前回のプチあらすじ>砂漠のオアシスのテントではおじいさんがハンモックで寝ていたよ。
井戸にマスク男が。
では、本編どぞ。
「そうだね、ここで休ませてもらえれば ありがたかったけど無理そうだね」
「うん、人数も多いし……迷惑になっちゃうものね。キャンプにした方がよさそう」
「うん……、キャンプにしよっか」
見たところこのテントには宿泊できるような設備はなさそうだ。
寒いが外で火を焚けば何とか眠ることはできるだろう。
――寒いから堂々とアリアにくっつけるし、キャンプ一択……!
仲魔たちの前ならいざ知らず、クリエとシドーの前だ、アリアに手を出すことはできない。
なれどくっつくくらいはいいはず――。
「こんばんは……、外でキャンプさせてもらいますね」
アベルは今夜はキャンプすることにして、家主に一言断りだけでも入れておこうと一応声を掛ける。
家主が眠っていたらいたで、明日改めてもいい。
「おや、お客さんとは珍しいのう。せっかくだからいいことを教えてやろうぞ。ここから砂漠を西に歩けばテルパドールの城。そして、南東の海に浮かぶのがメダル王の島じゃ!」
ハンモックで眠る家主に声を掛けると、家主の目蓋がカッと開き口角を上げ、首だけアベルたちに向けてくる。
老爺の急な機敏な動作にアリアが驚いて肩を震わせたが、「西は……あっちか……」と一瞬考えたような素振りを見せ、人差し指を立ててから北を指差した。
……アリアの方向音痴は今日も平常運転である。
「西は……こっち」
「あっ、あははは……♡ 私もそっちかなーって一瞬迷ったんだけどねっ」
アベルはアリアの手を取り、人差し指を西の方角に改める。
アリアは恥ずかしそうに頬を掻いた。
「火の始末はしっかりとな。飲み水なら泉でもいいし、井戸からも汲める。好きな方を使うがええ」
「はい、ありがとうございます。では失礼します」
乾いた砂漠の大陸ながら、ここ、オアシスでは水が豊富らしい。
砂漠を旅するなら【水】を調達しておくのがいいだろう。
……先ほどクリエとシドーが泉にいたが、皆の分の水を汲んでくれているかはわからない。
老爺の話に、そういえばテントの側に井戸があったっけと思い出したアベルは、泉よりも近い井戸で【水】を汲むことにして家主に会釈する。
さあ、では挨拶も済んだしさっさとお暇して……と、会釈ついでに入った視界の端、ハンモックの近くで自らの大好きなツボが二つ置かれているのを見つけたアベルの目は、ただちにアリアを見つめた。
「……」
アベルに視線を向けられたアリアは無言で僅かに笑みを湛え、ツボの方へと手を差し向ける。
……“どうぞ”の意だ。
妻の許しを得たアベルは笑顔で頷き、遠慮なく割らせてもらうことにした。
「小さなメダルとステテコパンツが入ってた……! 小さなメダルはポッケに入れておいたよ!」
「うふふ、二つもアイテムが手に入ってよかったね♡(ポッケって言い方……アベルカワイイ……♡)」
「ああ! じゃあ行こっか♡」
無事ツボを二つ割り、アベルがほくほく顔で中身を報告すれば、アリアが穏やかに笑ってくれる。
妻の優しい微笑みに安堵し、アベルはテントを後にした。
◇
テントを出ると、すぐ近くに井戸が見える。
そこの井戸水を使って今夜は温かいスープでも作ろうか――。
だがその前に井戸の中が気になる、井戸を見つけたら中を確認しなくては。
こんな時、相変わらず【世界の理】に縛られているなと感じるが、中に入ってみたいものはしょうがない。
……アベルは井戸の中を覗き込んだ。
「アベルー、井戸の中暗いよー?」
「ちょっと確認したいだけー!」
アベルが一人 井戸綱を伝い下りて行ってしまうので、アリアの声が地上から聞こえる。
井戸の底に下りたアベルは、暗い中でも月明かりに照らされ髪を輝かせる美白の妻を見上げた。
自分が「おいで」と呼べば、彼女はやって来る。
井戸は苦手らしいが、井戸綱を持ち一生懸命少しずつ下りてくる様子が可愛くて、(パンツも見えるし)、途中で落ちたら抱えてやろう……そう思うアベルは、底までアリアが下りて来るのを両腕を伸ばし構えて待つ。
……ところがアベルの予想に反してアリアの足は井戸の底に着いた。
「ふぅ……到~着っと!」
「あれ? アリア下りきったね。絶対途中で落ちて来ると思ってたのに」
この前まで井戸を下りる時は途中で脱力して落ちていたというのに、今回アリアは底まで下りきった。
せっかく下で待ち構えていたというのに、残念だ――。
……アベルの腕は抱き留めようとする構えのままで、目は瞬きを繰り返している。
「え? あっ。私、筋力が少しついたのかもしれない。少しずつ強くなってる気がするの」
「そっか……なんか残念だなー……」
アリアの片腕が曲げられ、力こぶを作ると上腕をポンポンと叩いて笑顔を見せた。
嬉しそうな彼女と対照的にアベルの口はへの字を形作り、眉も下がる。
「えぇー? なにその顔~、進歩してるんだよ? そこはよかったねって言ってよ~」
「……だって落ちてくるアリアのこと受け止めたかった……」
微苦笑するアリアにアベルの唇は尖り、ぼそぼそとぶーたれる。
――アリアは非力なままでいいのに……!
力が弱いまま自分に頼ってくれたらそれでいい。
妻の仕事の主は今は戦闘ではなく、夫である自分を癒やすこと――。
戦闘後の回復呪文と笑顔の労い、そして熱い抱擁に自分に対する理解さえあれば、アベルはそれだけでいいのだ。
「もぅ、アベルったら、うふふっ♡」
「……でも、うん。アリアの身体が強くなるのはいいことだよね」
ヘソを曲げたようなアベルを可愛く思ったのだろう、アリアが穏やかに微笑む。
妻の笑顔は上空から注がれる月明かりで煌めいて見えた。
――あとで【ステータスウィンドウ】を確認してみよ……って……なんかムラムラしてきた……、パンツも見たし……。
アリアとの距離が近いと、すぐ抱きたくなってしまうから困る。
アベルがそっと頬に触れてもアリアは嫌がらないから、つい悪戯したくなるというもの。
「ン……、なぁに? くすぐったいよ……?」
「……かわいい……♡ 食べちゃいたい……」
――ちょっとくらい齧ってもいいよね……?
頬から耳を
白い肌と髪はいつ触れても滑らかで気持ち良く、無抵抗の彼女は
……青白い絹肌の首に食らいつきたい衝動に駆られる。
アリアの身体や首には、たまに虫刺されのような痕が現れるのだが、今はない。
アベル自ら回復呪文で回復させているからしょうがないものの、綺麗に消える度に付けたくなるから困ったものだ。
「っ……もぉっ! こんなところでなに言ってるのっ! そこの人に見られてるよっ」
「え? あ……、こんばんは」
不意にアリアが身をくるり。翻してアベルの背後に回り背を押した。
背を押されたアベルの目の前には、黄色いフルフェイスの筋肉マスク男が両手で何かを持ってぼぅっとアベルたちを見ている。
「な、なんだよっ!」
アベルが話し掛けるとマスク男はハッと我に返ってやにわに背を向けた。
「……あ、えっと……?」
「オレの砂漠のバラ コレクションなら見せてやらないぜっ」
「砂漠のバラ……ですか?」
「そういえば昔、名産品の博物館を建てるとかいって北へ向かったじいさんがいたがどうしてるかなあ」
はて、【さばくのバラ】とはなんぞや……。
それに――。
マスク男は背を向けたままアベルに顔だけちらり。
何かを見せまいとしつつもある老爺の話をする。
「名産品の博物館……それって……」
「おっと! それ以上こっちに近寄らねえでくれ」
詳しい話を聞きたかったアベルが一歩踏み出すと、マスク男が警戒するように一歩離れた。
手にした何か――、おそらく【さばくのバラ】というものを見せたくないのだろう。
時折大事そうに手元を見ている。
「どうせ水を汲みに来たんだろ? ならさっさと汲んで出て行ってくれ」
……警戒心の強い人らしい。
マスク男は背を向けたまま、アベルから逃れるように井戸の端へと行ってしまった。
井戸の端まで行くと、警戒するようにアベルを見ている……。
「アベル」
「あ、うん。水を汲んで出ようか」
「うん」
【さばくのバラ】と名産品の博物館について詳しく聞きたかったが、これ以上マスク男から話を聞けそうもない。
アリアがマントを引くのでアベルは水を汲んで地上に戻ることにした。
時々井戸の中に誰かがいることがあるけど、なぜ井戸の中にいるのか……。
井戸を下りるの楽しいですよね!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!