ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

793 / 822
いつもありがとうございます、はすみくです。

前回あらすじ>アリアの心身が心配でならないアベルだが、一緒に歩くことを念頭に置いて旅の方針を再考することにした。

砂漠のバラを採りに参りますわよ。

では、本編。



第七百八十九話 砂漠のバラ(前編)

 

 

 

 

 

 ……教会での用事を終えたなら、さて次は【さばくのバラ】探しである。

 

 

「へ~、砂漠のバラは城下じゃなくて、砂漠にあるのね」

 

「そうらしいよー」

 

 

 アリアとクリエの話し声が、馬車の後ろから聞こえた。

 

 昨日 防具屋で出会った若者の話では、【さばくのバラ】は宿に泊まったのち、朝テルパドール周辺を歩けば見つけられるという話だった。

 現在アベルたちはクリエとシドーを伴い、テルパドールを出て、城周辺を探索中である。

 

 今のところ砂漠の中に、【さばくのバラ】らしきものは見当たらない。

 

 【さばくのバラ】が現れるのはテルパドールの周辺――、というのはあまりにも曖昧で、北なのか、南なのか。はたまた東か西か。

 とにかく周辺を歩くしかなく、一行はまずはテルパドールの城が見える範囲で、東西南北 満遍なく辺りを見回しながら歩くことにした。

 城から遠ざかれば遠ざかるほど、聖なる力の範囲を越えるために魔物も出るし、気温も日が昇るごとに徐々に上がって暑くなる。

 

 アベルの額には玉の汗が滲み、手で拭い去った。

 ……これからどんどん気温も上昇してくることだろう。早いところ探し出し、テルパドールに戻って休みたい。

 

 そんな過酷な状況下での【さばくのバラ】探しだが、クリエたちとの再会で、アリアには良い影響を与えてくれた。

 

 

『アリア、砂漠のバラ探しは一緒に歩こうか』

 

 

 訊ねたら彼女は嬉しそうに頷き、また、クリエがアリアの護衛を買って出てくれたのだ。

 戦うのは主にシドーが戦うから、ボクが守ってあげるよ、と。

 

 クリエがアリアを守ってくれるなら、これほど心強いことはない。

 サンタローズの洞窟で、一度も危険な目に遭うことがなかった共闘は、アリアも楽しかったようだし、いい経験にもなった。

 それはサンタローズの洞窟とは多少勝手の違う、この砂漠においても同じだろう。

 ならばアベルもアリアを気にせずに戦えるし、アリアもきっと満足してくれる。

 

 

「……アリアの楽しそうに歩く姿を見るのは久しぶりだな……」

 

 

 馬車の後ろを時折振り返って様子を見てみれば、アリアが楽しそうに歩いていて、アベルはもっと早く歩かせてあげれば良かった、と少し後悔した。

 

 

「ん……? ね、クリエちゃん、もしかして、あれ……」

 

「あー! あれだー!」

 

 

 しばらく城周辺を歩いていたが、テルパドールから南の方角、少し西に差し掛かったところで、後ろから女子たちの声が聞こえる。

 その声にアベルは足を止め、前方を確認したが特に何も見当たらず、キョロキョロと左右を見回している内に、アリアがやって来た。

 

 

「アベル! あれじゃないかな、砂漠のバラ!」

 

「え?」

 

「あっち」

 

 

 アリアは両手を伸ばし、アベルの頬を捉えると、【さばくのバラ】のある方角に顔を向けさせる。

 どうも全く違う方角を見ていたようで、馬車の後ろ側で見えにくいが、二、三十メートルほど先に、不思議な形の【砂】の塊が微かに見えた。

 

 

「あ……」

 

「砂で埋もれてたのが、風に吹かれて出てきたみたい」

 

 

 塊は、すっかり生暖かくなってきた 砂漠に吹く風に吹かれて転がる【砂】に埋まったり、顔を出したりと忙しいようだ。

 そのため見逃してしまっていたらしい。

 

 アベルが塊を視認すると、アリアの手が離れてしまった。

 

 

「そっか、あれが砂漠のバラだね」

 

「たぶんねー!」

 

 

 妻からのスキンシップが終わってしまい、残念に思いつつ、少しだけ顔を出している【さばくのバラ】(暫定)を眺め、アリアに語り掛ける。

 ところがアリアからの返事はなく、いつの間にか側にやって来ていたクリエが代わりに相槌を打った。

 

 アリアはいったいどこに行ったのかと思ったが、近くでにこにこと微笑んでいる。

 久しぶりに一緒に歩けたことが、そんなにも嬉しかったというのか――。

 いつも笑顔だが、見るからに上機嫌な妻に、アベルはこれまで馬車に閉じ込めておいたことが、本当に彼女のためだったのか……、よくわからなくなってしまった。

 

 

「……ね、アリア」

 

「ん?」

 

「砂漠のバラ、君が採って来るかい?」

 

「え?」

 

「……今は魔物の気配もないし……、目と鼻の先だから、アリアが採ってくるといいよ」

 

 

 【さばくのバラ】の採取をさせてあげたら、アリアは喜ぶかもしれない。

 

 知らない内に、心の中に色々とため込んでしまう妻に、夫である自分ができることは、自然な笑顔を引き出してあげること……。

 命の危険がある時はやむを得ないが、今は妻が楽しんでくれることが一番だ。

 

 僅かでもストレスが軽減されるといいなと願い、アベルは離れた場所で採取を待つ【さばくのバラ】を、アリアに託してみることにする。

 幸い辺りに魔物の気配はなく、風は多少吹いているが、砂嵐もない。

 距離的にもし魔物が現れたとしても、対処できる。

 

 

「えー! そんなー! ボクが貰おうと思ってたのにー!」

 

「……、あはは……」

 

 

 アリアの返事を聞く前にクリエが眉を寄せ、頬を膨らませた。乾いたアベルの笑い声が漏れる。

 

 ……そういえばクリエがいたのだ。

 

 遠目だが、見たところ【さばくのバラ】はひとつしかない様子。

 さてどうしたものか――。

 

 こんな時、アリアはきっと。

 

 

「あ、よかったらクリエちゃんどうぞ? 私なら別に――」

 

「アリアっ!」

 

 

 誰かが欲しいと言えば、アリアが譲るのはわかっていた。

 笑顔で【さばくのバラ】をクリエに譲る妻の姿が、予想通り過ぎる。

 

 【さばくのバラ】をプレゼントしたくて採りに来たというのに、これでは意味がない。

 

 

「あっ、そっか、アベルも欲しかったよね。ごめん(アイテム収集しないとだもんね……)」

 

「違う、そうじゃないっ! 謝らなくていい!」

 

 

 ――僕が【さばくのバラ】を欲しい理由は、君に贈りたいからだよ。

 

 

 アリアは謝罪するが、そんな謝罪などアベルには不要。

 

 

「あ、うん……でも、どうしよう? 一つしかないみたいだよ? クリエちゃんが欲しいなら譲っても――」

 

「クリエちゃんたちは、明日採りに来ればいいと思う。明日の朝、またできてるはずだから」

 

 

 ……困ったように眉を下げるアリアの手を取り、アベルは告げた。

 

 【さばくのバラ】は、一晩待てばまた手に入る。

 クリエには明日また収集に付き合えば問題なし、今回は譲ってもらいたい。

 

 

「わおー。アベルお兄さんのケチー」

 

「明日もあるなら、明日採りに来ればいいんじゃないか?」

 

 

 クリエの頬がぷくっと膨らみ、シドーがその頬に人差し指を突き刺す。

 ぷぅーと空気が抜けていった。

 

 どうせ今は“カケラ”の気配がないのだ、急ぐ旅でもなし、明日【さばくのバラ】を手に入れてから再出発しても問題なし。

 

 昨夜アベルがアリアに贈りたいと言っていた【さばくのバラ】。

 一度に一つしか手に入らないのなら、たまたま珍しいアイテムに、興味を示しただけのクリエに譲る必要はない。

 クリエもそれを解っているはずで、ただ何となく言ってみただけ。

 

 ……アリアが譲るなんて言い出すとは思わなかったのだ。

 

 

「そんな……、ここまで一緒に来てくれたのに? やっぱり譲って、私たちが改めて明日採りに――」

 

「ストップ! アリアお姉さん、すぐ譲らない!」

 

「……え?」

 

 

 それでも譲ると言うアリアに、クリエは待ったをかけた。

 言い出しっぺはクリエ、自分であるが、アベルもアリアも、真面目過ぎて冗談が通じないから困る。

 

 

「ここは競争しよーよ」

 

「きょう……そう……?」

 

「そ! ここに線を引いて……、ボクと、アリアお姉さんで走って採りに行くの! 先に採ったもん勝ちね☆」

 

 

 それなら文句ないっしょ、と。

 クリエが鞘に収めたままの【はやぶさのけん】で、【砂】の上に一本の線を引き、二十メートルほど先に待つ【さばくのバラ】を、早いもの勝ち勝負で手に入れようと提案してくる。

 

 ……これならどちらが手に入れても、恨みっこなしでいいではないか。

 

 

「クリエちゃんがそれでいいなら……、けどクリエちゃん、足早いよね?」

 

「ボクは、ほら、地面に伏せた状態からスタートすればいいじゃん?」

 

「おぉ……ビーチフラッグスみたいね、それなら……」

 

 

 早い者勝ち勝負の提案は受け入れられたようで、アリアが確認を取るようにクリエを窺う。

 アリアの足は速いが、クリエの足も相当早い。

 競争したことはないが、恐らくクリエの方が早いだろう。

 

 負け戦はしたくないのか、クリエが地面に身体を伏せると、ハンデをもらったアリアは拳を握り締めてふんす、鼻息を漏らした。

 

 

「びーちふらぐ?」

 

「あ、ううん。それなら私にも勝機があるってことね?」

 

「そそ! 楽しそうでしょ!?」

 

「ふふっ、そうだね!」

 

 

 うつ伏せのまま訊ねるクリエは「砂がサラサラしてるー!」などと、足をばたつかせつつ、両手は前後に動かし【砂】を撫で撫で。スタートを待っている。

 

 

「先に採った人のもの! 恨みっこなーし! で、いいよね、シドー君?」

 

「おー、いいんじゃないか?」

 

 

 ちらりと見上げてくるクリエに、シドーも口角を上げ、白い歯を見せた。

 

 スタートの合図はアベルお兄さんに頼むねとクリエが告げて、アリアはその場で屈伸を始める。

 準備運動らしい……。

 その内彼女は腕を曲げたり、前屈したりと本格的に身体を動かしだした。

 

 そんなアリアをクリエは砂漠に寝そべったまま、両肘を地面について、顎を両手で支えながら嫌な顔などせずに見守っていた。

 




次回、後編。
からぁの~……。

----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。