゃんやアジスキーさんの言う通り、アベルが一緒なら何もして来ないみたい。)
アベルとアリア、二人の背後ではオコーゼがアリアを凝視――。
……ずっと見られているような気がする。
だが、特に何かしてくる様子はない。
頼もしい夫にぴったりとくっつきながら、アリアは自らに注がれる背後からの熱い視線を強制的に遮断する。
アベルが戦わなくていいと言ってくれるのは申し訳ないが、今回はありがたい。
先ほど遭ったことに比べれば、戦いのどさくさで物陰に連れ込まれるよりはスラりんたちと部屋で大人しくしているのが良さそうだ。
……アベルに連れられながらアリアは今し方の出来事を思い出していた。
◇
◇
◇
アベルが船に戻る前、アリアは一人で特別室に戻った。
……ストレンジャー号の特別室は二階建て。
一階はダイニングと書斎を兼ねた作りで、二階が寝室となっている。
航行中、アリアは非戦闘員である。
一日この特別室で過ごしたり、食堂へ手伝いに行ったり、船長とお喋りをしに行ったりと好きに過ごさせてもらっていた。
何日も船で過ごしていれば、いくら方向音痴のアリアといえど勝手もわかってくる。
エソスキーご自慢のおやつを手に、甲板で船を守るアベルたちへ差し入れすることだってあった。
アリアは全員に差し入れをして回り、オコーゼだけに特別何かした覚えはない。
なのにどうしてこうなってしまったのか……。
「スー、ハー、スー、ハー……アリアの匂いがするぞ……。どこだ……?」
鼻孔をスンスンと鳴らし、オコーゼが特別室二階、寝室の匂いを探る。
特別室――特に二階には雑用係のイカスキー以外、船員が入室することは殆どない。
にもかかわらず、オコーゼは手慣れたようにベッドの一つ、掛布団に手を掛け恍惚の表情だ。
「……(っ、なんて顔してるんですか……! ていうか名前の呼び方が変わってるし!)」
アリアはオコーゼのどこかトリップした怪しい目付きに血の気が引いた。
鼻の下が伸び、口からはヨダレ……目が逝ってしまっている……。
……完全に変態である。
「ア―リア♡ 俺の天使、いや女神っ……!! どこに隠れてるのかなぁ~~? この恥ずかしがり屋さんめえ~~♡」
オコーゼは布団を捲ったかと思うとクンカクンカ。布団に顔を埋めて匂いを探った。
もう匂いが薄っすらとしかしないんだよな……。などと姿の見えないアリアの目の前でアベルが使っているベッドを嗅いでいる。
「……(ひえぇぇ……レムオル覚えてて良かったぁ……!)」
――オコーゼさん! 早く目を覚まして下さーい……!
先ほど一階で物音が聞こえ二階の寝室にいたアリアは階段上から一階を覗いてみたのだが、オコーゼが何かに取り憑かれたように「アリア♡ アリア♡ アリア♡」と名前を連呼しているのを聞いてしまい、恐怖を感じてバルコニーまで退避した。
しばらくしてオコーゼは二階に上がり、「アーリア♡ 会いに来たぞ~♡ どこにいるのかな~? 出ておいで~♡」などと云いながら捜し始めるものだから、アリアは慌てて姿を消す呪文【レムオル】を唱える。
……誰もいない寝室で隠れる場所は限られている。
辺りを見回したオコーゼはすぐにアリアのいるバルコニーにまで出てきた。
幸い姿を消しているため見つかることはなく、オコーゼが「あれれ~? 俺のアリアはどこに行ったのかな~? 匂いはするのになぁ~?」と鼻をヒクヒクさせながら寝室へと戻り、ベッドを探っていた――というわけだ。
ベッドの下には当然誰もいない。
留守だと思ってくれたのだろうか。
……オコーゼはアベルのベッドに突っ伏し深呼吸を繰り返している。
もう片方のベッドに一切触れないのは、アリアの匂いを憶えているからなのだろう。
手付かずのベッドは実はアリアも使っていない。
なぜならアリアは殆どアベルと共寝しているからだ。
オコーゼは相変わらずスーハースーハー。
こんなキャラでしたかとアリアの目はまん丸に、そして鳥肌がさっきから止まらない。
このままここに留まり【レムオル】の効き目が切れたらどんな目に合うかわからない。
こんな身近に危険があるなんて思いもしなかったアリアの足はそろそろと後退り、静かに階段を下りた。
「……っ(アベルぅ……怖いよぉ……!)」
アベルに次ぐ変態と出遭ったと思ったアリアは、勝手に滲んだ涙を拭って特別室から逃げ出した。
……そうしてアベルと合流したのである。
「……魔物よりもこわかったな……」
「ん……?」
「あ、ううん。なんでもない(アベルの傍にいれば安心安心☆)」
アリアの呟きを聞き取れなかったアベルが優しい瞳で見下ろしてくる。
……旅の仲間同士でいざこざなどごめんだ。
アベルもたまにアリアの脱いだ下着をクンカクンカしたり、被ったりしているが、変態行為は好意のある者同士なら受け入れられる。
が、それ以外は受け付けられないものなのだ。
……その後アベルはアリアと共に船長に報告――。
船は動き出し、砂の大陸テルパドールへと向かった。
さらっとアベルの変態エピを披露しつつ、これにて名産博物館編、終了です!
わ~い! 終わったー!!
長かったー!(歓喜!)
いや、問題は解決してないですけども。
次回よりテルパドール編開幕です。
また迷走していきますよー。
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!