前回あらすじ>戦闘に出させて欲しいと願うアリアに、アベルは渋々それを許すことに。だが、どうせ妊娠してるから当分無理だよと口を尖らせた。
王の間に女王さまはいるのかな?
では、本編どぞー。
「ん~、私は妊娠してないと思うけどな~。たぶん、アベルの早とちりだよー?」
「なにを根拠に……」
「私の身体だし、私が一番わかってるもの」
「……僕は妊娠してると思うんだけどなあ……」
女性の身体に関して詳しいわけではないが、アリアの体調の変化なら毎日観察している。
夫婦の営みは毎日ではないにしても、ほぼ毎日と呼べるくらいには致していたはず。月の物が一月以上きていないというのなら、それ以外考えられない。
……と、アベルは思うのだが、アリアは違うらしい。
「ふふふっ、私はまだ もうちょっと二人きりでいたいかな」
「それはそうだけど……」
アリアの気持ちはアベルにも痛いほどよくわかる。
アベル自身も、アリアに子を作ってやりたい気持ちは大いにあれど、まだまだ新婚生活を楽しみたい。
……後者の気持ちの方が強いのだ。
アリアが妊娠することは大変喜ばしいことではあるものの、口に出したりはしないが、現時点では妊娠していなければいいと、アベルは思っている。
だが、することをしていれば子どもなんてものは、いつできるかわからない存在。
子ができていたとしたらアリアを連れ回すのに、あらゆる対策を講じなければならなくなる。
必要なら実家に帰すという選択もあり得る。アリアならルドマンの家か、修道院のどちらかだ。
離れたくはないが流浪の身としては、そういった点も視野に入れねばならないだろう。
せっかくアリアと結婚できたというのに、一年も経たずに離れ離れになるかもしれない……、などということは、考えるだけでも苦痛そのもの。
とはいえ妊娠していたら、それはそれで嬉しいという純粋な喜びもある。
……矛盾していても、どちらも今のアベルの正直な気持ちで、二人きりでいたいと言うアリアもそうなのかもしれない。
「砂嵐が治まったら、教会に行ってみるんでしょ?」
「行ってくれる? 神父さんに診てもらっていいよね?」
「もちろん! それでアベルが納得してくれれば、私も戦闘に参加できるわけだし、はっきりさせないとね」
砂嵐が静まったら、教会へ――。
アリアは教会で診察を受けてくれるらしい。
妊娠していなかったら、戦闘に参加が確定している口振りだ。
「……、……うん(アリア、戦闘に参加するつもりなんだな……)」
アベルは渋々首を縦に下ろした。
「あれ? アベル、なんか納得してない感じ?」
アリアがアベルの様子に首を傾げる。
こういう時、察しが早くて困ってしまう。
「……うん。けど、アリアのお願いは叶えてあげたいから、白黒はっきりしたら、今後のことを考えようと思う」
――とりあえず考えるだけ……。
アベルの予定では、今はまだアリアを戦闘に参加させるつもりはない。
……ないのだが、この砂漠の大陸にはかなり長居してしまった。
「ありがとうアベル。おかげさまで、馬車にいながら私もそこそこ強くなったから、この砂漠でも戦えるよね?」
アリアの言うことは最もだ。
アベルは明けない夜の間、戦いをずっと続けていたわけで、皆のレベルが底上げされている。
この砂漠地域でアリアを戦闘に参加させても、問題ないほどに……。
【ほのおのせんし】の群れには少々注意したいが、アリアには
回復呪文にも長けているし、何より彼女は一度に二回呪文を行使できるという利点もあるわけで。
命の危険は回復さえ怠らなければ然程ではない。
だからこれは、ただアリアを馬車に閉じ込めておきたいアベルのエゴなのだ。
アリアは気付いていたのだろう、にこにこと笑顔で告げて、アベルの反対は受け付けない様子――。
「……そう、なんだよねー……、はあ……モエールが仲間になるまで相当戦ったもんな……。僕もさらに強くなったし、妊娠してなかったら少しだけ一緒に歩いて……っ、みる……?」
今回はアリアに完敗だ。
アベルは不服ながらも妊娠の有無がわかったのち、アリアを戦闘に参加させることを提案した。
「うふふっ、うんっ! 訓練大事だもんね!」
……アリアの返事は明るく、笑顔が可愛かった。
◇
◇
◇
「ずっと大昔のことだけどね、私らテルパドールの祖先は、勇者さまのお供をしたんだよ。それで世界が平和になってから、この地に落ち着きこの国を作ったのさ」
「へえ、そうだったんですか。勇者のお供を……」
「……(お供って……導かれし者たちのことよね……?)」
アベルが中年女性の話に相槌を打つ間、アリアはドラクエⅣのキャラたちを思い浮かべ、淹れてもらったお茶を口に運ぶ。
……アベルたちは今、食堂の大きなテーブルでお茶を飲み飲み、調理場にいた中年女性から話を聞いていた。
先ほど【あくまのツボ】との戦いを見ていた中年女性が声を掛けてくれ、お茶でもしていきな、とのこと。
夜な夜な【ツボ】から変な声が聞こえて気になってはいたが、ただならぬ気配を感じ、不気味過ぎて確かめなかったそうだ。
【あくまのツボ】だったと教えると、中年女性は「ヒエッ!」と震えあがった。
退治してくれてありがとうね――、ということで現在に至る。
「は~♡ うまっ♡ これがデーツっていうんですか? 甘くておいしいですね。初めて食べました」
「フフッ、あんた美味しそうに食べるねえ、お土産にあげようかね」
「わあ♡ いいんですか? ありがとうございます!」
「いいよいいよ。栄養たっぷりだから、旅の携帯食にぴったりさ」
……アリアがドライフルーツにした茶色い果物を齧り、絶賛した。
美味しいものを食べている時のアリアの顔は、この上ないほど幸せそうで、アベルの目も釣られて細くなる。
お茶請けにと出された小さな果実、名前はデーツという。
シドーが取ってきた 大きなヤシの実とは違う種類の、ナツメヤシというヤシの実らしい。
大きさはずいぶん小さく、二、三センチくらい。
非常に栄養価が高く、ねっとりした食感。口に入れ、一噛みすれば濃厚な甘さが口内に広がる。
アリア曰く、味は黒糖や干し柿に似ているとのこと。
貧血や便秘に効くらしいが、かなり糖度が高いため、食べ過ぎには注意するように……と、中年女性がアリアの持っていた空のビンに詰めて持たせてくれた。
「ははは、アリアは色んなものをもらうね」
「ふふふっ、ラッキーだったね♡ あとでみんなで食べよ♪」
中年女性と別れ 食堂をあとにして、アリアは嬉しそうにデーツが詰まったビンを鞄に仕舞う。
アベルはよかったねと彼女の頭を優しく撫でた。
さて、次はどこに行こうか……。
「休憩もしたし……、次は上の階かな」
「あ、女王さまに会いに行く? 王の間ってたぶん上の階だよね」
「そうだね、挨拶しておいた方がいいかな。行っておこう」
「はーい!」
複数階層の城で王がいるのは、だいたいが上の階である。
城にお邪魔しているのだ、勇者の墓のことも訊きたい、遅くなったが挨拶しておいた方がいいだろう。
……アベルたちの足は三階へと向かった。
◇
「あ、あの……女王さまは……」
城の三階には王の間があったのだが、玉座には誰も座しておらず、女王は留守のようだ。
代わりに踊り子のような衣装を身に纏った女性が二人、玉座の側、左右に控えていた。
女性二人に視線を向けて、一見して二人がどんな役職なのかすぐに理解する。
……二人の見目は麗しい。
麗しい見た目に反し、女性ながらその肉体は引き締まり、腕も腿も筋肉質。厚い胸板のような胸はあまり柔らかそうには見えず、それぞれ腰に【のこぎりがたな】と【はじゃのつるぎ】を携えており、彼女らは従者というより、近衛兵に見える。
この城に美人の女性兵士がいるなんて思わなかった。
刺激的な服装にアベルは気まずさを覚えながら、向かって右手に控える女性に話し掛けた。
「女王さまは、再び闇が世界を覆いつくそうとしていることを予言し……、伝説の勇者さまの再来を待っておられるのです」
「で、伝説の勇者の再来……、っ、そうですか……」
こういうタイプの女性に初めて会ったな……と、アベルは新鮮さを感じる。
きっと訓練所で訓練を重ねているに違いない。
露出が高い衣裳の分、はっきりした身体のラインが見え、女性的なエロスを感じることは特にないが、鍛え上げられた肉体は素直に美しいと思えた。
「……、どうかされましたか?」
「……(綺麗な筋肉だなあ……)」
――女性でもこんなに引き締めることができるんだな……。
女性兵士が戸惑いに首を傾げる中、アベルはつい、まじまじと鍛え上げられた筋肉に見入ってしまう。
以前アリアに「アベルの筋肉ってすごぉい……♡♡」なんて、うっとりした顔で言われたことがあるが、自分の身体を客観的に見たことはなく――、恐らくこういう感じなのだろうと思う。
……アリアは美女好きで、さらにきっと筋肉好きだ。
今はまだ自分の背後にいるため はっきり気付いていないようだが、恐らく彼女らの筋肉にも反応を示すはず。
美人のビアンカにもメロメロだったのだ。目の前の女性兵士は顔はビアンカには及ばずとも、美麗な部類。
美貌と筋肉を併せ持つ女性に、アリアが心惹かれないわけがない。
「……アベル見過ぎ。失礼だよ。すみませんでした」
「えっ? あっ、ち、違うよ!?」
アリアはアベルの腕を引いて、頭を下げる。
そのままアベルを階段前まで連れて行った。
「……アベルったらじっと見つめちゃって……、アベルはあの女性兵士さんみたいに 引き締まった身体の方が好みなの?」
「だから違うってば。むしろアリアが彼女たちに惚れちゃうんじゃないかと思って心配で……!」
「えぇ? 私 別に女の人を好きになんてなったことないけど……」
唇を尖らせ訊ねてくるアリアに、アベルは君が心配なのだと伝えるが、いまいち伝わらない。
彼女は怪訝な顔で首を傾げた。
アリアはアベル、自分以外の男に見向きすることはないが、綺麗な女性にはすぐ惹かれる。しかもかなりチョロい。
……ビアンカがいい例だ。
同性でも浮気は浮気、警戒するに越したことはないわけで。
「ビアンカの言いなりだったよね!」
「えっ、ビ、ビアンカちゃんは特別だから……」
ビアンカと共に行動していた時のことをアベルが指摘すると、アリアの目が泳ぐ。
だってヒロインだし……、なんて小さな呟きが聞こえたが、アベルにはなんのこっちゃである。
「ほらっ! 僕という存在がありながら、何度も二人で百合の花を咲かせてたよね!」
「ゆ、百合の花……? な、なん……?」
「ビアンカがその気だったらアリア、浮気してたよね!?」
いまさらの話だが、あの時はモヤモヤしたし、面白くなかった。ビアンカにアリアを取られるのでは、という危機感まで抱いたのだ。
この機会にアリアに釘を刺しておかねば。
「し、しないっ……と、思う、けど……?」
「思うけど!?」
「うう……しないですぅ……」
アベルに責められ、アリアは手を組み縮こまる。
“だってビアンカちゃん綺麗だし、格好いいんだもん……見つめられたらもうなんか、わけわかんなくなっちゃって……。”
……小さな呟きはアベルの耳にしっかり届いた。
「アリアは男には耐性あるけど、綺麗な女の人にめっぽう弱いから困るんだよ。浮気はダメだよ、絶対ダメ!」
「……アベルがあの人のこと、じっと見つめてたから注意したのに、なんで私が怒られてるの……(ここは私がヤキモチ焼くとこよね……?)」
ちょいちょい浮気を疑われるのはなぜなのか……。
アリアはわけがわからないまま、ふと女性兵士に目を向ける。
「アリアはここで後ろ向いてプックルと遊んでて。僕、もう一人に話を聞いてくるから、(あ)……アリア、聞いてる?」
……アベルが話す中、対話を続けるアリアの目線がアベルからずれ、紫水晶の瞳はその後ろ――、女性兵士を捉えている……。
「アベル……。も~……同性に恋なんてしないよ~……って、兵士さん めっちゃ好い身体してるぅうう~♡ すてき……♡ キュンキュンしちゃう♡♡」
「ほら恋してるじゃん!」
「ち、ちがっ……!」
アベルの危惧した通り、アリアは女性兵士に目を奪われてしまった。
ここにいたら、アリアが女性兵士にメロメロになってしまいかねない。さっさと退室した方が良さそうだ。
アベルは素早く左手にいた女性兵士にも話を聞いて、王の間を後にした。
男女ともに筋肉はサイコーです!筋肉は裏切らない。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!