ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回のプチあらすじ>テントに入ったらまさかの和室が広がっていました。

浴衣が欲しい。浴衣があれば……。

では、本編どぞー。



第七百五十二話 浴衣があれば

 

「すごーいっ! こんなの初めて~♡ クリエちゃん大好きっ! ありがとぉ~っ♡」

 

「フフフ、いやぁ~、まあボクの手に掛かれば? これくらいの建築なんてあっという間というかなんというか……」

 

 

 至れり尽くせりな浴室にアリアは瞬時に破顔し、クリエを抱きしめる。

 クリエは照れ臭そうに鼻の下を人差し指で擦った。

 

 

「ありがとうクリエちゃん」

 

「どういたしまして! 久しぶりに誰かのためにビルドができて、ボクもうれしいよ~!」

 

 

 アリアに抱きつかれたままのクリエに少々嫉妬を覚えつつ、アベルもお礼を告げる。

 クリエはいつにも増して明るい笑顔を見せ、かなり嬉しそうだ。

 

 ……以前に聞いたことだが、この世界にやって来てからというもの、クリエとシドーは数々の制約を課せられ、思うようにビルドができないらしい。

 この世界の住人であるアベル、自分たちからの依頼を受ければできるというのだから、手間を掛けてしまうがビルド好きなクリエには共闘する間、都度依頼してやるのがいいのかもしれない。

 

 

「……ここまでしっかりした和風だなんて思ってもみなかったなぁ。これで浴衣でもあれば旅館みたいね」

 

「ゆかた? なに浴衣って。どんなもの?」

 

「あ、えっと、浴衣っていうのはお風呂上がりや、お祭りなんかで着たりする着物……あ、服なんだけど……、んー……そっかこの世界にはないんだね」

 

「ほおぉぉっ☆ それってどんな形してるの? ボク興味あるな~☆ 教えて?」

 

 

 アリアの“浴衣”発言にクリエは興味津々だ。背中に背負った分厚いノートを取り出し、ペンを手にメモを取る気満々でアリアに詰め寄る。

 

 

「え? カタチ……? うーん……――あ。水の羽衣に似てる……かも?」

 

 

 はて、“浴衣”の形はどんなものなのか……。

 聞いたことのない服の名前が出てきて、クリエのテンションは爆上がりだ。

 ずずいと距離を詰められ、アリアは両手をお手上げ状態で記憶を探り、伝えた。

 

 

「へえ、水の羽衣……そうなんだ? アリアお姉さん、よかったらこのノートに描いてみてくれる?」

 

「あ、でも私、クリエちゃんみたいに上手に描けなくて」

 

「ざっくりでいいから。ほいっ、ノートとペンね」

 

 

 初めて聞いた服――浴衣が気になって仕方ないクリエは有無を言わさず畳み掛ける。

 ……広げたノートをアリアの前に突き出し、ペンを無理やり握らせた。

 

 アリアの絵が下手であろうと何であろうと、よほど酷いものでなければビルダーである自分に掛かると再現など容易い。

 自信満々の表情がそう語っている。

 

 

「そ、そう……? じゃあ……下手で申し訳ないけど……えっと……」

 

 

 ――【みずのはごろも】って確か……。

 

 

 【みずのはごろも】とは――天から降ってくる【あまつゆのいと】を、卓越した技能をもつ職人が【せいなるおりき】で織り上げたとされる、非常に珍しい防具である。

 値は張るが、火炎系の攻撃呪文やブレスのダメージを減らす嬉しい効果付き。

 アリアもⅡやⅢをプレイ時に手に入れたことがあり、そのビジュアルを気に入っていた。

 

 この世界にも恐らくあるのだとは思うが、まだお目に掛れてはいない。

 ……実はあまりはっきりと【みずのはごろも】を憶えていないアリアは、遠き記憶を探り探り描いていく。

 

 

「……(アリアって押しに弱いよね……)」

 

 

 ――そんな君が大好きだ……♡

 

 

 クリエに押し切られ、眉間に皺を寄せながら浴衣を描いていくアリアをアベルは黙って見守った。

 

 女性同士が話をしている間、余計な口を挟まないのは空気を読める男の嗜み。

 内容を把握していなければならないのが多少面倒ではあるものの、意見を求められた時に答えてやれば喜ばれるから、自ら進んで話に入ったりはしない。

 

 

「浴衣っていうのは……こう……袖が長くって風通しがよくできててね。内側にも固定する紐が付いてて、長い帯を……―――」

 

「……ふむふむ、へー、ボタンじゃなくて帯で固定する服なんだね。可愛い。アリアお姉さん絵が上手~」

 

「あっ、ありがとう……。うん、さっき言ったお祭りに着たりっていうのもそうだけど、温泉旅館なんかに行くと貸し出ししてくれたりする、寛ぐための服でもあるかな」

 

 

 クリエのノートに描いた浴衣は、袖部分に当たる短い長方形が二つと、両袖の間に長い長方形が一つある服……。

 長い長方形――身体を包む胴部分は首から足先まで筒状にはなっておらず、前が開いている。

 胸の下辺り、胴回り部分に太めのベルトのようなもの――“帯”というらしい。左右の衿を左を上にして斜めに重ね、帯で固定して着るらしい。

 前と後ろから見た図がそれぞれ描かれ、後ろから見た図には帯に可愛らしいリボンが付いていた。

 普段アベルたちが着るような服とは違い、帯が無ければ前が完全に開けてしまうような作りだ。

 

 

 ……アリアの描いた絵は感動するほど上手くはないが、下手でもなく、相手に伝えるに充分な画力がある。

 

 

(僕の奥さんは絵も上手なんだなぁ……♡)

 

 

 妻の絵を見ることができたアベルは謙遜してたんだなと、一生懸命描くアリアを見つめ、目を細めた。

 

 ところで、その浴衣――。

 形は伝わったが、アベルの目にはどうにも動きにくそうに映り、防御力は大してなさそうに思える。

 旅には向かない服だ……そうは思ったが、他でもないアリアが描いたものであるし、寛ぐための服なのだからいいのかと特に何も言わずにおいた。

 

 

「へ~! ボク作ってみてもいい?」

 

「え?」

 

「アリアお姉さんの描いた絵を元にして、水の羽衣を参考に作ってみるよ。それでアリアお姉さんとアベルお兄さんにプレゼントしてあげる」

 

「え? 作れるの? ホ、ホントに?」

 

 

 一応男性用もあって……と男性用浴衣も描き終え、アリアがノートを返すとクリエは描かれた絵を一見して笑顔を滲ませる。

 早速浴衣を作りたい様子で、瞳をキラキラと輝かせた。

 ……ビルダーは作ったことのないものでも作れるというのか。

 

 アリアが目を瞬かせる中、クリエは描かれた絵にサラサラとデザインを追加し、ニッ。顔を上げて白い歯を見せる。

 自信ありげなクリエの笑顔にアリアの口から「すごっ」という言葉が零れ落ちた。

 案の定、クリエの返事は――。

 

 

「うん多分ね、任せてよ☆ でも、浴衣をプレゼントする代わりにボクからもひとーつお願いしたことがあって……いいかな?」

 

「お願い? な、なんだろ……? 私にできることならなんでも……」

 

 

 多分と言いつつも胸を張り“どん”と叩くクリエに、アリアは浴衣はでき上がるのだと確信する。

 ただその浴衣を贈る代わりに、クリエから何かお願いがあるらしい。

 

 彼女に何度も世話になっているアリアとしては、浴衣の代わりなどでなくとも、些細なお願いくらいいくらでも聞いてやりたい。

 それに、対価もなく物を貰うのは好きではないから、お願いされるなら丁度いい。

 

 ……アリアは警戒心もなく、二つ返事で首を縦に下ろした。

 

 

「なんでも? フフッ♡ アリアお姉さんいいのぉ? 本当に?」

 

「え? なに……? なにか大変なことなの……?」

 

「んーん? 別に大したことじゃないよ。ちょっと二人をモデルにした本が描きたくて許可が欲しいなって……ねえ、アベルお兄さん?」

 

 

 アリアの答えに一瞬ニヤリと黒い笑みを見た気がしたが、気のせいだろうか――。

 

 クリエ、彼女は何冊かの【本】を発行している。アリアはまだその【本】を読んだことはないが、巷で人気のシリーズがあるらしい。

 主人公がビルダーの少女で、相棒の少年と色んな世界を巡るというシリーズものの小説なのだそうだ。

 現在は在庫がなく、今度再販する時には売ってくれと頼んである。

 恐らくそのシリーズのネタに使用したいということなのだろう。

 

 

 ……二人のことを描きたいのだからアベルにも――とクリエはアベルに視線を移した。

 

 

「え、僕たちをモデルに……?」

 

「炎の戦士が仲間になるまでは一緒に行動するでしょ? その間に密着取材して、旅シリーズの新刊を発行したいなーと思ってるんだ。ほら、アベルお兄さんたちも旅が長いじゃん? 色々話聞いてるしさ~」

 

「……旅の話……アリアどうする?」

 

 

 ――僕たちをモデルにした【本】か……。

 

 

 アベルはクリエ作の【本】を読んだことがあるが、持っているのは一冊だけだ。

 今でもたまに読む愛読書として大事に【ふくろ】の奥に仕舞ってある。

 それとは別で修道院で荷物整理中にちらっと見せてもらった【本】のタイトルは確か――。

 

 “さすらいビルダー放浪記”

 

 異世界での旅が書かれた小説でシリーズものだったが、聞いたことのない名の町や城、魔物が出てきていた。

 想像力が豊かだなと思ってはいたが、もしかするとあの中身はクリエが実際に体験したことなのかもしれない。

 

 ……いまさらながらに思い出したアベルはアリアに訊ねた。

 

 

「あ、私はアベルがいいなら別に構わないよ?」

 

「僕もアリアがいいなら」

 

 

 ――まあ、アレ(・・)じゃなく旅シリーズならいいか……、アレ(・・)の既刊が欲しかったなぁ……。

 

 

 もうかなりボロボロなんだよね……と。

 アベルは自らが持つ【ふくろ】を見下ろしてから、了承してくれたアリアに笑顔を返す。

 

 

 ……アベルの【ふくろ】の奥底に眠る大事な【本】は旅シリーズではなく、別のシリーズもの。試しに読んで一目で気に入り、年齢がネックで購入を一度断られたが頼み込み、アリアに内緒でこっそり譲って貰ったお気に入りだ。

 売り出しと同時に飛ぶように売れて、奇跡的に一冊余ったものだとクリエからは聞いている。

 

 その【本】は別世界では一度も巡り合えなかった逸品。

 それはそれはとてもためになる【本】で、もはや旅に欠かせない、値段以上の価値がある代物だとアベルは何度も読み耽っており、もはやボロボロ。

 

 ……だが、その【本】。

 アベルが読んでいるところをアリアに見せたことは一度もない。

 そもそも所持しているということ自体、妻には秘密である。

 

 そう、その【本】とは――。

 




そう、その本とは……は、次回!

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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