前回あらすじ>
「この先の神殿でなにがあったの……?」
エスターク神殿側の休憩所にて、アリアはクリエに問う。
からっぽ島の仲間たちは個性豊かですよね!
では、本編どぞー。
「えー……、地獄の帝王が封印されてて、勇者一行が倒しに来ただけだけど?」
「へー、地獄の帝王が封印されててー、勇者さまたちが倒しに来たんだー……って、ええええっ!? そんな歴史的場所だったの!?」
サラッと答えをもらえたのは良いが、とんでもない内容である。
【地獄の帝王】の単語にアリアは目を見開いた。
「そだよー」
「っ、地獄の帝王ってアレ? ラスボス的な……?」
「ラスボス? んー……ラスボスがよくわかんないけど、強い魔物だったよエスタークん」
「えぇええええっ!? エスタークん!? んなまたあっさりと言っちゃって……!」
エスタークんとは……。
クリエの物言いがあまりにあっさりし過ぎていて、なんだかありがたみを感じない。
地獄の帝王を倒す勇者たちが戦った場所が、この先にあるエスターク神殿――。
過去の戦いはさぞかし熾烈だったことだろう。
歴史的場所の扱いがこれでいいのか――アリアは呆然としてしまった。
「勇者一行が倒したし」
「そうなんだ……」
――そうだけどそうだけど~……!! もっとこう、勇者たちの戦いの様子などを詳しく聞きたーい!
アリアのドラクエⅣプレイ履歴は実は第五章のほんの初期までである。
勇者の姿を画面越しに見てはいるが、その先は不明。
リアル体験したクリエにもっと臨場感溢れる話を聞きたかった。実際の戦いを目の当たりにしたらきっと大興奮間違いなしだ。
クリエは絵も上手いし物作りも天才的だというのに、こと戦いに関しては強くせにドライ過ぎる。
恐らく戦いに重きを置いていないせいなのだろう、なにせ彼女はビルダー……。物作り以外には差して興味がない。
同じ内容をシドーに話しても、彼も同じようにあっさり答えるに違いない。
……二人は根っからの物作り
そう、クリエは今、真剣な話をしているにもかかわらず、ながらで作業台を取り出し 使い果たした【やくそう】を追加作成し始めている。
まるでピアノの鍵盤を弾くように彼女の手が作業台の上で踊り、白く眩い光とともにキラキラと、小さな星たちが散ると【やくそう】が次々に現れた。
作業台の端にできあがった【やくそう】が積まれてゆく。
「ここさ~、たいした素材が取れなくってあんまり好きじゃないんだよねー。土とか岩とかどこでも取れるし。神殿の壁とかは珍しい素材だったから、ちょっと欲しいなって思ったんだけど、ソロにダメって言われたし~」
「そ、そうなんだ……。壁はダメだよね、壁は……。崩れちゃうもの……」
壁をなぜ壊すのか――。
アリアにはクリエの言動が理解できなかった。
ただクリエにもアベル同様、収集癖がありそうだということだけはなんとなく察することができた。
「そうなんだよね~! ボクのいた世界と勝手が違うからってんで、宿屋に泊まったとき 腕っぷしの強いお姫さまにも怒られたよ。あの人、お城で自分の部屋の壁ぶち抜いたくせに、ボクには壁を崩すなって言うからおっかしくってさ~、くふふ☆」
腕っぷしの強いお姫様を思い出し、クリエが笑う。
その姫はなかなかのおてんば姫らしく、従者の神官とおじいさんがいつも振り回されてて大変そうだったよ――、とのこと。
「自分の部屋の壁って……それって、もしかしてアリーナ姫のことかな……?」
クリエの話にアリアはなんとなく尋ねてみる。
もし、ソロがⅣの勇者なのであれば、もしかしたら仲間にアリーナ姫がいるのでは――。
「そう! えっ!? なんでアリアお姉さんがアリーナ姫を知ってるの!?」
「……ハハッ、そうかなって思ってたけど……クリエちゃんがいた過去はⅣで確定ね……」
【さえずりのみつ】でだいたい察してはいたが、やはりⅤはⅣ世界と繋がっていた。
そして、クリエが行ったことのある過去はⅣの世界。
五章以降の知識はほぼないが、四章までならば一度プレイしているから薄っすらとだけ憶えている。
――って、Ⅳの知識を憶えていたところでなんの役に立つって言うのよ……。
エスターク神殿でその記憶が役に立てばいいのだが、ここ、回復の泉の記憶がまったくないため 望みは薄いだろう。
せっかくⅣ世界との繋がりを見つけたというのに、なんの意味も成さないとは――。
アリアからは自らのポンコツさ加減に「はは……」と乾いた笑いが零れた。
……実は坑道までならアリアもⅣプレイ時に四章で来たことがあるのだが、彼女は憶えていない。
リアル体験だと同じ場であっても、気が付かないものなのかもしれない。
「ふぉー? あ、アリアお姉さんもパン食べる? んぐんぐ……ん」
「……あ、ありがと(忙しないなあ……)」
――もっとゆっくり味わってもいいのに……。
クリエは止まったら死んでしまう病気なのではなかろうか。
いつの間にか【やくそう】作成を終え、【ふくろ】にしまうと、今し方ケーキを食べたばかりだというのに、【パン】を取り出し即齧り付いている。
【パン】を口で咥えながらもう一つ取り出し、アリアに食べるよう渡すとクリエは食していた【パン】を素早く咀嚼、パンくずが付いた手を払った。
ここは洞窟の内部とはいえ、聖なる力に守られた安全な場所。
そしてクリエの作った【パン】は絶品だ。
収納は保存が効いていつでも焼きたての【パン】が食べられるのだから、せっかくの休憩時間、もっと落ち着いて食べてもいいと思うのだが、クリエにはゆっくり食べるという概念そのものがない。
テルパドールでともに食べた朝食の時も、クリエの食べるスピードは速かった。
彼女曰く、食べる時間よりもモノ作りの時間の方が大事だから、食べるものは基本腹が膨らめばなんでもいい……と。
そういえばオアシスで【本】を作っている時も、食事はシドー頼みでおざなりだった。
早食いのクリエを見ていると、前世の自分を思い出してアリアは複雑な気持ちになる。
――早食いしないと仕事間に合わなかったもんなあ……。
今は昔、アリアがこの世界に来る直前、体調不良で会社を休んでいたが、その体調不良の大元の原因は粗末な食生活だ。
仕事の忙しさにかまけて食事を疎かにし、だいたいがゼリー飲料や菓子パンで済ませ、たまに食べるランチも資料を読みながら、ただ口に素早く入れるだけ――。
とにかく良い営業成績を取りたい一心でいたアリアは、自らに必要な栄養を十分に取れていなかった。
早食いのため消化不良も度々起こし、胃腸薬を使うことも多く、身体を壊したのは自業自得といえよう。
だからかこの世界に来てサンチョの【パン】に感動して以来、時間の流れがゆったりなこともあり、食事はよく噛み、しっかり味わうようにしている。
「ん~♡ おいしい~♡ ふわふわ~♪」
……クリエが倒れなければいいなと思いながら【パン】を一齧り。
「……アリアお姉さんておいしそうに食べるねえ……」
「クリエちゃんの作ったパン、とってもおいしいからね。私が今まで食べたパンの中で、ベスト3に入るおいしさだよ♡」
「ふーん。そう? 適当に大量生産したやつだけど、ありがと……」
アリアの絶賛にクリエの頬がほんのり赤みを帯びて、照れているのがわかった。
「うふふっ♡(あ、照れてる……? クリエちゃん可愛い……♡)」
クリエが頬をぽりぽりと人差し指で掻く様子を、アリアは優しい瞳で見つめる。
「ソフィとリズの作ったパンもおいしいんだよ」
「ソフィさんとリズさん?」
「あ、元の世界の友達」
「そうなんだ」
「写真見る?」
「写真があるの!?」
「うん、フォトフレームに入ってるやつがあるよ」
「見たい見たい!」
ふと出た【ソフィ】と【リズ】という名からして、女性なのだろう。
クリエから元の世界の話を聞き、まさか写真があるとは思わずアリアの目は驚きに丸くなる。
ビルダーという存在は何でも持っているというのか……、がさごそと【ふくろ】を漁ったクリエは壁掛けタイプの【フォトフレーム】を取り出し、部屋の壁に設置した。
「わあ……人がいっぱい! 魔物も!?」
「そっ! からっぽ島の仲間の集合写真だよ」
「からっぽ島……?」
【フォトフレーム】に飾られている写真には、元の世界のクリエの仲間たちが勢揃い。
クリエとシドーを始め、白く発光する【おおきづち】や、白いターバンを巻いたぽっちゃりタラコ唇の中年男性。
クリエより少し年上だろうか、ピンク色の髪をサイドテールに結んだ青いワンピーススカート姿の愛らしい少女や、農民の恰好をしたメガネ女性、バニーの服装に身を包むギャル。赤いモヒカン装飾の兜を被った女性戦士。
髪も髭も豊かで濃い顔の中年男性に、【あらくれマスク】を被った筋肉男たちはボディービルダーのようにポージング。
他にも個性的な面々が一堂に会しカメラに目を向けている。
【からっぽ島】という名前を聞いたことはないが、Ⅱに関連するスピンオフだということは、アリアも既に理解済みだ。
クリエが「この人がソフィで、この子がリズ。二人とも料理が上手でさ」と話し始め、他の人たちも一人一人教えてくれた。
「はー懐かしい……久しぶりに見たよ。早く帰りたいな……みんなでまたビルドしたい、なあー……、っ……」
「クリエちゃん……。……いつかきっと帰れるよ、だから泣かないで?」
……大丈夫、大丈夫。
アリアは隣で目尻を拭うクリエを慰めるようにそっと抱きしめ、ぽんぽん。背を撫でる。
クリエがこの世界に来てどのくらいの時間が経っているのかは知らない。
けれどもかなりの長い間滞在しているであろうことは、彼女の態度でなんとなく察せる。
シドーが一緒だからそこまで淋しくはないと思うが、今は離れていることもあって感傷的になってしまったのだろう。
――いつも笑顔の人だって感傷的になる時もあるよね……。
アリアは「大丈夫だよ大丈夫」と彼女を安心させるべく、何度も背を撫で続けた。
強いクリエちゃんもたまには淋しくなったりするのです。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!