ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回あらすじ>見守り一日目が終了。

さて、二日目ざんす。

では、本編どぞ。



第七百六十二話 見守り二日目

 

 

 

 

 

「……よっし、二日目~☆ いえ~いっ☆ がんばっぞー!」

 

 

 クリエは傍らに置いた【めざまし時計】を横目にVサインで破顔する。

 

 

「クリエ……オマエ、徹夜何日目だ……?」

 

 

 はて、徹夜は何日目なのだろう……。

 シドーの質問にクリエの首が傾いた。

 

 

「んあ? んー? 忘れたなあ……。けど徹夜っていってもアベルにぃが交代してくれたから仮眠は取ったよ?」

 

「三時間だけだろ、もっと寝た方がいいぞ? アベルのヤツ、よく寝てるし……」

 

 

 【氷】の囲い壁の下を見下ろせば、アベルがアリアの毛布に包まりながらスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。

 始めは夫婦別々で休むのは無理だと思っていたアベルだが、テントには【布団】があるからと、アリアが馬車内で使用している毛布を貸してくれたお陰ですぐに寝入ることができた。

 毛布に染み付いたアリアの匂いに包まれると安心できるのだろう、「アリアぁ……♡」なんて時々甘えるような寝言が聞こえるから、シドーは不思議でしょうがない。

 ……アベルの唇が尖り毛布にキスをしているではないか……。

 

 

「……アリアねえの名前ばっか呼んでるし……ハハッ……」

 

 

 ――ほーんと、アベルにぃはアリアねえのこと好きだよね……!!

 

 

 クリエは寝言で妻の名を呼び続けるアベルに苦笑する。

 夢の世界にまでアリアが登場しているというのか、現実世界は闇の中だというのにいい気なものだ。

 戦闘中は険しい顔で頼もしいアベルだが、今は蕩けたような顔で眠るわ寝言も言うわで、普段とギャップが違い過ぎて笑うしかない。

 

 ……そんな痴態を二人で観察しながら、しばらくして起きたアベルを生温かい目で迎えた。

 

 

「な、なに……? どうかしたかい? 僕の顔になにか付いてる……?」

 

「いんや~? アベルにぃはアリアねえが好きなんだなーって思って」

 

「ん? そりゃあそうでしょ……。最愛の奥さんなんだし……」

 

「ごちそうさまっ! んじゃ、この時計でここまで寝るからモエールをよろしく」

 

 

 寝ている間にヨダレを垂らしていたアベルは口元を拭いつつ、交代だと囲いの上から下りてきたクリエにニマニマと笑みを向けられ、居心地の悪そうな顔で立ち上がる。

 アベルが囲いに向かおうとすると、クリエは自分の【ふくろ】から【かんおけ】を取り出し中へと入り器用に蓋を閉じた。

 そのすぐ傍らにクリエとともに下りてきたシドーが腰を下ろし、【かんおけ】に背を預け目を閉じる。

 

 ……アベルと交代で仮眠を取るのだ。

 

 

「……なぜ棺桶……フフッ。おやすみクリエちゃん、シドー」

 

 

 ――【かんおけ】がこんな風に使われるなんて初めて見たな……。

 

 

 “ぐうぐう。”

 

 

 【かんおけ】とシドーからすぐに寝息が聞こえ、アベルは微苦笑して囲いに上る。

 囲いの上には【めざまし時計】が置かれており、三時間で交代することになっている。

 モエールは……。

 

 

「ぶるぶるっ、寒いなあ……」

 

「モエールごめんよ。あと一日半だ。もう少ししたらアリ……、いや、食事を持って来るから」

 

「はぃ……。ありがとうございます……ぶるぶるっ」

 

 

 寒さに身体を震わせるモエールにせめて温かい食事を……と、アリアが毎食温かいスープを持って来てくれる。

 ただし、モエールにアリアの名前を聞かせると火力が上がってしまうため禁句だ。

 アベルは誰が持って来るとは言わずに寒さに震えるモエールを励ました。

 

 

「……モエールの気持ち、僕もよくわかるよ」

 

「……?」

 

 

 ……見守り作業はただただ地味である。

 アベルはただ炎を見続け、モエールが眠りそうになったら【ひのきのぼう】でつんつんするだけ……。

 モエールは寒さで眠れないとは言っていたが、やはり不眠不休は堪えるようで、二日目に入ってから一度意識を失い掛けた。

 クリエにつんつんされ(どつかれ)て意識を取り戻している。

 

 何度かつんつんされている間にダメージが蓄積され、ぐったりし始めたのでクリエが【やくそう】を無理やり口に突っ込み回復――。

 やはり拷問のようでアベルは申し訳なく思った。

 

 

「僕も昔、奴隷時代に労役を課せられていたんだけど、檜の棒で殴られたことがあってね……あれは辛かったな……」

 

 

 不意に奴隷時代を思い出し、アベルは目を伏せ苦い経験を語る。

 奴隷時代、さぼって寝ている時に見つかると【ひのきのぼう】やムチで打たれたのだ、それも何度も……。

 さぼっていたのはアベルなので自業自得のような気もするが、当時のアベルは成人前の子どもである。子ども相手に暴力は酷い仕打ちだ。

 

 ……身体のそこかしこが赤黒く腫れ上がり、痛みなんて途中からよくわからなくなるほど打たれた。

 回復呪文(【ホイミ】)で回復するのですぐに治るのだが、痛いものは痛い。

 

 

「アベル様にそんなことが……おいたわしや……」

 

「……ここだけの話、同じ打つなら檜の棒より絶対ムチの方がいいと思うんだよね……目が覚めるし。けど、僕が使えるムチはチェーンクロスしかないから、モエールに傷を付けすぎてしまうと思うんだ」

 

「あ、アベル様……? いったい何の話を……?」

 

 

 アベルの苦労話にモエールは同情に悲しみの笑みを浮かべる。

 ところがアベルは突然考え込むように腕組みし、話がなんだかおかしな方向へと流れ――モエールの唇が引き()った。

 

 自分も装備できるから【チェーンクロス】のことなら存じ上げてます。

 なにゆえ自分に傷を付けすぎるなどと、このお方は仰っておられるのでしょう……?

 

 ……モエールは先ほどとは一転、なぜか目を細めて口角を上げるアベルに寒気を覚える。

 

 

「……アリアはムチさばきが最高なんだよ……。まだ振るってもらったことはないんだけど、いつか打ってもらおうと思っててね」

 

「アベル様?」

 

「君を仲間にする前に 名産博物館で見たムチさばきは痺れたな……こう、身体を傷付けずに服だけを散り散りにしてしまったんだよ。あんなにムチってコントロールできるものなのかな……。僕の服を散り散りにされるのは困るけど、的になってみたいって、実は思ってる」

 

 

 うっとりとアリアのムチさばきを思い出すアベルの顔は恍惚としており、【ひのきのぼう】をムチに見立て振るう真似をした。

 

 

「ちょ、アベル様危ないですっ……!」

 

「あ、ごめんごめん。つい思い出しちゃって。ああ……僕も的になって、わざと失敗して傷付けてもらえたらいいのに……はあ……アリア……」

 

 

 モエールの顔の前を【ひのきのぼう】が掠り、風が横切っていく。

 アリアの名前が何度か出てしまっているが、敵対していた時の険しい顔とは程遠いアベルの顔。弛んだその表情にモエールはついていけそうにないため、今はアリアの名を聞いたところで炎が強くなったりはしない。

 冷気とは違う寒気に襲われ、モエールの身体は震える。

 

 目がすっかり冴えてしまった。

 アベルが傍にいるうちに眠ることは無いと断言できる。

 

 

「……ぶるぶるっ、寒いなあ……」

 

 

 ……モエールは再び仲間になったことを後悔し始めていた。

 

 

 

 

 それから三時間後、クリエとシドーが起き出してアベルと交代。見守りは二人に任せ、アベルはサポートに回ることにした。

 

 

 “ぐ~きゅるるる”

 

 

 交代後しばらくして誰かの腹の虫が鳴いたのが微かに聞こえ、そろそろ腹が空いてくる頃かと、首を固定されたモエール以外の三人がテントへ目を向ける。

 昨日はタイミングよくアリアが食事を持って来てくれたが、今日はどうだろうか。

 

 

「あ」

 

 

 ――アリア、さっすがっ!

 

 

 テントに注目していると、テントから小さな灯りが出て来てこちらに向かっているのが見える。

 小さな灯りが徐々に近付き、大きな鍋を持ったアリアが、【パン】の入ったカゴと【ランタン】を持つピエールと、【木の食器】の入ったバスケットを咥えるプックルを伴いやって来た。

 

 

「アベルおつかれさま、はいこれ。今回はポトフにしたよ。パンも作ったから食べてね」

 

 

 モエールからは見えない位置までやって来たアリアは、自身を見つけ急いで駆けて来るアベルに労いの声を掛け、大きな鍋――【にこみの大鍋】を差し出す。

 

 

「ありがとうアリア♡ 重かったでしょ? 言ってくれれば取りに行ったのに」

 

 

 アベルはおいしそうな匂いの漂う、熱々の【ポトフ】が入った【にこみの大鍋】をアリアから受け取った。

 ……【にこみの大鍋】はずっしりと重い。四人分入っているのだから当然といえば当然だ。

 

 

「大丈夫だよこれくらい」

 

「そうかい? でも……あんまり重いものは持たない方が……。次からは呼んでよ。スラりんにでも頼んで呼びに来てくれれば取りに行くからさ」

 

「ん……? なんで? さすがに私そこまで非力じゃないよ? これくらいの鍋なら問題なく持てるし」

 

 

 重い鍋を持って来たアリアにお礼を告げつつ、アベルは次回からはスラりんを派遣してくれと頼む。

 ところがアリアは首を横に振り振り。

 

 スラりんは目下の急務で【油】作りに精を出しているから無理だよとのこと。キングスたちも同様らしい。

 では「メッキ―は?」と訊ねてみれば、メッキ―も食事作りに協力してくれていて、料理を運んでいる間に待機組たちの給仕をしてくれているそうだ。

 

 メッキ―はともかく、【油】作りを頼んだ憶えのないアベルの頭には疑問符が浮かんだが、アリアが容認しているならまあいいかと納得する。

 とはいえ。

 

 

「いや、だって、ほら……あ、いや、なんでもない……体調はどう?」

 

「体調? 別にいつも通り元気だよ?」

 

 

 様子を窺うアベルにアリアは怪訝そうに首を傾げた。

 

 呪いが解けてからかなりの月日が経っているが、まだ気になっているのだろうか、解呪後は何もないというのに。

 昨日の就寝時はアベルが傍にいなかったため寝付きは悪かったが、寝入った後はぐっすり眠れ、今は超が付くほど元気である。

 食欲も変わらないし、秘かに行ってる筋トレの腹筋・背筋・腕立てもばっちりできた。

 今ならオアシスの周りを何周でも走れそうなくらいだ。

 

 

「そっか、ならよかった! じゃあ料理ありがとう、持って行くね!」

 

 

 アリアから体調は問題ないと聞けたアベルはホッとしたような、残念なような……僅かだけはにかんで見せ、【にこみの大鍋】を手にクリエたちの元へと戻って行く。

 

 

「あ、うんっ! って……変なアベル……。あ、ピエール君とプックルはアベルについて行ってあげて。私、先に戻ってご飯の準備してるから、戻って来たらみんなで食べよ」

 

「了解しました。では、灯りをどうぞ。すぐ戻ります」

 

「がうっ!(野菜~!)」

 

 

 ……よくはわからないが、アベルの過保護が増している気がするのは気のせいと思おう。

 アリアはピエールから【ランタン】を受け取り、一人テントに戻ることにした。

 

 

「……アベル淋しくて神経が過敏になっちゃってる……? やだ、なにそれ。アベルってば可愛い~♡」

 

 

 三日の間、アリアがアベルに会えるのは料理を手渡す瞬間と、アベルがテントに一時的に戻って来た時しかない。

 テントではアリアも何だかんだと忙しく過ごしており、今のところアベルの戻って来たタイミングでは何かしらの作業中で、アベルと話らしい話ができていなかった。

 馬車移動中よりも会う時間が少ないゆえに、心配でしょうがないのだろうか――。

 

 【やみのランプ】の修復が終わり朝が来たら、アベルに「がんばったね」と言っていっぱい甘やかしてあげよう。

 

 ……アリアは今日もアベルが愛しくて堪らなかった。

 

 

 一方でアベルたちはアリアの料理に舌鼓を打ち、見守り作業を続ける。

 モエールもアベルに熱々の【ポトフ】食べさせてもらい、英気を養った。

 

 そんな二日目は何度かモエールを小突くことがあったものの、なんとか無事終える。

 ……二日目が無事終了し、【やみのランプ】にはアベルたちは気付かなかったが、黒い煤が僅かに出始めていた。

 

 




つんつん。
ウンコ座りはアラレちゃんを思い浮かべて下さい。
ここにチャコがいれば良かったな~。

今回切りのいい所まで……と思ったらいつもよりだいぶ長くなっちゃいました。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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