前回あらすじ>
坑道の奥へとやって来たアリアとクリエ。崩れた横穴を見つけ二人は…。
坑道を抜けて先へ行きます。
では、本編どぞ!
坑道の最奥……。
ここに来るまでに戦った回数はそう多くはないが、魔物の強さが今まで戦ってきた魔物と段違いに強く、魔力の消耗を余儀なくされた。
クリエが強いため、命の危険がなかったのはラッキーだったといえるが、そろそろ洞窟から脱出したいところだ。
「この先……出口に繋がってるの?(まさか行き止まりじゃ……)」
「うんにゃ、むしろ入口だね。ここは神殿に続く入口だよ」
はて神殿とは……。
アリアが訊ねてみれば、クリエは【やくそう】を噛み噛み咀嚼しながら説明してくれる。
二人してぽっかりと開いた横穴を眺めた。
やはりクリエはここがどこなのか確信しているらしい。
「神殿?」
「うん、エスターク神殿だよー。ほい、アリアお姉さんも薬草食べといて」
クリエが【やくそう】を手渡してくるので、アリアは軽く会釈して受け取り口に入れる。
【やくそう】は味が苦手で、そのまま口に含むのは避けたかったが、今は残りの魔力が少ないため致し方なし。
残りの魔力は攻撃呪文用に取っておいて、回復はクリエの【やくそう】でなんとか凌いでいるのだ。
「え、エスターク神殿……?」
――エスターク……? なんだか聞いたことがあるような、ないような……。
クリエ曰く、この先は【エスターク神殿】という神殿に続いている――とのこと。
エスタークという名を、アリアはどこかで聞いたことがあるような気がする。
だが、すぐには思い出せそうにない。
今日はもう何度目か、アリアの首がこてんと横に傾く。
「アリアお姉さん。これまでと同じく、実体のない奴もいると思うけど この先に出てくる魔物はかなり強いから、気を引き締めていこうね。いざとなったらボクの後ろに隠れていいからね! メルキドの守りカベもあるし、アベルお兄さんと再会するまでは何があっても守ってあげるから」
「う、うん……。もっと強い魔物が出るのね……」
洞窟内で遭遇した魔物はクリエの言う通り実体のないものもいたが、現在のアリアからすると仲間が二人しかいないということもあり、苦戦する魔物ばかりであった。
この先もっと強い魔物が出る――。
前もって教えてくれるのは心積もりができてありがたいことだが、アリアの顔は青褪める。
なぜなら実体がない魔物が半透明だとか、簡単に判別できるといったことはなく、戦ってみないとわからないという難儀な状態。
襲ってくるくせに攻撃はすり抜けていく……。
ダメージを受けないので無傷で助かるが、見た目だけでは判別が難しい。
しばらく相手をしていると姿を消すものの、実体もたまに紛れ込んでいるからさらにややこしさは増す。
回り込まれ、いざ戦おうにもこちらの攻撃が当たらず空回りしたことが何度もあった。
……幻とはいえ、見た目だけでは全く見分けがつかないというのは、非常に厄介で困る。
クリエは一匹ずつしか攻撃できないし、アリアは先手必勝、強力な攻撃呪文でまとめて攻撃、一撃で倒そうという戦闘スタイル。
なるべく逃げて戦闘回避を心掛けていたが、不意をついての遭遇や、背後を取られては戦わざるを得ない。
呪文の無駄打ち覚悟で対応しなければ、ここまで辿り着けなかっただろう。
なぜそんなことになっているのかといえば、先ほどクリエが言っていた“あっちとこっちが繋がってたり、繋がってなかったり”――だから仕方ない……ということらしい。
クリエに軽く「アリアお姉さんごめんねー、なんか付き合ってもらっちゃって悪いねっ」なんて軽い口調で謝られてしまった。
「いやぁ~、しっかし、まさかとは思ったけど、こんなところに飛ばされるとはねー。カケラを回収して元に戻さないとな~」
「え?」
「確かこの先に回復の泉があったから、休憩しようよ。詳しいことはそこで話すよ」
早速奥へ行こうと横穴を指差し、いつもの調子でクリエが歩き出す。
特に不安を感じていなそうな彼女の様子に、アリアの顔がぱっと明るくなった。
「回復の泉!? うわ~助かる~!」
「ね~!」
明るい声で会話をしているが、実は二人とも身体はすでにボロボロだったりする。
クリエの持っている【やくそう】のストックは残り僅か。
幸い素材はまだまだ豊富にあるそうで、作る場所さえ確保できれば量産ができる。ビルダー様様である。
回復の泉に着いたらクリエから色々詳しい話も聞けそうだし、どうにかアベルたちの元へと戻りたい。
暗い壁穴の中を歩いて行くと、奥に僅かに明かりが見えて、アリアは少しだけ緊張しながら【グリンガムのムチ】を握りしめ、ふうと一息吐く。
……暗闇の通路の先は、思ったよりもずいぶんと広い空間だった。
「なにここ……ひ、ひっろーい……!」
「ね~! って、アリアお姉さん、シ~ッ!」
「あ」
アリアたちは知らずの内に、外に出られたようだ。
来た道が緩やかな下り坂だったから、地下深くに続いていて、暗闇しかない場所に出るのだろうと思っていたが、時刻は夕方なのか坑道にいた時よりも明るく、視界が開けて見える。
そんな夕暮れかと一瞬思ったものの、そうではなかった。
ふと頭上を見上げると真っ暗闇で、星の輝きなど一つも見つけられない。
夕焼けのような光源はいったいどこからきているのやら……。
真っ暗闇でなかったことだけはよかったとするべきか。
クリエが口元に人差し指を当てる中、アリアはよくよく周囲を見回し状況把握に努める。
アリアの視界の先、坑道から続く通路は絶崖のような形状をしており、正面に小さな建物、さらにその奥 右手には巨大な建造物。
恐らくそこがエスターク神殿と呼ばれる神殿なのだろうと思われるが、この崖――通路の下、足元は。
……足元にはオレンジ色の海が広がっていた。
いや、海と呼べるのだろうか。液体というより、気体の海とでもいうのか、海のように見える雲海が地底に広がっている。
現在地である通路はずいぶんと高い場所に位置するらしく、オレンジ色の雲海は、独特の臭気がするからガスでできているのかもしれない。
足が竦む思いをしながら恐る恐る 少しだけ通路の崖下を覗き込むと、薄っすらとオレンジ色に染まる雲海から僅かに温かさを感じたから、底の方にはマグマがあるのかもしれない。
この地下空間の光源が地底からきていることがわかってよかったが、落ちたら一溜まりもなさそうだ。
「魔物がいつ現れるかもわかんないし、落っこちないように気を付けて。さすがにこれだけ高さがあったんじゃ、ボクでも戻って来られるかわかんない」
「う、うん……」
眉を下げたクリエの差し出された手を取り、アリアは通路の端から中央に戻った。
地上に戻る方法を早く見つけ出し、アベルの元へ帰りたい。
いつも不安な時は傍にいて慰めてくれる優しい夫が、今は傍にいない。
(アベル……。)
ずっと一緒にいたからか、離れてわかる存在の大きさにアリアの胸がぎゅっと締め付けられた。
アベルがいれば、不安がまったくなくなるわけではないが、ハグ一つで一時だけでも安らぎを得ることが容易にできる。
彼がいれば勇気も湧くし、頑張ろうとも思えるというのに。
アリアにとってここは先に進むのも戻るのも怖い未知の洞窟だ。
ゲームの中をリアル体験で地下空間に潜入だなんて、天井が崩落でもしたらと気が気ではない。
クリエが強いことはわかっているが、その彼女も心なしか不安そうにしている気がするから、年長者である自分がしっかりしなければならない。
……無意識に握り締めた拳の爪が、手の平に刺さって痛みを帯びた。
「っ! アリアねえっ!! 出たよ!!」
「えっ!? あっ……!」
「逃げよっ! あそこの建物に避難すればたぶん大丈夫……!」
「うんっ……!」
急に手首を掴まれ、アリアは駆け出す。
背後から、アリアたちよりも身体の大きな魔物の群れが迫っていた。
一匹や二匹ならまだしも、三匹もの巨体に囲まれては、無事逃げられるかわからない。
名も知らない薄グレーの有翼竜は実体がないかもしれない相手だが、当たりはずれがある。早め早めの行動が大事だ。
度重なる戦闘で疲れ切っている今、選択肢は【にげる】一択だろう。
クリエとともに全力疾走で、通路の先の小さな建物目掛け駆けてゆく。
現れたのが青い有翼竜に乗った戦士の魔物でなくて良かった。青い竜は戦士の指示で【高熱のガス】を吐き出すのに加え、ある程度連携も取れるから、複数匹遭遇すると厄介な存在。
薄グレーの有翼竜ならば毒を吐いたり仲間も呼ぶが、仲間を呼んでいる隙に逃げきれる。
気付かれて追いかけて来ているが、まだ距離もあるし、全力で走れば追い付かれることはない。素早さが早くてよかったと、心からそう思った。
坑道の名称出てなかったけど、砂の旋風に巻き込まれた先はⅣに出てくるエスターク神殿に続くアッテムト鉱山でした。
いい具合にクリエがネタバレしてくれていますねw
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!