前回あらすじ>図書室を出たアベルたちが次に向かった部屋は……。
訓練所と食堂でした!
では、本編どぞー。
「アリア、僕の方はだいたい調べ終わったよ」
「え、もう? わかった~」
すべての本棚を調べ終え、アリアに声を掛ける。
どうやら彼女は手頃な【本】を見つけたらしい。パラパラと興味深そうに捲っていたが、アベルの呼びかけで【本】を棚に戻し、駆け寄って来た。
「……フフッ。面白い本でもあった? ゆっくり読むかい? 僕待ってるよ」
「あ、ううん、大丈夫。ん~と、料理のレシピ本があってね、サボテンステーキっていう料理があるんだって」
アリアの見つけた【本】は料理のレシピ本だったらしい。アベルにとっては興味がないため、取るに足らない【本】ではあるものの、彼女にとっては重要な内容だったようだ。
人の興味はそれぞれ。
だが愛する妻が興味を持つ内容ならば、それだけで多少の興味は湧くというもの。
読んだ内容を笑顔で語る妻に耳を傾けながら、アベルは図書室の扉を開き、アリアを先に通す。
「へえー、サボテン? なに?」
「うん、サボテン。砂漠に生える植物なんだけど、食用があるらしいんだよね。私、サボテンなんて食べたこと無いから どんな味がするのかなーって」
「植物でステーキ……? サボテンステーキか……」
――サボテンって植物なんだ……!? アリアって物知り過ぎない!?
アベルの人生 数百万回において、サボテンという植物に巡り合ったことはまだない。
そういえば昔戦った【サボテンボール】に名前が似ているね、と訊ねてみれば、そのサボテンだと教えてくれた。
……魔物に似た植物らしい。
アリアが言うには、前世の世界ではサボテンが身近にあり、彼女自身も育てたことがあるそう(最終的には枯らしたらしいが)。
色は緑、多肉植物という種類に属する植物で、トゲトゲがあって……、触ると痛いらしい。
前世の世界でも食用のものは食べられていたそうだが、アリアの住んでいた地域では食用ではなく、殆ど観賞用のものが愛されていたようだ。
【サボテンボール】や、ダニーが動かなければ、サボテンそのものだとアリアは笑う。
「ここに来るまで 一度もサボテンが生えてるとこ見なかったもんな~。アベルは見た?」
「いや? 見なかったなあ……、生息域が違うのかもしれないね」
「あっ、そっか。なるほど~! そうかも。この世界にはサボテンはないのかあ……残念、サボテンステーキは食べられそうにないね」
なんてことない他愛のない話も、コミュニケーションの一つ。
アベルたちは図書室を出て、今度は通路を挟んで向かいの部屋へと足を踏み入れた。
そこは訓練所であり、広い石畳の部屋に訓練用の武器が多く飾られ、事務作業を行う青年と、鎧を着せた人形相手に何度も斬りかかる男戦士の姿がある。
勝手に入室して怒られるだろうかと思ったが、事務作業をしていた青年が立ち上がり、人懐っこそうな柔和な顔でアベルたちの元へやって来た。
「やや、旅の人ですね。ここは兵士たちの訓練所です。再びこの世界に勇者さまが現れるその時まで……。伝説のカブトをお守りするのが 我らテルパドールの民の使命なのです」
青年が訓練所を紹介すると共に、テルパドールの民の使命を語る。
伝説のカブト――とは。初めて聞く話にアベルの目が見開かれた。
「伝説のカブト……! それがこの城に!?」
勇者の墓だけでなく、伝説のカブトまであるというのか。
気になって訊ねてみれば、「詳しい話はアイシスさまに聞いて下さい」などと、笑顔を向けられる。
訓練所にいるもう一人、訓練中の男戦士にも声を掛けようと思い、なんとはなしに彼を見ると、「オリャー!」「キエー!」……怒声を孕んだような凄みを感じる大きな掛け声がした。
その声を聞いたアリアの肩がビクリと震える。
「アリア、大丈夫かい?(怖いのかな?)」
「あっ……うん。だいじょうぶ……訓練だけど気迫が……すごいね」
「うん……、何かあった時のために訓練って大事なんだよ」
アベルが声を掛けると、アリアは薄っすらと笑みを浮かべた。
その笑顔はぎこちなく、心なしか肩が震えている気がする。
このままここにいても訓練の邪魔になるため、アベルは青年に会釈して、アリアを訓練所から連れ出した。
「……ふうー(あ~こわかったぁ……)」
訓練所の扉を閉めると、アリアが胸元に手を当て、深いため息を吐く。
「怖かった?」
「へ? あ……あははは……ごめん。アベルにはお見通しだった? あの人が悪いわけじゃないのに、勝手に怖がっちゃった。申し訳ないな……」
アベルの問い掛けにアリアは気まずそうに笑うが、やはりぎこちない。
「大丈夫だよ。さっきの人、確かに怖い顔してたし」
訓練中の男戦士はかなりの強面で、あんな男に大声を出されたら、自分に向けられたわけでなくとも、小さなアリアは怖いだろう……そう思い同意した。
すると彼女がようやくほっとしたように噴き出す。
「プッ、そういうこと言っちゃダメだよ?」
「……アリアは怖がりだよね」
「う~、そうなんだよね~。この世界って命懸けなことが多過ぎて、私 未だに戸惑うことが多くって……。あ、でも、アベルと一緒にいると安心できるからそこまで怖くないよ? いつもありがと」
「そっか……。うん、アリアは僕の傍にいるといいよ」
「うんっ、できるだけそうさせてもらうね♡」
邪魔にならないように近くにいるね、とアリアはアベルの後ろについて、紫のマントを指先でちょこんと抓んだ。
「……くっ!(可愛い……!)」
「ふふっ♡ 次はどこに行くの? 連れてって旦那さま」
「っ、奥さまの仰せのままに! こっち!」
ちらりと背後に目をやれば、上目遣いのアリアと目が合う。
アベルは ぽっと頬を赤く染めて、次なる部屋へと向かった。
……通路を北へ行き、視線の先、左手と中央に扉が見える。
まずは
ここは――、城に仕える者たちの居住区域なのではなかろうか。
引き出しを調べると三台の内、一台に【すごろく券】が入っているのを見つけ、貰うことにした。
勝手に貰ったわけではない。【すごろく券】の上に“使わないので誰かもらって”と書かれた小さなメモが貼られていたのだ。
一言書き添えられていたため、安心して貰うことができるというもの。
アベルは“【すごろく券】はいただきました”と書き置きを入れておいた。
この部屋は部屋続きの奥、食堂に続いており、アベルはそちらにも顔を出す。
……さすがは大きな城の食堂、かなりの広さだ。
ぱっと見ではあるが、広い食堂には一度に十人は座ることができるであろう、かなり大きな丸いテーブルが部屋の中央に設置され、壁際にはアベルの大好きな【タル】と【ツボ】もそれぞれ複数置かれている。
置かれた【タル】と【ツボ】はすべて割る……のがモットー。
アベルは食堂に入ってすぐの壁際に置かれた【タル】を連続で割った。
【タル】を割っている最中、食堂で掃除中の若い下女がじっと見ていたようだが、特になにも言われなかったため、旅の恥は掻き捨て、視線は気にしないでおく。
割った【タル】、内一つに【ふしぎな木の実】が入っており、ありがたく頂戴した。
「よし! 不思議な木の実げっと!」
「うふふっ、よかったね」
……アリアは――くすくすと小さく笑っていた。
【ふしぎな木の実】を【ふくろ】に仕舞い、アベルは先ほど視線を投げてきた下女に話し掛ける。
「こんにちは」
「ねえ知ってる? 世界が再び危機になった時、勇者さまが現れるんだって」
下女は得意気に語り、「タルを割る時は人に向けちゃダメよ」とアベルが投げた方角が気になったのだと注意を受けた。
確かに少し角度がずれれば、仕事中の彼女に当たっていたかもしれない。
そんな話をしている後ろでアリアが「そういうことじゃないと思う」とぽつり。
……アベルにはなんのことか わからなかった。
「世界が再び危機に……」
「……ってことは、まだ世界は危機になっていないってことかな?」
「うーん……異常気象も頻発してるし、これだけ魔物が溢れてるのに……?」
「だよ、ねえ……」
下女の話にアベルとアリアは顔を見合わせる。
……世界のどこかで勇者が現れたという話は聞かない。
勇者が現れる時は世界に危機が訪れた時――。
世界が暗闇に覆われた時、勇者は現れなかった。ということはあれはまだ危機ではなかったということか。
無事解決できてよかったが、あのまま闇の中で待っていれば、もしかしたら勇者が現れたかもしれないと思うと惜しいことをした。
だが、そんな
何もしないわけにはいかなかったのだから、これでよかったのだ。
アベルは僅かばかり後悔したが、その気持ちは心の内に引っ込め、調理場側に置かれた二つの【ツボ】を割りに行くことにした。
「アベルはツボが好きだね~」
「へへへっ、見ると割らずにはいられないんだよねー」
アリアが見守る中【ツボ】の縁を掴み、持ち上げて足元に叩きつける。
【ツボ】は見事に割れて、中には【まもりのたね】が入っていた。
「守りの種ゲット! はい、アリアあーん」
「へ? あっ、あーん?」
手に入れた【まもりのたね】を、その場でアリアに食べさせる。
アリアは昔のように「炒ってからお塩をかけたらもっと食べやすくなると思うのに……」なんて言いながら咀嚼するので、アベルの表情は綻んだ。
「よし! じゃあ、次のツボもいってみよう……!」
「アベル」
「……ん?」
「ちょっと待って。そのツボ……イヤな予感がするよ?」
アベルの手がもう一つの【ツボ】に掛かると、アリアが止めに入る。
お得意の特殊能力なのか、彼女は首を左右に振った。
「嫌な予感……? じゃあ……インパス!」
【ツボ】には
アリアの予感はよく当たるから、ここは素直に従って
……【ツボ】は赤く光っている。
お城の中を歩くの楽しい♪
ストーリー進まんけどもw
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!