前回あらすじ>夜のテルパドールに突如現れた人だかり。その先では夜店が出ていて……。
何が売られてたんですかねw
では、本編どぞー。
「クリエちゃん!?」
アベルの目の前には先日別れたクリエが、赤い【じゅうたん】を敷き、【カウンターテーブル】の向こうであぐらを掻いて座っていた。
城の壁には勝手に取り付けたであろう、【えっちなライト】のピンク色の灯りが、ぼんやりと夜店を照らしている。
「あ! アベルお兄さんだー! やっほー! こんばんは~」
アベルに気付いたクリエは、片手を振って明るく笑ってみせた。
「こんばんは……って、なんでクリエちゃんが?」
「路銀稼ぎだよー。ちょうど最後の一冊! 本人に売るのもなんだけど、よかったら見てってよ」
クリエが【カウンターテーブル】に置いてあった、最後の一冊らしき【本】を手にし、ほいっと、アベルに手渡す。
受け取ったアベルは手元にやってきた【本】を見下ろした。
「見てって、って……、本だったのか……、すごい人気みたいだね……――……って……(こ、これはっ!?)」
表紙は至ってシンプル、タイトルには“旅~”とあったから、旅シリーズの新刊なのだろう。
他にも色々書かれていたが、特にしっかり読むことはせず、アベルは早速表紙を捲った。
しかし、表紙をぺらりと一枚捲ると一転する。
内表紙に描かれていたのは、見覚えのある女性の姿――。
しかも、その女性はエプロンを身に付けているにも関わらず、大きな胸が惜しげもなく晒されているという描写。
表情も切なげで、肌には汗という効果まで描かれている。
どう考えても“夜シリーズ”……、つまりは【エッチなほん】――。
思い出したアベルは表紙にページを戻し、タイトルを確認した。
「……“夜の天空の花嫁、淫らな妻の日常”……って、クリエちゃん!? これアリアだよね!?」
「モデルさんへのご奉仕価格、1000ゴールドです!」
【カウンターテーブル】に置かれた【値札】には、5000ゴールドと記されている。
「買った!」
……アベルは二つ返事で買ってしまった。
いや、確かにモデルにしていいとは言ったが、まさか【エッチなほん】に描かれてしまうとは思いも寄らないわけで。
「フィクションだよー」
「うわ……、うわあ……! これ僕じゃん……!」
中身を覗いてみれば、夫婦の濃厚な接触が描かれた物語が綴られている。
申し訳程度にキャラクターの名前が“アレル”と“アレア”になっているが、見知った人ならすぐに気付くだろう。
先ほど声を掛けてきた戦士が「似てる」と言った意味がここで繋がった。
「ラブラブエッチがいいよねー」
「だけど! こっちの僕、アリアに無茶苦茶してないかい!?(なんでアリアに翼が付いてるんだ!?)」
「え? そこは見たまま描いたけど? 一部ノンフィクだし」
……【エッチなほん】を広げ、内容を指差し訊ねてみれば、クリエはそんなことを言う。
見たままとは――。
察するに、クリエがテントの中を監視していたと思われる。
どんな体位で致したかなどわざわざ憶えていないが、手元の【本】のしっかりした描写に眩暈がしそうだ……。
「そんな……エグイ……。僕こんなことしてないし……」
「気付いてないだけじゃない? アリアお姉さんも喜んでたし、大丈夫っしょ」
「そういう問題では……。こっちはなんか縛られてるし……、魔物とも……? ええっ!? うわあ……すご……♡」
ペラペラペラ……、ページを捲っていくと、アリアがロープで縛られ攻められているシーンと、魔物に襲われているシーンが目に入る。
ここはクリエの想像で描かれている部分であるが、薄い本だというのに、中身が熱いではないか。
……アベルは不覚にも、【本】の中で苛められる妻の姿にドキドキしてしまった。
「アリアお姉さんにはナイショね! たぶん倒れちゃう☆ ちょうどいなくてよかったよー」
「クリエちゃん、これさ、他の人に見せるの嫌なんだけど……」
さっきまで群がっていた男たちが今夜これで……と、考えると胸中は複雑極まりない。
アリア本人の身体を見られたわけではないが、クリエの絵が上手過ぎて困る。明日テルパドールを歩いたら、アリアが好奇の目にさらされることは必至。
町中だというのに馬車に乗せるのは可哀想だが、我慢してもらうしかないではないか……。
「今までで一番早い売り切れだったよ! ご協力感謝しますっ! これ、感謝の気持ちのえっちなライト! お二人でラブラブな夜をお過ごしください!」
クリエは話題を逸らし、オアシスでも貰ったというのに【えっちなライト】を押し付けてくる。
「はあ、そりゃどうも……って、だからさ、さすがにここまで露骨だと、テルパドールを歩きづらいじゃないか。僕は旅シリーズかと思ってたのに……」
「エロは懐を温めてくれるんだよ……」
アベルの抗議に気まずいと思っているのだろう、クリエの目はアベルから逸れ、【カウンターテーブル】や広げた【じゅうたん】を片付け始めた。
「……もう店じまいかい?」
「売り切れたし、路銀が貯まったからねー! 迎えが来る前に、片付けておかないとね! あ~ホクホク~♪」
そそくさと店じまいをするクリエに、アベルは“ふう”とため息を吐く。
クリエは嬉しそうに売り上げ金の入った袋を掲げ、笑顔をみせた。
これ以上責めたところで、売り切れてしまったものを回収して回るのは難しい。
何冊売ったのかは不明だが、一冊5000ゴールドもするものを、買い戻すのはアベルには無理だ。
旅の恥は掻き捨てとして、早く忘れた方がいいかもしれない。
……十数年後、この【エッチなほん】はプレミアが付き、世界を巡ることになる。旅の途中でビアンカやフローラの目に触れることになるとは、この時のアベルは知る由もなかった……。
「そういえばシドーはどこに?」
今夜自分も読んで寝よ……と、大事に【エッチなほん】を【ふくろ】に仕舞い、ふとアベルはこの場にいない人物を思い出した。
「素材集めしてもらってるよー。シドー君にこの本は見せられないからね」
「そっか……」
さすがはクリエ、シドーはしっかりと退避済みだ。
砂漠で集められる素材なんて【砂】と【石材】くらいのものだが、シドーなら砂漠で単独でも難なく戦えてしまうだろう。
「いや~、アベルお兄さんたちに会えるとは思わなかったよ~。今夜はお金もたっぷり手に入ったし、宿屋に泊まるんだけど、一緒にどう?」
「そりゃ構わないけど……」
宿代は奢らせてと、ゴールドがたっぷり詰まった袋を揺らすクリエは、一応【エッチなほん】に対しての罪悪感があるらしい。
アベルには断る理由がないため首を縦に下ろした。
……クリエの片付けを待って、アベルたちは移動を開始する。
もう少し城下を歩いて回りたかったが、それは明日に回し、数日振りの再会を祝って食事をするのもいい。
「あ、ところでアリアお姉さんはどこに?」
「あー……アリアは、今夜は城に泊まるって」
「そうなんだー。お城に泊まれるなんて羨ましい~。ボク、女王さまに会ってみたいなあ。城下の人に聞いたけど、綺麗な人なんだってね」
綺麗なお姉さんていいよねー! なんてにクリエがにこにこするから、ひょっとして彼女も美人に弱いのかもしれない。
アベルにはアリアもだが、女の子のその辺の感覚がよくわからなかった。
「明日の朝、アリアを迎えに行くから一緒に行けばいいよ」
「やったー! 紹介してねー!」
……明日朝早くにアリアを迎えに行き、勇者の墓はあとでいい。まずは教会だ。
アイシス女王がどういう意図で、アリアを連れて行ったのかを聞いていないアベルは、明日の行動予定を心の中で繰り返す。
アイシス女王と一緒にいる時間が長ければ長いほど、アリアは女王の美女パワーで洗脳されてしまう。
警戒心が強いくせに一度警戒心を解くと、驚くほどゆるゆるになり、強気に出られると、何でも受け入れてしまいがちな優しい妻が心配だ。
今夜何をされているのか……。想像するだけでおっき……否、苛立ってしまう。
邪な気持ちが生まれるのは、さっき立ち読みしてしまった【エッチなほん】のせいかもしれない。
……何が起こるか不確定な未来は慎重に進めたいものである。
一度仕切り直した方がいいだろう。
アリアがアイシス女王から離れなかった場合、クリエにアイシス女王を留めておいてもらい、アリアを奪取し正気に戻す。
物理的に距離を離せば、多分愛の力で元のアリアに戻るはず……、そう、多分……。
自信はないが。
アベルは明日朝の、アリアお迎えミッションを脳内でシミュレーションしながら、再会したクリエとシドーと、束の間の楽しいひと時を過ごした。
もちろんこっそり【エッチなほん】(新刊)も楽しんだが、思春期真っ只中(?)なシドーに見つからないようにするのには骨が折れた。
……クリエには、アリアがいない夜には持ってこいの【本】であったと、こっそり感想を伝えておいた。
クリエせんせいはスゴイんですw
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!