前回あらすじ>数日振りに再会したクリエから、夜シリーズ最新刊を買ったアベルは、妻のいない夜を満喫しました。
乗り込むぞー! おー!
では、本編。
◇
……次の日。
まだ薄暗い夜明け、アベルは朝食も摂らずに宿屋を出て、クリエとシドーを引き連れ城へとやって来た。
アベルたちが来たタイミングで、城門が開く。
昨晩寝ている間にも砂嵐が発生したのだろう、吹いた風で運ばれた大量の【砂】が城に続く大階段に積もり、それを掃除するために、昨日出迎えてくれた兵士二人が丁度城から出てきたところで、普段は槍を持つ彼らは掃除道具を片手に、「早いな、足元が悪くてすまない」などと言いながら、アベルたちを迎え入れてくれた。
訊けば一晩で【砂】が積もってしまい、毎朝の掃除は欠かせないのだそうだ。
こんな朝早くにやって来る旅人もいないらしく、少しばかり驚かれたが、入城しても問題ないということで通してもらった。
そんなわけで庭園にやって来たわけだが――。
「は、早い……!」
女王の寝所で、二人はまだ寝ているはずと予想をつけていたアベルは、昨日女王がいたテーブルの前で立ち尽くす。
東の空が白み始めたばかりだというのに、すでに女王とアリアは昨日のテーブルで優雅に朝食を摂っていた。
“皆さんもいかが?”なんて誘われ、クリエが「いただきます!」、即答するので皆で朝食を摂ることになった。
“一緒に眠っている二人を見たかったんだよねー? アベルお兄さんてさ……ムッツリだねー。”
半目のクリエにこっそり囁かれ、アベルの胸がどきり。
別に二人の寝乱れた姿を見るのが 目的だったわけではない。
浮気現場を押さえるのは大事だと思っただけ――。
……というのは言い訳で。
実はクリエの言う通りなのである。
むしろ浮気現場を押さえ、観賞したかった……のが正直な気持ちだ。
浮気はいけないことだが、昨夜【エッチなほん】を読んだアベルは意見を変えた。
アリアは自分を愛しているからきっと浮気だけで、自分の元へ帰って来るだろう。
戻って来るなら許してやろう、だから観賞させて欲しい……。
一晩の間に、180度考え方が変わるなんて自分でも驚いたが、新たな扉が開いた新しい世界は新鮮で、興奮に満ちていた。
「あ、アベル……? なにか顔についてる……?(顔洗ったんだけどな……)」
「い、いや……?(アリア……、本の中の君はとても淫らで……)」
ついじっと見ていたようで、少し寝癖のついたアリアが首を傾げる。
アベルは【エッチなほん】の中のアリアを思い出してしまい、頬をぽっと赤らめた。
「へえ、砂嵐の調査をされてるんですかー」
「ええ。頻発する砂嵐は自然発生とは違い、どうも何かに起因しているようなのです。現在兵士たちの働きにより、おおよその発生源が掴めそうなところまできていますが、砂嵐の近くで見慣れない魔物の目撃情報もあり、引き続き原因の特定を急いでいます。発生源さえ見つかれば、私のチカラで異常な頻度の砂嵐を、ある程度まで抑えられるかもしれません」
「ええっ!? そんなことができるんですか!? 女王さますごーい!」
「このままでは、せっかく夜が明けたというのに、テルパドールの民を始め、国を出る方も、訪れる方も困りますから」
……食事を続けている内に、話題は昨今の砂嵐についてへ――。
アベルが気にしていたアリアの浮気話はどこへやら、真面目な話をクリエが進めるので、アベルは食事を口に運びながら耳を傾ける。
女王の発言から、テルパドールの人々が明けない夜について、正確に認識していることが確定した。
クリエたちもテルパドールに到着するまで、何度も砂嵐に遭遇したらしい。
遭遇する度 風の方向を読み、退避してはいたが、避けれそうにない時は、突貫工事で建物を建てて耐えたそうだ。
昨夜宿屋で聞いた話では、追っていた“カケラ”の気配が途中で消えてしまい、とりあえずここ、テルパドールまで来たと言っていた。
砂嵐の中に“カケラ”があり、広い砂漠を移動しているということなのか――。
クリエたちも砂嵐に参っているようだった。
……女王は砂嵐の頻度を下げる力があるようで、発生源を探している。
別世界でそんな話は聞いたことがない。
アベルは
旅人の自分たちに何ができるわけでもない。
積極的に関わろうとは思わないものの、城下に入り込む砂嵐だけでも早く治まるといいなと、願わずにいられなかった。
「砂漠を歩き、もし何か気になることを見つけたら、手間でなければ教えてください。ですが、命 最優先で頼みますね」
「お任せください!」
「まあ、アリアは頼もしいですね。ウフフ♡」
「アイシスさまのためなら……♡」
女王の言葉にアリアが立ち上がり、どんと胸を叩く。大きな白い【スライム】が振動し、女王がアリアの空いた片手を掴むと、指を絡ませ見つめ合った。
(ん……?)
……昨夜、何かあった?
二人の雰囲気がなんだか親密に見えて、アベルは訊ねたかったが、クリエの手前ここは黙っておく。
女王とアリアのやり取りに、クリエの瞳がキラキラと輝き興味津々の様子。下手に夫婦の不和を見せては【本】のネタにされかねない。
「……んぐ(アリア、すっかりアイシス女王の言いなりだな……)」
アベルの口には【パン】が詰まっていたが、それだけではない頬の膨らみが不機嫌を物語る。
……面白くない。
女体同士の絡みならともかく、手を繋ぎ、見つめ合うのは非常に面白くない。
そもそも なぜ上座の女王の隣がアリアで、その隣がピエール、向かい合う席にはクリエ、隣りはシドー……、そして自分はまたしても独り離れた下座の席なのか――。
……プックルは【じゅうたん】の上でだが、【ステーキ】と【いろどりサラダ】を上機嫌に食らっていて幸せそうだ。
「朝食が終わったら勇者の墓に案内しましょう」
「は……」
「いえ! 先に行きたいところがあるので あとでお願いします!」
女王が妖艶に微笑むとアリアが返事をしかけたものの、アベルはすかさず挙手し、大きな声でそれを遮った。
やっと勇者の墓を案内してもらえるのはありがたいが、ここは昨夜考えた予定でいきたい。
――まずは教会、ほんでもって【さばくのバラ】探しだ!
昨日はアリアに予定を乱されたが、今日はこちらが先んじて行動してやるのだ。
早くアリアと女王を引き剥がさないと、浮気が本気になっては困る。
「まあ、そうですか。わかりました。アリア、ではまた後で……」
「へ……?」
“チュッ”
不意に女王はアリアを引き寄せ、頬に口付けをした。
「なっ!?」
「わぁお♡」
アベルの目が見開かれると、クリエが隣のシドーの目を手で塞ぐ。一瞬出遅れたようで、シドーから「らぶらぶだなっ!」との声が漏れた。
その後で「使い方あってるか?」なんて目隠しされたまま言うので、クリエは苦笑いで「あってるあってる」。
「アイシスさま……ぽっ♡」
……アリアが女王からのキスに、頬を赤く染めている……。
「“ぽっ♡”じゃな~~いっ! アリア、行くよ!! クリエちゃんたちも! ごちそうさまでした!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたアベルは、食事途中ではあるが立ち上がり、女王からアリアを奪い返すと抱き上げ駆け出した。
走るアベルの後ろでクリエが「ニシシ☆ そういうシチュもありかも?」……どうやら話を閃いたらしい。“ピキーン”という閃きの音が聞こえた。
もうネタにでもなんでもするがいい。
浮気は許しても本気は許さない。
「アベル……? 怒ってる?」
「怒ってる! この浮気者っ! 君は僕の奥さんでしょ!?」
飛び石の通路を駆け抜け階段を上り、通路を行き、昨日の兵士たちの横を通り過ぎる。
女体の協演も見せてくれないくせに、夫の前で浮気相手と心を通わせようとするのは絶許。
アベルはアリアの額に軽く自らの額を打ち付けてやった。
「ぃたっ、ご、ごめん……。アイシスさまはそういうのじゃなくて……」
「ほっぺにチューされて、頬赤く染めてたぁーーっ!」
「うわっ! アベル泣いてるのっ!?」
「泣いてないよ! アリアのバカぁああああっ!!」
「アベル……」
知らぬ間にアベルの目と鼻から汁が流れ出ている。
いつもは冷静なアベルが取り乱すように泣き叫ぶ様子に、アリアの胸は痛み、眉が下がった。
俊足の女王が追いかけてきたら、追いつかれるかもしれないと思っているのか、アベルは必死だ。
「あはははっ! アベルお兄さん鼻水出てるよー!」
「ら、らぶらぶだなっ!?」
「あはははっ! シドー君、無茶苦茶だねキミ!」
「むっ、違ったか……」
幸い追いかけて来たのはクリエとシドーだけで、二人はいつの間にかアベルに追いついている。
……クリエに指差しで笑われた。
「……(クリエちゃん、君、酷くない?)」
笑われたアベルは少々ムッとしたが、そのまま城門を潜り、外へと飛び出す。 このまま女王が追いかけて来ませんように、と願いながら城門を出て左、歩廊を駆けて行った。
……歩廊の先に、下り階段が見えてアリアを床に下ろす。
来た道を振り返ってみたが、女王の姿はなかった。
夫のアベルさん、無事妻を取り返すことができました。
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!