ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

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大量の魔物の群れに襲われたアベルたちはほこらに向かって駆け出した。逃げるぞ~!

さあ、行くんゴ!

では、本編どぞ。



第八百一話 さあ、行けアベル!

 

「ハッ、ハッ……がうっ!(主、遅いぞ!)」

 

「わああああっ! プックルありがとうっ!」

 

 

 風を切るように走り出したアベルだったが、現在のパーティーで一番足が遅いのはアベル、自分である。

 魔物たちに回り込まれる寸でのところでプックルの背に乗せてもらい、なんとか無事【ほこら】に辿り着くことが出来た。

 

 【ほこら】の前に着いて早々プックルから飛び降り、閉じられた扉を勢いよく開け放って四人で転がり込む。

 すぐにシドーと二人で扉を閉じた。

 扉が閉じた途端外の騒音は遮断され、【ほこら】内部の静けさにほっとする。

 

 

「はあっ、はあっ……び」

 

「フーッ、間一髪だったなっ!」

 

 

 アベルやアンドレ、プックルが肩で息をする中、シドーがニカッと白い歯を見せた。すでに呼吸が整っているのはさすがだ。

 プックルでさえ息が上がっているというのに、どんな鍛え方をしたらあれだけ早く走ることができ、呼吸が乱れないというのか。

 

 ……だが今はそんなことより――。

 

 

「びっくりしたあーっ!! 何であんなに魔物が一斉に……!? はあっ、はあっ」

 

 

 あれだけの数の魔物に追いかけられたのは初めてのこと。しかもどの魔物もかなり興奮した様子だった。

 あのまま戦闘にもつれ込んでいたら【痛恨の一撃】をいくつか受けて全滅する可能性もあったに違いない。

 シドーの言った通り、間一髪だったのだ。

 

 アベルの額には嫌な汗が滲み出て心臓はドクドクと逸っている。落ち着くため胸に手を当て深呼吸を繰り返した。

 すー、はー、と何度か繰り返してようやく平静を取り戻す。

 

 

 ――そういえば【アンクルホーン】がいたな……。

 

 

 息が整い、ふとある魔物の姿が脳裏に過ぎった。

 一群をなして向かって来る魔物たちの中に、アベルも知っているヤギのような下半身に、がっしりした赤い肌の人間のような上半身を持つ半人半獣の魔物【アンクルホーン】の姿があったのだ。

 この謎の地下空間にやって来て初めて見覚えのある魔物と遭遇し、嬉しいかと思いきやそんなことはまったくない。

 アベルの持つ記憶の中の【アンクルホーン】には、強力な呪文の使い手で苦戦したという苦い思い出ばかり。

 確か仲間にもなってくれたはずであるが、今のレベルでは少し難しいかもしれない。

 そもそもあれだけの魔物の群れを相手にするのは無理があるというもの。

 

 

「……ん、なんだ。誰かが命令してるみたいだな」

 

「命令って……」

 

 

 アベルの思案をよそにシドー曰く、何者かが魔物たちを扇動しているとのこと。

 そういえば普段魔物の群れと戦うことはあれど、あれだけの数が一斉に襲ってくるというのはおかしい。

 

 普段魔物の群れは種類にもよるが、各々動きに統率が取れていないのが普通であり、少数で行動している。団体行動を指揮できるカリスマ性を持つ魔物や魔族でもいない限り、纏まった動きを取るのは難しいだろう。

 一見しかしていないが、変異種……一際大きい個体がいたということもなかった。

 それに、戦う対象が複数になれば狙う対象も分散されるはずで、シドーと合流した時点で対象はアベルたち四人となるのに、シドーにのみ反応していた気がする。

 思い返してみれば洞窟にやって来てからの戦闘は、シドーが狙われることが多かったような……。

 

 

「たぶん黒幕はオレたちをここに連れて来たガオンの奴だ。あいつの中に“カケラ”が取り込まれてるからあいつをぶっ壊さないとな」

 

「ぶっこ……?」

 

「破壊なら得意だから任せろ――がせっかくだ、ちょっと休んでいくか」

 

「あ」

 

 

 シドーが部屋の中央を指差すのでアベルもそちらへ目を向ける。

 視線の先には回復の泉が静かに輝いていた。

 

 

「……回復の泉……!」

 

「なっ、あったろ?」

 

「ああ! 助かるよ!」

 

 

 アベルたちは早速回復の泉に当たり、体力、魔力ともに回復させる。

 こんなことなら【バギマ】を適宜使って幻を片っ端から消せばよかった。もっと早く教えてくれていればよかったが、皆が無事でいられたからよしとした。

 

 

「はー……結構戦ったな」

 

「はー、そうだね……、アリアは……いないみたいだ」

 

 

 回復を済ませ、回復の泉の前に腰を下ろし足を投げ出す。

 見知らぬ場所で緊張していたらしい。疲労感に襲われ深く息を吐いた。

 【ほこら】の中は見通しの良い部屋で隠れる場所などない。見回してもアリアの姿はなく、アベルの眉間には苦し気に皺が寄せられた。

 

 

「……先に神殿に行ったんだろうな」

 

 

 隣でシドーがぽつりと零す。

 

 

「神殿……。さっきの大きな建物かい?」

 

「そう。えす……? うーん、エスなんちゃら神殿だったかな」

 

「エス……? 憶えてないんだ?」

 

「オレはクリエについて行くだけだからなあ、いちいち行った先の名前なんて憶えないぞ」

 

 

 すぐに走り出したため一瞬しか確認できなかったが、アベルも地下空間に大きな建造物があるのは見た。

 エスなんちゃら神殿――という名前らしいが、シドーはこれも憶えていないのだそうだ。

 

 

「ははは……、ん? あれ? これは……」

 

 

 ふと回復の泉の端にアベルの手が触れ、ひんやりした硬い感触がする。

 先ほどは気が付かなかったが、アリアが食物保存用によく使っている小瓶が置かれていた。

 中身はドライフルーツにした茶色い果物デーツ。テルパドールの城で貰ったものだ。

 そしてその小瓶の下には折りたたまれた【メモ】がある。

 

 

 “アベルへ――クリエちゃんと神殿に行ってきます。すぐに戻って来る予定だけど、これ食べて休憩したら来てくれると嬉しいな。無理はしないでね。――アリア”

 

 

 【メモ】にはアリアの字でメッセージが綴られ、アベルは妻の無事がわかり顔を綻ばせた。

 すぐ戻って来ると書かれている辺り、そう危険はない場所なのかもしれない……が、そんなわけがないことくらいアベルにもわかる。

 

 【メモ】の文字は乱れていないが、いったい何日前に発ったというのか。

 エスなんちゃら神殿は危険な場所だとしか思えない。

 

 

「ん、どうした?」

 

「ん……アリアが置いて行ってくれたみたいだ。シドーも食べなよ。少しだけ休憩したらすぐに出よう」

 

 

 小瓶に詰まったドライデーツを口に含むと濃厚な甘みが口内に広がり、身体が喜んだ。その甘さにアリアを強く感じてアベルは唇を噛みしめる。

 本当は今すぐにでも駆けつけたいところだが、追いかけて来た魔物の群れが外で待ち構えている間は無理だろう。

 どうにかここから無事に神殿まで辿り着けるよう、対策を練らなければ。

 

 

「んぐ、あま……。これウマいな! そういや、疲れた時には甘いものってクリエがよく言ってたな」

 

「はは、だね……。アリアのお気に入りなんだ」

 

「へ~、アリアはクリエみたいなヤツだな」

 

「え?」

 

「クリエもしょっちゅう食い物を出してくるからな」

 

「あはは。女の子は甘いものが好きなのかもね」

 

 

 それきり男二人だとそう対話する話題もなくその後はだんまり。シドーに尋ねたいことがあったはずが、アベルはすっかり忘れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、数が減ったな。そろそろ行くか?」

 

「そうだね」

 

 

 休憩後、シドーがこっそり扉の隙間から外の様子を窺うと魔物の数が減っていた。

 追いかけて来た魔物たちのその殆どが【ほこら】から出てくるアベルたちを待つことができずに去っていったようだ。

 五十匹以上いたと思われる群れが十匹前後まで数を減らしたというのは、やはり纏まりのない集団であったらしい。

 知能の低い魔物等がわけもわからず突進する集団に参加し帰って行った――か、もしくは幻だった個体が自動的に消え去ったか……。

 どちらにしても十匹前後であればなんとかなりそうではある。

 

 シドーに相槌を打ちながら隣で【ほこら】の外を確認したアベルは、手にしていた空になったアリアの小瓶を【ふくろ】に仕舞った。

 休憩中にもしかしたらアリアたちが戻って来るかもと思ったが、残念ながらそれはなく、きっと彼女たちはここにはもう戻って来ないのだろう。

 ……ならば迎えに行くしかない。元よりそのつもりだ。

 

 テルパドール周辺よりも強い魔物がうろつくこの洞窟内では、命の危険度がより上がっている。洞窟を進めば進むほどそれは顕著で、レベルを上げた自分たちですら気を抜けば危うい。

 知らない間にアリアが倒れていたらと思うと気が気ではない。この洞窟内の独特の空気が言い知れぬ不安をアベルに抱かせた。

 

 ……さて、無策で残った魔物の群れに突っ込んで行ってはあっという間に回り込まれてしまいそうである。

 アベルの目には強敵たちがまだ【ほこら】の前を行ったり来たりを繰り返している様子が映る。

 聖なる力で【ほこら】の中を見ることができないのだろうか、扉を少し開けているのだが、時折【ほこら】に視線を投げるどの個体とも目が合わなかった。

 

 

「アベル」

 

「ん?」

 

「オレが囮になってやるから、敵を惹き付けている間にオマエたちは神殿に走れ」

 

 

 扉の前で外の様子を窺うシドーがまたしても急襲を仕掛けると申し出る。

 けれどその方法ではシドー一人に負担を掛けてしまう。

 

 

「シドー! でもそれは危険だよ。君一人にそんなことさせるわけには……」

 

「いや……オレなら大丈夫だ。これでもビルダーの端くれ。自らの道は自分で拓ける」

 

「だけど、魔物たちが狙っているのは君かもしれないんだ!」

 

「フッ。心配してくれてありがとな!」

 

 

 アベルの心配はやはりどうでもいいのだろう、鼻で笑われた。

 それから明るい笑顔でシドーがアベルの背を“バンッ!!”と勢いよく叩く。ビリビリビリッと背中に電流が走った。

 

 

「痛った!? っ、シドー!? 痛いよ!? っ、ホイミ!(マヂ痛い……! バカぢからだなぁ、もー!)」

 

「フフン。けど、本当に大丈夫だ。最悪クリエからもらった上薬草を使って逃げてみせる」

 

 

 ……ホントお願い、手加減して。骨が折れるかと思ったじゃないか。

 骨が折れるかと思ったアベルは咄嗟に回復呪文を唱え、目尻に浮かんだ涙を拭う。

 シドーはなぜか嬉しそうに腕組みして深く頷いた。心配されるのが嫌ではないらしい。

 

 

「じゃあ、オレは先に行くぞ。神殿に着いたらひたすら上の階を目指せ。オレもすぐに合流する」

 

「……わかった。くれぐれも気を付けて」

 

「おう、任せろ! じゃあ後でな」

 

 

 【ほこら】の外の魔物たちがこれ以上減ることはなさそうで、皆【ほこら】を注視し待機しているように見えた。

 だからだろう、シドーは【こんぼう】を握りしめて【ほこら】の扉を開け放ち駆け出す。

 すぐに“ギャオギャオ”と魔物たちの騒ぐ声が聞こえた。

 

 

「うぉおおおおおっ!!」

 

 

 なんと勇敢な男だろう。

 シドーも負けじと腹の底から発声し、一番手前にいた薄グレーの有翼竜に【こんぼう】を叩き込む。

 たまたま実体だったようで、薄グレーの有翼竜は吹っ飛んだ。ところが致命傷にはならず、立ち上がってシドー目掛け突進してくる。

 ……魔物はそれだけではない。

 【ほこら】前に残っていた青い有翼竜に乗った戦士の魔物や骸骨の魔物、大きなバッタの魔物等々が一斉にシドーに向かって行く。

 シドーはそれらを避けつつ、攻撃しつつを繰り返しアベルたちに目配せをした。

 

 

 “さあ、行けアベル!”

 

 




プックルのセリフ(訳)を書くのが楽しいです。
高潔なキラーパンサーなのに可愛くて好きw

そーいや、ゲーム中だとほこらに扉ないんすよ……。
付けちゃったw

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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