ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回あらすじ>見守り三日目、あと少し……!

さて、三日目続き~。

では、本編どぞ。



第七百六十四話 見守り三日目②

 

 ……束の間の逢瀬を経て、アベルはクリエたちに食事を運ぶ。

 クリエたちの元に戻ると、クリエもシドーも、モエールも【海鮮鍋】を心行くまで堪能し、〆までしっかり食した。

 

 それから一時間程経った頃、遂に……。

 

 

「ん……? お? アベルにぃ、アベルにぃ」

 

「ん? なんだいクリエちゃん」

 

 

 アベルがそろそろ交代しようと囲いの【はしご】を上っていると、上からクリエの声が聞こえる。

 

 

「見て見て! 闇のランプから煤がいっぱい出てきたよ。そろそろ逆流が始まるかも。朝が来るよ!」

 

「おおっ……やっと……!」

 

 

 クリエの指先が【やみのランプ】に向けられ、囲いの上に上ったアベルはそちらに目をやった。

 ……モエールの炎に炙られた【やみのランプ】の口から煙と共に黒い煤が大量に出始め、空に昇っている。

 【やみのランプ】から出た黒い煤には地上の僅かな灯りに反応しているのか、キラキラとラメのような輝きが混じっており、空に溶けていく様は星屑を散りばめたように美しい。

 

 

 ――綺麗だなあ……アリアにも見せてやりたかったな……。

 

 

 煌めく煤が昇る様子をアリアに見せてやれないのが残念である。

 彼女ならきっと瞳を輝かせて喜んでくれたに違いないと思うのに、初めての経験だから出来ればアリアと共有したかったな……、と。

 アベルは昇っていく煤を見上げながら微苦笑した。

 

 

「闇を吸収していく様子は多分この一回しか見られないと思うから、アリアねえを呼んで来てあげたら?」

 

 

 アベルの気持ちに気付いてかクリエの目が細められ、さっきまで不気味だった笑顔がなんだか優しく見える。

 

 

「え? いいのかい? モエールの炎が強くなっちゃうんじゃ……」

 

「うん。ここまで煤が出始めたら、多少火力が上がってももう大丈夫だと思う。モエールも火力調整のコツを掴んだみたいだし、アリアねえが来ても平気だよ。ほら、急いで急いで!」

 

「わかった! ありがとうクリエちゃん! すぐ呼んで来るよ……!」

 

 

 クリエがアリアを呼んで来るようにと言ってくれたため、アベルはその厚意に甘えテントへ走った。

 喜び勇み全速力で走ると砂に足が埋まり、上手く走れない。何度か転びそうになりながら砂を蹴り蹴り、アベルはテントになんとか辿り着く。

 

 辿り着いてすぐテントの扉を開け放ち、アリアを探した。

 幸い彼女はすぐに見つかった。

 一番奥の炊事場でピエールたちとともに食器洗いをしているようで、楽しそうな優しいハミングが聞こえる。

 

 流しには大所帯ゆえか、泡だらけの食器が大量に積まれ、いつもならアベルも手伝っているところだが今は別行動中――。

 洗い物をしているのはアリア、ピエール、メッキ―で、プックルや【油】を出し尽くしたスラりんたちは炊事場に集まり、アリアの鼻歌にうっとりと酔いしれ微睡んでいた。

 

 アリアの鼻歌には眠気を誘う効果でもあるのか、ピエールとメッキ―の作業する速度は遅く、二匹(ふたり)も何だか眠そうだ。

 優しいメロディーについうっとり、アベルもアリアの鼻歌をこのまま聴いていたかったが、今はそれどころではない。

 

 

 ……アベルはアリアに声を掛け、呼びに来たのだと理由を説明した。

 

 

「え? もうすぐ闇のランプが復活するの? まだ三日目が始まって二時間も経ってないんじゃ……。私今、食器の後片付けをしてて……」

 

 

 アリアが歌うのを止めると仲魔たちはハッとしたように目を数度瞬かせ、いつの間にかやって来ていたアベルに注目する。

 

 

「ああ! 夜の闇がランプの中に吸収されるんだって。片付けはあとあと! あとで僕も手伝うから、アリアも見に行こうよ!」

 

「あっ、アベルっ、ちょっ……わあっ……!(手に泡がまだ付いてるのに~)」

 

 

 不意にアベルはアリアの身体を横に抱き上げ、いわゆるお姫様抱っこで踵を返し、テントの出入口を目指す。

 急に抱き上げられたアリアは慌てて濡れた手を【絹のエプロン】で拭き取り、アベルを見上げた。

 

 

「しっかり掴まっててね! 一度しか見られない光景だよ、みんなも見に行こう! ついておいで!」

 

「っ……!(もぅっ! アベルったら♡)」

 

 

 数歩走り出したところでアリアに掴まるよう促し、テントの奥、まだ微睡みから解放されたばかりでポカーンとした仲魔たちに振り返る。

 アリアが抱きつくと、アベルは走り出した。

 後ろにはアベルの一声で頷いた仲魔たちが慌てて駆け出す。

 

 ……クリエたちの元に戻る間、アリアは明るい笑顔で走るアベルをじっと見つめ、アベルが自然と笑えるようになってよかったと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー! 丁度いいところに……! って、お二人さ~ん! またまた見せつけてくれちゃってもー!(そういうの禁止だっつったっしょ!?)」

 

 

 作業中のクリエたちの元に戻ると、もう火力調整は必要ないらしく、囲いの壁からクリエとシドーが飛び下り駆け寄って来た。

 

 

「ハハハッ。隙あらばくっついていたいんだよーって……ぃった! 痛いよクリエちゃん!?(わかってはいたけど、君もバカヂカラ持ちか~……!)」

 

 

 アベルがアリアを抱きかかえながら来たものだから、クリエは笑顔だったがこめかみに血管を浮かせ、アベルの背中をバシバシと叩いてくる。

 シドー並みの打撃力にアベルの目には涙が浮かび、危くアリアを落としてしまうところだったではないか。

 絶対落とさないぞと、抱える腕に力を込める。

 この三日間、アリア不足のアベルはもう限界だったらしい。ついでにアリアに頬擦りをかました。

 

 

「っ、あ、ちょっ、アベルっ、なに? 下ろしてっ(怪我したわけでもないのに恥ずかしいよっ……!)」

 

「えー、足元砂だし、アリアが転ぶと心配だから 抱き上げてるくらいよくない?」

 

 

 ――もう、二人の前でイチャついたっていまさらでしょ?

 

 

 クリエとシドーに新婚夫婦はこういうものだと印象付けておけば、そんなもんだと思ってくれる。

 ……それでいいではないか。

 

 そうすればわざわざ気を遣わなくてもいいし――。なんて寝不足で思考回路が正常に機能していないアベルの脳みそは少々バグっているようだ。

 アリアが下ろすようにと告げても下ろそうとはせず、赤い顔で脚をバタつかせる妻を見下ろし、嬉しそうに落ちないよう押さえ込んでいる。

 

 ……その様子をキラキラした瞳で見るのはシドー……。

 シドーは「これがらぶらぶというやつか……!」と興味津々だ。

 

 

「「ダメー!」」

 

 

 アリアとクリエの声が丁度重なる。

 続けてクリエに「アリアねえが下ろしてって言ってるんだから早く下ろしてあげなよ」とジト目で言われてしまい、アベルは渋々アリアを地面に下ろした。

 アリアはアベルからサッと離れ、持ち前の【すばやさ】を活かし、目にも留まらぬ早さでクリエの背後に回り、ごそごそと【絹のエプロン】を脱いだ。

 

 

「なんでハモるかなあ……」

 

 

 ――アリアは淋しくなかったのか……?

 

 

 アリアに逃げられてしまい、まだまだ自分の方が想いが強いなと感じながら、アベルは苦笑する。

 そんな中、シドーがクリエの背後に隠れた【絹のエプロン】を仕舞い中のアリアに「らぶらぶだなっ!」と、笑顔を滲ませ声を掛けていた。

 

 

「ら、らぶらぶだなんて……そ、そんなこと……(恥ずかしい……)」

 

「はい、ラブラブ。はいラブラブー。そんなことより、みんなあっちにちゅぅ~もぉおおおおくぅっっ!!」

 

 

 顔を覆いもじもじするアリアは放っておき、クリエはシドーに回れ右をさせ【氷】の囲い上部を指差す。

 その声にアベル達も【氷】の囲い上部、【やみのランプ】に注目した。

 

 ……【やみのランプ】から大量の煤が出ているのが見える。

 先ほどアベルが見た時よりもずいぶんと排出量が増えたようだ。

 

 小さな口から出た煤は出始めは細く天へと立ち昇って行くが、上空に昇るにつれ徐々に横に広がってゆく。

 それはすでに広範囲に広がっており、空に輝く月や星を覆い隠すほど。

 

 

「わあ……煤なのに……キラキラしてる……? きれい……」

 

「うん……、綺麗だよね。アリアにも見せたかったんだ」

 

 

 黒い煤には地上で焚いた僅かな灯りに反応し、キラキラと光る発光成分が含まれているらしい。

 上空に広がった煤もキラキラと輝いているから不思議だ。

 ……空目掛け昇っていく様は、アリアの記憶の中の天の河を思い起こさせた。

 

 

「天の河みたい……」

 

「天の河……?」

 

「空に見える星々の河……みたいな……」

 

「ああ……そんな感じだね。って、アリア泣いてるの……!? ど、どうしたの……!?」

 

 

 ともに空を見上げていたアベルだったが、ふとアリアに視線を移す。

 アリアの瞳に涙が滲んでいるのが見えて、アベルはぎょっとした。

 

 

「っ、泣いてないよ!? ちょっと感動しちゃっただけ! こんな光景初めてなんだもの……!」

 

「ああ……フフッ、泣いてもいいのに」

 

「泣かないよ!?」

 

 

 アベルはアリアに寄り添い、シルクの髪をそっと撫でる。

 一緒に“初めて”を経験できてよかった。

 

 ……心からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、キレイだな。さっきよりススの量が増えたか?」

 

「だねえ……。シドー君のハカイのチカラを込めたスス、夜の闇を破壊してくれるはずだよ」

 

「上手くいくといいな」

 

「ねー!」

 

 

 二人で寄り添うアベルたちの前で、クリエとシドーも立ち昇る煤を見上げる。

 ビルダー二人も初めての光景で、楽しみで仕方ない。

 「もう少しで逆流が始まるよ」と話しながら囲いの側へと戻って行った。

 

 クリエとシドーの会話は背後のアベルたちの耳には入っていないようで、「アベル誘ってくれてありがと♡」「どういたしまして♡」なんて、互いに寄り添いお手々繋いで二人の世界……。

 アベルとアリアの後ろにはピエールたちもついて来ており、仲魔たちは慣れっこなので二人は放っておき、クリエたちのいる囲いの側へと集った。

 

 

「そろそろ夜明けですか。楽しみですね」

 

「がうがう!(キレイダナー!)」

 

「ピキー! キラキラキラリン……!(ジュエル元気にしてるかなあ)」

 

「メッキッキッ!(せっかくだから空から見てみよ……)」

 

 

 ピエールは夜明けが楽しみのようで、プックルは昇っていく煤を口をあんぐりと開けて見上げている。

 ……スラりんは煌めく煤にジュエルを思い出したらしい。

 メッキーは空から観てみようとのことで翼を羽ばたかせ宙に舞ったが、なぜかクリエに呼び止められ、クリエとシドーを伴い上空へ――。

 “バサッバサッ”音を立てて大きく羽ばたき、少し重そうだが踏ん張って高度を上げていった。

 

 

「のっしのっし」

 

 

 ……【油】作りを終えたキングスは元の【キングスライム】の姿に戻り、アリアを監視(見守り)中……。とにかく暇さえあればアリアを見ていたい、とのこと。

 実は分裂中(【スライム】)の姿の時も、ずっとアリアを見つめていたのである。

 そんな監視(見守り)対象のアリアであるが、始めはドン引きしていたものの、今は慣れたようで気にしていない。

 護衛の意味もあるため、別行動中傍にいられないアベルも、アリアが困っていないならとキングスの監視は許容している。

 

 

 ……長い夜の終わり、仲魔たちの反応はそれぞれだ。

 

 

 アベルとアリアは囲いには近寄らず、その場に留まり見届けるようで、仲睦まじい様子で空を見上げていた。

 

 

「みなさーん……、自分のことお忘れでないですかあ~……?」

 

 

 ……ただ一匹(ひとり)、魔力の炎を燃やし続けた最大の功労者であるモエールだけが煤の様子を見ることができず――、涙交じりの笑顔で役目を全うすることとなった。

 




切りの良い所で――と思ったら長……以下略。

基本章分けは地名で行っているため、章分けを特にしていないのですが【やみのランプ】編が大詰め。
次回から新たな旅が始まる……?

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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