前回あらすじ>
からっぽ島を思い出し、ホームシックになったクリエをアリアは慰めて……。
休むことも大事ってことで……!
では、本編どぞー。
「ぅ……へへっ、ちょっとひたっちゃった。……ありがとね。アリアお姉さんがそう言ってくれると、帰れる気がするから不思議」
「あ、ティッシュどうぞ。鼻かんで?」
「え、あ、ありがと……」
しばらく背を撫でられた後で、チーンッ! クリエはアリアからティッシュを受け取り鼻をかんだ。
「さて、と……。体力と魔力は回復できたし……どうにかこの地下空間から外に出なきゃね。クリエちゃん、行き先は神殿でいいの?」
「うん。神殿の方角に“カケラ”の気配がするから、ひと眠りしたら行こう。さあ、寝よ寝よ」
「……わかった。寝ている間にさっき追いかけてきた魔物たちがいなくなってるといいんだけど……」
目的地はエスターク神殿――。
クリエには“カケラ”の気配を感知することができるらしい。もう少し休もうと【わらベッド】を【ふくろ】から取り出し寝転がる。
アリアの分も隣に敷いてくれたので素直に甘え、横になることにした。
――ああ~、横になると頭がすっきりしてくる気がする~……!
横にならずとも回復の泉で体力と魔力は回復したため、すぐに出発できるにはできるが、坑道で目覚めてから歩き通しだったアリアの身体は疲労感が抜けていない。
精神的疲労とでもいうのだろう。女二人 見知らぬ洞窟で気を張り続けては、体力と魔力が戻っても精神は疲れたまま。
回復の泉も万能ではないのだ、やはり全快するには横になって眠るのが一番。
今、扉の外では魔物の群れが待ち構えているかもしれない。
だがここに魔物たちが入って来ることはない。
安全な場所だからこそ、クリエが寝具を出してくれた。
ビルダーの彼女の体力は恐らくアリアの倍以上。旅もシドーとの二人旅で二人きりは慣れっこのはず。
こちらの身体を気遣って休もうと言ってくれたのかもしれない。
(クリエちゃん、ありがとう……。)
クリエの厚意に感謝し、身体を【わらベッド】に横たえたアリアはすぐにウトウトし始めた。
「“カケラ”を手に入れたら、この空間も元に戻るはずだから」
仰向けだったクリエがアリア側に身体を傾けにっこり、明るく微笑む。
入眠しかけていたアリアは首だけクリエに向けた。
「……元に戻る?」
「そっ。“カケラ”のチカラで破壊された歪みが正されるから、幻たちは消えるはずだよ」
「そうなんだ、よかった」
“カケラ”がクリエに回収されれば歪みが正される。
そしてこの空間の幻たちは消える。
ならばここで出遭った手強い魔物たちも消えるということ――。
一部は生き残りらしいが数は少ない。
できればもう相手をしたくないところだが、群れで出遭わなければなんとかなるだろう。
アリアは胸に手を当てほっとひと息吐いた。
「まあ よかったはよかったんだけど、幻たちが消えた時、元の姿に戻るから脱出するときは気を付けないとね」
「気を付けるって……どう……」
「幻は魔物だけじゃないってこと。魔物が作り出してる幻だから、目に見えてるものだけが本当の姿じゃないんだよ」
「それって……もしかして、神殿が老朽化してるとか そういう現実的なことを言ってたりする……?」
幻が消えれば本来の姿に戻るわけで、大昔にあった神殿が当時の姿のままなわけはない、この時代に相応しい形を現すのだろう。
アリアが尋ねればクリエの首が二度激しく縦に振れる。
「っ! そういうこと! ここは大昔の姿のままだからね! アリアお姉さんすぐ察してくれるから話が早いや」
「そっか……それは気を付けないとだね。幻が消えて神殿が崩れてたら、行きと帰りの道が違って脱出できなくなっちゃうこともあるってことだもんね?」
「そうなんだよ~。まあボクが事前にちゃんと脱出できるよう、壁とか床とか補強しとくから大丈夫だけどね」
「わ~さっすが~! ありがと~、クリエちゃん」
……さすがはビルダー。
新たに足場なり壁なりを作っておけば、たとえ幻が消えて現在の姿に戻り、崩れていたとしても問題はない。
幻が消えたあとのことも考えてあるということは、その後の脱出経路も把握済みに違いない。
――クリエちゃんのことだから、“カケラ”回収後もきっとわかってるのよね……頼もしいなあっ♪
アリアは小さく手をぱちぱち叩いてクリエを称えた。
得体の知れない魔物が多い分 不安は常に付き纏っているが、クリエが一緒でよかったと心の底からそう思う。
もし独りでこの洞窟に来ていたらと思うとゾッとする。独りならばきっと今頃生きてはいなかっただろう。
こんな地下深くの洞窟で安心してウトウトできるとは……。
疲れから再びアリアの目蓋が閉じかけた。
「それまでにシドー君たちが来るといいんだけど」
「アベルたちが来るの……!? どうやって!?」
クリエの発言にアリアは閉じかけた目蓋をカッと開き、上半身を起こす。
アベルたちがこんなところまでどうやってやって来るというのか――。
「……どうやってかは知らないけど、たぶん来ると思う。シドー君も“カケラ”探知できるし。アベルお兄さんだってアリアお姉さんを放っておいたりしないでしょ? あの人アリアお姉さんがいれば どこにでも来るんじゃないかなあ」
シドーは“カケラ”を探知できるからここに来る。
そして、アベルもアリアを放っておかないから恐らく来る。
笑みを含んだクリエの表情は少々呆れているような気がするが、確信を持っているようだ。
「……っ、そ、そうかな……? 危ないから私を信じてテルパドールで待っててくれてるかもしれないよ?」
できればアベルにこんなところに来るような無茶をして欲しくない。
この洞窟の魔物は実体数こそ少ないが、かなり強い。
モエールが仲間になるまでの連戦で、アベルは以前に比べ強くなったが、それでも苦戦するはず。
ここに来るまで何度命の危機を感じたことか。
アベルが大怪我、ましてや命を落とすなんてことがあってはならない。
彼はこの世界の主人公で、母親を救い出すのだから。
自分はクリエと一緒であるし、どうにか帰ってみせるからテルパドールで待っていて欲しい――。
アリアはそうであって欲しいと願い、手元に触れた藁をぎゅっと掴んだ。
「いやいやいや。アベルお兄さんてアリアお姉さんにちょ~執着してるから、シドー君がいなくても絶対諦めないと思うな~」
「執着……? ぁ、そう……かも?」
アベルが来ないなんてあり得ないっしょ、とクリエが呆れたように笑って手を左右に振り振り。
言われて記憶の中のアベルを思い返し、すぐに思い当たってしまう。
出逢ったときから今まで、アベル自ら離れていったことなど一度もない気がする。
行く先々でアベルから離れてしまうのはアリア、自分であって、アベルはいつも追いかけてきてくれた。
どんなときでも隣にいてくれようとし、実際側にいてくれるから心の拠り所になっている。
昔から距離が近かったが、思いが通じ合ってからは ほぼゼロ距離で気が付くと背後に居たりして驚いたことは何度もあった。
身体が大きくて強いくせに甘え上手で、人懐っこい瞳につい、甘やかしてしまっているのは惚れているからに他ならないわけで。
甘えてくる彼は少年の頃の面影を見せ、アリアの瞳には可愛く映って受け入れてしまうのだ。
――やっぱり好きだからなのかな……不思議とアベルを拒むっていう選択肢が浮かばないんだよね……。
どこに行こうとしても だいたいついてこようとするから戸惑うことはあれど、ついてこられて困るのはトイレくらいのため好きにさせている。
気が付くと側にいることが多く、互いに無言でも心地良く過ごすことができており、今はそれが当たり前のように思えるほど。
好きな相手でなければストーカーと言っていい行為。
……それが執着だというのならそうなのだろう。
「重い愛だよねえ~」
「……そう、だねえ……」
たまには独りで居たい時もあるが、アベルからの束縛は嫌いじゃない。
クリエに苦笑いを向けられて愛想笑いを返す。
ここに来てくれるというのなら、どうか怪我をしませんように――。
――アベル……気を付けて来てね……、来てくれたらホントはうれしいの……、私待ってるからね。
アリアは手を組み祈る。
アベルたちと無事合流できますように……、そう強く願った。
「……ふあ……ん、眠くなってきた。アリアお姉さん、おやすみ」
「うん、私も寝るね」
隣からおやすみの声が聞こえてすぐ、「ぐがー、ぐごー」。
クリエの大きなイビキにアリアはくすりと微笑み、背を【わらベッド】に預け目を閉じる。
……その後アリアとクリエは休憩を経て、回復の泉の建物からエスターク神殿へと向かうことに――。
それが拐われた五日前、アリアたちが経験した出来事であった。
ドラクエでいうところの小さな建物ってさ、【ほこら】だよね…!
気付いたのが遅かったので、今回は【ほこら】表現はなしとなりました。
過ぎたことは気にしないことにしてる。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!