ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回あらすじ>庭園の花畑でアリアに見惚れたアベルは、キスをしようとして頭突きをかます。そこにジョウロを持った中年女性が近付いて来て……。

女王アイシスさまに会いに来たよー。

では、本編。



第七百八十話 城内を巡る ~砂漠の女王アイシス~

 

「さあさ、お花の手入れをしなくっちゃ。おやまあ! あんたも美人だねえ。女王さまに負けないほどだよ。だけどかなり華奢だねえ、そんな身体じゃ砂漠の旅は堪えるだろう? 気を付けておやりよ」

 

 

 やって来た中年女性は独り言を呟き、花々に水をやり始めたが、アベルたちの存在に気付いて声を掛けてくる。

 アリアの姿に一瞬目を見張ったかと思うと、眉をハの字にして「ちょっと待ってておくれ」なんて、告げて走って行ってしまった。

 言われた通りそのまま待っていると、中年女性が【うえきばち】に植えられた【しろい花】の鉢植えを抱えて戻ってくる。

 

 

「あんたには白い花が似合うよ」

 

「とってもキレイ……ありがとうございます」

 

 

 【うえきばち】で咲く【しろい花】の花弁は、瑞々しく白く輝いて、アベルにかつてのアリアの翼を思い起こさせた。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 アベルが鉢植えを受け取り、【ふくろ】に仕舞う。後でキャビンに飾っておいてもいいかもしれない。

 

 

「やっと夜が明けたってのに、昼間も砂嵐が酷くって、買い物も隙を見ていくしかなくてね。ここの花たちが癒しなんだよ。砂漠を抜けるのは大変だろうと思うけど、砂漠を抜ける間は、その花に癒されるといいよ」

 

「え……?」

 

 

 中年女性の話にアベルは目を丸くした。

 

 

「ん? どうかしたかい?」

 

「やっと夜が明けたって……、どういう……」

 

「ああ、あんたも気付いてなかった口かい? 旅人に多いんだよねえ、夜が三か月も続いてたなんて、嘘みたいな本当の話だよ。テルパドールの人間はわかってるんだけど、よそから来た人たちはわからないみたいだね。城の中はともかく、外は寒くて堪らなかったよ」

 

 

 ……気付いていなかった口。旅人に多い。夜が三か月も続いていた。テルパドールの人間はわかっている。よそから来た人はわからない。

 数日前、やっと夜明けが来て、嬉しくて城のみんなで泣いちゃったよ――、と。

 中年女性が目元に薄っすら浮かべた涙を拭うその様は。

 

 

「……アリア」

 

「うん、だね」

 

 

 アベルがアリアに視線を送ると頷いた。

 どうやらテルパドールの人々は、正確な時の流れを把握しているらしい。

 

 クリエとシドー以外にサンタローズ、アルカパ、ラインハット、サラボナにも、ここまではっきり時の流れについて言及した人はいなかった。

 テルパドールの人々と、これまで出会った他の町の人々との違いはなんなのだろう。理由はわからないが、他の人にも訊ねて同じことを言うのなら、この女性の言っていることは正しい。

 

 

「砂嵐のせいで、しばらくは旅立てないかもしれないけど、女王さまが解決して下さるって話だから、のんびりしておいきよ」

 

 

 ……中年女性が上の階でお茶が飲めるよ、と教えてくれたが、アベルたちは既に頂いたあとだ。

 城内見学を続けるため、花のお礼を告げてその場を後にした。

 

 

「そっか……もう三か月経ってたんだね」

 

「うん……、つまりアリアは妊娠してる……!」

 

「だからわかんないってば……!」

 

 

 自信満々で口にしてみたが、アリアは認めない。

 なぜこんなにも頑なに認めないのか、不順がどうのと言っていたっけな……なんて、アベルはその辺りの女性の身体について、詳細までは把握できておらず、腕組みをする。

 

 

「そうかなあ……、まだ体調に変化が見られないだけなんじゃ……?」

 

 

 アベルの目が細められ、アリアの下腹部を愛おしげにそっと撫でた。

 

 

「……ね、アベル」

 

「ん?」

 

「……そういうの、あんまり期待しない方がいいんじゃないかな。期待し過ぎて違ったら、がっかりしない?」

 

「え、なんで? 絶対できてると思うよ?」

 

 

 ……なぜアリアはそんなことを言うのだろう……。

 

 いつも快活な彼女の表情は、珍しく笑顔がなかった。

 それどころか、思い詰めたような顔をしている。

 

 

「……私、アベルの奥さんになったけど、子どもができるかはわからないよ?」

 

「ん? できるよ」

 

「ん? どういうこと?」

 

「……ん~、そりゃ、夫婦生活はしてるわけだし。……それに僕、ビアンカやフローラさんと結婚してた時、子どもがいたような気がするんだよ」

 

「ぁ……、そう……、なんだ……」

 

 

 アベルの言葉にアリアの瞳が揺れる。

 “やっぱりアベルには、別世界の夫婦の記憶があるのね”と、瞳が語り、返事をする声は暗かった。

 

 

 (ああ、しまったっ! 今の、アリアに言ったら駄目なヤツだ……!)

 

 

「あっ……えっと、ごめん……。ホント、薄っすらとだけ、そんな……、気が、して……本当にそんな気がするっていう程度の、薄っすらね! っ、だっ、だからアリアにもできるかなって!」

 

 

 いたような気がする――という、感覚だけがなんとなくあるだけで、これも記憶といえば記憶と呼べるのかもしれない。

 

 ……愛する夫が他の女性と夫婦であった時の話など、現妻のアリアも聞きたくはないだろう。

 アベル自らも、アリアの元カレの話を聞きたくはないのだから。

 

 無神経な発言をしてしまった。

 だが、覆水盆に返らず。口から出た言葉はもう戻らない。

 

 幸い、ビアンカとフローラとのそれぞれの夫婦の記憶は、まったく憶えておらず、記憶が降りてくることも、今のところない。

 これは別の未来を歩んでいるからなのだと、自己解釈しているが、果たしてアリアに説明して理解してもらえるのだろうか……。

 今、ビアンカとフローラの話を再び出せば、「その内降りてきたりするんじゃないのかな」なんて、彼女は笑顔で言いそうだ。

 それでは無理して笑うのがわかってしまうアベルは、なにも言えなくなってしまう。

 

 ……その証拠に、アリアは口角だけ上げて、目は笑っていない。

 笑っていないどころか、悲しそうに見える。

 

 

「……私はビアンカちゃんでも、フローラさんでもないから、二人と同じようになるかはわからないよ? 彼女たちと一緒にされても……」

 

「アリア……そんなこと……! 僕が――」

 

 

 ――無神経でした……! すみません……!!

 

 

 アリアの悲し気な瞳に、アベルは人目も憚らず即座に足元、緑の絨毯へ膝を落とし、少しばかりオーバーな身振りで地面に手をつけ土下座する。

 声には出せなかったが、平身低頭して許しを乞うた。

 

 ……アリアをビアンカとフローラと、同等に見たわけではない。

 

 子どもはお互い欲しくて、今は努力している最中。

 二人とも若いのだから、できてもおかしくはないではないか。

 月の物が三か月もきていないのならば、そう考えるのが普通だ。

 

 早合点過ぎかもしれないが、そう捉えても仕方のないこと……。

 

 だが本人が違うと言っている。

 まずは、妻の意見を尊重しておいた方が良さそうだ。

 

 

 ……アベルは額を地面に擦り付けた。

 

 

「……っ、まあ、とにかくっ! 教会で診てもらわないことにはわかんないよねっ! ほらアベル、座ってないで立って!」

 

「あっ、う、うん! そうだね!」

 

 

 しばらく頭を下げたままにしていると、アリアの明るい声が聞こえて、顔を上げるようにと腕を引かれ立ち上がる。

 今、彼女はどういう気持ちなのだろう……朗らかな顔だ。

 すっかりいつものアリアに戻っていたため、アベルもそれ以上は何も言わないでおき、歩き出した。

 

 

 

 

「あ、あそこも木の床が敷かれてるみたい、誰かいるかも」

 

「行ってみよう」

 

 

 庭園の東の壁沿いを行き、低木が規則的に並んだ場所を見つける。

 その低木と低木の間から【木の床】が敷かれているのが見えた。

 

 そこにも女王の睡眠区画と同じようなものがあるのだろうか。

 アベルたちは木々の合間から見えた区画に立ち寄る。

 

 【木の床】で区切られた区画には、白いテーブルクロスの掛かったテーブルで、【おどりこの服】を身に纏った女性がお茶をしていた。

 

 

「こんにち――」

 

「この城を訪れる旅人が求める砂漠のバラは……、かつて水を湛えていた地……オアシスだった場所で取れると言います。ならば、ここテルパドールも昔は豊かな土地だったのかもしれませんね」

 

 

 アベルが声を掛けようとすると、女性は一方的に話し始める。

 

 ……まだ何も聞いちゃいないのに。

 こういうの久しぶりだなあ……、なんてアベルは思いつつ、世界の理に忠実な人間あるあるだと、女性の話に傾聴した。

 話を聞き終えたアベルたちは女性に会釈して、その場を後にする。

 

 

「ね、アベル、砂漠のバラってオアシスで聞いたよね。旅人が求めるって……そんなに人気だとは思わなかったな~」

 

「そうだね、アリアも欲しいかい?」

 

「ん~、手に入れるのが大変じゃないなら。名産品みたいだから、ゆうじいさんにプレゼントしてあげたいね☆」

 

「フッ、アリアって優しいよねー」

 

「アベルほどではー」

 

「フフフッ」

 

「ふふっ♡」

 

 

 二人は【さばくのバラ】を見つけたら、ゆうじいにプレゼントすることにし、ついでに【さばくのバラ】の在りかについても訊ねてみたが、女性は砂漠にあることは知っているが、詳しい場所までは知らないらしい。

 城下に詳しい人がいたような気がするから、そちらで訊いてみてくれとのことだった。

 

 

 

 

「……アリアは僕の後ろにいてね、顔出さないで」

 

「へ? あ、うんわかったよ……?」

 

 

 ……急なお願いに、アリアはわけがわからないままアベルの背後に隠れる。

 

 先ほどの女性のいた区画から西に目を向けると、高級そうな赤い絨毯の敷かれた区画が目に入った。

 そこにはアベルが女王だと見当を付けた黒髪の女性が、書類を手に、やって来たアベルたちに気付いて視線を向ける。

 そういえば、庭園を回る前にいた戦士の男が見当たらない。

 用事は済んだのだろうか……。

 

 距離が近付くにつれ、女性の容姿がはっきりしてくる。

 

 艶のある小麦肌はキラキラと輝き、前髪を真っ直ぐに揃えたショートボブ丈の 光沢を持つ美しい黒髪には【金】でできた 蛇を模った髪飾りを身に付け、鋭さを孕みながらも 優し気な切れ長の黒い瞳に、ぽってりとした潤う魅力たっぷりの厚い唇、一見細身ながらも肉付きのよい肉体。

 衣裳は暑いからなのだろう、胸の谷間とへそが見えてしまうデザインで、露出が高め、【おどりこの服】とまではいかないが、似たようなものを感じる。

 その身に纏う、アリアとは異なる強めのフローラルな香りが、幻惑呪文(【マヌーサ】)のように辺りを惑わすようだ……。

 

 ……彼女はエキゾチックな美に溢れていた。

 

 全体的に白いアリアとはタイプが違うようで、妖艶な雰囲気を持つ美女だ。

 年齢がいくつなのかはわからないが、自分たちよりは年上に見えて、アベルは一目で彼女が女王だと確信した。

 

 

「こんにちは」

 

 

 ――綺麗な人だなあ……。

 

 

 女王に軽く会釈し、挨拶をする。

 アリアの方が好みではあるが、それはさておき、一般的な観点で言えば美しい。

 女王はアベルと目を合わせると、にこりと嫣然と微笑んでから口を開いた。

 

 

「ようこそいらっしゃいました。私がこの国の女王アイシスです。あなたがたも伝説の勇者さまのお墓をお参りに来たのですか?」

 

 

 アベルの予想は当たっていたようで、女王が自ら名を名乗る。

 あなたがたも――、との女王の口振りに、旅人がよく勇者の墓参りにやって来ることが窺え、アベルも例にならって首を縦に下ろした。

 

 

「はい」

 

 

 ――勇者の墓を調べれば、何かわかるかもしれない。

 

 

 勇者の手掛りは今のところ、武器と防具以外ないのだ。

 墓標に何か記されていればいいのだが。

 

 

「いいでしょう。あなたがたには なにかしら感じるものがあります。案内しましょう。私についてきてください」

 

「え、あっ」

 

 

 ……せっかちなのだろうか、女王は椅子から立ち上がり、目にも留まらぬ速さで歩いて行ってしまった。

 




ゲーム上、テルパドールは無視してもクリア可能ですが、アイシスさまとの交流を楽しみたいと思います。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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