ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回あらすじ>浮気現場に乗り込んだアベルは、泣きじゃくりながら妻を連れ出したのでした。

ストレスはあかんのよ。

では、本編。



第七百八十七話 ストレスは大敵

 

「アベル、大丈夫? これ……」

 

「……大丈夫。ちょっと許容範囲を超えただけ。アリアが女王と親密になり過ぎてる気がしてね、焼き餅焼いた」

 

 

 アリアが申し訳なさそうな顔で、ハンカチを頬に当ててくれる。

 アベルは“すんっ”と鼻をすすってから、自らの頬に触れる白い手を握った。

 

 ……泣き言を言うつもりはなかった。

 けれどアリアの前では強がり続けることができない。

 素直に伝えるから、慰めて欲しい――。

 

 そんな想いが通じたのだろう、アリアが背伸びして頭を撫でようとするので、少ししゃがんでやる。

 その不意を突いて彼女を抱きしめた。

 

 

「わっ!? あ、アベル……? ちょっ……クリエちゃ――!」

 

「……アリア、浮気しないでよ……」

 

 

 ――浮気ダメ、絶対……!

 

 

 多分言っても無駄なのだと思う。

 アリアは美女に誘われると断れない(やまい)……、そう、これは病気と言っていい。

 わかっているが、言わずにいられない。

 

 急に抱きしめられたアリアは、「クリエちゃんたちの前っ、前っ!」と慌ててアベルの胸や肩を叩いた。

 後ろについて来ていたクリエとシドーはといえば、クリエの陽動で歩廊から砂漠を見渡し、「ほら、あそこに砂嵐が来てるよー!」などと、新婚夫婦の観察をしたいシドーの首を、無理やり城外方面へと移している……。

 

 

「浮気って……、女性同士だよ? そんなことあるわけ」

 

「……」

 

 

 アリアが何度も手をぺちぺちと打ち付けてくるので、仕方なく解放してやる。

 だが納得できないアベルの目は据わり、アリアを見下ろした。

 

 

「うわっ、信用してない感じ?」

 

「うん……、そこだけは信用できないかなー」

 

「そんなぁ……。昨日アイシスさまは、お母さんのお話をしてくれただけだよ? なんか、お姉さんみたいな感じかな……、憧れの……?」

 

「お姉さん……?」

 

「だって、おばさんには見えないでしょ?」

 

「まあ……」

 

 

 美し過ぎてちょっとドキッとしちゃったけど……と、アリアは付け加え、女王とは浮気していないと言い張った。

 

 まったく信用ができない……。

 信用できないが、アリアの母の話が聞けたのならよかった。

 

 複雑な心境ではあるが、この件はひとまず置いておき、早いところ教会に彼女を連れて行きたい。

 そして城下の人々が起き出す前に、【さばくのバラ】探しに出なければ――。

 

 ……そう、愛する妻を男たちの舐め回すような視線から守るために。

 

 アベルは昨日からシミュレーションした、今日の予定を淡々とこなすべく、アリアの手を再び取った。

 

 

「あとね、さっき話してた砂嵐についても昨日色々聞いたの。見慣れない魔物の目撃情報と、小さな砂嵐の関係――」

 

「悪いけどアリア。それ、あとで聞いてもいい? 今、時間がないんだ」

 

「え? うん、もちろんいいけど……。どこか行くの?」

 

「……」

 

 

 話を続けるアリアの言葉を遮り、アベルの指が近くの下り階段を指し示す。

 

 

「下り階段……?」

 

「そ。この下が教会だからね」

 

「あ、教会ね。うん、わかった!」

 

 

 ……すぐに理解してくれたので助かった。

 アリアに教会で診てもらうことの抵抗感は特になさそうで、最初は渋っていた診察を受けてくれるようである。

 

 クリエたちに教会に行って来る旨を伝えたが、それを聞いた二人もついて来るらしい。

 昨夜アベルが【さばくのバラ】の話をしたものだから、クリエも興味をもったようで、一緒に取りに行こうと約束していた。

 今日はクリエやアリアに予定を乱される前に、速やかに診察を受け、自らが立てた予定通りに動きたいものである。

 

 教会に立ち寄った後、【さばくのバラ】も採りに行きたいことをアリアへ伝え、アベルたちは教会へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩廊の先にあった階段を下ると、床には赤絨毯が敷かれ、祭壇と教会のオブジェ、木の長机が前後に二台とそれぞれに椅子、シスターと神父が目に入る。

 そこは昨日行くはずだった教会――。

 修道院や、サラボナほどではないが、そこそこ大きな教会のようだ。

 

 一日遅れたが、やっと辿り着いた目的の教会に、アベルは安堵した。

 まだ早朝だからか祭壇にいる神父もシスターも眠そうで、あくびを噛み殺している。

 早速アベルは神父に話し掛けた。

 

 

「おはようございます。神父様」

 

「生きとし生けるものはみな神の子。わが教会にどんなご用かな?」

 

「実は……、妻が妊娠しているかもしれないんです。診て頂きたくて、お願いできますか?」

 

 

 アベルは隣のアリアを見下ろし、神父に診察を願い出る。

 男性に診てもらうのは少々嫌な気もするが、新しい命の手前、四の五の言っていられない。

 幸いなことに神父はかなりの高齢で、白髪の老人。許容できそうでよかったと、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「それはそれは……。ではあちらで診てみましょうか。シスター、この奥方の診察を頼めるかな」

 

「はい、ただいま」

 

 

 神父の呼び掛けに、教会のオブジェ前で祈りを捧げていたシスターがやって来る。

 「どうぞこちらへ」と、アリアを近くの長机に連れて行った。

 

 

「あ、神父様は診ないんですか?」

 

「診察はシスターが致します。夜が長く続いたせいなのか、最近寝不足で判断ミスが増えまして。診察はシスターにお任せしているのですよ」

 

「そうですか、助かります(ラッキー!)」

 

「旦那さまも、お連れさまも近くのお席へどうぞ。簡単な問診と、神のおチカラで診断しますので、すぐに終わりますよ」

 

 

 どうやら診察は神父ではなく、シスターがしてくれるらしい。

 長い夜のせいで、老人である神父の力が弱まっているということなのか……。とにかくアリアの診察をするのが男性でなくてよかった。

 

 アベルは神父に促されるまま、アリアとシスターが座る席の、後ろの席にクリエたちとともに着いた。

 すでにシスターの問診は始まっており、脈を測ったり、体温を測ったりと色々としてくれているようだ。

 診察が終わるまで、アベルたちは静かに待つことにした。

 

 

「ふう……、お疲れ様でした。これで問診は終わりです」

 

「ありがとうございました」

 

 

 長机の上には【文房具】が置かれ、ノートに問診した内容が綴られている。

 問診が終わると同時、アリアが頭を下げた。

 

 

「では、ちょっと診てみますね……」

 

「はい、お願いします」

 

 

 シスターはアリアの下腹に手を(かざ)し、目を閉じると黙り込む。

 

 こんなことでわかるというのか……。

 そういえば外傷は直接肌を診て然るべき処置を行うが、身体内部の異常については聖なる力で判別するのだった。

 サンタローズで記憶喪失中のアリアを診たシスターリリィと、フィーロ神父も、一目で呪いに気付いていたっけなと、アベルは思い出した。

 

 あの時はアリアに触れずとも呪いに気付いていたが、身体の異常――、妊娠の判別となると、勝手が違うのかもしれない。

 

 

「食欲も体調も正常、吐き気もなく、体温も高いわけではない。特に異常は見られませんね……」

 

「そんなはず……! 妻はもう三か月も月の物がきていないんですよ?」

 

 

 しばらくしてシスターが目を開き、診断結果を口にする。

 アリアは黙っていたが、納得がいかないアベルは、後ろの席からつい身を乗り出し、口を挟んだ。

 

 

「……うーむ。ですが、それだけだと現時点ではなんとも……。お訊きしたところ、奥さまは生理不順だということですし、旅人によくあることかもしれませんね」

 

「旅人によくある?」

 

「はい。旅は命の危険を伴うので、日々恐怖に晒されストレスが知らない内に溜まります。あまりにストレスが掛かり過ぎると、女性は月の物が止まってしまうことがあるのです。すると子どもができにくくなり、悩まれるご夫婦を何組も診たことがあります。特に砂漠は男性でも、体調を崩すことがある過酷な土地ですから……」

 

「そんな……」

 

 

 ……シスターの話に、アリアが黙り込んだまま神妙な顔をしている。その内目蓋を伏せるように俯いてしまった。

 何度か聞いたアリアの言う“不順”にそんな理由が含まれているなど、アベルがわかるはずもない。

 目の前で肩を落とす妻の様子が悲し気で、胸が締め付けられた。

 

 

「ただ、妊娠初期という可能性もあります。急ぐ旅でなければ、もうしばらくテルパドールに滞在されてはいかがでしょうか。一週間後にまた来ていただけますか?」

 

「……、わかりました」

 

 

 診断は思いも寄らない結果で終わり、アベルはアリアに掛ける言葉が見つからず、また、クリエとシドーも空気を呼んだのか、一言も発することはなく……。

 どう挨拶して出たのか記憶がないまま、一行は教会を後にした。

 




診察、手をかざすだけでオッケーとか便利!

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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