前回あらすじ>
地下神殿に潜入したアベルたち。骸骨の魔物に眠らされたプックルはおこでホネをおやつにしたがマズくて吐き出した。
神殿の奥にはさー…。
では、本編どぞ~。
「お二方ともお疲れ様でした」
「ピエールもお疲れさま!」
ピエールに声を掛けられアベルも労う。彼も【やくそう】を使ったようで戦闘終了直後にあった傷が回復していた。
シドーがいないこともあってか実体三匹は強敵だった。
まだ手持ちの【やくそう】に若干余裕はあるが、今し方のような戦いが続いてはすぐに底をついてしまう。
かといって魔力を惜しまずに消費するのも怖い。
五匹でなくてよかったと思うしかないのが辛いところである。
なぜ幻がこんなにも多いのか。シドーなら理由を知っているだろうか。
――いや、シドーのことだから知らないって言いそうだな……。
遠い目で“ふぅ”。アベルの口からは小さなため息が漏れた。
ここまでで名前を知っている魔物は【アンクルホーン】だけ。他は名前がわからない魔物だらけでやはり記憶も一切降りてこない。
シドーも忘れているから困った。
きっとクリエなら魔物の名前も事情も知っているだろう、彼女はしっかりしているから。
テルパドール周辺で【ガオン】の砂嵐に巻き込まれ、この洞窟にやって来た時から口に出して言うほどではないが、アベルには何とも言えない不快感が付き纏っている。
それは洞窟を進む毎に重くなったり軽くなったりと不安定なため、始めはただの体調不良かとも思った。
ところが【ほこら】に入った途端それはなくなり、頭がすっきりしたのである。外に出ればまた不快感に襲われる。
磁場が不安定に揺れているのであるが、クリエと再会していないアベルに理解できるはずもない。
アリアの事が心配で堪らないと思うのはそれもあってのこと。磁場の揺れは知らずのうちに心に不安をもたらすらしい。
早くクリエと合流し、この奇妙な洞窟の謎を解き明かしたいアベルであった。
「行こう」
アベルの掛け声でピエールもプックルも歩き出す。
二階に続く階段を上り、一階ホールを見下ろせる通路に出た。
手摺りに近付きふと階下を見てみれば、魔物の群れのグループがいくつかうろうろしている。
薄グレーの有翼竜と青い有翼竜に乗った戦士の魔物の姿が目に入り、飛んで来られては厄介だ、手摺り側から離れて壁側を歩いた。
「……上……だったよね」
「はい、そうお聞きしましたね」
魔物の出現を警戒しながら三階へと続く階段を見つけ、通路はまだ奥に続いていたがシドーの言葉通り上の階を目指して上る。
その先には屋外に続く出入口があり、アベルは外の様子を確認してから歩みを進めた。
足元は二階部分なのだろう、屋上へ出ると右手に大きな部屋がある。出入口に【かがり火】があるからそこから中へ入れそうだ。
「……神殿に入るとき、三階建てに見えたからこの先にアリアたちが……」
「がう! があう!(アリアの匂いがするんゴ! アリア~♡)」
「あっ、プックル!」
アベルが言葉を発すると同時、アリアの匂いを強く感じたプックルが【かがり火】がある部屋へと駆け出す。
なんだかんだでプックルはアリアが好き過ぎる。アベルが止めても立ち止まることはない。
「この先にアリア嬢がいるようですね。匂いがしたと仰ってましたよ」
「っ、そっか! よかった、急ごう!」
ピエールが訳してくれたお陰でアリアがいることがわかり、アベルも走り出す。
ピエールもアンドレを操り後に続いた。
その約十分後――。
『う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!』
アベルの絶叫にもにた悲痛な叫びが広い部屋に響き渡る。
……やっとアリアと合流できる。
喜び勇んで走って行ったその先で、まさかあんなことが起きようとは……。
アリアに会いたい一心のアベルが今それに気付くことはできなかった。
◇
「はあっ、はあっ、アリアー!」
アベルはプックルを追い掛け、【かがり火】が出迎える部屋に飛び込んだ。
広い部屋へと出たようで、部屋の中央にアベルの背と同程度の高さ――演劇でいうところの舞台のような別階層が広がっている。そこに大きな柱が左右に二本ずつ、計四本天井に伸びているのがアベルの位置からでも確認できた。
“神殿”という名が付いている辺り、上の階層は何かを祀っている祭壇区域だと推測される。
……先に到着したプックルが出入口の側で立ち止まり、別階層を見上げて「グルルルル……」。警戒するように鼻を鳴らしていた。
プックルの反応を見るにアリアはアベルの視線の上……別階層にいる確率が高い。
なぜプックルが立ち止まっていたかといえば、別階層の周りにバリア床が敷き詰められていたからだ。
機動力、跳躍力ともに優れたプックルなら高い壁を乗り越え別階層に一っ飛び……なんて一瞬考えてはみたものの、バリア床があってはダメージを受け続けることになり跳躍は上手くいかないだろう。早々に諦めた。
アリアがいれば
「こ、ここはいったい……」
「……困ったな、上に上がれそうな階段が見当たらない……」
ピエールが遅れて到着した頃、アベルは別階層に上がれる場所がないかを探っていたが見つけることができなかった。
もしかしたら部屋の奥側にあるのかもしれないが、部屋の隅々までびっしり敷かれたバリア床の上を行くのは自殺行為。
バリア床の奥には宝箱もあるかもしれない。そうは思うが
ダメージ床の先で何もなかった場合、ただ体力を無駄に消耗しただけになってしまう。強敵が多いこの神殿でそんな危険な冒険はできない。
アリアと合流後にもう一度寄ればいいかとここは別ルートを探すことにした。
……そういえば二階から三階への階段を上がるとき、通路の先に下り階段が見えた気がする。
急がば回れという言葉もある。一度戻って下り階段を行くのが正解ということもあるだろう。
だがその前に――。
「プックル。上の様子だけ確認したい。悪いけど踏み台になってもらってもいいかい?」
「がう!(合点承知!)」
部屋を出る前に上の階層にアリアがいるか確認だけはしておきたい。
プックルはすぐさまアベルの前に身体を横に向け、背に乗るようにと促した。「悪いね」と声を掛けてから背を踏みしめる。
しっかりした筋肉の中に柔らかさもあるプックルの体躯は素晴らしいものだ。少々バランスが取りにくく、転びそうになったがなんとか上の別階層を見ることができた。
「あれは……」
別階層を覗き見たアベルの目に真っ先に飛び込んで来たのは、人間――。四人の冒険者だった。
一人ずつ挙げれば、肩まで伸びたエメラルドグリーンの髪に羽飾りが付いた特徴的な冠を被った青年、紺色のとんがり帽子を被ったオレンジ色の巻き毛の少女、神官のような出で立ちの青い髪の男性、【おどりこの服】を身に纏う鮮やかな紫の髪の女性……。
皆後ろ姿だがこの四人、アベルはどこかで見たことがある気がした。
「えっ? シドー!? クリエちゃん!?」
ふと視線を中央から逸らしてみる。つい大きな声を上げてしまった。
先ほどは見えなかった大きな柱の下方、その陰に隠れるクリエとシドーの後ろ姿が見える。
いつの間にかシドーが先にクリエと合流していたようだ。
驚きはそれだけではなかった。
冒険者の前に青い虎の着ぐるみを被った人間――いや、あれは恐らく魔物であろうその二匹と、大きな両手斧を持ち、金色の鎧を着込む肌がグレーの鼻先と眉間に生えたツノ、ウサギよりは小さめな縦長の耳……二足歩行のサイのような魔物が立ちはだかっている。
さらにその奥に巨大な――。
「っ!?(あれは……!?)」
高低差の関係で三匹の魔物と冒険者の隙間から僅かにしか見えなかったが、両手に巨大な黄金の剣を手にした、通常の魔物よりも数倍大きな身体自体が青い鎧のような姿の魔物が座っているのが見えた。
死んでいるのか眠っているのか――アベルの位置からはわからないが動いてはいないようだ。ただただ不穏な空気を感じる。
そもそも神殿なのだから崇めるために造った魔物の像なのかもしれない。
あまりに禍々しい魔物のその姿にそうであって欲しいとアベルはなぜか強く思った。
全貌が見えないためはっきりしないにも関わらず、青い魔物の存在に気付いてから勝手に額から汗が浮き出て頬に伝っていく。
……あの巨大な魔物はいったい何なのだろう。
嫌な予感がして堪らない。
「アリアは……」
――いないみたいだな……どこかに隠れてるのかな……。
幸いと言うべきか。クリエが隠れているように言ってくれたのだろう、目を凝らしてみたがアリアの姿は見えない。
それでも近くにいる可能性はある。身体を左右に動かし魔物三匹と冒険者たちの隙間を縫ってさらに探り見てみる。
するとちらとだけ。巨大な青い魔物と魔物三匹の間に、町によくいるマスク男の黒いツノの装飾が二つ付いた黄色いマスクを被った人物がいるのを見つけた。
その人物はずいぶん小さい男のようで、三角座りをしている。
「ん? なぜあんなところにマスクを被った男が……?」
冒険者と魔物三匹が睨み合っているというのに、マスク男に背後を気に留める様子はなく彼は青い魔物を見上げていた。
……その内に魔物三匹と冒険者四人の戦いが始まってしまう。
ふと小さなマスク男が振り向いたらしい。
『おお~っ!』
金属が擦れ合う音と風を切る音、床を踏み鳴らす足音に、防御力を上げる呪文【スクルト】を唱える声、舞う砂埃。
それらに紛れて微かに聞こえたぱちぱちと手を打ち鳴らす音と、愛らしい声――、その声をアベルは知っているような気がする。
「……」
ポタリ。嫌な汗がまた一滴頬を伝って落ちた。
「主殿、アリア嬢はいらっしゃいましたか? 一度戻って上層に出るルートを探しましょう」
「……そう、だね。……っ、急ごう――!」
アベルは素早くプックルから飛び降り、来た道を戻った。
足が勝手に急いて速足だ。
プックルもピエールもアベルに続いた。
さて、青い魔物とは。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!