前回のプチあらすじ>クリエに寛いでいていいと言われ、先に大きなテントにやって来たアベル。スラりんに一声掛けてからキッチンコーナーへとやって来ました。
扉を開けるとね……。
では、本編どぞー。
「アリア、なに作ってるの?」
「あっ、アベル! 今夜はピザパーティーにしようと思って」
【レンガキッチン】の近くに設置された【大きな木のテーブル】で作業をしていたアリアたちの手元には丸い【ピザ】生地がかなりの枚数置かれている。
先ほど見えた白い食材は【ピザ】生地だったようだ。
……現在旅する仲間の数は九。
一人最低一枚は食べるとして――九枚では足りない。
「ピザパーティー!」
――おお! すごい、具材が色々置いてある……!
テーブルに置かれたトッピングを見下ろすと、小さく切られた具材とソースがいくつも並べられており、複数種類の【ピザ】を作っているのがわかる。
一種類のみだと飽きてしまうだろうという配慮なのか、肉に魚……【タマゴ】まで。いつの間にこんなに具材を用意したのやら。
過酷な旅だというのに、アベルは初めての【ピザ】パーティーにわくわくした。
【ピザ】生地の一部にはすでに具材がのせられ、後は焼けば……。
「うん、シドー君てピザ生地作るの上手なんだよ。あ、終わったのね、ありがとう! わぁっ、とっても上手! 絶対おいしいよ!」
「へっへーん、まあなっ!」
アベルが驚いている間に、アリアが隣で【ピザ】生地を整形し終えたシドーを見やって褒める。
シドーは得意気に小麦粉のついた人差し指で鼻の下を擦った。
彼をよく見てみれば、顔やら服やらのあちこちが白い。鼻の下も粉で白くなってしまったが、すごく嬉しそうだ。
「僕も手伝うよ、何をすればいい?」
――僕もアリアに褒めてもらいたい……!
アベルもシドーに負けてはいられない。
シドーができたくらいだ、【ピザ】生地を捏ねるくらい自分も上手にやってのけてみせる――アベルはそう意気込み設置されたシンクで手を洗い、皆の集まるテーブルに戻って訊ねた。
「ふふふっ。じゃあ生地はもうできあがったから、具材をのせるのを手伝ってもらおうかな」
「了解。ここにあるやつをのせていけばいいんだね?」
「うん、好きな具材をのっけてね。あまりのっけ過ぎると生焼けになっちゃうからほどほどに」
「任せて」
……残念。【ピザ】生地は捏ね終わってしまったらしい。
大急ぎで手洗いを済ませ、戻って来たアベルの手は水に濡れてビショビショのまま。アリアがそっとタオルを差し出してくれる。
アベルは手を拭いてから具材を【ピザ】生地にのせ始めた。
「うん、うまいっ! おいしいよアリア!」
「ふふっ、みんなで作ったから余計においしいねっ♡ アベルの具材の組み合わせ最高。おいしい~♡ 手伝ってくれてありがと」
「フフッ……どういたしまして……!」
――旅の途中で【ピザ】パーティーとか……、楽しいなぁ……。
アベルとシドー、それにピエールが手伝い、できあがった大量の【ピザ】はみるみるうちに仲間たちの胃の中へと消えてゆく。
栄養バランスを考えてくれているのだろう、野菜たっぷりのあったかスープ付きだ。
いつもより具材が豊富なのはクリエに食材を提供してもらったからかもしれない。
そのクリエは未だ作業中で、シドーが「まったくあいつは作業に夢中になるとすぐ食事を抜く……」などとブツブツ――呟きつつもいそいそと差し入れをしに行った。
ああしていつもクリエを気遣っているのだろうと、アベルもアリアも察し、覚束ない手で料理を運ぶのに四苦八苦するシドーを温かい目で見送る。
……寒い夜の砂漠でこんな食事ができるとは――。
「……(皆、おいしそうに食べてるなぁ……)」
アベルは【ピザ】を頬張る仲魔たちを見回した。
……仲魔たちは皆、ニコニコと美味しそうに食べている。
アリアを見ればアベルがトッピングを担当した【ピザ】の【チーズ】が思っていたよりも伸びるので、食べにくそうにしながら“もきゅもきゅ”。
ちょっと【チーズ】をのせ過ぎたかもしれない……、だが幸せそうに笑顔で咀嚼している。
こんなひと時は厳しい現実など忘れ、楽しく美味しく味わいたい。
……妻の幸せそうな姿に、釣られたアベルも幸福感に浸った。
◇
「こ、これは……!」
「わぁぁ……っ!」
……クリエの設置してくれたテントを前に、アベルとアリアは目を丸くした。
楽しい食事も終わり、そろそろ身体を休めようということで、アベルは仲魔たちを大きなテントに置いて、夫婦二人でようやくできあがったもう一張りのテントにやって来たわけだが――。
そのテント、小振りだが……外見は大きなテントと同じく見た目だけはテントの形をしていた。
何故か入口が木枠に紙でできた謎の扉で閉じられており、クリエが扉をスライドさせ開いて「中へどうぞ~!」と勧めてくる(※シドーは大きなテントにて皆と寛ぎ中)。
「って、これふすまっ!?」
「……ん? ふすま?」
アリアは扉の名前を知っているらしい。
【ふすま】と呼ばれる扉に目をぱちくりさせて、クリエに背を押され促されるままに中へと入った。
……一歩足を踏み入れたテントの中は、別世界が広がっていた。
「う、わぁあああ……! まさかの和室っ……!(なんで!?)」
「え、和室? アリア?」
アリアが目を見開き大きな声を上げる。
足元は緑――。草が編まれたような板が敷き詰められ、爽やかで良い香りがした。
広さはやはり大きなテントよりは小さめだが、布団に覆われたテーブル――【こたつ】というものと、その上には【おだんごセット】なる茶菓子セットに、【ポーカー】というカードの玩具が置かれ、側にはベッドとは異なる土台無しで床に直置きされた見慣れない寝具【布団】が二組、部屋の隅にはアリア用に置いてくれたのであろう【ドレッサー】と、【むらさきの花】の鉢植えが飾られ……内装がずいぶんと凝ったつくりだ。
……アリアから出た“和室”という聞いたこともない
「こたつ……、ちょっ、和布団っ!? うわぁぁぁぁぁ……! 懐かしい~~!!」
興奮を抑えきれないアリアは瞳を輝かせ、【こたつ】の天板に触れてみたり、【布団】に寝転がってみたりと忙しい。
アベルも嬉しそうにはしゃぐ妻にほっこりしつつ、ぱっと見では気付かなかった部屋の内装をチェックする。
……この部屋には炊事場は見当たらない。
大きなテントに設置してあるから、料理はそちらでということなのだろう。
大きなテントと違うところといえば、左右の壁に【カベスイッチ】ボタンが一つずつあるのと、今は消えているがピンクのハートでデザインされた可愛らしいライトが【布団】の頭上に設置されていること。
それに――部屋の奥に暖簾が掛かっている。
なぜ暖簾が……? と思ったが、暖簾の奥に別室があるらしい。
「アリアお姉さん、ベッドじゃなくて和布団を知ってるの?」
「うん! クリエちゃんありがと~♡ 私、お布団大好きなの! ベッドだと落ちるかもって気になっちゃって……落ちたことはまだ無いけど、落ちそうになったことは何度もあるから」
「そうなんだ? 喜んでもらえたみたいでよかった。でも、もーっと喜んでもらえると思うよ、こっち来て来て」
「ん……?」
アベルが女子二人の話を聞きながら部屋の内装を確認している間に、クリエはアリアを伴い、気になった暖簾の先の部屋へと消えて行った。
「あっ、ちょっと二人ともっ、僕も行くよ……!」
状況把握中のアベルも慌てて追い掛ける。
……アベルが暖簾に近付くと中から声が聞こえてきた。
『じゃーん! なんと、お風呂もご用意しましたー!』
『すごーいっ!! これってごえもん風呂~!?』
『ごえもん風呂も知ってるんだ!? アリアお姉さんすごーい! この世界じゃ見たことないのにー』
アベルが別室に着くとそこは浴室で、【木の床】で敷き詰められた床に【ごえもん風呂】という風呂が設置されている。
部屋の入口には【たなづくりキット】なる長い棚があり、【たらい】と呼ばれる桶や、【バスタオル】が置かれ、【ごえもん風呂】の側の壁には【カベかけタオル】が掛けられていた。
「こ、これはいったい……」
――なんだ、この至れり尽くせりは……!
女子二人がキャッキャウフフと楽し気に会話する中、アベルは浴室の様子に驚愕する。
ここは砂漠のど真ん中――いや、オアシスではあるけども……と。
町でもない砂漠のオアシスで、こんな立派な宿泊施設ができあがるなどとは――。
アベルがお願いしたのは、二人きりで寝られるテントを皆とは別で設置して欲しい、とだけだ。
ここまで本格的な建物を数時間で建てるとは思ってもみなかった。
今回はピザパーティーです。
パーティー好きというわけでもないんだけど、アベルにいっぱい楽しいことをさせてあげたくて……。
そしてシドーにもビルドをたくさんさせてあげたいのです。
テントはテントに非ず。
和室を作りましたよ。
私は既存の建物は作りません……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!