前回あらすじ>朝が来たので、徹夜明けのアベルは寝ることにしました。
朝だけど宴じゃ宴。
では、本編どぞー。
◇
そして夜が明けた……!
「アベルお兄さん、アリアお姉さん、いい朝ですね! 昨日は明るい内からずっとお楽しみでしたネー。おはようございます!」
……徹夜中と打って変わり、礼儀正しくクリエがこうべを垂れる。
場所はテント(大)内、アベルとアリアは少し早起きをして、クリエたちに僅かばかりのお礼に食事を――と、朝餐会の準備中であった。
そこに先ほどまで白目をむいて寝ていたクリエが起きて来て、挨拶……は、いいのだがお楽しみとはいったい……。
「お、おはようクリエちゃん……(お楽しみて……何で知ってるんだ……?)」
「お、おはよ……(お楽しみて……何で知ってるの……)」
アベルとアリアも調理中の手を止め、ご丁寧にどうもと頭を下げた(シドーはアリアからの“おつかい”でヤシの実を取りに行っており、不在である)。
……昨日【やみのランプ】が復活してから、クリエとシドーには会っていなかったはず。
それに小さなテントは外に声が漏れない仕様。防音はばっちりだと、一応確認もしてある。
安堵感からアリアの声が普段より少し大きかったかもしれないが、外までは漏れていないはずなのだ。
なぜクリエが知っているのだろう……。
アベルとアリアはぽっと頬を赤く染め、互いに目配せをした。
「わーい! いっただっきま~す!! アベルお兄さん、アリアお姉さんごはん作ってくれてありがと~! 誰かが作ったごはんは格別だよ~!」
クリエはテーブルに並べられた料理を前に、手を合わせ機嫌よく食べ始める。
調理が終わり朝餐会の時間になると、【大きな木のテーブル】には苦楽をともにした仲間たちが一堂に会していた。
全員で食事を摂るのは三日振りだ。
しかもクリエとシドーとはこれが最後の会食となる。
「――んで、山奥の村で設計図を描いたってわけ」
「へえ、じゃあクリエちゃんはビアンカと知り合いなんだね」
「そだよー。山ん中で迷ってたら近くに村があるから休んで行ったらって、案内してくれたんだー。親切でキレイなお姉さんだよね。スパが出来上がったら温泉水も欲しいし、入りに行きたいなって思ってるよ。あ、この焼き魚ウマー♪」
……最後の会食はたっぷりと時間を掛け、話をしながら時間の共有をする。
メニューは朝だがこれまで頑張った褒美で豪華に【極上タイの塩焼き】と、【極上刺身もりもり】という盛り合わせのお刺身、【イネ】を炊いた白飯、【海鮮サラダ】と【おみそ汁】、そしてデザートに【カットフルーツ】という和食だ。
いったいどうやって釣ったというのだろう。テーブルにのせるのもやっとな【イシダイ・特大】を使った塩焼きは、一匹だけでも皆の腹を満たせるほどにボリューミー。
【極上刺身もりもり】も山盛りで、テーブルにのせきれないとのことで、クリエに新しいテーブルを出してもらった。
どの食材も、家具もすべてクリエからの提供品である。
食材はクリエが【木材】で作った【収納箱】に予め入れてくれていたもので、どれを使ってもよいとのこと。
アベルにはよくわからなかったが、アリアが「この収納箱、冷蔵庫みたい。不思議~」と感心していた。
その食材提供も今回で最後だと思うと少々名残惜しくはある。
アリアのお気に入り食材が【みそ】、【ネギ】、【ワサビ】、そして【イネ】。
この四つがいつもあればいいのに……なんて呟きながら調理をし、アリアは今、美味しそうに【みそ汁】をすすっている。
……クリエとアベルは、会話に耳を傾けながら食事を続けるアリアに時々視線を移しつつ、会話を続けた。
「スパか……いつ頃オープンだったかな……」
「ん~……世界が闇に覆われてから一か月は軽く経ってるとは思うけど……日数がはっきりしないんだよね~。」
「……ぅ」
痛いところを突かれアベルは眉を顰め目を閉じる。
アベルもそうだが、クリエもはっきりした日数がわかっていないらしい。
「……大丈夫だよ、アベル。そんなに経ってないよ。だいじょぶだいじょぶ」
「え?」
「あっ、このお刺身おいし~♪ こんなにおいしいお刺身初めて! ……うっ、ワサビがツンと来た~、くぅ~っ!」
「アリア……フフッ、君って
不意にアリアがアベルに優しく微笑み掛けたと思ったら、今度は【極上刺身もりもり】に夢中だ。【ワサビ】が鼻にツンと来たらしく涙目で鼻を抓んでいる。
アベルは思わず噴き出し、アリアの取り皿に追加の刺身をのせてやった。
「ぅぅっ、ありやと……っ、はー、刺激がすごかったぁ……! これぞワサビね……! ワサビはこうでなくっちゃ! ……ふふっ。アベルはちゃんと責任を取ったんだからもう気にしないで? ん~! おいしいっ♡」
……もう朝が来たのだし、過ぎたことは忘れよう?
涙の粒を目の端に浮かべながらアリアは、アベルの取ってくれた刺身を頬張って口角を上げる。
幸せそうに食べる彼女の表情に、アベルも釣られて顔が勝手に綻んだ。
妻の幸せそうな笑みを見ているだけで、夫である自らも幸せな気持ちになれるから不思議だ。
「そっ! アベルお兄さん大丈夫大丈夫! 多分二、三か月ってとこだと思うからさ」
「長く見積もって三か月か……」
――確かオープンは半年後だって、再会した時に言っていたような……。
クリエも明るい笑顔で笑い飛ばしてくれたので、アベルはビアンカの言っていたスパオープンの時期を思い出す。
……長い夜の間、ビアンカに会うことは出来なかった。
この世界の住人たちは“世界の理”によって皆、何らかの役目を背負わされているから、話し掛けても同じことしか言わないことが多い。
だから殆どの人々は正確な時の流れなどわかってはいないだろう。
果たしてビアンカは正確な時の流れを把握しているのだろうか……。
フローラはルドマンとともに、闇に備える行動を取っていたから、恐らく正しい時の流れを理解しているとみていい。
……テルパドールに着いて何らかの情報が得られたなら、一度山奥の村に行ってみてもいいかもしれない。
「スパスパ~♪ 温泉水をゲットだぜっ!」
「ふふっ、クリエちゃん温泉水なんて何に使うの~?」
「温泉に入るに決まってるよ。温泉好きなんだー」
……ビアンカの結婚も確か半年後だった気がする。
結婚する前か、した後か……。
アベルが結婚祝いはどうしようかと考えている間に、クリエとアリアが温泉の話題で盛り上がっていた。
「温泉に入る……? クリエちゃんも温泉好きなのね! 私も大好きなの♡」
クリエが【温泉水】を手に入れ、【温泉】に入る――という言葉にアリアは意味がよくわからず一瞬首を傾げる。
この世界はゲームの世界だから、永遠に保温の利く大きな容器があるのだろう。
そこへ大量に【温泉水】を入れ、どこかに【温泉】を作るという意味なのかもしれない……と、よくわからないが温泉好きが同じでよかったと笑顔を見せた。
「あそこの温泉、気持ち良かったな~。汲んでおけばよかったな~って思ってたんだ。けど、常にお客がいるし、一瞬とはいえ汲んじゃったらびっくりすると思って」
「汲んで……? 少しくらいなら大丈夫なんじゃ……?」
「……へへっ♪ スパがオープンしたら個室風呂もあるし、堂々と汲んで戻しとくから大丈夫!」
「戻したら、温泉水が手に入らないけど……?」
「にゅふふ……。ボクはビルダーだから大丈夫!」
「あ、うん。そうなんだ……?」
――個室風呂、堂々と汲んで戻す……? んんん……?
アリアにはクリエの話が難しいらしい。
深堀した方がいいのか迷っている内に、クリエはピエールと話し始め、シドーも会話に参加し、話題が別の内容へと流れてゆく。
その後、アベルとアリアは聞き役に徹し、朝餐会は次第にクリエとシドーのハチャメチャな冒険話に移り変わり、楽しい時間となった。
そろそろビアンカとフローラの顔を見に行きたいですねえ。
じ、次々回くらいにやっと再出発できるかな~……。(二回目)
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!