ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回あらすじ>馬車でモエールをドナドナ。

精霊だからね、ちょっと他の魔物とは違うんですよ。

では、本編どぞー。



第七百五十七話 モエールの鑑識眼

 

 

 

 

 

 モエールが馬車に乗り込み、アベルは拠点に向けて戻り始める。

 ……キャビンの中ではモエールの紹介が行われていた。

 

 

「ピキー! ボクはスラりん。一番の古株で、馬車組の組長をしてるんだ、よろしくね!」

 

 

 いつ組長になったのかは知らないが、確かに古株である。スラりんは床に腰掛けるモエールに、身体を左右に揺らしながら挨拶をした。

 アリアはキャビンの壁板に背を寄せて座っているのだが、揺れる馬車の中で何かに掴まることなく、上手にバランスを取れるのはスラりんやキングスずくらいだろう。

 

 普段宙に浮いているモエールだが、きちんと座ることもできるらしい。

 先ほどアリアが「どうやって身体を浮かせているの?」と訊ねたら、魔力ではなく、炎の力で浮いているとのこと(まあ元は魔力から発生した炎なのだが)。

 馬車に乗っている間は炎を抑えているから地に足が着く。頭髪の炎が元の温度に戻れば身体が勝手に浮いてしまうのだとも言っていた。

 ついでに戦闘中に出している両手の炎は、馬車の中では出さないから安心して欲しいとのこと。

 

 

「モエールでボボッ。火の攻撃が得意ボボッ」

 

「ぷるぷる、そうなんだすごいね! ボク、攻撃系の特技がないから羨ましいなあ」

 

「スラりん組長は中々良い素質をお持ちのようで……ボボッ。きっといつか大成しますボボッ」

 

「ホント!? じゃあボク鍛錬がんばるね! ピキー!!」

 

 

 モエールにヨイショされ、スラりんはすっかりご機嫌である。

 きっといつか大成する――。

 その言葉にスラりんの身体は宙に飛び上がり、何度も喜びの舞いならぬ喜びのジャンプをする。

 

 “千里の道も一歩から”、今は何歩目だろうか。スラりんは今夜も身体を鍛えてゆくが、十回ほど飛び跳ねてから「はー疲れた! 今日もがんばった! おやすみなさい」――イビキを掻き始めた。

 長続きはしないらしい……。

 

 

「寝てしまいましたボボッ。ところで、スライムが多い気が……」

 

「ふふっ、スラりんはさっきまで戦闘で気を張ってたから疲れちゃったんだと思う。あ、彼らはキングスっていうキングスライムの分離体なの」

 

 

 床にバラバラで各々寛いでいる八匹の【スライム】を眺め、モエールはアリアに問い掛ける。

 キングスずはアリアの声で一斉にモエールに注目した。

 

 

「おおっキングスライム……! 頼もしいボボッ。よろしくお願いしますボボッ」

 

 

 モエールが笑顔で頭を下げると、キングスずは無言ながらピョンピョン跳ねる。“よろしく”とでも挨拶しているのだろう。

 ……モエール、彼は基本的に笑顔だ。

 敵対している時には不気味に感じたその笑顔も、仲魔たちに対する好意的な言葉を伴えばムードメーカーになり得る。

 

 

「アリアさま、あなたのその魔力、とても素晴らしいボボッ」

 

「ん? 魔力? あ、ありがとう」

 

 

 モエールは精霊――、人や通常の魔物には見えない何かが見えているのかもしれない。

 先ほどから仲間の能力を見定めて、言葉を口にしている気がした。

 

 

「……惚れ惚れしますボボッ」

 

「そ、そう……? モエールさんは褒め上手ね! 褒めてくれてありがとっ♪」

 

 

 両手をサムズアップでモエールが笑い掛けると、アリアも破顔する。

 

 

「……。……ボボボボッ!!」

 

「わわっ! 炎が大きくなった……! って熱っ!? 大変っ、モエールさん、落ち着いて……! 温度が上がってる!」

 

 

 アリアの笑顔に頭髪の炎が一気に燃え盛ると、モエールは慌てて温度調節を図った。

 ……さて、拠点に戻って【やみのランプ】の修復作業に入ろう。

 一行は幾度とない戦闘を繰り返し、拠点――オアシスへと一路進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ! 闇のランプの修復をはっじめっるよ~! みぃーんな~ボクの言うことに従ってね~!! ぐふふっ♪」

 

 

 オアシスへと戻れば、しばらくクリエのターンである。

 拠点に到着するなり、妙なテンションのままのクリエが張り切って現場の指揮を執りだした。

 

 彼女はモエール以外の仲間たちには自由行動を言い渡し、モエールだけをオアシスの端へと連れて行く。

 モエールには予めオアシスに戻る馬車の中で、アリアから協力して欲しい旨を伝えてある。

 

 

「モエール、キミはここに座ってくれるかな~?」

 

「自分、炎を自由にしていると宙に浮いちゃうんでボボッ」

 

 

 寒空の下、砂の上に座るようにとクリエに言われたものの、モエールは炎を普段通りの高温にしておくと身体が勝手に浮いてしまう。

 馬車を降りたから今は通常の炎に戻しており、身体は宙に浮いた状態で、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。

 

 

「そうなんだ? じゃあ身体は浮かせたままでもいーや。こっちでなんとかする。もう一度確認するけど、眠ると火力は落ちちゃうってことね?」

 

「あ、はい多少変化するボボッ。寒いところは苦手なのですボボッ。目が冴えて眠れないのでこの砂漠で夜寝ることは殆どないボボッ」

 

「へえ、そうなんだー? ふーん……。じゃあ、ちょっと待っててね~」

 

「はいボボッ」

 

 

 ……クリエが頭髪の炎について確認を取る。

 モエールは眠ると多少火力が落ちるらしい。火力は一定でないと困るため、これから三日間クリエとともに徹夜してもらわねばならない。

 寒いと眠れないと言っているからこれまでは昼間寝ていたのだろう。

 

 そんなモエールをその場に留まらせ、クリエは【ふくろ】から大きな【氷】を取り出し始める。

 その【氷】は澄んだ色をしており、ひんやりと冷気を漂わせる立方体のブロックに見えた。

 

 

「な、なにをする……ボボッ?」

 

「いやー、だってさ、固定しとかないと炎が安定しないっしょ?」

 

「あ、はあ……、なんで氷を自分の周りに囲うんでボボッ? ヒッ! ボボッ!!」

 

 

 ドンドン、ドンドンと、笑顔のクリエが素早くモエールの周りに【氷】のブロックを積み上げていく。

 あれよあれよという間にモエールの視界は透明な壁で埋め尽くされた。

 自身の周りが急に冷え出し、モエールは怯えた目で【氷】の壁の向こうにいるクリエに問い掛けてみる。

 

 

「ヒャッ! 冷たいボボッ!!」

 

 

 問い掛けついでに熱い指先でちょんと触れてはみたが、冷たい【氷】の壁はなぜか全く溶ける気配がない。

 

 

「これで、上も一部だけ開けて、いい感じに覆って固定して……。あ、モエール下向かないでね。食事ができるように口の部分だけくり貫いとくからさ」

 

「……これは……拷問なのでは……ボボッ……」

 

 

 【氷】の壁の中にモエールを閉じ込め、【カッター】で調節。首から上、顔までもが【氷】に囲まれ、額の上、頭髪部分の炎のみが外に出るような仕組み……。

 モエールの身体に合わせるように周囲を覆った【氷】で肩が上手く引っ掛かり、勝手に浮く身体が固定されている。上手く浮遊を調整しないと両肩も、額に時折触れる【氷】も冷たい。

 溶けない【氷】なのに冷たさだけはしっかり感じるのだから【ほのおのせんし】にとっては拷問以外のなにものでもない。

 

 

「フンフーン♪」

 

 

 ……そんなモエールの訴えもなんのその。クリエはモエールの口辺りの【氷】壁に丸く穴を開け終えると【やみのランプ】を設置するための土台を作り始めた。

 

 

「ぶるぶるっ、寒いなあ……。アリアさまはこんなこと言ってなかったのに……ああ、アリアさまっ!」

 

「わっ!? ちょっとモエール! アリアねえのこと考えるの禁止ィ~!」

 

 

 アリアの事を思い浮かべたモエールの頭髪が一瞬大きく燃え上がる。

 作業中のクリエは驚きに一際大きく燃え上がった炎を避け、火傷しなくて良かったと安堵した。

 

 

「ぶるぶるっ、寒いなあ……」

 

「……ボボッって言わないんだ?」

 

「寒過ぎて……」

 

 

 モエールはぶるぶると身体を震わせ肩を下げる。先ほどから肩が何度も【氷】に触れ冷たかった。

 語尾に“ボボッ”が付いていないのは、寒いからのようだ。

 【氷】が額や肩に触れると冷たく身体が冷えるため、神経を集中させ触れないように気を張っていなければ。

 

 これが三日続くのかと思うとゾッとする。

 だが逃げられそうにない……。

 モエールの瞳に涙が一粒――。涙を流したのは生まれて初めての経験だ。

 

 ……流した涙はすぐさま蒸発した。

 

 

 しばらくして作業を終えたクリエは【氷】の囲いから砂の上に下りる。

 土台は【料理用たき火】を応用したもので、本来なら【たき火】を設置する部分だが、そこに丁度モエールの頭髪がくるようになっており、その上に【やみのランプ】を引っ掛けられる金具がセットされていた。

 

 これで燻すということなのだろう。

 

 

「ふぅ。これで、魔力の炎の準備はおっけー。お次はシドー君を呼んでこないとだな」

 

「……」

 

「モエール、なんか食べたいものある? ついでに持ってきてあげるよ」

 

「……」

 

 

 クリエが声を掛けるがモエールは寒さに身震いし、無言で笑顔を見せるだけ――。

 まさか仲間になった途端、こんな拷問を受けるなんて思ってもみなかった。

 しかも、主ではない人間に……。

 

 ……人間とは恐ろしい存在だ。

 

 アベルとアリアは優しい感じがしたのに……、目の前のクリエとかいう少女はなんというか、逆らってはいけないオーラを纏っている。

 笑顔だというのに、有無を言わせぬ圧を感じるのだ。

 アベルもアリアもクリエの云う通りに行動しているようだし、真の主はクリエなのかもしれない――、そう思うと仲間になったことを少しばかり後悔した。

 

 

 ……そんな思いは三十分後には消え失せことになる。

 




モエールさん、後悔先に立たずですね……!

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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