前回あらすじ>
苦戦を強いられる洞窟内でもアリアを思い出し、早く会いたいと強く願うアベルは…。
僕は死にましぇえん。
では、本編どぞー。
「なあ、アベル。毎回呪文ぷっ放せば戦いがもっと楽になるんじゃないのか? 一気にニセモノも消えるし」
「魔力にも限りがあるじゃないか」
戦闘終了後、魔物の血で汚れた【こんぼう】を勢いよく振り下ろし、アベルとピエールの会話を聞いていたシドーが疑問を呈す。
アベルは配分を考えて適宜使用しているのだと説明した。
「そりゃそうか……、けどこの先に確か――回復ができるほこらがあったと思うぞ」
「え!? それ早く言ってよ! 回復の泉があるんだね!?」
回復の泉があるのなら魔力の節約などあまり考えなくていいかもしれない。
この洞窟にやって来てもう何時間経っていると思っているのだろう。もっと早く言って欲しかった。
「ん? おお そうそう。回復の泉だな、忘れてた。オレは寝てれば治るから回復の泉なんざ気にしたことなくてな」
「すごい体質だよね……、ははは……」
「まあ丈夫な身体が取り柄だからな。はっはっはっ」
悪い悪いと無邪気に笑うシドーにアベルは乾いた笑いを浮かべて
この先に回復の泉があるのならば、多少呪文を使っても問題ないだろう。
「おっ、ありがとな!」
「シドー、君はもう少し自分に気を使った方がいいよ。見ていて危うさを感じる」
実際シドーが戦闘中に倒れた時は死んだかと思った。
だがすぐに寝息が聞こえてきたから驚いたのなんのって……と、思い出したアベルはシドーにもう少し自分を労わって欲しいと伝えておく。
仲間のために独りで特攻し、自らを犠牲にすることを厭わない精神は称賛に価するかもしれない。
なれどたまたま死なずに済んで回復しているだけで、死んでしまうことだってあるだろう。
回復呪文は効くようだが、異世界の住人に蘇生呪文が効くかはわからない。独り先陣を切って敵に突っ込んで、死んでしまっては意味がないではないか。
シドーの自己犠牲的な行動を見るとアリアもそういうところがあるから気になって仕方ない。
確かにシドー、彼は強い。強いが少年だ。
自分よりも年下の少年が先に逝くなんてこと、考えたくはなかった。
「はっ、だからオレは寝てれば治るから平気なんだって」
「そうであっても! 死んだらどうする!? 僕は
「ははっ、オレは基本死なないから大丈夫だぞ? だからオレのことは気にしなくていい。オマエに心配されるほど軟な身体はしてないからな」
アベルの心配を無駄だとでも言うように、シドーはなぜか呆れたような顔で笑う。
「へ? ……」
呆れられるようなことを言っただろうか。いや、真剣に伝えたつもりなのだが……。
年上からの心配など煩わしいだけ。
思春期ならそういう捉え方をすることもあるのかもしれない。
だが一時だけとはいえ、大切な仲間だ。
死なせたくないと思うのは当たり前の感情である。
――気にするなと言われても、仲間のことは心配するよ……。
想いが通じないというのは悲しいもの。
アベルの眉間に皺が寄るとシドーは続けた。
「オレを破壊できるのは認めたくはないがアイツの血縁だけだろうな。まあオレは死なないんだけどな」
「破壊……? え、死なな……?」
笑みを含ませた顔で話すシドーには自信が見て取れ、アベルは目を瞬かせる。
はて“破壊”とは……。
人を破壊だなんて随分物騒な言葉じゃないか。
かつてアリアも死ぬことを“消される”と表現したことがあったが、異世界の住人ははっきり“死ぬ”とは言わないものらしい。
――それより死なないって……?
シドーと話していると普通の人間との対話じゃない、妙な感覚に囚われることがままある。
……死なないとはいったいどういうことなのだろう。
本当に死なないのであればいいのだが、そんなことあり得るのだろうか。
異世界から来た人間だから死ぬことはない……?
異世界にも固有の“
謎過ぎて理解ができそうにないものの、もしその“理”があるというのなら、死の宣告のような脅しを受けているアリアにもどうにか適用できればいい。
……彼女も前世ということだが、異世界からやって来たのだから。
自信に満ちた様子で告げる口振りから嘘を吐いているようには思えないし、事実戦闘不能から回復しているのだ。
アベルは参考までに詳しい話を聞きたかった。
「おっ! あの奥が地下神殿に続く入口だな、多分」
視界の先、坑道の奥で新しく掘られた横穴が見え、それに気付いたシドーが思い出したように駆け出す。
アベルも慌てて追い掛けた。
「ちょ、シドー、さっきなんて……? 死なないっていったい……そこんところ詳しく――」
「……チッ、クリエのヤツ、待ち切れなかったな……? オレが行くまで待ってればいいのに……!」
アベルの言葉を無視したシドーがぽっかりと開いた横穴の前に辿り着くと、深い暗闇に向かって腕を組みほくそ笑む。
ふんっ、と鼻を鳴らして彼は再び駆け出し、暗闇の奥に姿を消した。
「ちょっ、シドー……!? 話が途中なんだけど……! 詳しくー!」
横穴に向かって大声で叫んでもシドーから返事はない。
恐らく目的地は暗闇の先なのだろう、横穴の奥から風が通り抜けてアベルの前髪を揺らす。
強敵ばかりいる洞窟だというのになぜ独りで行ってしまうのか。先ほど注意したばかりのはず。人の心配を何だと思っているのだろう。
……アベルは前方から吹き抜ける風に小さくため息を漏らした。
「主殿シドー殿一人では危険です。追い掛けましょう!」
「がうがう!(行くんゴ!)」
「ああもう、しょうがないなあ~!」
ピエールがアンドレを操り、横穴の中へと姿を消す。
プックルも直ちに続き、
シドーのようにこちらの制止も聞かず、自由に振舞う人間は初めてじゃない。
振り回されることは妻のアリアにすっかり慣らされ、むしろ楽しいとさえ思っているほどだ。
ただ心配なことに変わりはないわけで……。
アベルは魔物といつ遭遇してもすぐに対処できるよう、武器を片手に暗闇の中へと急いだ。
横穴の中を走っていると奥にぼんやりと灯りが見えてくる。
初めての場所、初めての出来事。
この先にはいったい何が待っているのだろう。
勘だけで言えばあれだけの魔物がうろつく洞窟。最奥には珍しい宝が眠っている……なんてポジティブに考えてしまうのは、アリアの楽観視が
――そう思いたいだけなのかもしれないけれど。
きっとアリアは無事でいて、自分が迎えに来るのを今か今かと待っている。
そうでなければならない。
自らに言い聞かせ、アベルは横穴を抜けて広い地下空間へと辿り着く。
「ここはいったい……」
ずっと下りだった坑道を抜けた先は巨大な地下空間だった。
足元からマグマの熱が煌々と空間内部を照らし、所々に薄っすらガスの霧が発生しているが視界は悪くない。
少しばかり空気が熱い気もするが、呼吸は普通にできる。
アベルの立つ位置から十二時の方角に小さな【ほこら】、先ほどシドーが言っていた回復の泉がある【ほこら】なのだろう。
それと三時の方角に一際目を引く巨大な建造物が建っている。
――あの大きな建物は……?
【ほこら】にせよ、巨大建造物にせよ、どちらも人工物と見える。
こんな地下にこんなものがあったとは。
……アベルは二つの建物に目を奪われた。
「アベル! 魔物がうじゃうじゃいる! 駆け抜けるぞ!」
「え? なっ!? わ、わかった!」
シドーの声でハッと我に返る。
そういえばシドーを追いかけてきたのだった。
キョロキョロと辺りを見回しシドーを探すと、彼はまた駆けていた。
いったい何をしているのかと思ったが、背後に魔物の群れを引き連れアベルたちに向かって来ている。
その魔物の群れの数――、ちょっと尋常じゃない。
ドドドドドドドドド。
無数の足音が重なり地面が唸る。
薄グレーの有翼竜がぱっと見で六匹。無数の少し体躯が小さめな緑のドラゴンの群れの中に紛れて駆けて来る。
その後ろにも群れは続いており、剣を持つ骸骨の魔物に、大きなバッタの魔物。青い有翼竜に乗った戦士の魔物、それにアベルも見たことのあるヤギのような下半身と、上半身が赤い肌の筋肉質な人型の半人半獣の魔人【アンクルホーン】の姿も……。
なぜかいきり立ったように各々咆哮を上げ地ならしをしながらアベルたちの元へ一目散。
――シドー……君、目を離した一瞬でいったい何をしたんだい?
ツッコみたいところだが、幻が大半とはいえこれはさすがに手に負えない。
ギョッとしたアベルはシドーが指差す【ほこら】へと全速力で走り出した。
シドーくんて死なないよね!
おかげさまで800話。
まだまだ続きます、のんびりと。
読んでいると眠くなるリラックス成分が含まれている文だと思うので入眠導入剤としてご利用くださいw
今後もゆるりとお付き合いいただければ幸いです。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!