前回あらすじ>王の間にいた筋肉美女兵士に、心を奪われたアリアを正気に戻そう……ということで、アベルは早々に王の間を後にしました。
砂漠の庭園ってどんななん?
では、本編どぞー。
「アリアってチョロい」
「う」
……階段を下り二階に戻って来ると、アベルは横目でアリアをちらり。
「気を付けてよね。同性でも浮気は浮気だよ?」
「……いや、だからさっきのは違うって言って……コイジャナイ、コイジャナイ」
「女王さまが下にいることを教えてくれた女性、アリアを見て微笑んでたよ?」
「ホントっ!? 素敵なお姉さまだったよね! お喋りしたかったな~♡」
どうやらアリアは、王の間の左手にいた女性兵士が気に入ったらしい。
否定する彼女をちょっとつついてみれば、ビアンカを見ていたような瞳で口元に両手を添え、うっとりと語った。
「……、はあ……」
――僕の奥さん、実は惚れっぽかったりして……?
アベルの口からはため息しか出ない。
恋ではないという彼女の言葉を信じ、もう同性は許容するしかなさそうだ。
アリアが心を奪われることの何が嫌だと言えば、盲目的に相手の言いなりになってしまうことである。
まるで混乱したかのように、言葉が届かなくなるのが不安で堪らない。
幸い、今のところ悪い人間がアリアを虜にしたことはないが、アベルが置き去りになったことは何度かある。
その度に淋しさを感じ焦燥感に駆られると同時、苛立ちと不安にも襲われるのだ。
「……ご、ごめんねアベル。だって、あんな綺麗な筋肉を持つ女性なんて初めて見たから……」
「……僕の筋肉はお気に召しませんでしたか?」
アリアは謝るが、アベルの顔は不機嫌そのもの。
そのまま不貞腐れるように腕を曲げ、拳を握って力こぶを見せつける。
「え? 大好きですけど!? アベルの身体が一番好きだよ♡」
「……っ、な、ならいいけど?」
アリアに一番好きだと言わせて、ようやくアベルは溜飲を下げた。
◇
“女王アイシスさまは下の庭園におわしますわ”
……女王の居場所はアリアのお気に入りの女性兵士が教えてくれた。
アベルたちは下の階へ向かうため、二階に続く階段を下っていく。
「女王さまは下の庭園にいるって言ってたけど、一階のことだよね? 砂漠の庭園ってどんな感じなのかな~、楽しみだね♪」
「そうだね♡」
――アリアの手は小さいなあ♡
アリアと手を繋ぐアベルの表情が、先ほどと打って変わり、穏やかに。
……今し方、不貞腐れたアベルを察したアリアは、ご機嫌取りに手を繋いだのだ。しかも指を絡め合わせる恋人繋ぎをするものだから、アベルは嬉しくて仕方ない。
階段を下りた先には、アベルたちを城に迎え入れてくれた兵士が控えているが、手元をチラチラ見られていることに気付いて、ついニヤついてしまった。
「主殿の顔……鼻の下が伸びきってますね……。アリア嬢は主殿の扱いが上手い」
「がうう(主はアリアとくっついていれば 大抵機嫌がいいからな)」
蜜月の時期だ、二人はいつでもどこでもくっついていたいのだろう……。
ピエールとプックルは、自分たちの目の前で いちゃいちゃオーラを出し続ける主夫婦を生温かい目で見守る。
……アベルは嬉しそうだが、アリアは恥ずかしさで気まずそうに見えた。
「わあっキレイ! こ、ここ砂漠だよね……!? オアシスが城の中に……!?」
「すごいな……!」
階下へと続く階段を下りた先は大きな泉の上で、その周りには緑の光景が広がっていた。足元は清らかな清水が湛えられ、飛び石で作られた通路が緑の絨毯に伸びている。
かなり大きな庭園で、屋内だというのに、アベルの実家の何十倍あるのだろう、すぐには答えが出せそうにないほど広い。
“ピチチチ”。
頭上で小鳥のような鳴き声が聞こえたため、視線をそちらに向けてみれば、赤、青、黄色という砂漠にいるはずのない、色鮮やかな小鳥たちが、アベルたちの目の前を優雅に舞い去った。
砂漠の城だというのに、ここには【砂】の“す”の字も見られない。緑溢れる庭園に驚かされる。
いったいどれだけの財があれば、これだけの庭園を造れるというのか……。
「わっはっはっはっ! 砂漠の城にこのような庭園。さぞや驚いたであろう。これも、女王さまのおチカラの賜物なのだ。女王さまには眩いほどの美しさ、それに未来を知る能力もおありになるのだからな」
アベルたちが飛び石の通路を渡り切ると、近くにいた警備の兵士がなぜか仁王立ちで話し掛けてくる。
アベルもアリアも庭園の美しさに周りを見回していたから、突然の声掛けに驚いたが、確かに砂漠の城の中に、こんな緑が溢れた場所があるとは誰も思わない。
この城を訪れる多くの旅人も、同じような反応を示してきたのだろう。
自慢げに語る兵士は、女王を賛辞するだけ賛辞して去って行った。
「……あの人、女王さま推しなのね」
「だね……。旅人が来る度言ってるんだろうなあ……」
「眩いほどの美しさだって。未来を知る能力もあるなんて……、どんな方なんだろ……」
兵士がドヤ顔であれだけ言ったのだ、アイシス女王は恐らく美しい女性のはず。
アリアが砂漠といえば【イシス】があったよねと、ドラクエⅢを思い出し、まだ見ぬアイシス女王の姿を想像する。
Ⅲプレイ時は画面越しのドット絵だったが、あの国でも女王が褒め称えられていた。
今回は世界も国も違うが、美しい女王を実物で見られるのだ。
男でも女でも、魔物でも、美しいものを見るのは目の保養。
純粋に興味をそそられるというもの――。
……そんなことを考えるアリアにアベルは告げた。
「アリアに敵う美人なんてそういないよ」
「っ! またまたあ~、すぐそういうこと言ってくれちゃって~……! ありがと……。でも、綺麗な人と会えるのは嬉しいなっ♪」
冗談めかしていったのかと思いきや、アベルの真っ直ぐな瞳がアリアを捉え、白い頬は真っ赤に染まる。
彼女は「アベルはお世辞が上手なんだから」と、腕を軽く叩いた。
……しかし、最後の一言はいただけない。
「浮気ダメ、絶対」
アリアは綺麗なお姉さんに最弱だ。
アイシス女王に会わせて大丈夫なのだろうか……。
……アベルはなぜか不安に駆られた。
「だから、なんでアベルが警戒するのよ……。普通逆でしょ逆……」
アリアがぶつぶつ何か言っているが、アベルは繋いでいた手を放し、アリアを自分の背後に付かせる。
「アリア、庭園をぐるっと一周してみようよ」
「え? あ、うん」
アベルは庭園内を巡ることにした。
……女王の位置は、実は既に把握済みである。
アベルたちの背後、少し離れた場所にあるテーブルで、書類と睨めっこしている黒髪の女性が、恐らく女王アイシス、その人なのだろう。
少し遠目だが、見目麗しい女性であることはわかった。
その彼女は今、眉間に皺を寄せ難しい顔をしている。
側には鎧を身に付けた戦士の男が跪いて、アイシスの返答を待っている様子――。
取り込み中のようだし、アリアもまだ女王の存在に気付いていない。
庭園を一周してから声を掛けた方がよさそうだ。
「天蓋付きベッド……。女王さまはここで寝てるのかしら……」
「かな……」
女王のいるテーブルとは逆方向へと歩くと、庭園の中だというのに、部屋代わりの睡眠区画とでもいうのか、【木の床】が敷かれ、その中央には天蓋付きの大きく高級そうなベッドが置かれていた。
【木の床】には、睡眠区画を囲うように支柱が立てられており、支柱に巻き付くようにして、頭上に植物の葉が生い茂っている。小鳥が数羽、憩う様子も見られた。
睡眠区画の周りには木々が生え、青々として……、森の中のベッドをイメージしていると思われる。
アリアの言う通り、女王のベッドなのかもしれない。
庭園の気温も外ほど暑くはなく、一定に保たれているように思え、恐らく夜も寒くはないのだろう。
確かにここならば、リラックスしてゆっくりと眠ることができそうだ。
一人で使うにはもったいないくらいの広いベッドも、女王が使うものであるならば納得がいく。
「私たち砂だらけだから、無断で入って汚したら怒られるかも」
「そうだね。じゃあ、あっちに行こうか」
アベルたちは、女王の
「あ、アベル、井戸があるよ」
「よーし、行ってみよう!」
「……よーし! 行ってみよう!」
庭園の北東に向かうと、井戸を見つける。
井戸があれば、中に入って確かめずにはいられない。
アベルが行こうと誘うと、アリアは両手拳を握って肘を引く。意気込んで井戸を下りることにした。
「うーん、アリア、すっかり逞しくなったね」
「へへへっ。やったね~☆」
井戸から出てきたアベルは、自力で上がってきたアリアに眉を寄せながら微笑む。
これまで井戸一つでも何かと世話がかかったアリアだったが、今ではあまり手が掛からなくなってきた。
嬉しいような、淋しいような……。
無邪気な笑顔でダブルピースをするアリアに、もっと頼ってくれていいのに……と、アベルの気持ちは複雑だ。
「わあ、お花がたくさん咲いてる~♪」
井戸の周りには色とりどりの花が咲き乱れており、アリアの瞳が輝く。
暗闇から解放されたとはいえ、砂漠という場所柄、カラフルな花々を見ることはかなり久しぶりである。
だからだろう、アリアは花々の前にしゃがみ、「花はいいねえ~♡」なんて嬉しそうに見下ろしていた。
「……天使」
「ん? なんか言った?」
「うん、天使がいるなと思って」
「えっ!? どこ!? 私の仲間がいたの!?」
隣に腰を下ろすアベルの口から出た“天使”の単語に、アリアがきょろきょろと辺りを見回す。
だが周囲を見回しても、近くにジョウロを手にした下女であろう中年女性が目に入っただけで、他には誰も見当たらなかった。
「違うよアリア。君のことだよ」
「え、私? やだ、アベルなに言ってるの。私は
「……そういう意味じゃないんだけどなあ……」
「ん? ドユコト?」
アベルは頭の後ろを掻き掻き。
アリアが天使のように輝いて見えて口から出た言葉だが、本人には伝わらなかったようだ。
「……まあ、ちょっとキザだったかなと思うから、触れなくていいや」
実は照れ臭かったアベルは、アリアが気付いていないならいないで、よしとした。
「……ん? そう?」
「……っ、可愛い顔してぇっ!」
アリアの首がこてんと横に傾き、日に焼けた浅黒い両手が白い頬を覆った。
「うにゅ?」
「……っ(今すぐちゅーしたい……! けど人の目が……!)」
もちっと柔らかく、吸い付く滑らかな白い肌に、魅惑の紫水晶が真っ直ぐアベルを見つめている。
長い睫毛がぱちぱちと瞬き、なぜ頬を挟んでいるのか、アリアはわかっていない様子。
きょとんと不思議そうに見つめてくる妻に、愛しさが募って仕方ない。
……今すぐ唇を奪ってしまいたい。
だがすぐ近くに人の気配がする。邪魔をしてくるとは思わないが、さすがに人前でキスをするのは恥ずかしい。
「……かわいい……、っ!」
“ゴッ!”
アベルは唇を近付けたが踏み止まり、そのまま額をアリアに打ち付けた。
「……った!?(なんで急に頭突き!?)」
「ごめんごめん。可愛さあまってつい……」
「もー、なにそれ~」
不意の頭突きに驚いたアリアが額に手を当て、目を丸くしている。
アベルは気恥ずかしさに頭の後ろを掻いた。
……そんな二人の視界の端から、ジョウロを持った中年女性が近付いて来る。
贅を尽くした庭園ですよね……!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!