前回あらすじ>
旋風に拐われたアリアとクリエを助けるため、女王アイシスに会いに来たアベル。五日後、同様の旋風が同じ場所で起こると女王アイシスに教えてもらい、その日に備え身体を鍛えようと、城をあとにした。
砂の旋風、目に砂が入りそう。砂が身体に当たって痛そう。
では、本編どぞー。
第七百九十二話 砂の旋風
◇
城を出たアベルたちは、次の旋風が現れるまでの間、テルパドールを拠点に砂漠の魔物たちと連戦を繰り広げ、レベル上げに勤しんだ。
そうして五日目の朝、女王の予見した日を迎える。
その日、空は雲一つなく晴れ渡り、宿屋を出たアベルは、東から昇り始めた日の眩しさに手を
……指の合間から光が漏れる。
朝は問題なく訪れるようになった。
アリアが隣にいれば「朝日は眩しいね♡」なんて言って、同じように空に手を翳して笑い合ったはず。
テルパドールの宿屋の客室は地下にあり、部屋を出ない限り、朝日が昇ってもわからない。
昼間は暑く、夜は冷え込む砂漠では、気温の変化が少ない地下の部屋は理にかなっているが、こうして昇り始めた陽の ほのかな温かさを感じて目覚めることはできないだろう。
アベルは朝日に照らされた妻の透き通るような肌と、絹の髪の輝きを眺めながら目覚めるのが好きだ。
もちろん、地下客室でもアリアがいれば問題はない。
だが、今はその彼女がいない。
……ベッドも営む営まないは別として、いつも一緒に寝ていたからか、一人で寝ていた間は冷たく、広く感じた。
「アリア……」
――君は今、無事でいるよね……?
見知らぬ場所に突然連れて行かれ、魔物に捕まってしまったのか。
それとももう、脱出するためにクリエとともに奔走している頃か……。
アリアの命が消えてしまっているとは考えない。
彼女は自らの代わりに不幸をその身に受けてはいるが、それを不幸なのだと考えてもいないのだから。
彼女は怖がりだが、いつも前向きだ。
考え方を少し変えるだけで、物事の捉え方は変わってくるのかもしれない。
悲観的に考えれば考えるほど、ドツボに嵌る。
ここはいつも明るい妻を見習い、前向きにならなければ――。
「主殿、行きましょう。シドー殿が待っておられますよ」
「がうがう!(行くぞ主! アリアが待ってる!)」
立ち止まっていたアベルの背に、ピエールとプックルが励ましの声を掛けてくれる。
シドーは夜が明ける前に、【さばくのバラ】があった付近へ行ったらしい。
アベルが目覚めた時、シドーが寝ていたベッドはもぬけの殻だった。
昨夜先に行ってると聞いているから、現地集合である。
「おはようシドー。早いね、昨日はよく眠れたかい? 僕はあまり眠れなくてね」
「おう、アベル。オレもあんま寝てない」
今日のこの日を迎えたアベルは緊張で、昨夜 中々寝付くことができなかった。
シドーも緊張しているのだろうか。顔色は悪くないが、アベルに返事をすると、再びできた【さばくのバラ】をじっと見下ろし口をへの字にする。
「……アリアは無事でいるかな」
「クリエがいるから大丈夫だろ。今頃アリアを巻き込んで、新たな素材を見つけたーとか言って、楽しんでるはず」
「はは……クリエちゃんらしいね……」
「アリアもそこまでひ弱じゃないし、きっと無事だ」
よほど自信があるらしい。シドーの声は明るく、口角は上がり自信に満ちて、元気付けてくれているような気がした。
「……ああ、そうだね。君がはっきり言ってくれるから、そう思えるよ。ありがとう、シドー」
――シドーも前向きな子だな……。
アリアもそうだが、きっとクリエもそうであろうと予想ができる。
異世界からやって来た子どもたちだ、前向きでないと過酷な長旅などできない。
気を抜くと深い闇に落ちてしまいそうな今のアベルには、シドーの揺るぎのない自信が心強かった。
「……なあ、アベル」
「ん?」
「……、まあ、あとでいいか……」
「なんだい?」
互いに新たにできた【さばくのバラ】を見下ろしつつ、言葉を交わす。
シドーは何か言いたげだったが、言い淀んでやめた。
……それからすぐのことだった。
「……お、来たぞ!」
「えっ、なん……(なんでわかるんだ……!?)」
シドーの声とともに、足元の【さばくのバラ】の周りに風が小さく円を描き出す。
気付けば、アベルとシドーの前には大きな仮面が宙に浮かんでいた。
「……顔……デカッ!」
五日前、アイシス女王に聞いた【ガオン】という魔物なのだろう、鮮やかな朱の色と緑で彩色された、仮面のような顔の魔物だ。
咄嗟に背から【パパスのつるぎ】を抜こうとしたアベルだったが……。
「よお……、久しぶり」
(え? 久しぶり?)
シドーが思わぬ言葉を吐き出したため、アベルは固まってしまった。
「……」
現れた【ガオン】は何も話すことなく、アベルとシドーをギョロリと見やり、大きな口の端を不気味に吊り上げる。
アベルたちの足元の【砂】が、円を描きながら空に舞っていく。
「わっ!?」
「悪いなアベル。付き合ってもらうぞ」
「え」
“うわぁああああっ……!!”
直後アベルたちは、風とともに舞う【砂】の旋風に囲まれ、砂漠から姿を消した。
「……――ご報告は以上です」
「そうですか、無事旅立たれたのですね。元気に帰って来ることを祈りましょう。大丈夫ですよ、彼がいますから」
……アベルたちが姿を消してから一時間後。
テルパドール、砂漠の庭園では、城の兵士によるアベルたちの旅立ちの報告を受けた、女王アイシスの姿があった。
◇
一方――。
時は遡り、五日前。
旋風に巻き込まれたアリアとクリエは……。
「ねえ、クリエちゃん。ここどこー?」
「んー、ここはー……どこだっけー……?」
「さっき、知ってる場所って言ってなかったー?」
「言った言ったー。あ、こっち隠れて」
現在二人は木材の杭や、柱で支えられた採石場のような洞窟で、彷徨い歩いていた。
魔物の影が遠くに見えて、クリエは【あらくれマスク】姿のアリアの手を引き、通路の支えとして建てられた、魔物からは死角となる柱に身を隠す。
「わっ、ありがとクリエちゃん。……なんかここ、見たことない魔物ばっか出てくるし、しかも強そうなのばかりね……」
「さっきは余裕で逃げられてラッキーだったね! アリアお姉さんの足が速くて助かったよ」
柱の陰からこそこそと魔物を窺うと、左右に立派な角が生えた、青い有翼竜に乗った戦士の魔物が姿を見せはしたものの、アリアとクリエには気が付かず、来た道を引き返し奥へと消えた。
さっきからその魔物と、トサカが特徴的な 薄グレーと黄みがかった肌の有翼ドラゴンが複数匹ウロウロしている。
どちらのドラゴンもアベルよりも身体が大きく、体躯もがっしり。皮膚も硬そうで、目付きも獲物を常に探しているようにギラギラと、鋭い。
……どう考えても仲良くなれそうになかった。
戦うにしても一匹ずつならまだしも、二人で複数匹同時には、さすがに分が悪いと判断。
無理に戦うことはせず、互いに手を繋いで即逃げの連続だ。
アリアもクリエも足が早いため、今のところ捕まることはなく、上手く逃げおおせていた。
ここはいったいどこなのか――。
この場所にやって来たのは約一時間前のことである。
さて、砂の旋風はどこに繋がってるんですかね。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!