ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回あらすじ>砂漠のバラをクリエと競争で採ることになりました。

砂漠のバラ、後編です!

では、本編。



第七百九十話 砂漠のバラ(後編)

 

「アベル、私絶対ゲットするね!」

 

「あ、ああ……。がんばって!」

 

 

 ――前屈みになると、谷間がすごい……! 溢れそうなんだけど!?

 

 

 妊娠しているかもしれないのだから、走ってはいけない――とはいえ、アリアが準備運動する姿を見ている内に、アベルはそのことを思考の隅に追いやってしまい、遂には忘れてしまう。

 

 

 “いち、にっ、さん、しっ!”

 

 

 健康的な体操をしているというのに、妻のぷるぷると震える 零れそうな白い【スライム】を捉まえたくて仕方ない。

 

 

「……にぃ、にっ、さん、しっ、ごーろく、しち、はち……と。ふぅ~」

 

「……念入りだね」

 

 

 妙ちきりんな体操を終えたアリアが、息を深く吐き出す。

 

 気付けばアベルはアリアの真正面に位置を取り、シドーが真似して身体を動かす中、三角座りで準備運動が終わるのをじっと眺めていた。

 アベルが見上げる恰好だからか、時折ミニスカートの合間から下着が見え隠れする。

 ……今日のショーツはピンクのレースだ。レース部分が透けているデザインで、色っぽい。

 

 今朝は早かったため、【ステータスウィンドウ】はまだ見ていなかったが、直接見られたアベルは僅かに笑みを含ませ、二度、三度としみじみ首を縦に下ろした。

 

 にしても、アリアのしていた準備運動はなんなのだろう。

 訊けば“ラジオ体操”というものらしい。

 アベルからすれば“ラジオ”とは なんのこっちゃであるが、体操を終えた妻が薄っすら汗を掻いている姿は艶かしく、クリエたちさえいなければ押し倒しているところだ。

 

 

「絶対に負けられない戦いが、そこにはある! 私、クリエちゃんに勝つんだから」

 

「ん? あ、うん! アリアならきっと勝てるよ!」

 

「でしょっ☆ 応援よろしくね!」

 

「ああ 任せて!」

 

 

 アリアを走らせてはいけないことなど すっかり忘れたアベルは、クリエから【勇者のはた】なる、鳥を模した不思議な模様の入った青い旗を手渡され、下手に構える。

 それを見たアリアとクリエが、それぞれスタートを切るために身構え、黙り込んだ。

 

 遊びだというのに、女の子二人の顔は真剣そのもの。

 こんな競争がたまにあってもいい。

 

 アベルの目は勝手に緩み、アリアを優しく見守る。

 

 ……この時のアベルは、愛する妻が楽しそうにしているから、うっかりしていたのだ。

 あとで死ぬほど後悔することになるなど、思いもせずに……。

 

 

「じゃあ二人とも、位置について……」

 

 

 アベルはスタートを切る前の確認で、辺りを見回す。

 

 辺りに魔物の気配はない。

 多少の風は吹いているが、砂嵐も発生していない。

 

 距離は約二十メートル。すぐに勝負はつくだろう。

 

 

「よーい、ドン!」

 

 

 掛け声とともにアベルの手が【勇者のはた】を振り上げると、アリアは走り出し、クリエもうつ伏せ状態から身体を起こし、後に続く。

 二人は【さばくのバラ】に、一目散で駆けていった。

 

 さて、どちらが勝つだろう。

 いい勝負のように思える。

 

 スタート地点から二人を見守りつつ、アベルは「アリアがんばれー!」と声援を送ろうとしたが、それは掻き消された。

 

 

「ん……? っ、おいアベル 来るぞっ! クリエッ! アリアッ! 戻れっ!!」

 

 

 近くで競争を見ていたシドーの目が見開き、駆けていく二人を呼び戻しながら自身も駆け出す。

 

 たった二十メートルの距離だ。

 なぜ、戻れなどと……?

 

 ……アベルがそう思った時だった。

 

 

 【さばくのバラ】がある場所で、大きな影が一瞬見えた気がしたかと思うと、ビュゥウウウウッ!!

 突如、アベルの目の前で旋風が巻き起こる。

 

 

「えっ!? あっ……!! アリアッ!! うわっ!?」

 

「クリエーーっ!!」

 

 

 旋風は周囲の【砂】を巻き上げ、小さな砂嵐となって、駆け寄ろうとしたシドーを足止めしつつ、【さばくのバラ】に到達しようとするアリアとクリエを呑み込んだ。

 

 紫のマントが前方からの猛烈な風によって舞い上がり、アベルも無数の砂粒を浴びせられ、ピエールとプックルも同様、旋風の中心に近付けない。

 向かってくる強い風に両腕で顔を保護し、耐えるのがやっとだった。

 

 

「「きゃーーっ!!」」

 

 

 “アベルー!”“シドーくーん! ……ケラー……!”

 

 

 旋風の中から微かに声が聞こえたが、風が治まると、そこに女の子二人の姿はなかった。

 

 

「っ、アリア? ……っ、う、嘘だ……、ア、アリアぁあああーーっ!!」

 

 

 ……旋風が止み、アベルはすぐさまアリアたちのいた場所に駆けつけたが、さっきまで地面にあった【さばくのバラ】も消えている。

 どこかに吹き飛ばされたのだと思い、辺りを見回した。

 

 だが、どこを見ても二人の姿はない。

 

 旋風は瞬時に現れて二人を呑み込み、瞬時に消えた。

 まるで人を拐う意思を持っていたかのように、綺麗にアリアとクリエを呑み込んだのだ……。

 

 それはあっという間の出来事で、アベルもシドーも何もできなかった。

 

 

「っ、クリエ……、ケラ……? カケ……ラか……?(あの魔物は……)」

 

 

 シドーが遅れてやって来て、【さばくのバラ】があったであろう場所の、足元に目を落す。

 地面には小さな“カケラ”が落ちていた。

 

 

「……見つけたのか……?」

 

 

 落ちていた“カケラ”は、以前見つけたものだ。

 クリエはあの僅かの間で、“カケラ”を地面に落としていったらしい。

 

 確かに旋風が現れた時、“カケラ”の気配を感じた気がする。

 とはいえ、どうやって連れて行かれたというのか……。

 

 

「アリアぁああああ……!! プックル頼む!!」

 

「がうっ!!(合点承知の助!)」

 

 

 アリアは【砂】の中にいるかもしれない、そんな希望を抱き、アベルはプックルを駆り出し、ともに周辺の【砂】を掘り始めた。

 プックルの背後に、掘り起こされた【砂】がどんどん山となっていく。

 

 

「……アベル、砂の中にアリアは埋まっていない。一度城に戻るぞ」

 

 

 ……取り乱すアベルとは対照的にシドーは冷静で、自身の背後、遠くに見えるテルパドールの城を親指で示した。

 

 

「駄目だ! アリアを捜さないと!」

 

「……拐われたんだ、連れ戻すために戻るんだよ」

 

「早く捜さないと、アリアが死んでしまう……! あの子は蘇生呪文が効かないんだ。虚弱だし……」

 

「クリエが一緒だから大丈夫だ。それに、アリアもすぐ死ぬほどヤワなヤツじゃないだろ?」

 

 

 シドーが淡々と返すが、アベルには届かない。

 ……どうもアベルは冷静さをなくしているようだ。

 

 いつもならここまで取り乱すこともないはずだが、初めての経験、しかも愛妻を巻き込んでとなると、平静ではいられない。

 

 

「っ……、けどアリアは妊し……っ、あああああっ! しまった! 僕はなんで止めなかったんだぁあああっ! ウァアアアアッ!!」

 

 

 ――いつも気を付けてたのに……!!

 

 

 自らの発言で、アリアの身体の状態を思い出し、アベルが頭を抱えて自省するも、後の祭りである。

 嘆いたところで、起きてしまった事実は変わらないわけで……。

 

 その内不安に呑まれたアベルは頭を掻き毟り、紫のターバンが地面に落ちた。

 アベルの嘆きはしばらく続き、風の音しか聞こえない砂漠に虚しく溶けていく。

 

 そんなアベルの姿を見ていたシドーだったが、しばらく経ってからそろそろ落ち着いたかと、静かに告げる。

 ……アベルが静かになるのを待っていたらしい。

 

 

「……まあ、そう騒ぐなよ。恐らく二人は無事だ」

 

 

 そう話すシドーの片手には“カケラ”が握られ、アベルにニッと不敵な笑みをみせた。

 

 

「え……」

 

「……気のせいかとも思ったが……、さっき旋風が起こる直前に魔物を見た気がする。二人はどっかに連れて行かれたんだと思う」

 

「っ、どこへ!?」

 

「それを訊きに城に戻るんだよ」

 

「え?」

 

「そこの城の女王なら、知ってるだろ」

 

「女王が……?」

 

 

 ……シドー曰く、テルパドールの女王が何か知っている――とのこと。

 そんな話、朝食時にしていただろうか、聞いていないのだが……。

 

 もしかしたら嫉妬にかられて、聞き逃していたのかもしれない。

 アベルは妙に落ち着いたシドーが頼もしく思え、ここは彼の言う通りテルパドールに戻ることにした。

 

 

「アリア……、きっと助けに行くから、無事でいて……」

 

 

 【さばくのバラ】があった場所に向け一言残し、アベルたちはテルパドールの城へ向かった。

 




砂嵐に拐われたアリアとクリエはどこへ行ったのか……。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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