子分になるためには……。
では本編どぞ~。
アベルはパパスから離れ、ヘンリーの部屋の扉を開いた。
「こんにちは、ヘンリー王子」
アベルは今度は優しく微笑み掛けてみる。
「なんだ、またお前か? やっぱり子分になりたくて戻って来たのか?」
ヘンリーはまだ絵を描いていたらしく、先程と同じように手を止め振り返り椅子から下りた。
ニヤニヤと、一見嫌味ったらしい笑みを浮かべるも、テーブルの上には自分らしき子供とアベルらしきターバンの男の子が、並んで遊んでいる絵が描かれている(上手くはないが、見て何かわかる絵である)。
先程まで描いていた絵はテーブル奥に置かれており、若者がカエルに驚いている様子が描かれていた。
「ううん、子分にはならないよ」
アベルはまたも拒否する。
『あぁ……もぅ……』
アリアは顔を片手で覆い“あちゃ~”と俯いた。
「じゃあ、あっちへ行けよ。さようならだっ!」
むぅっと、ヘンリーは頬を膨らまし「フンッ!」とそっぽを向くと、椅子に腰掛けた。
そして、描いていた絵の端に手を掛け持ち上げる。破くつもりらしい。
「っ、ヘンリー王子!」
アベルは慌てて再び声を掛ける。
「なんだ、またお前か? やっぱり子分になりたくて戻って来たのか?」
破こうとしていた用紙をテーブルに置いて、瞳をキラキラさせながら、つっけんどんに訊いて来る。
『……素直じゃないなぁ……』
アベルと遊ぶ気満々じゃない……。
アリアはテーブルに置かれた絵を打見に、子供はなんて天邪鬼なの。と苦笑した。
「…………いいよ。子分になってあげても」
素直に遊ぼうって言ってくれればいいのに……。
アベルもテーブルの絵に気付いたので、渋々了承したのだった。
「そんなに言うならオレの子分にしてやろう。隣の部屋の宝箱に子分のしるしがあるからそれを取ってこい! そうしたらお前を子分と認めるぞっ」
ふふん。
ヘンリーは片手を腰に当て尊大な態度で顎を突き出し、奥の部屋の扉を指差すとアベルに命令する。
「……………………わかった。取って来るね。行こ」
『あ、うん』
アベルがアリアに目配せするので、アリアは一緒について行く。
「行こ……? オレは行かないぞ!」
「…………君には言ってないよ」
奥の部屋へと向かうアベルをヘンリーが首を傾げて訊ねたが、アベルはちらっと顔だけヘンリーに向けただけで行ってしまった。
「っな、何だよ、その態度は……! 後悔するぞ!!」
ヘンリーの声は奥の部屋の扉が閉じる音でかき消されていた。
◇
ヘンリーご指定の隣の部屋――。
その部屋のど真ん中には宝箱が置いてあった。
「あ、宝箱があるね」
「……この中にあるのかな?」
アリアが宝箱を指差すと、アベルは宝箱に近付く。
「あれ?
「あ、うん。みたい。この部屋に入ったところまでしかわからないや」
何だろう、
……この先が何にもわからない。
アリアと一緒だから
……それっていいことのはずなんだけど……、なんだろ……。
思った程全然嬉しくないな。
……なんだか逆に不安になって来ちゃう……。
アベルは宝箱を開けながら、ちらりとアリアを盗み見ていた。
「へぇ……。あ……、空っぽ……」
「……何にも入ってないね」
「仕舞い忘れかな?」
「うーん……、かなぁ……。ヘンリー王子に訊いてみようか」
「そうね」
アベルとアリアはヘンリーの部屋に戻ることにした。
◇
――ヘンリーの部屋。
二人が隣の部屋から戻るとヘンリーの姿は見当たらず、もぬけの殻だった。
「あれ……?」
「いない……ね。どうしちゃったのかな……」
アベルは頭を捻り、アリアは部屋を見回す。
隠れそうな場所は見当たらない。
「外に行っちゃったのかな」
「誰かに呼び出されたかもしれないわね」
「一応、捜した方がいいよね。それに父さんにも報告しないと。何か知ってるかも」
「一応って……言い方! もぅ……」
二人は部屋から出て行ったのだろうと、通路に出てパパスの元へ。
「父さん」
「どうした? アベル」
壁に背を預け、ダンディーな様相で佇んでいたパパスは、アベルが来ると途端目を細めた。
「ヘンリー王子を見なかった? 部屋から居なくなっちゃったんだけど……」
「えっ? ヘンリー王子がいなくなったって!? この通路を通らないと外には行けないはず! しかし王子は来なかったぞ」
「そうなの……? でも、部屋には隠れる場所なんて無かった気がするよ……?」
「ふーむ……。とにかく見てみよう。お前もついて来なさい」
アベルの言葉にパパスは思案顔をし、アベルを引き連れヘンリーの部屋に戻る。
アリアも「どこに行っちゃったんだろう……?」と首を捻りながら二人の後ろについて行った。
――そうしてヘンリーの部屋にパパスがアベルを連れ立ってやってくると、ヘンリーの不愉快そうな怒鳴り声が聞こえる。
「あっ! パパス! お前は部屋に入るなと言っておいたはずだぞ!」
ヘンリーは最初に居た椅子に腰掛け、絵を描いていた。
パパスの姿を見た途端、キッとパパスを睨み付け出て行くように手をシッシと払う。
「やれやれ……。とことん嫌われたものだな……。失礼つかまつった」
あまりの剣幕にパパスは目礼して、アベルを連れ部屋を出た。
「アベルよ。夢でも見たな。王子はちゃんといたではないか。ともかく王子の友達になってやってくれ。頼んだぞ」
「え……、あ、うん……(本当に居なかったんだけどなぁ……)」
パパスはアベルの頭をぽんぽんと撫でて、先程佇んでいた場所まで戻って行った。
仕方がないので、アベルはヘンリーの部屋へと戻り、彼に話し掛ける。
「どうだ? 子分のしるしを取ってきただろうな!?」
「あの……何も入ってなかったんだけど……?」
「なに? 宝箱は空っぽだったって? そんなはずはないぞ! 子分になりたければもう一度よく調べてみな!」
「う、うん……」
ヘンリーの勢いに呑まれ、アベルは再び奥の部屋の宝箱を調べに行くことにした。
奥の部屋の扉を開き、アベルとアリアは宝箱を見下ろす。
「……さっき何も入ってなかったよね」
「うん。なかったよ?」
「だよねぇ……」
アベルはパカッと宝箱を開いてみる。
念のため蓋の裏側も見てみるが、何かが貼り付けられているといった様子はない。
やはり中は空っぽだった。
「ん~? 変ねぇ……」
「うん……妙だな……」
ここに来てアベルは某少年探偵宜しく、顎に手を当て難しい顔をする。
「ぁ…………プッ! ……あははっ、アベルったらコ〇ン君みたいっ!」
「え……コ〇ン君って誰?」
アリアが突然吹き出し、笑うのでアベルは目を瞬かせた。
「んーと、……探偵ね!」
「たん……てい? 何それ……。アリアって面白い事ばっかり言うんだね」
「ふふっ、そう?」
「そうだよ。……やっぱり宝箱の中は空だね。別の場所に仕舞って忘れてるのかもしれないからヘンリー王子に訊いてみる」
「うん」
アベルはヘンリーの部屋へと戻るのだった。
ヘンリーもアベルも可愛い。
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