前回あらすじ>勇者の墓を案内してくれるという女王の足は、めちゃくちゃ速かった。
アリアの母?
では、本編どぞ!
「「早っ!」」
夫婦二人の声が重なる。
「っ、アベル、今、女王さま歩きだったよね!?(競歩かな?)」
「だね……、お、追いかけてみる?(もう見えないけど……)」
「追いかけなきゃ!」
「うん! 行こう!」
アベルはアリアの手を取り歩き出す。
女王は既に飛び石の通路を渡り、上り階段に消えた。走って追いかけたいところだが、アリアを思って歩くに留めた。
「女王さま、マザーより早いかも……」
「確かに俊足だね」
「……あ、あそこ! 女王さまかな?」
階段を上がり城門へ向かうと、アベルたちを迎え入れてくれた兵士と話す女王の姿が見えてくる。
……足止めをされているようだ。
足止めされているのなら、ゆっくり歩いて行ってもいいだろう。
「ね、アベル、女王さまってお綺麗だった?」
「ん?」
「私、アベルの後ろでよく見えなかったから。後ろ姿といい匂いしかわからなかったの」
二人並んで歩きながら、アリアが女王の姿を訊ねてくる。
アベルの後ろでよく見えなかった……、見えていたらアリアは――。
「あ、うーん。僕はアリアが好きだよ」
“女王は確かに美人だが、目を奪われたりはしてないよ――”、そう伝えたいが、アリアに伝えるのは多分間違い。
美人だよと言えば、喜ぶのが目に見えている。
焼き餅を焼くどころか美女に惚れてしまうような、浮気な妻には教えてやらない。
「っ? 急になに言ってるの?」
「……僕のためにも、アリアは僕の後ろに隠れてた方がいいと思うんだ」
「へ?(ドユコト?)」
僕のためにも後ろで控えていて欲しい……、そんなアベルは、わけもわからず首を傾げるアリアを背後に隠した。
「私も綺麗な女王さまが見たい~!」
「あとでね!」
「アベルのケチ~」
城門に辿り着くまで、アリアがアベルの背後左右から、どうにか女王を見ようと顔を出そうとするが、アベルも負けじと身を捩って邪魔をする。
……妙な動きをしてしまった。
それでもアベルに言われた通り、アリアは前に出てこようとはしない。
そんなところが可愛く思え、アベルの表情は綻んでいた。
「ああ、追いつかれましたね。砂嵐が発生中だったのを失念していました。砂嵐が静まったら案内しましょう。私は一度下に戻ります」
城門前で兵士と話をしていた女王が、追いついたアベルたちに気付き、話しかけて来る。
まだ砂嵐は過ぎ去っていないようだ。
女王は一旦、下の庭園に戻るらしい。
再び素早い動きで歩き出し、ちらと横目ですれ違うアベルたちを見やる。
……そこで女王は、はっと足を止めた。
「……あなたは?」
アリアに言っているのだろう。
女王がアリアの手を取り、柔らかい笑みを浮かべる。
「え?(ほわぁあああ~♡ キレーなお姉さ~ん♡♡)」
「あ゛(しまった!!)」
嫌な予感がしてアベルは振り返った。
すぐ後ろのアリアを見ると、瞳にハートマークが浮かんでいるではないか……。
その一方で女王の瞳には涙が滲み、声を詰まらせるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……ジュ、……メリア……さん?」
「ほえ? じゅめりあ?(誰?)」
「……?」
――ジュメリア……?
【ジュメリア】……。
初めて聞く名前にアリアもアベルも目を瞬かせた。
……いったい誰なのだろう。
アリアを見て名前を告げたとなると、一つだけアベルには心当たりがあった。
(もしかして……アリアの……?)
アベルが答えを導く中、女王がアリアを凝視しながらぶつぶつと呟く。
「いえ、そんなはずは……でもあまりにも……」
「あ、あの……女王さま……?」
「……ついて来て下さい」
「あっ……!」
戸惑うアリアを、女王は手を引いて歩き出した。
少し足が速いが先ほどよりはましだ、アリアなら問題ないだろう。
「って早っ! ピエール、プックル行こう!」
行く先は下の階――、庭園だ。
二人が階段を下って行くのが見える。
このままアリアを拐われてはたまったものではない。
出遅れたアベルは慌てて走り出す。
「主殿、いったい何が起こっているのでしょうか」
「わからない。けど、女王はもしかしたら……」
「……アリア嬢の、ご母堂を知っておられる……?」
ピエールもピンときたらしく、アベルの導き出した答えと同じ答えを口にした。
アリアにそっくりのアリアの母親。名前は知らなかったが、もし女王の言う“ジュメリア”という人物がそうであるなら、アリアの過去を一つ見つけたことになる。
……アベルたちは庭園に続く階段を下り、女王がいたテーブルに向かった。
「アリア!」
「アベル」
女王のテーブルにやって来ると、アリアが女王と隣り同士で席に着き、親密そうに手を握り合っている。
アベルがやって来たことに気付いたアリアは、顔だけ向けた。
「……どういう状況?」
「えっと……」
訊ねてみたが、アリアはまだ現状を把握できていないようで、にっこりとはにかみ首を傾げる。
……女王はアリアの手を握ったまま頭を下げていた。
「……あなたはそちらにお座りください」
「え? あ、はい」
ふと女王が顔を上げ、アベルにテーブルの向かい側、一番離れた席に座るようにと促してくる。
――アリアは女王の隣なのに、なぜ、僕は一人だけ離れた席へ?
アベルは少々不満を持ちながらも、アリアの過去がわかるかもしれないと思い、渋々席に着いた。
ここは女王の話を静かに聞くのがいい。ひとり離れた席で、二人の会話に耳を傾ける。
「……あの、女王さま……、私、ジュメリアさんて方、存じ上げないのですが……」
「……あなたはジュメリアさんの娘ではありませんか?」
「えっと……、わ、わからないです……。私、小さい頃の記憶がないので、母親の名前も知らないんです。あっ、顔はなんとなくわかるのですが……」
女王が手を握ったまま アリアを真っ直ぐに見据えるものだから、アリアの白い頬はほんのりと赤みを帯びて、緊張しているのか、声もなんだかよそ行きのように大人しめだ。
……アリアにアベルと出会う以前の記憶はない。
母親に関して憶えているのは、夢で見た天使の姿だけ……。
アリア自らにそっくりな女性がいたとして、他人の空似ということもある。
かつて翼を持っていたということを、アリアはアベルとビアンカ、そしてヘンリーという、ともに幼少期を過ごした人間以外に教えたことはない(仲魔たちにもはっきりと話したことはないが、たまに会話中に出たりするので、理解はされている)。
天空人は非常に珍しい種族。
下手に話せば面倒事も多いだろうと、過去に翼を失っていることもあり、特に話題に出したことはなかった。
“翼が生えている”とでも決定的なことを言われない限り、女王に自分の事情を話していいものか……、警戒心の強いアリアは測りかねているらしい。
……女王から注がれる視線を何度か気まずそうに外していた。
「……そうですか……。では、ジュメリアさんの特徴をお話します。その特徴が一致していれば、あなたが彼女の娘であると確信が持てます」
「特徴……?」
「……彼女にはそう……、背に翼が生えていました。恐らく天空人かと思われます。あなた、翼は……?」
「っ!? わ、私には翼がありませんよ……?」
アリアから目を離さず、じっと見つめながら話す女王は、最早確信しているように見える。
核心に触れられたアリアの声が上擦り、苦し紛れにアベルにヘルプの視線を送った。頬にたらり。汗が滴り、いつもの笑顔を取り繕うが、かなりぎこちない。
……これではバレバレではなかろうか。
「……(……アリア、美人に嘘吐けないもんな~)」
女王になら話しても別に構わないのでは……? もうバレてるようだし――と、アベルはいつの間にか出されていたお茶を飲みつつ聞いていたが、カップをソーサーに戻し、薄っすらはにかむ。
そんなアベルの反応に、アリアは瞬きを繰り返した。
……“え? いいの?”という顔だ。
アイシス女王に特に不審な点は見られないし、彼女とは恐らく別世界でも会ったことがあるのだろう、なんとなく既視感覚がある。
それに、謎の砂嵐の発生はあれど、ラインハットの時のような不穏な空気もテルパドールには見受けられない。
この国には魔族の息は掛かっていないように思える。
ならばアリアの事情を話すことは、アベル的に全く問題はないわけで。
むしろ自分の旅に付き合ってもらっている最中に、妻の過去がわかるなら万々歳である。
「そうですか……、もしかしたらと思ったのですが 人違いでしたか。いえ……これだけ似ているのです、人違いとは思えません」
アリアの誤魔化しは効かなかったようで、女王は艶っぽく微笑んでみせた。
「……は、ぃ……女王さま……♡」
麗しい女王の笑みに、アリアの瞳にハートマークが宿る。
……こうなってしまっては、アリアの攻略は容易い。
アベルの口から「ほら、アリアってチョロい……」と小さく不満が零れ落ちた。
アリアは美女の言いなり。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!