前回あらすじ>
異様な仮面【ガオン】が禍々しい光を吸収し、巨大魔物【グラガオン】へ変貌。圧倒的な存在を前に、アベルたちはクリエとシドーと合流し、群れを相手に必死の攻防へ挑む。
ブッパします!
では、本編どぞ~!
一方で、前線のクリエとシドーは――。
巨大なグラガオンの瞳から赤い液体……塗料だろうか。それが頬を伝い、顎先から滴り、一滴、一滴、次々と【ガオン】を生み出していく。
みな同じ表情の仮面の増産――。
……これも“カケラ”とやらの力なのだろう、仲間を呼ぶ方法を変えたらしい。
「うわっ、キモッ! 産卵してるみたい……!」
「産卵……これが、ウミガメか……!」
「ガオンだってば!」
「あ、ああ、そうか。そうだったな」
クリエにツッコまれ、シドーは新たに生まれ出た【ガオン】を叩く。
シドーの攻撃により【ガオン】はあっさり倒れたものの、通常の仲間呼びとは違い距離が近いこともあり、こちらはクリエとシドーで対処しなければならない。
「仲間産み過ぎィぃいいい!!!!」
クリエも一旦グラガオンへの攻撃はやめ、産み落とされた【ガオン】叩きに終始した。
そうして戦っていくうち――。
“【バギマ】”
……ついに、【ガオン】から【バギマ】が放たれたかと思うと、その響きが重なる。
【バギマ】を唱えたのは一匹だけではなかった。
「アリアッ!!」「アリア嬢っ!!」「がうっ!!」
「へっ? あっ……!」
咄嗟にアベル、ピエール、プックルがアリアの前に立ちはだかり、彼女を庇う。
「う゛あぁああああっ……!!」
アリアに覆い被さるようにして、アベルたちは【バギマ】の攻撃を受けた。
皮膚を割き、辺りに血飛沫がほとばしる。
アベル、ピエール、プックルの叫び声が、アリアの頭上でこだました。
「アベルっ! ピエール君っ! プックルっ!」
「アリアっ、今は顔を上げちゃダメだ……!! 伏せてて!!」
「っ、アベルッ!!」
猛烈な風の刃がアベルたちに襲いかかる。
前線のクリエたちもダメージを受けているようで、「いったぁああああい~!!」「いってぇー!!」との叫ぶ声が聞こえた。
「……アベルぅ……、頭から血が……」
アベルたちに守られ、アリアの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「くっ……。大丈夫……これくらい……。僕たち、体力には自信あるから」
大切な妻を守れて本望だ――アベルの目は優しい。
穏やかに微笑み、アリアを安心させようと額に唇を落とした。
「ぅぅ……でも」
「集中してアリア。風が止んだら僕たちは回復に専念するから、強力なやつ頼んだよ」
「っ……うん……! 任せて……!」
すんっと鼻を啜り、アリアは傷だらけのアベルに深く頷く。
それからは目を閉じ、また精神の集中を始めた。
「うぅ……呪文やっべ……。結構効いた~~」
前線では、クリエが垂れた鼻血を乱暴に拭う。
しかし、瞳にはやる気と闘志が宿っており、何より愉快そうだ。
「……っ、だな。けど、後ろでアリアが魔力を集中させてる。あれぶっ放したらちっさいのは全部吹っ飛ぶぞ。タイミング合わせてデカブツにトドメを刺せば……」
シドーも口の中を怪我したのか、ぺっと口に溜まった血を床に吐き捨てた。
こちらも、ぺろりと唇を舐め、ニヤリと口の片端を上げる。
「あっ、な~るっ!!」
「あ○る?」
「ヒッ、ワーイ!!」
「ヒッ、ワーイ!?」
クリエは理解したが、シドーは理解できない。
とりあえずクリエの言葉を反復したが、クリエはそれには答えず続けた。
「やってやろーじゃん……! アリアお姉さん! いつでもいいよ!」
「……よし、オレもいつでもいいぞ……!!」
ここまでグラガオンも体力の半分は削られている。
あとはアリアの呪文と、クリエ&シドーの連携技を一発。大きなダメージを与えれば、一掃できそうだ。
……アリアの準備が終わるまで、次々と生まれてくる【ガオン】を叩き続けた。
「……ふぅ……うん。できそう」
「……無理しないように。僕がそばにいるからね」
「ありがとう、がんばるね……!」
少し経ち、アリアの準備が終わる。
彼女の身体の表面には、溢れ出した魔力が薄い膜のように覆って、周りの空気が僅かに震えているのがわかった。
ふと、前線のグラガオンがクリエたちから視線を逸らす――遠く後方に立つ小さな人間、アリアを捉えたのだ。
その身体から漂う魔力の気配に、グラガオンは思わず一瞬硬直する。
後方とはいえ、無視できない存在――ぞくりと全身に戦慄が走った。
……アリアはアベルたちの背後から前に出て、【ガオン】の群れの前に立ちはだかる。
「クリエちゃん……! シドーくん……! いくよ……!!」
『はいよ~!』『お~!』
アリアから前線のクリエたちへ声をかけると、間延びしたような、いつもと変わらない声が返ってくる。
……その返事に、アリアは思う。
異世界からやって来たあの二人は今、危機感なんて感じていない。
きっと、自分たちがおらずとも、この危機を難なく乗り越えていけるのだろう。
そう思うと、安心感がアリアの胸を満たした。
「最大出力は初めてなんだ。手加減なし、忖度なし、自分の限界を試すよ……!!」
アリアは両手を前に突き出し、すぅーっと息を吸い込むと口を開く。
“【バギクロス】!!”
その瞬間、空気が――震えた。
グラガオンは、アリアの手から迸る竜巻のような風の渦を目にし、思わず後退する。
“あの小さな人間が、こんな力を……!?”
視線の先で、【ガオン】の群れが次々と暴風に巻き上げられ、塵と化していく。
「っ!?!?」
空気がピリリと弾け、アリアの掌の先で暴風が爆ぜた。
竜巻のような風の渦が【ガオン】の群れを呑み込み、次の瞬間、彼らの姿は霧のように消え去った。
「「うわっ、すごっ……!」」
アリアとアベルの声が重なるが、二人の声の意図は違う。
アリアは、自分の放った呪文の凄まじさに驚いた声――。
対してアベルは、アリアのスカートが風にあおられ、捲れ上がったことへの歓喜の声――であった。
(ああ、可愛いおしり……♡♡ アリア、君って本当、最高の奥さんだよ……♡)
【やくそう】をかじるアベルのマントが風に揺れている。
……が、今は戦闘中だ。真剣な表情を装おう。
「……アベル殿、奥さまの尻ばかり見てないで、残党がいないか警戒してくださいね」
「っ、べ、別にいーじゃん!?」
「がうがう(主は助平だからな、仕方あるまい)」
ピエールとプックルにツッコまれてしまった……。
「二人も見てるくせに……」
――にしても、アリアは凄いな……!!
アベルたちの前を暴風が通り抜けると、前線では――。
「きたきたきた~~!! アリアお姉さん、すっごーい!!」
クリエとシドーの間にも暴風が駆け抜け、【ガオン】を一掃。
その暴風は【ガオン】たちを粉々に砕いてもなお、勢いは衰えず、地下神殿の天井や壁にぶち当たり、一部を破壊した。
「おおっ! すごいな! オレでもここまで一気に破壊するのは難しいぞ!」
「すっごーい!!」
……シドーとクリエが楽しそうに暴風の行方を眺める。
グラガオンも猛烈な風に傷こそ負っていないものの、吹き飛ばされないようにするのが精いっぱいの様子。
だが――。
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!