前回あらすじ>限定カラーのレースのビスチェを手に入れたアベル。モエールの装備品はアリアと合流後に購入することにした。
謎の夜店とは。
では、本編どぞ!
「アベル殿、あなたという人は……はあ……」
アリア以前に、ピエールにため息を吐かれてしまう。
「だ、大丈夫! アリアの身かわしの服をモエールに渡せば問題ないよ!」
「……それ、もっと前にできましたよね」
「まあ、そう責めないでやってよ……ハハハ……」
妻に下着を贈るくらいいいじゃないか……。
確かに色違いなだけで、性能が変わらないものはどうかと思うが、新婚アベルの現在の関心ごとの優先順位第一位は妻、アリアだ。
アリアを中心に生きていると言ってもいい。
たとえ下着を贈る相手本人が怒ったとしても、これは譲れない。
……ピエールのいつも通りの冷静なツッコミに、アベルは頭の後ろを掻き掻き自嘲した。
「……アリア嬢が喜びますかね?」
アベルの手元の【レースのビスチェ】を見て、ピエールは問う。
「……喜ばないとは思うけど……、でも、アリアに贈り物をしてやりたいんだ。彼女、自分のことあんまり大事にしないでしょ? その分僕が大事にしてやりたいんだよ」
――下着を脱がせるのも楽しいしね……!
アベルはアリアに贈り物をして、ただ喜んで欲しいだけ……、ではなく下心ありありだ。
服も下着も脱がせるのが楽しい。
イヤイヤと恥じらう妻から下着を剥ぎ取り、裸体を拝む瞬間はとにかく興奮する。
だがここはピエールに紳士だと思ってもらわなければ。
……アベルはシレっと神妙な顔で言ってのけた。
「アベル殿……」
「……食べ物以外で、なにを贈れば喜んでくれるのかなあ……。形に残るものを贈ってやりたいんだけど、いっつも悩むんだよね……」
「形に残るもの……。ああ、そういえば、砂漠のバラはどうでしょう? 庭園でそんな話を聞きましたよね?」
「砂漠のバラか……確かによさそうだね。お金も掛からないから、アリアも断らないだろうし」
「ええ、アリア嬢も砂漠のバラに興味をお持ちでしたし、きっと喜ばれますよ」
「……ゆうじいさんにあげようとしてるけどね……」
アリアは【さばくのバラ】が手に入ったら、ゆうじいに持って行ってやろうとしている。
物に執着しない彼女らしいが、アベルはアリアにどうしても何か贈りたい。
新婚旅行の思い出に、プレゼントしたいと思うのはおかしいだろうか……。
「一つしか取れないものではないでしょうから、アリア嬢にも差し上げればいいのでは」
「なるほど! そうだね!! じゃあ、そこで防具見てる人に声を掛けてから出ようか」
「はい、そうですね」
庭園で出会った女性は、【さばくのバラ】はかつてオアシスがあった場所で取れると言っていた。
旅人が【さばくのバラ】を求めてテルパドールにやって来ているくらいだ、複数取れるものなのだろう。
一つはアリアに、一つはゆうじいにあげれば問題ない。
砂漠のどこで取れるかはわからないが、とりあえず目の前の防具を眺める若者に声を掛けてから、店を出ることにした。
「こんにちは、ちょっとお話聞いてもいいですか?」
「砂漠のバラって知ってるかい?」
「えっ!? あっ、いや今……」
話し掛けた若者が、まさか【さばくのバラ】に言及するとは思わず、アベルは咄嗟に答える。
「なんでもこの辺りでしか取れないバラの形の石らしいよ。たいていは砂に埋まっていたりするみたいだけど、この辺りは毎夜砂嵐が舞うから……。宿に泊まって翌朝砂漠を歩いてみれば、きっと見つけられるんじゃないかな」
「翌朝……」
「まあ、最近じゃ昼間も砂嵐が酷いんだけどね」
「今ちょうど、砂漠のバラについて話をしていたところだったので、有益な情報助かります」
「そう? ははは、シンクロニシティ、意味のある偶然の一致だね! お役に立てたようでよかったよ」
都合よく巡り合わせた若者の【さばくのバラ】の情報に、アベルはお礼を告げてから防具屋を後にした。
「主殿、シンクロニシティでしたね!」
「今憶えたでしょ、その言葉」
「ははは」
ピエールは覚えたての言葉を嬉々として語る。
聞き慣れない新たな単語に出会ったピエールは楽しそうだ。
「……しかし、翌朝に砂漠を歩く、か……。城の周辺てことなんだろうか」
「恐らくは……。明日、アリア嬢を迎えに行き、教会に立ち寄っても間に合うでしょう」
「そうだね、早く迎えに行けば間に合うよね。戻ってくれば城下の観光もできるし」
どこへとはなく、歩きながら明日の予定を確認し、アベルは周囲を見回す。
すると、夕闇が迫るという時刻だというのに、ふと視線の先に黒山のような人だがりが見えた。
「あれ……? なんだあの人だかり……」
「さあ……、こんなこと別世界では一度もなかったはずですが……」
「だね……!」
……城の西側にある歩廊下に人だかりができている。
今までどの世界でも見たことの無い光景だ。
なんの人だかりなのだろう――。
気になったアベルはそちらへと足を向けた。
日も暮れて薄暗くなったというのにどこから現れたのか、多くの人々が歩廊下を抜けた先、壁に向かって群がっているようにみえる。
黒山に近付いてみると男性ばかりのようで、女性の姿はない。
群がる先の壁に僅かな灯りが見て取れるが、あまりにも多くの人で何があるのかはアベルの位置からはよく見えなかった。
「並べ並べ、まだ在庫はあるぞ!」
……人だかりから誰かが言った。
「在庫……?」
いったいなんの話だろう。
アベルはすぐ目の前の男性に声を掛けようとしたが、「並べ!」と一喝されてしまった。
「いったいなんなんだ……」
「さあ……、夜店でもやっているのでしょうか……」
「なるほど……。じゃあ並んで待ってみようか!」
「ははは、楽しそうですねえ」
“在庫”ということは、何かを売っていると思われる。
命の危険がない初めての経験は実に楽しい。
アベルは内心ウキウキしながら列の最後尾につき、順番を待つことにした。
並んでいると、前方から「おお~!」「こ、これは……!」「刺激が強すぎる」「サイン下さい!」「スケブいいですか!?」などという、男たちの歓喜に湧いた声が聞こえてくる。
「なにを売ってるんだろう……」
「さあ……、見たところ、客は男性ばかりのようですね……」
いったい何が売られているのか、アベルが把握しないままにぼーっと順番待ちをしている横を、服の中に購入したであろう品物を隠した男たちが、ニヤニヤしながら去って行く。
その内、すれ違う一人がアベルを見て目を見開いた。
「あ! もしかしてあんたがそうか!? ほぉ~。似てる似てる。よく許可したもんだ。で、嫁さんはどうした?」
「……え? 嫁? あ、今席を外してて……」
「ほぉ、そうかそうか。別嬪さんなんだろ? いや、羨ましいな。しかし、この城に長居はおすすめしないな」
「ん? どういうことです?」
「わっはっはっはっ、その内わかる。じゃ!」
前屈みで、大事そうに品物の入った袋を抱えた背の高い戦士の男が、アベルに笑い掛けて去って行く。
暗くて何を買ったのかよく見えなかったが、そんなに大きなものではなさそうだ。
「……ピエール、今のどういう意味かわかるかい?」
「わかりません!」
「だよねー!」
とりあえず順番を待ってみるしかなさそうだ。
相変わらず前方から「握手してください!」「せんせいっ! ついて行きます!」「しゅごい……」などという感想が聞こえてくる。
そんなにもすごいものが売られているというのか。
……辺りがすっかり暗闇に満ち、星々が輝く頃になると、ようやくアベルたちの番がやって来た。
さて次で最後、自分の番……とすぐ前の人が立ち去ると、アベルの開口一番は――。
さて、夜店ではなにが売られているのでしょうか!w
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!